絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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『結城友奈は勇者である 樹海の記憶』本編開始。バーテックス勢力のみとの戦闘回となります。

2019/3/4 来主の誤字修正(何故今まで気づかなかったし)


第2話 樹海の世界に立つ竜人と……

視点:乃木園子

-大赦系列病院 特別室(園子の病室)-

 

「そっかー。『つっきー』は私たちに協力してくれるんだね」

 

「そうみたいだね」

 

鴉天狗から受け取った手紙を見た来栖がその内容を園子に伝える。園子はこれから行う上で唯一といっていい懸念が解消された様だ。

 

「後はぶっつけ本番かな~。元フェストゥムの『みおみお』たちが私の精霊の影響を受けてくれればいいんだけどね」

 

そう言いつつベットへと深く身を寄せる園子。何故かじーっと来栖の方へと見つめてきた。

 

「ねえ、『みおみお』……」

 

「どうしたの?」

 

「……手握ってくれないかな」

 

「どうして?」

 

「今からやる事は私にとっての大きな一歩だから、少し踏み出せる勇気が欲しいの」

 

不安げな声をささやいてくる園子。来主はきょとんとした様子でそれを聞き入れると園子の手を握ってきたが、すると突然彼女の横に寝転んできた。

 

「ふぇ!?」

 

「こうして欲しかったんじゃないの?」

 

「はぅぅ……思い描いてたシチュエーションをこうも早くにやってくれるなんて……だけど『勇気』が湧いてきたよ」

 

顔を赤くし目線を少しそらした園子、一方の来主はどうしたんだという感じで見つめている。園子はなんとか平静を保とうとしながら心の中で呼びかける。すると、前に鴉天狗以外に使命を与えた2体の精霊が現れる。

 

「それじゃあ始めるよ…みおみお、目を瞑って。……おやすみなさい」

 

(!?)

 

目を瞑った来栖だったが園子の一言により意識を失った。従者が何があったような様子で駆け寄ってくるが当の来栖はぐっすりと寝ているようだ。

 

「元はフェストゥムと言っても人になったからいけたようだね~。従者さん~あとはよろしく。……おやすみ~…」

 

上手くいったことを確信した園子はさらに深い眠りについていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:勇者部

-樹海内-

 

次の日の放課後、アラームが鳴ったことで敵が襲来したことを察知した一同は周囲に色とりどりの樹木の世界にとばされた。現在、一同は樹海内の木の根の上に立っていた。

 

「やれやれ、忙しいわね」

 

「最近はよく来ますね。前に夏凜ちゃんが言っていたように出現の周期が乱れていることに関連があるのでしょうか」

 

「そうなのか、三好、総士?」

 

「…まあ、あながち大赦の言う通りじゃないの?」

 

「可能性は高いが…今はそういう議論をしている時間もなさそうだ」

 

壁に近い空間に揺らぎが発生しており今にも敵が出てきそうな感じだ。

 

「総士の言う通り、考えても仕方ないわ。みんな行くわよ! 夏凜、勝手なことしないでちゃんと言う事聞きなさいよ!」

 

「―――ッ。実戦なんだから関係ないでしょ。もうそんな事しないわよ」

 

「それを聞ければ十分。行くわよー勇者部変身!」

 

一同は総士の言う通り議論をやめることにし端末を構えた。風の一声により勇者部は戦闘時の姿へと変わった。

 

「変身完了♪ あれ…って、一騎君!?」

「「―――ッ!!!」」

「え…えぇぇぇぇっーーー!!!」

「ま、真壁! その姿はいったい!?」

 

友奈が隣にいる一騎を見るとこれまでとは違った姿に気づき驚きの声を挙げる。続いて他の勇者たちも一騎の方へと視線を送ると多種多様な反応を見せる。

 

「あー……やっぱし驚いちゃうよな」

 

目が点となっている勇者たちの様子から無理もないかなと一騎は思った。何故なら、今の彼は勇者服を基にした姿ではなく。黒に近い濃紺色の機械のような鎧を纏った姿となっていたからである。

 

「こちらが使っている戦闘システムを新たにバージョンアップしてさらなる戦闘向けの装備を変えた」

 

