翌日、一騎と総士は真壁家の前いた。今日は友奈たちと遊びに行く約束をしており、そのための待ち合わせてある。しかしながら、友奈たちも華の女子中学生、お出かけの準備には時間はかかるものである。
「一騎君、総士君、おはよっ!」
「おはよう! …待たせたかしら?」
一騎たちは雑談をしながら時間をつぶしていると、友奈が東郷の車椅子を押しながら結城家から出てきた。
「おはよう、友奈、東郷」
「…こちらも今来たところだ」
「あら、乙姫ちゃんはどうしたの?」
「乙姫は友達と遊びに行くって言って、朝早々に出て行ったよ」
「そうなんだ」
乙姫の不在を総士から聞き、納得したようにうなずく友奈と東郷。
「それでどこへ行くんだ?」
友奈たちから誘われたがその目的地は聞いていない。一騎の問いに友奈が反応を示した。
「うーんとね。あった、はい」
友奈がじゃじゃーんと陽気に口ずさむとスマートフォンのあるページを見せびらかしてきた。
「ほう、『イネス』か」
「確かこの前、うちにもチラシ来てたな」
「うん」
『イネス』という大型のショッピングモールサイトで、その新装開店のお知らせやイベント内容が網羅されている。
「あれ? 俺が友奈と会った時からなかったっけ?」
「あったね~」
「最近、駅前のほうで大規模な再開発が行われて新しくなったそうよ」
東郷からの補足もあり一騎たちも駅前でそんな事が行われていたなと思い出す。
「そうか。なら今日はそこへと向かうのか」
「うん、いいかな」
「せっかくの休みで僕たちも特に予定がない。付き合おう」
「やった!」
「ひゃ、友奈ちゃん、落ち着いて!」
はしゃぐ友奈が東郷の車椅子を押し我先に歩みだす。それが少し子供っぽいなと思いつつも一騎と総士も続いていく。
一同は市内を巡回するバスに乗り、目的の駅前方面へとたどり着いた。
「うわ~…」
友奈が見上げ辺りを見渡す。讃州中学周辺の自然の営みが残る場所とはうって変わって、駅前は開発が進み高層ビルが建ち並び発展したちょっとした摩天楼のようになっていた。
「すっごいよ~東郷さん。まるで迷路みたいだよ~」
「友奈ちゃん、迷っても私がいるから」
「えへへ、ありがと~東郷さん」
友奈は普段来ない駅前にはしゃぎながらも車椅子を巧みに操っているものの、人通りの多い場所であるための接触もありえる。そんな一騎たちはぶつからないように配慮しながら歩いている。
「一騎君、そんなに駅前が珍しい?」
「ん、あぁ。こっちにはあまり来ないからな。…竜宮島と比べれば随分と都会かもな」
「一騎からすれば物珍しいと思うのは無理はないな」
友奈たちにも一騎たちがいた世界、特に故郷である『竜宮島』のことは話してあるが彼女たちにとっては漫然としたイメージしかない。一騎と総士はせっかくなので話のタネとして語る事にした。
「……なんか田舎っぽい」
「だろ?」
最初はどのような生活だったかを語る。その話から友奈はつい思った第一印象をぽつりと呟いた。『竜宮島』は華やかなのは名ばかりで、友奈たちのいる街とは同じ山と海と自然には恵まれているが、「ど」を冠するにふさわしい田舎が竜宮島の表向きの姿なのである。
「竜宮島の街並みは『日本の平和と文化を継承』のための再現でもあったからな。おそらく、こちらの世界から見れば前時代的と言えるだろう」
「うーん、南の島って考えれば良さそうなんだけど、こう娯楽がないんじゃなぁ……」
友奈が少し残念そうにぼやく。
「……そうだったのか」
「『日本の平和と文化を継承』ね……」
「時代で言えば昭和初期くらいだ」
「それ、本当!? 詳しく聞かせて」
そんな東郷は竜宮島の文化の方に興味をもった。彼女の多種で濃ゆい感性を刺激したようである。
