絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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2017/5/14 誤字修正+後書きに解説追加
2017/7/31 鴉天狗の呼び方をわすゆ3章仕様に変更


幕間4 各々の思惑

視点:皆城乙姫

 

「今回の事を総士と一騎君に話さないでほしい!?」

 

乃木園子とその一同がアルヴィスから去って行ってから数刻後、アルヴィス内での一室にて乙姫が施設の責任者である公蔵に対し、今回の件を総士たちに伝えないでほしいとお願いしてきた。

 

その考えの真意が読めず、公蔵は思わず声をあげた。

 

「まだ総士や一騎に伝えるのは早いと思うから……もしも、バレたら私がお願いしたって謝っておくから」

 

「いや…しかし……」

 

「安心して。どの道、今回のは私のワガママだから」

 

「(このような事態をワガママか)………分かった。今回の件は警備データの削除並びに関わった職員一同には一切口外させないよう徹底しよう」

 

公蔵は乙姫の懇願に折れることにし、その対応のために部屋を出て行った。

 

「出てきてもいいよ」

 

1人残された乙姫はそう呼びかける。部屋の陰になっているところから人間の女性が姿を現した。以前、乙姫の前に現れた『神樹』と呼ばれる女性だ。

 

姿を現した『神樹』は乙姫と向かい合う。

 

「こんにちは。『神樹』」

 

「こんにちは。……乙姫さん、勇者『乃木園子』に勇者『三ノ輪銀』の事を教えたようですね」

 

「うん。……園子ちゃんは知りたいという選択を選んだ。私はそれに答えただけだよ」

 

「彼女がここに来るという事は知っていたのですか?」

 

「どちらかといえば…予感かな。前々から私たちと同じ存在が嗅ぎまわっていたのもあったからね」

 

この世界の土着神と神をして崇められた少女は語り合う。

 

「……操と園子ちゃんを引き合わせたのはあなたの仕業かな」

 

「そうですね。……かつてあなたの島と敵対したフェストゥム達を私たちの世界に招いた理由は聞かないんですね?」

 

「それもあなたと織姫が選んだこと。あなたの意思なら私は尊重するよ」

 

『神樹』の意思というのに乙姫は納得したようだ。

 

「それが良い未来へと繋がるなら、私はそれに導くよ」

 

「勇者『乃木園子』と『来栖操』…、2人が出会った事で彼女に生じた変化も良い未来に繋がると」

 

「そのようにはいかないかもしれない。だけど、私は良い未来になってほしいかな」

 

静かに乙姫が呟いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎&皆城総士

 

――― 時は本編の直後へ……。

 

大赦上層部の不穏な一面が明らかになった事件から2日ほど経った。幸い学校の方は休日だったため一騎や総士・乙姫はアルヴィスの施設で時を過ごしていた。当然、勇者部の活動に関しては欠席すると連絡を入れた。

 

「「失礼します」」

 

一騎と総士は日野洋治に呼び出され彼の担当する部署へと訪れていた。

 

「急に呼び出してすまないね。特に一騎君には窮屈な思いをさせてるのに」

 

「いえ、総士たちもいますし。特に不便はないです」

 

「そうか。先ほど、皆城司令たちからこの休み明けには戻れるようにはなるとの事だ。無論、誘拐などの対策もできている」

 

一騎としてもあのような輩に自分の生活が脅かされるのは不快に感じていたが、それらの対策ができたとの事らしい。また、この世界での防衛方式の都合、供に戦う勇者の傍にいた方がいいとの上の判断だ。

 

「日野主任、僕たちをここへ呼んだのは?」

 

世間話を終えると総士が口火を切った事もあり、洋治は本題へと入った。

 

「『ファフナーシステム』の事で呼び出したんだ」

 

「『ファフナーシステム』?」

 

聞きなれない単語に一騎は首を傾げ聞き直した。洋治が説明を始める。

 

「君たちが今使っている力を使うためのシステムをそう呼んでいるんだ。単純明快に『勇者システム』との差異の呼称かな。それで、ここに呼んだのはその媒体となるシステムのアップデートの件についてだ」

 

「(!?)そんな事ができるんですか?」

 