「そ、そうなの、総士君?」

 

「うーん、どっかで見たような?」

 

改めて一騎の方へと見やる東郷。機械人形とも思える姿に友奈は呟くとぽんと手を打ち、ぽつりと呟いた。

 

「……『ファフナー』」

 

「ん、なしたの友奈?」

 

「そうだよ。一騎君たちがいた世界のロボットだよ」

 

「それって総士君たちの世界の映像に出てきた機械人形の事?」

 

「うん」

 

「あいつだけ強化ってなわけ……」

 

東郷たちの問いに頷く友奈。今の一騎は『ファフナー・Mk.XI(マークエルフ)』を身に纏っているという姿となっている。夏凜はそれをずるいといった感じで見ていた。

 

「あら、総士と乙姫ちゃんは前のままなのね」

 

「一応はその形態にもなれるが、ジークフリードシステムの統括や指揮もあるからこちらの方が都合がいいんだ」

「総士たち以上に特殊なシステム使ってるし、私はファフナーパイロットでもないからね」

 

「―――ッ! 来ました……バーテックスです!」

 

「(!?)こちらでも確認した。星屑タイプのバーテックスが出現だけのようだ…フェストゥムはいないか」

 

樹の一声により会話は中断した。敵の侵攻が本格的に始ろうとしていた。

 

「敵が来るわよ。みんな戦闘用意!」

 

『了解!』

「……了解」

 

風が開戦前の檄を飛ばす。当然、勇者たちはそれに応えたが夏凜のみはこういう雰囲気にまだ慣れていないのかぽつりと呟いた程度だ。

 

「それで総士、今回はどう動けばいいのかしら」

 

「今回はフェストゥムの乱入を警戒するためにフォーメーションを一部変える。勇者たちは前衛を風先輩と結城、樹は中距離から、東郷は狙撃で後方からの支援。指定したルートに沿いながらバーテックスを優先して掃討してくれ。三好、君も前衛としての役割だ…いいな?」

 

「……文句はないわよ。その前に聞きたいことがあるんだけど」

 

前回先走ってしまった事もあってか夏凜からも異はないようだが質問を投げかけてきた。

 

「その『ジークフリードシステム』だっけ、前にあんな事言ったし、犬先輩たちが平然と使ってるんだけど本当に使っても問題ないの?」

 

「夏凜、どうして今聞くの?」

 

「勇者システムに対してそういう啖呵切って来たんだから何だかんだでデメリットがありますって事になったら困るからね」

 

「「「「あ……」」」」

 

その率直な言葉に勇者たちも動揺が走る。もしも、夏凜の言葉通りなら以前総士たちが反論した勇者システムの通りとなってしまう。

 

「心配ないよ、夏凜」

 

「この時が来るまでに力をより深く理解し研究を進めてきた。みんなのスマホにはその制御用のプログラムを。精霊たちにはその補助を行うための力を与えてある」

「与えた力はこの世界に来た私たちの祝福みたいなもの。だから…その力に恐れないで」

 

夏凜の問いに乙姫が真っ先に答えた。総士の補足も加わった事により一同は納得したような様子を見せる。

 

「そ、分かったわ。今はそういう事にしておいてあげる」

 

夏凜は数歩前へと歩み出る。

 

「どうしたの? 敵は目の前なのよ」

 

ぽかんとしていた勇者たちに声をかけると二振りの刀を現界させ構えた。

 

「総士、『ジークフリードシステム』の接続をお願い!」

 

「……了解した。クロッシングを開始する!」

 

その刹那、クロッシングの接続の影響で夏凜の全身に鋭い痛みが走った。

 

「―――!」

 

あまりにも痛みに夏凜は思わず食いしばった。しかめっ面となっている様子を見かねて友奈が声をかける。

 

「ええと、夏凜ちゃん大丈夫?…痛い…よね」

 

「……平気よ」

 

ぽつりと呟くように言うと夏凜はそのまま跳躍して侵攻するバーテックスの方へと向かって行った。

 

「接続には成功したが……」

 

「あ~らら、夏凜の奴、やせ我慢しちゃって」

 

「それよりも早く行かないと」

 