(このような話にここまで興味をもつのか)
東郷の変貌にさすがの総士もたじろいだが、質問に答える形で知る限りの説明を行った。
そうこう話しているうちに一同は目的地であるショッピングモール『イネス』近くへとたどり着いた。連休とイネス新装開店が重なった初日ということで人の往来はそれなりにあり、混雑しそうに思えた。
「それで風先輩たちとはどのように合流を」
「風先輩と樹ちゃんは開店直後のセールでもう来ているだろうし、夏凜ちゃんも時間通りに来るならもう向かってくると思うんだけど、どこで待ち合わせるか聞こうか?」
「お、友奈たち発見!」
風が手を振りながら友奈たちの元へ歩み寄ってくる。その後ろには樹となぜか夏凜もいた。
「いやぁ、ほんとっ偶然。荷物置きに帰宅してからもっかい来たんだけど、もしやと思った後ろ姿でね」
「人がいっぱいですから、こうしてすんなり集まれてよかったです」
樹の一言に一同は納得したかのように頷く。
「夏凜ちゃんも来たんだね」
「……まぁ、誘われてたわけだし」
「夏凜ったら、朝からイネスにいたのよ。にぼしとサプリ目当てで」
「ちょい待ち!」
意地が悪そうな笑みを浮かべながら風が経緯を説明する。すると夏凜は顔を真っ赤にしギャーと風に食って掛かる。
「あはは…どうしましょうか」
「こうなると止めづらいな」
目の前の状況にぽつんと置いてかれている感じの樹が乾いた笑みを浮かべ、一騎が困ったような表情で見つめ、総士ははぁと深いため息を吐く。
「(ふう、集まると姦しいとはよくいうが……ここまでとはな)みんな、そろそろ行きましょうか?」
(この状況で止めにいった!)
「あ、そうね。……みんな、今日は楽しむわよ~」
ちょうどよいタイミングで総士がとめると、風がみんなを促すと夏凜を除いた女子陣が『はーい』と返事をした。
「お母さん、ショーまで後何分~?」
「11時になったばかりよ。後30分もあるわ」
いざ行こうとしたときに通りすがった親子の微笑ましい様子につられて東郷は笑みを浮かべる。これからどんな楽しい日常になるか、東郷は心が躍らせつつも車椅子を押している友奈に話題を振ろうとした。
友奈とどんな話をしよう。『イネス』という普段では出かけない場所でどのように過ごそう。そのように思いを巡らせ入口のドアを潜ろうとした矢先。
【わっしー今、何分?】
【15時20分だから、後10分ね。もう少しでおばさんが入ってくると思うわ】
【わーい】
「え……?」
東郷が唖然とした状態で、口を僅かに開け佇む。脳裏に映像のようなモノが流れ込んできた。『わっしー』と呼んだ土黄色の髪の少女と時間を確認しあう内容で、東郷は突然の事態に意味が分からずぽかんとしている。
(最初は『イネス』っていう名を聞いても何も思わなかったのに…私、讃州市ではない『イネス』へ来たことがある? ……いえ、同じ系列の企業だからなのかしら)
「東郷さん? どうしたの、具合が悪いの?」
「あ、え。…なんでもないわ。普段来ないところだから、惚けちゃって」
「そう?」
友奈が止まってから心配そうに顔を覗き見してきた。はっと我に返った東郷は友奈を安心させようと惚けた事を告げる。友奈は一瞬首を傾げたが、東郷に問題がないと分かりすぐに微笑み返した。
次話は一騎と友奈メインの日常パートの予定です。
最近、あまり執筆する時間がとれずにいました。ゆゆゆ2期放送まで後2週間となりましたが、なんとか『樹海の記憶』編を進めなければなあ。
【今話の蛇足シリーズ】
『花結いのきらめき』のランク200突破しました。けど、最近新規SSRのラッシュが多くてSSRの絶対数増えたから狙って引きづらくなったなあ。
無料恵み2300で回したら、夏イベントの東郷さんだったし。