絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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いよいよ事態は少しづつ動き始めます。あの御方が本腰を上げます。


第6話 夢の記憶

side:皆城乙姫

一騎と総士が勇者部の子たちと休暇を過ごしている頃、乙姫は一人でうどん屋『かめや』へと訪れていた。

 

「これがうどん……! 四国で一番美味しいって言ってた食べ物なのか」

「『みおみお』よかったね~」

 

乙姫の向かい側に座る小学生くらいの少女と少年がうどんをすすっている。乙姫はこの2人に呼ばれここに出向いたのだが、今は普通に食事をする光景と化していた。

 

「もう食べないの」

 

「うん、もう十分だよ。……『この世界』でも味を感じたり、お腹が膨れるような感覚になるんだね」

 

「……『ここ』から出れば、そんなの忘れちゃうんだけどね」

 

乙姫は2人が注文したうどんを食べ終わると箸を置く。2人も食べ終わったので本題に入ることになった。

 

「『つっきー』ありがとうね。私たちの存在を隠してくれて」

 

「島にいたころもこうやって秘密裏に干渉してたの。だけど総士ならそろそろ怪しむ頃かな」

 

乙姫が島の守り神だった時は、建前上は公正であらねばならないため、島民の生活に干渉することはなかった。しかし、このように干渉するときは内緒であるがやっていたのである。

 

「なんで?」

 

「システムに干渉してたから。調べればその矛盾に気づくかも」

 

乙姫は首謀者である少女の申し出を受けシステムの干渉を行っていたのである。少女が樹海にいた際に、探知に引っかからなかったのは実は乙姫の仕業であった。少年は納得したように頷いたが、少女は少し専門的なことにわからず少し首を傾げた。

 

「よく分からないけど。話の通りなら時間がなさそうだね」

 

「そうね。それで、あなたの求めた答えは見つかりそう?」

 

「……『わっしー』と今回選ばれた勇者たち、それに『そーそー』のお友達次第かな」

 

「総士はいいの?」

 

「私の知っている『そーそー』ならきっと自力で解明させちゃうかも」

 

「そっか。でも……もしも見つからなかったら?」

 

「……その時はね ―――」

 

少女はいつもの間延びしたような感じではなく、はっきりとした答えを告げる。乙姫は少女の言葉を静かに聞き入れる。

 

「じゃ、私は行くね。『みおみお』?」

 

「俺はもう少し話していくよ。外で待ってて」

 

「分かった」

 

少女は店先で会計を済ませ先に外へと出た。席には乙姫と少女と供にいる少年が残された。

 

「……らしくなかった」

 

「あなたもそう思ったのね」

 

「あぁ、俺にできることはあるかな?」

 

「彼女の事をお願い。未来のために現在と戦っている彼女だけど、それは孤独の道。それを助けることが出来るのは一番近いところにいるのはあなただけよ」

 

「任せてよ」

 

少年は乙姫の願いを聞き入れ、誇らしげに言うと少女の後を追うように店を出て行った。彼女の事は彼に任せればいいだろう。

 

(園子ちゃんたちも動き始めた……『強いられた運命を新たに選ぶ』。総士や一騎たちは問題なさそうだけど、勇者たちにとってはここからが正面場ね)

 

乙姫が席を立つ。会計しようとレジに寄ったが、自分の分も会計されていたことに少し意外な表情を浮かべていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:勇者部

 

「はぁ…はぁ…」

 

友奈は肩で息をしながら樹海を駆けていた。気が付けば一人で樹海に立っており、すぐに敵が襲ってきたが変身し切り抜けた。

 

「東郷さん、風先輩、樹ちゃん、夏凜ちゃん。誰かいたら返事をして!」

 

肩で息をしながらなも迫りくる星屑を殴り倒す。もう何体目だろうと考えている暇もない。樹海にいるならみんながいるはずだと探しているが未だに見つからない

 

 

 

「樹、みんな! どこにいるのよ」

「お姉ちゃん、みなさん! 返事して下さ~い!」

 

別な場所では風が樹がそれぞれ星屑を倒しながら仲間を探している。

 

 

 

「端末のレーダーにも反応してない。どうなってるのよ……。まったく…あんたたち、私が見つけるまでにやられんじゃないわよ」

 

勇者システムのレーダー機能は沈黙を保ったままだ。夏凜は悪態をついたが、すぐにその場から滑空し、同じように戦う勇者部の一員を探す。向かってくる星屑はなで斬りとしていた。

 

 

 

「おかしい…」

 

東郷も仲間を探しながら二挺の散弾銃で敵を撃ち抜く。しかし、いつもと違うこの状況に疑問をもち始めていた。東郷が心を鎮め呼びかけるようとしたが、

 

「『クロッシング』が繋がっていない!? 総士君たちに何があったの?」

 

東郷たちにとっても心強い仲間たちが使うシステムが未動作となっていた。戸惑う東郷であるが、また星屑が襲来し考える間も与えてくれない。

 

「みんな…無事でいてください」

 

東郷が今できるのは、みんなの無事を祈り、敵を撃退することであった。

 

 

 

「友奈たちとのクロッシングが切れたままだ! 総士、そっちは?」

 

「原因がわからない。それに乙姫の姿も全くない!」

 