「この世界に来てから勇者システムに関する事を一から学び直したんだ。だから、ファフナーのように手に取るようにわかるよ」

 

一騎は思わず真顔になってしまった。元々、『一人でも多くの兵士を生き延びさせる』という設計思想を持ったファフナーの開発者であった洋治は、島を出帆して新国連である存在の協力の元『マークザイン』を作り上げたりし、竜宮島のファフナーの設計思想の大本を作った実績がある。

 

さらに『勇者システム』関連も学んだという事に一騎は真顔となって惚けていた。

 

「アップデートの内容は再現できていなかったファフナーの装備の実装だ。ファフナーの装備の方だが支援航空などの特殊兵装が使えるようになる。さらに防御面もフェストゥムやバーテックスどちらにも対応できるようになるだろう。ただ、その都合で仕様が変更となった」

 

「変わるのですか?」

 

「今の『ファフナーシステム』の防護服は勇者システムのを基に開発してある。開発した装備が大型のものが多い以上、今の防護服だと不便なのだ。それに精霊と同じようになったザインやニヒトの障壁もあるがこれから激化する戦闘においてそれだけでは心許ない。これがその詳細だ」

 

「……そう来ましたか」

「これを使う都合、仕方ないかもしれませんね。携行するには不向きですしね」

 

洋治は一騎と総士にアップデートの詳細情報を渡され、専門的な話を受ける。

 

「所で乙姫のは」

 

「乙姫ちゃん用のシステムは島の防衛機構などの総てを再現してしまっている。それゆえに発展性という余裕が現状ではないといったとこか。……次に調整の件だが以前に一騎君がシステムに違和感を感じてたって総士君から報告を受けていたのだが」

 

「そういや、最初の戦闘でそんな事言ったな」

「やはり、僕や乙姫で取ったデータだけですから、そういうズレというのはあったという事ですね」

 

「一騎君に要望があれば聞こう」

 

要望と言われたが、一騎としてはやはり依然と同じような感覚で使った方がやり易い。

 

「もう少し『マークザイン』に近い感覚にできないでしょうか? 今のでも反応が少し遅れている気がします」

 

単純明快だが真理をついた答えを出した。

 

「わかった。調整してみよう。それだと、今までの戦闘データだけでは足りないな。2人とも、少し手伝ってもらおう」

 

「「わかりました」」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

数時間後、システムのアップデートが完了した。同時に一騎たちが家へと帰れる目処が付いたという事で3人はアルヴィス所有の車に乗り自宅の途中まで送られ、その後は徒歩で家路へとついた。

 

「やっと戻れたか。なんだか、随分と長いように感じたよ」

 

日も沈みかけていた時間だがようやく戻れたことに安堵し大きく息を吐いた。下手をすれば長期間かかったかもしれない離れていたのは三日間だが一騎にとっては非常に長く感じられた。

 

「一騎君だ~」

「総士君や乙姫ちゃんもいるわ」

 

声に気づいた3人は振り向くと友奈と東郷がいた。讃州中学の制服であることから勇者部の活動を終え家路へとついていたのだろう。

 

「それよりもどうしたの~? 一昨日、一騎君の家に行ったら誰もいなかったし」

「総士君からは休みの連絡がありましたが…」

 

友奈と東郷が詰め寄ってくる。

 

「すまない。東郷は知っていると思うが実は大赦に呼ばれて一騎と一緒に……父から言われてな」

「それで急に行かなくちゃいけなくなったの。一騎からも話を聞きたいって言ってて両親と一緒に招待を受けたの」

 

一騎はどう答えたらいいのかと思っていると総士たちからのフォローが入る。東郷ははっとした表情となる。

 

「ん~どうして大赦に?」

「友奈ちゃん。多分、御役目に関する事よ」

 

東郷は総士と偶然に会った際にこういう活動をしていることは聞いてある。

 

「それで今日まであちらの方に」

 

「う~ん、御役目に関する事じゃあ…仕方ないよね。3人とも、お疲れ様」

 

友奈はきょとんとした表情なものの一先ずは納得してくれたようだ。

 

「あとで風先輩や樹ちゃん、夏凜ちゃんにも連絡してくださいね。それではみんな。また明日」

「じゃね~」

 