「風先輩、三好の事を頼めますか」

 

「OK~。まあ、前みたいな無茶はしないと思うけどね。みんな、行くわよ」

 

システムへの接続確認ができた旨を伝えると風の一声と共に勇者たちは夏凜の後を追い、バーテックスの群れへと向かって行った。その場には一騎・総士・乙姫の3人が残された。

 

「……今はこの戦闘を切り抜ける。一騎は遊撃要因で勇者たちを援護。乙姫は前回と同じだ」

 

「あぁ」

「わかったよ。総士」

 

総士は短い指示を聞き入れると一騎は思いっきり跳んだ。一騎はまるで「俺はこれだけ跳べるんだ」という感じで地面から蹴りだすと数十メートルを一跳びで移動すると着地、素の状態でどれだけ跳べるかを把握すると今度は背部のスラスターを吹かし跳ぶ、一瞬で数キロの距離を消滅させ敵集団へと迫った。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

視点:戦闘

 

ひずみを超えてきた勇者たちは星屑のバーテックスとの戦闘に突入した。

 

「せいっ!」

 

夏凜はほとんど反射に近い速度で二振りの刀を振るう。友奈の近くに寄っていた星屑が両断された。次の敵を狙い構えなおすと跳躍し敵バーテックスの集団へと詰める。

 

「はあああぁっーーー!」

 

白き閃光となった刃が敵の身体を切り裂き先頭の個体が両断される。二振りの白刃は次々と星屑を切り裂いていき、夏凜は集団へ割り込み駆けていく。長年の修練の成果をいかんなく発揮し紅色の暴風となった夏凜の速度に敵は対応できない。

 

「夏凜ちゃん凄い! よぉし! 勇者…ソバット!」

 

活躍に感心しつつも友奈も夏凜の後へ続く。星屑の噛みつきをひらりといなしつつ自分の身体を回転し後ろ向きになりつつその勢いのまま蹴り込む。後ろ蹴りをもろにくらった星屑の身体がくの字に曲がり吹っ飛んだ。

 

(緊張感のない……まあ、怖がってないところを見ると『慣れた』というのかしら。それに前々から見ていたけどそれなりに戦えている。少し浮ついているような感じだけどね)

 

どこか間の抜けている感じだが友奈を含め他の勇者たちもそれぞれの役割をしっかりとこなしている。今回の勇者システムは突然選ばれた少女でもいきなり戦えるほどの性能を誇っている。前回の戦闘の詳細を知らなかったとはいえ、普通の日常にいた少女たちがここまで戦えるとは訓練を重ねてきた夏凜にも思わぬ事だった。

 

《(たしかに三好の言う通りかもしれないな)三好、そのポイントの星屑は掃討された。次のポイントまでの道を開く》

 

総士の通信による音声と共に星屑数体が光線のような光に撃ち抜かれる。見れば一騎が銃のような武器を構え発射されるレーザーで的確に撃ちぬいていた。

 

今回、一騎は近接支援射撃による援護のために『ゲーグナー』と呼ばれるマシンガンタイプのレーザー銃を採用していた。この火器はレールガンよりも連射が可能で取り回しの利く利点が大きいためこのような数での戦いにはうってつけだ。

 

《ポイントクリア…次は結城の援護だ》

 

「次はそっちだな」

 

《風先輩、突出し過ぎています。東郷、風と樹のフォローを》

 

「りょーかいっ!」

「任務、了解です! 射線に注意して!」

「わかりました~!」

 

総士の指示を受けると一騎は近接格闘になるとルガーランスを振るい、次の援護地点へと向かう。長距離狙撃を東郷が担当する分動き易くなった一騎は総士の指示のもと次々と勇者たちが立ち回りやすいように星屑を仕留めていく。さらに勇者たちの動きにも気を配り、指示を飛ばし常に優勢な状況を保っていた。

 

 

 

戦闘開始から数刻後、敵の殆どが掃討されたが唐突に異変が起こった。

 

「(!?)何かくる!」

 

真っ先に気づいた友奈が叫ぶ。同時に総士の端末に2種類の情報が送られてくる。

 

『え?』

「……また?」

 