一騎と総士は2人で樹海にいた。友奈たちもそうだがいつもいるはずの乙姫も姿もない。それに勇者システムにも接続可能となった『ジークフリードシステム』の『クロッシング』の反応もない。

 

勇者たちや乙姫の不在という未曾有の事態にも関わらず、一騎と総士は連携し敵に対していた。

 

「支援射撃後に突入……今だ!」

 

フェストゥムとの戦いに身を投じ、互いの理解が深いため、その連携は敵を寄せ付けずみるみるうちに敵の数が減っていく。

 

総士の支援射撃とともに一騎は最後に残っていた太鼓のような形をしたバーテックスにルガーランスで刺し貫きゼロ距離射撃。バーテックスの身体は塵へと消えた。

 

「掃討を確認。敵はもういない」

 

「……そうか」

 

システムの不調並びに勇者とのクロッシングのみがない状態で続きその原因不明。さすがに一騎も困惑した表情を浮かべる。

 

「樹海化は解除されないが新手が来るかもしれない。……乙姫と勇者たちを探すぞ」

 

「総士?」

 

「乙姫も勇者も重要な防衛目標……戦術的にそう判断したまでだ」

 

総士は戦術的な理由も付けるも乙姫や勇者の捜索の指示を出す。

 

「僕はこの周囲を探す。一騎、あとで落ち合おう」

 

「わかった!」

 

一騎は総士の逆の方を向くと、勇者たちの捜索に赴こうとした。

 

「ここを探しても、みんなはいないよ」

 

「誰だ!?」

 

しかし、それを止める幼い声が聞こえた。一騎と総士が振り返ると小学生くらいの少女が立っていた。

 

「友奈たちが言ってた子…なのか」

 

黄土色の長い髪に青いリボン、肩口が膨らんだトップスにベスト、紺色のスカートと友奈たちが見たという樹海にいた少女の特徴に当てはまっていた。少女は逃げずに2人の事をじっと見つめている。

 

「勇者たちの心配はいらないよ。ここにはいないけど、別な所にいるから。『つっきー』はそもそもここに呼んではないから」

 

無邪気でのんびりと間延びした声で少女は答える。一方、少女の姿を見た総士は一瞬言葉を失うも目の前にいる子に訊ねる。

 

「……君は…なぜ、ここにいる?」

 

一騎は思いっきり目を丸くした。親友の声は少し震えていた……総士が動揺しているのである。

 

「……それは言えないよ~。今は君たちを含めて聞きたいことがあって来ただけだよ~」

 

 

 

「あなたたちは今、幸せ?」

 

「…何言って…?」

「え、えっと……?」

「何が言いたいのよ?」

 

風・樹・夏凜はそれぞれの場所で目の前の少女の問いかけに困惑の表情を浮かべる。

 

 

 

「幸せだよ! 勇者部として、みんなと一緒にいられて! 勇者として、一緒に戦えて! とっても……とっても幸せだよ!」

 

友奈が戦いの不安にいた東郷に言った時と同じ気持ちと決意で少女の問いに答える。

 

「そっか。みんなでいることがそんなに幸せなのね。そんなにこの日常が愛おしいんだ」

 

「うん、そだよ~」

 

「だけど、あなたたちが守りたいのはこの日常、だけどそれを守るという事は終わりのない道を行くことなんだよ」

 

「終わりのない道?」

 

少女がぽつりと告げる。友奈はどう答えればいいか分からず口籠ってしまう。

 

 

 

「今が苦しいと思ったら…そのまま……そこにいていいから」

 

「そこにいて…いい?」

 

東郷も少女の問いに答えを出せずにいた。今の終わりない戦いも苦しいと思ったが、親友である友奈や部の仲間たちの事を思えば不思議と戦う事ができていた。東郷は少女に声をかけようとしたが、辺りが徐々に白く染まっていく。やがて少女の周りまで浸食し少女を飲み込み始める。やがて、東郷の視界も白く染まっていく。

 

「あ……待って、あなたはいったい!?」

 

染まりゆく中東郷は少女に手を伸ばしたが、少女の姿は霞を掴むようにすり抜けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……」

 

東郷が目を開ける。ほんやりとした視界には見慣れた天井。気づけば東郷は自室の寝所にいることを自覚し、上体を起こす。

 

「……夢?」

 

妙に生々しく、あまりにも現実的すぎるような夢であった。東郷は夢の中であった少女の言葉を少しづつ思い出していく。印象的に残ったのは少女が東郷を見つめていた時の眼……。

 

「あの少女は」

 

【また会おうね】

 

東郷の脳裏に言葉が浮かぶ。見覚えも聞き覚えもない。しかし、その言葉は東郷の脳裏に確かに思い浮かんだ。

 

「私を知っている? それとも、どこかで…?」




『樹海の記憶』編はキャラ毎の会話の変化が、主人公である友奈と『樹海の記憶』の黒幕であるあの子と関わりのある東郷が中心となるのと、元は異世界人であるファフナーキャラとのオリジナル要素を加えるのに苦労しております。

できれば、後3話ほどで『樹海の記憶』編を終わらせて、ゆゆゆ本編に戻る予定です。



そして、不穏になる『勇者の章』。果たして、残り3話で納得できるような終わりに落着するのだろうか……。

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