友奈と東郷はそれぞれの家へと帰っていった。

 

「我ながら口八丁なことをする羽目になるとは……」

「…あはは」

 

強引だろと一騎は思ったが、さすがに今回起きた事件を話すわけにもいかなかったため。総士たちに従った。幸いともいうべきか友奈と東郷も深くは聞いてこなかった

 

「だけど、いつかは話さないといけないんだよな」

 

一騎が申し訳なさそうに呟く。奇しくも一騎は今回の事件で総士たちと同じ『知る立場』となってしまったのである。彼の言葉はその重みを含んでいた。

 

「一騎、彼女たち勇者に」

 

「俺は話した方がいいと思うが、だめか?」

 

「今は無理だ」

 

一騎の発言に総士は頭を抱えると告げる。

 

「……時と場合を考えろ。いきなり真実を告げたとしてもすぐには信じられるか?」

 

「だって、総士が言ったら彼女たちが納得したじゃないか」

 

「あれは勇者システムの説明の矛盾をついたからだ。風先輩や夏凜が大赦に所属している以上大赦の上層部の意向を真に受けていると思われるし、この世界の神樹の信仰がある。僕らが真実を語ったとしても今の段階じゃあ信じる可能性は低いぞ」

 

「………」

 

総士が諭すように告げる。一騎も総士の言い分に納得し思いとどまったようだ。

 

「今は時を待て一騎」

 

まるで先を見据えたように総士は語る。彼としての考えがあるのだろう一騎は今はそう思う事にした。

 

だが、一騎たちはこの先試されることになる。真実に秘められし残酷な一面と真実を知る者としての責務を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 同時刻

 

視点:乃木園子

 

-大赦系列病院 特別室(園子の病室)-

 

「そっか。アルヴィスの人たちが……」

「うん。彼らが一騎を助けてくれたんだ。……それにしても酷いなあ。せっかくこの世界を守ってくれているのにさ」

 

園子は来栖から大赦上層部の非道的な行いがあったとの報告を聞いていた。来栖もその事に関して怒りを露にしていた。もちろん、当事者に近い立場の園子も内心穏やかとも言えない。

 

(あなたの言う通りになったね…『つっきー』)

 

来栖に自らの心情を吐露した園子は新たな勇者のために出来る事をしよう。そう決めて来栖の協力を得て個人的な活動を始めていた。その一環として、来栖と共に情報を集めている際に大赦の現状を知ってしまっていた。

 

 

 

園子がかつての日常を過ごした親友たちと再会してから数日後、大赦で大きな動きがありついに勇者が選ばれ御役目が始まったのである。その中にはかつての友が含まれていた。園子はすぐさまやって来た大赦の大人経由でその報告を聞いた。

 

さらに乙姫から聞いていた新たな災厄が新たに選ばれた勇者を襲ったのも知った。それは乙姫が示唆した戦士たちにより排除された。

 

その事を知った園子はあまり時間が残されていないのを悟った。バーテックスと戦う勇者の御役目は言い換えれば化け物を追い払う儀式のようなものである。その過酷さを身をもって知るため、勇者たちが切り札である『満開』を使うのは目に見えていた。

 

そして、大赦が隠してある真実に到達してしまうであろう。すぐにでも園子は選ばれた勇者たちに対して動く必要があった。

 

 

 

同時に新たな災厄に対し何か手が打つ必要がある。だが、それは園子の思いがけぬ形で解決した。

 

大赦に協力している外部機関が今回の御役目への介入すると言ってのだ。その外部機関は乙姫たちが所属している後に『アルヴィス』と呼ばれる組織だったのである。

 

さらに、園子の元に神樹の御神託を聞いたとされる3人の巫女が訪れた。巫女たちは大赦設立当初から関わっているとされる格式のある方々で園子も催事の時ではないとお目通りにならない人たちだったのである。

 

何故か園子の立場で畏まる大人たちが多い中、彼女たちは来栖と同じように接してくれたのである。その3人の巫女たちと時間の許す限り話し信頼のできる大人たちと判断した。その巫女たちと一緒に大赦の上層部の会議へと乗り込み、その外部機関の介入を認めさせたのである。