壁の揺らぎを見上げる友奈たち勇者と一騎たち。出てきた巨大で異質な存在に絶句した。

 

「ちょ、どういう事なのよ! アンタ達が倒したんでしょう!?」

 

夏凜も声をあげ、明らかに動揺している。

 

「総士、どういうことよ?」

 

「ソロモンに反応なし。逆にバーテックス反応に酷似。あれは『乙女座(ヴィルゴ)バーテックス』そのものだ」

 

揺らぎから出てきたのはヴァルゴ(乙女座)・バーテックス。神樹に選ばれた勇者である友奈・風・樹により倒されたはずの大型のバーテックスである。そのバーテックスの周りに取り巻きのような形で星屑のバーテックスが壁を越え侵入してきた。

 

「詮索は後よ。出てくるならまたぶっ倒してやるまでよ!」

 

《よせ、態勢が整ってない!》

 

困惑している一同に怒号のような声で檄を飛ばす。また倒してやろうと意気揚々に大剣を構え突撃をかけようとした。冷静に状況を見定めていた総士はすぐに声をかけ止めようとした。

 

「(!?)早い! くっ!!」

 

取り巻きにいた鋭利な角をもったバーテックスが急加速ミサイルのような速度で風に突っ込んできた。咄嗟に大剣を盾のように構え防いだ。しかし、突進の勢いに風が押されてしまう。

 

「風先輩!」

「このお魚の形したバーテックス、ひらひらと避けてくるよぉ」

 

吹っ飛ばされた風に気に掛けようとした友奈と樹だったが、彼女ら2人には魚のようなバーテックスがその周囲に纏わりつく形で取り囲んでいた。まるで泳ぐかのように空を舞い2人の攻撃をひらりと躱し、その隙を狙って噛みつこう接近、それを2人は躱すというに苦戦していた。

 

「ええい! 唸れ、私の女子力!」

 

風は大剣を樹海の根に突き立てる。大剣を押すような形でブレーキをかけると敵の突進をなんとか停める。

 

「(!?)はっ!」

 

だが、突進を止めた事により風に大きな隙が生じた。ヴァルゴ・バーテックスが風に目掛け尾から大量の爆弾を射出してきた。

 

「しまった! これじゃ動けない!」

 

《連携! ッ!!!》

 

風が声をあげ、総士が舌打ちをした。逃れようにも風の体は持っている大剣と樹海の根に挟み込まれるような形となっており動けずにいた。風は迫りくる『人類の敵』の自分の仲間すら利用した無慈悲な爆撃に思わず目を瞑った。

 

《一騎、東郷。カバー!!!》

 

「させるかぁ!」

「一騎君、合わせます!」

 

否、一騎が走りながらゲーグナーで連射、東郷はノルンの支援と散弾銃による弾幕を形成させ爆弾をすべて撃ち落とす。風に距離を詰めると鋭利な角をもったバーテックスをルガーランスで両断した。

 

「やぁっ!」

 

夏凜が十字に切るように二刀で一閃。数体の魚のようなバーテックス数体が一瞬遅れ、滑り落ちるような形で両断された。

 

「夏凜ちゃん!」

「助かりました!」

 

「惚けないで! 敵はまだいるっての!」

 

友奈と樹に叱咤しつつ夏凜は両手に持った刀を一振るいする。魚のようなバーテックスは夏凜を攪乱しようとその周囲を泳ぐ。

 

「いい? 直線的すぎるから躱されるの」

 

夏凜に目掛け魚のようなバーテックスが噛みついて来ようとした。しかし、夏凜は刹那のタイミングでそれを躱すとすれ違いざまに切り捨てる。

 

「あっちも同じ。攻撃したら隙ができる。それを狙って」

 

2人にアドバイスを送りながらバーテックスを一刀両断。その場にいた敵をすべて倒してしまった。

 

「せ…精霊のバリアがあるとは言え……死ぬかと思ったわ。残りはあのバーテックスだけね」

 

そこに風たちが合流してくる。残っている敵はヴァルゴ・バーテックスのみとなった。

 

「風先輩、前と同じバーテックスだったら……」

 

「そうね。御霊はものすっごーく硬いかも」

 

「そ、そうなの!?」

 

最初のバーテックスの光線の事を思い出したかのうように友奈が拳をさすりながら言う。その話を聞いた夏凜がしかめっ面となる。

 

総士は前回の戦闘状況などを推考し戦闘プランを構築する。

 

《初回の戦闘と同じでやり方でいく。東郷と乙姫は勇者たちが配置につけるようヴァルゴに対して支援攻撃。配置についたら封印役は樹と夏凜、御霊への対処は風先輩と結城、さらに保険として一騎。お前に任せる》

 

「ま、しょうがないわね。話の通りなら私のシステムじゃあ相性最悪だしね」

 

「決まったわね。勇者部突撃!!!」

 

風の一声と共に散会。ヴァルゴ・バーテックスが怒涛の攻撃を仕掛けるも東郷の狙撃援護と乙姫のノルンによる攪乱・牽制の前に何も意味をなさない。あっという間に勇者たちに取り囲まれてしまう。

 

「配置につきました~!」

「いい? しくじるんじゃないわよ……封印開始!」

 

樹と夏凜により結界が展開。ヴァルゴ・バーテックスの体がめくれ四角睡の形をした物体…『御霊』が飛び出してきた。

 

「汚名返上といくわよ!」

 

風が飛び上がり上段に構えた大剣を叩きこむ。ガツンという大きな衝撃音と堅いもの同士が接触し火花が飛び散る。

 

「ッ!? 前より硬い!」

 

「風先輩!」

 

「友奈、あんたは力を溜めて!」

 

御霊に飛び乗ると風は何度も何度も大剣を叩きつける。最初の時より相当硬くなっており叩きつけた衝撃で手が痺れそうになる。

 

「ちょっと、時間意外とないわよ!」

 

「あたしの女子力はこんなものじゃないわよ!」

 

数十回叩きつけ少し罅が入る。どうやら、壊せないほどまでにはなっていないようだ。

 

「友奈、今よ!」

 

風が後ろへと跳ぶと友奈が御霊に乗る。そして、右手を高く掲げる。

 

「勇者ァ…パーーーーーンチ!!!」

 

桜色を纏った必殺の一撃を御霊に思いっきり叩きつける。風が入れた罅に叩き込まれた拳は外殻を貫き穴をあけた。

 

「やった!」

 

《まだだ、活動を停止していない!》

 

大穴を開けているものの御霊はギリギリの状態で活動していた。やったと思っていた友奈を尻目にその場を高速回転。

 

「わわわ…きゃぁ!」

 

上に乗っていた友奈を弾き飛ばした。友奈は空中に身を投げ出されたがその場で受け身をとると近くにあった樹海の根にしがみついた。

 

「び、びっくりしたー…」

 

《一騎、『ピラム』を使え!》

 

「やってみる!」

 

いつの間に御霊の真上へと跳躍した一騎は持っていた先端に刃が付いた武器で狙いを定める。すると先端の矢のような形状をした部分を射出され、友奈の必殺の一撃で空けた穴へと寸分たがわずに入り込むと内部へと突き刺さる。さらにトリガーを引くと矢じりと柄を繋ぐワイヤーを通して対象に電流が送り込まれる。

 

【!!!!!!!!】

 

高圧電流を受けた御霊から煙が上がる。すると突き刺さった部分から土色へと変色していき御霊全体を覆う。ピラムの矢じりが引き抜かれると力を失った御霊がそのまま地上へと落下し破砕、残ったヴァルゴ・バーテックスの身体も砂へと還った。

 

《ヴァルゴ・バーテックスの殲滅を確認。敵はもういないようだ》

 

【フェストゥムはいなかったね。総士】

 

《あぁ、気になるところだがな》

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「自信があるのは結構……だけど、油断し過ぎよ!」

 

「「……ごめんなさい」」

「重々に反省しております」

 

戦闘終了後、友奈・風・樹を待っていたのは夏凜の説教であった。御役目に成功したもののその成果は上手くいったとは思えなかった。友奈たちもその事に対して思うところもあり、これまでの戦闘をこなしていたせいもあって少し浮ついていたのを自覚ししょんぼりとしていた。