 

「『みおみお』」

 

「ん?」

 

「お願いがあるんだけど~」

 

目下の災厄に手を打つことに成功した園子だったが、新たに選ばれた勇者たちにある懸念を持っていた。勇者の中にかつての親友もいるが戦いから遠ざかっているし()()()()()()()()()()()だろう。同時に勇者たちの傍にいる戦士たちにもその事を確かめる必要があるため自らの考えた計画を来栖に語った。

 

「う~ん、あんまりそういう事はしたくはないんだど…」

 

「傷つけるつもりじゃないよ。あの人たちにもお話するために必要な事なの」

 

「……分かったよ。それが園子にとって必要な事なんだね」

 

園子は頷く。計画の一部には来栖は難色を示したが彼は賛同の意を示した。

 

それを見届けた園子は目を瞑ると心で呼びかける。何もない空間から光がはじけるように3体の精霊が現れた。

 

「『セバスチャン』はあの子の元へ。あなた達はいつものように……だけど、これは最後になる…といいな」

 

園子は3体の精霊に命を与える。その中の黒い鳥のような精霊はどこかへと飛び立っていった。




第4章への繋ぎ回でした。次の章で園子様たちが大きく動きます。

〈解説〉
●ファフナーシステム
一騎たちが『蒼穹のファフナー』に出てくる兵器であるファフナーやミールの力を行使するためのシステム。安直だが『勇者システム』と区別するための名称。現段階でもアップデートによる向上は続いている。だが、島の機能をほぼ再現に成功した乙姫のは現在発展性がない状態。

●ファフナーとゆゆゆとの技術力
・ファフナー:科学的な技術力はかなり高い。それに加え、敵の力であるミールの解析、またはミールからその恩恵をもたらされているためか、その力に対する理解力が高い。
・ゆゆゆ:技術力は現代と同じ程度。霊的・呪術に関する技術力は300年の成熟もあってかかなり高い。反面、力に対する理解力は低め。



以下、おまけ(駄文注意)
●おまけ1
一騎たちの乗る車は古い木造建築のお店を通り過ぎた。架けられている暖簾から古きよき銭湯のようだ。その軒先で掃除をしている少年は車内にいた3人の姿を見た。

「(!?)一騎、総士? それに乙姫ちゃん?」

気づいたが既に距離が離れていたため確かめることが出来なかった。

「ん~、気のせいかな」

「こんにちは」

声に振り向くと黒髪に2つのテールにしている少女がいた。

「やぁ。あれ、トレーニングまた始めたんだ」

「うん。今日は…」

「今は誰もいないよ。だから、貸し切り状態。番台は母ちゃんだよ」

「そう。ならお邪魔させていただくわ」

「はい、いらっしゃい」



●おまけ2
車を降りた一騎たちは徒歩で家路についていた。彼らの背後の交差点から1組の男女の学生が話ながら歩んでくる。男子学生の傍らには1匹の犬がついてきている。すると、その背を見た男子学生が呟いた。

「……一騎?」

タイミングが悪く路地の方へ入ってしまい確認ができなかった。その様子を見た女子学生が訊ねる。

「どうしたの?」

「(気のせいか)……なんでもないよ。それより話って」

「うん……実は今度、『ゴールドタワー』に行かなくっちゃけなくなったの」

「そうなのか」

意味深な会話をし、一騎たちとは逆の方へと向かって行った。



●おまけ3:実は『神樹様』は……?
「最後に一つ聞いてもいいかな?」

「はい?」

「どうして、アルヴィスの制服を」

「こういう場ならそれ相応の格好がふさわしいでしょう♪」

対話を終えた乙姫がいつもの純粋な質問をぶつけてきた。今の『神樹』の格好は、アルヴィス女性職員用の制服であった。

「他に色々ありますよ。アルヴィスの成人用の制服や人類軍制服とかシナジティックスーツとか」

「ええと……」

「あぁ、乙姫さんのような少女でしたらこちらの方が良かったのかしら(神樹様の恵み衣装シリーズ、初代勇者用メイド服)」

(……こちらの神様ってコスプレ好き?)

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