 

「そこまでにしておけよ三好。みんなも反省しているようだしさ」

「そうよ。今回は私たちに慢心があったとはいえ、一騎君と夏凜ちゃん、乙姫ちゃんの援護で事なきを得たわ。だからこそ、その失敗を生かすべきだと思うわ」

 

「まぁ…分かればいいのよ。分かれば」

 

「はい……東郷さんの言う通りですね」

「……前にもなんとか倒せたし、あっさりとやれると思ってた。私たちに確かに油断があったかもね」

「なら、次はどうするか考えようよ」

 

一騎と東郷からのフォローも入った事で夏凜も一応は鞘を納めることにした。ポジティブな様子で失敗をどう活かすか意見交換を始めた友奈たち。夏凜はそんな和気藹々とした様子をみて仕方ないなという感じで息を吐いた。

 

「そうね……。アタシとしてもアンタ達がやられたら後味悪いし、こんな事にならないよう帰ったら特訓よ!」

 

『えぇぇぇ!!!』

 

「神樹様の力があっても使うのは君たちだ。それの使い方が伴っていなければ今のように足をすくわれてしまう。三好の意見に僕は賛成だな。(ま、三好がやり過ぎない様釘は刺すとしておくか)」

 

 

 

「(!?)あっ! 待って! ……行っちゃった」

 

友奈が樹海の樹々の合間に何かがいたのに気が付いた。発見したその刹那すぐに引っ込んでしまったが人影のような存在がいたように見えた。

 

「友奈、何かあったのか?」

 

「うん。今、そこに女の子がいたような?」

 

「ふぇ! お…お化けじゃ…ないよね」

 

樹が驚きの声をあげ周囲を見渡すも広がっているのはもはや見慣れてしまった樹海の風景である。

 

「……周囲にまったく反応がない」

 

さらに総士が断言する。友奈は端末を取り出し周囲検索をかけたが反応はない。

 

「そう…だよね。樹海の中で動けるのは、私たちだけだもんね」

 

「友奈ちゃん、気になるようだけど…樹海化がそろそろ解けるわ」

 

気のせいだと思いたいが樹海内にいたとされる人影がどうしても気になってしまう。東郷の一声と樹海化が解ける兆候が表れ始めたのもあって、友奈は一先ず頭の隅に追いやることにした。もはや定番となった桜吹雪が舞い、一同は日常の世界へと帰還を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:樹海の少女

 

「う~ん、強化したんだけどあっさりと……神樹様の力は一通り使いこなせてるって感じかなぁ~」

 

樹海の木の陰から1人の少女が飛び出してきた。小学生くらいの身長でどこかの学校の制服に身を包んでいた。友奈が見かけたのはこの少女であり、勇者たちの戦闘を陰から見ていた。

 

「粗削りだけど、私たちよりも強化されたシステムを使いこなしているし、仲も良いみたいだね。だけど~戦うってことはどう感じているのかな~」

 

「あ、いたいた」

 

意味深に呟いていると少女と同年齢と思われる少年が歩み寄ってきた。

 

「お~無事にこちらに来れたんだね~」

 

「先に行っちゃうからさ~随分と迷ってしまったよ。それにこの身体…なんだか動きづらい」

 

「まだこの世界に慣れていないから仕方ないよ」

 

「それで君の求める答えにはなったのかな」

 

「まだまだだよ~。求めるものはまだ先だと思うしもう少し暗躍するのだ~」

 

「そっか。それじゃ戻る?」

 

「うん~」

 

2人は手をつなぐと舞う花びらと共に樹海の世界から姿を消した。




ここから一騎はファフナーを纏った姿となります。ゆゆゆ原作6話で少しやりたいことができてちと生身だと構成上きつかったもので……。

『鷲尾須美の章』第3章『やくそく』上映前になんとか投稿完了。遅れた原因の大半はゆゆゆいですw

ちなみに私はランクは100超え。さらに今日、SSR秋原雪花も引いてるような状態とかなりのやり込み勢となっています。

しかしながら7月7日に満を持して3日限定でSSR三ノ輪銀を投入とは運営も粋なんだか狙いすましたかのようにやってきおって……。

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