蛇足:クリスマス夏凜、有償1000恵み10連で当たったぁ!
「総士、この子の事知っているのか!?」
総士が動揺することは少ない。時には感情的になることはあっても、総士がこのような表情になることはまずない。それは同時に、総士が目の前の少女と何かしらの関係があるのかと一騎は疑問に感じていた。
「あまり長くは話せそうにないから、私の事は後で『そーそー』から詳しく聞いてね。ところで……あなたたちは今、幸せ?」
「……何を言っている?」
少女の突然の問いに訳も分からないのは当然だと総士は返す。
(一応はここ戦いの場なんだけどな)
曲がりなりにもここは神樹の結界である『樹海』。敵との戦いの場である。最初は一騎も総士と同じように思っていた。
(……考えたこともなかったな)
とはいえ、少女の問いに一騎は総士のように無下にすることもできない。甘いと言われるかもしれないが一騎は純朴かつ実直な人間である。
「なぜ、真剣に考えている……?」
「駄目なのか?」
内心真面目に考えてしまい、総士は少々呆れたように息を吐く。
「あはは…『楽園』と呼ばれた島を守ってたって聞いてたから、『幸せだよ』ってあの勇者と同じことを言ってくれるものだと思ってた~」
間の抜けたやり取りにに少女はついくすりと笑ってしまった。しかし、答えを出せないでいたためかなのか少女は少し残念そうに言う。
「……戦いはそんな生易しいものじゃない。守る側としてもだ」
総士が少女に意見する。竜宮島を守る・ミールとの対話のための行動。どれも生半可に優しいものではない。
「そうだよね。『戦い』を知る『そーそー』にはそう言えちゃうよね」
樹海にいた少女と話していると辺りが徐々に白く染まっていった。樹海が白く塗りつぶされてその浸食は少女の方まで及ぶ。
「…時間切れだね。この世界の安寧の地を守る勇者たち……戦いへと巻き込まれた子たち。あの子たちが守りたいのはこの日常。だけど、この先にもっと苦しいことが彼女たちに襲ってくる……死よりも辛い目が」
「死よりも辛い目?」
少女はぽつりと語る。まるで自分と同じ目にあってほしくないと言っているように一騎は思えた。
「……『存在と痛みを調和する存在』と『存在と無を調和する存在』であるあなた達は勇者にどう祝福するのかな?」
最後にそう言うと、視界が完全に白く染まっていった。
――――――――――
「ふあ…ふう……まだ眠い」
「実は私も…」
日付が変わり次の日の放課後、勇者部室にいつものように集まった部員たちであったが、友奈が眠そうに眼をこすり、樹に至ってはうつらうつらと舟をこぎそうになっていた。
「相変わらずね2人とも。昼休みからそうなってないかしら」
「うう……言わないでください~」
「もう寝たいです……やっぱり、お昼休みがずっと続けば良かったんだ」
「ああ~樹ちゃんの意見に大賛成だよ~」
「夜更かしでもしたの。全く…だったら私おススメのサプリでも決めとく? 独自に調合したやつなんだけど」
「あ~…ただの低血圧だと思うわ。特に樹は朝に弱くってね」
「なんだ、だったらもっと簡単だわ。この一粒で一日分の鉄分が」
夏凜が何やら複数の容器からサプリを取り出し友奈と樹に勧めてこようとする。なんでもサプリ便りの夏凜に風は呆れた顔でのらりくらりとかわす。
「夜更かしといえば……最近、変な夢を見ることがあって…それで中々寝付けなくて……」
「ん?」
「夢?」
世間話をしていた一騎と総士が東郷の発言に話を止める。
「ふーん、東郷が夜更かしとはね。だったら、あんたにこの特別調合の……「東郷、それってどんな夢だったんだ?」ちょっ!?」
サプリを勧めようとする夏凜の話を遮り一騎が訊ねる。風は内心で「グッジョブ」と賛美した。
「……見たこともない女の子が出てきて。それで「そのまま……そこにいていいから」って私に告げて、消えていくんです」
『………!』
東郷の発言に一同は息をのみ、部室内が一気に静かになった。
「え? それって…私も同じような夢を見ました。……お姉ちゃんも見たって」
「うそ、あんた達も見たの!?」
「その夢……私も見た。一騎君たちは?」
少し間をおいてから同じような『夢』を見たと発言する勇者部の女子たち。彼女たちの視線は一騎と総士に注がれる。
「昨日…見た」
「……僕もだ」
「ちょっと、全員同じ夢見たっての…?」
顔を合わせる一同。あまりにも出来すぎたとも思える事象に困惑する…友奈と樹の眠気が吹っ飛ぶほどの衝撃だった。少し間をおいてから総士がみんなに口を開く。
「みんな、その夢に出てきたのは…女の子だったか?」
「……はい。小学生くらいと思える女の子が」
「学校の制服…なのかな? う~ん、どこかで見たような」
「青い大きなリボン付けていたよね」
友奈は首を傾げて思い出そうとする。何はともあれ、一同の情報から夢で出てきた少女も同じだという事が分かった。
「女の子言ってたよね。『あなたたちは今、幸せ?』って」
「私も聞かれたわよ。みんなも?」
少女から聞かれた質問もみんな同じだったらしい。友奈は『幸せだよ』と少女に答えた事も話した。
「はは…友奈らしい答えかな」
「そうね。友奈ちゃん、そこまでみんなの事を思って」
友奈の答えについはにかんでしまう女子陣。総士はやれやれといった感じだ。
「それはともかく『偶然の一致』で済ませられないレベルな事はたしかだ」
「そうね……」
(今回の件は彼女の意思であるのは明らかになったのは確かだ。しかし、その目的と彼女を探知できなかったのが分からない)
(総士は、あの女の子のことを知ってた。あの表情はそんな感じだった)
総士はいったん纏めると、思慮にふける。同じように一騎も考え込んでいた。
「……ねぇ、うどん分が足りないわね……友奈もそう思わない?」
「……え? あ、はい! 足りてないと思います」
「わ、私もそう思います!」
「「は!?」」
風からの唐突な提案に思わず声が出た総士と夏凜。
「はぁ……」
「東郷、あんたは私と同意見みたいね。緊張感が足りないにも程が……」
「……私もうどん分が足りていないと思います」
夏凜は風の提案に意味が分からず意見してきた。東郷にも同意を求めようとしたが、口から出たのは真逆の意見だ。
「夏凜、総士、真壁。そんな難しい顔しないで。そうやって考え込んでもいい意見って出そうにないわ。だから、みんなでうどんよ。食べれば何か閃くかもしれないわ!」
うどんを押し出してまで3人を先導しようとする風。友奈・東郷・樹もそれに乗り気である。
(そうだな……。みんなはそういう子だったな)
「一騎君、行こ」
「あぁ」
「ふ……なるほど、気張りすぎるなって事か。僕もまだまだだな」
「そういうことよ。総士」
「さすがは勇者部部長ってところね。まあ、付き合ってもいいわよ」
「はいです♪」
風たち4人の押しに3人は折れた。こうなってしまった勇者部はトントン拍子に物事が決まってしまうため突っ込み切れないし止める気にもなれないのだ。
だが、勇者たちの和気藹々とした模様に部内の燻ぶった雰囲気が晴れたように思えた。
――――――――――
「みんな、先に行ってくれないか?」
部活が終わる時間も迫って来たことで帰る算段となった勇者部。一同は部室を後にしようとしたが一騎が待ったをかけた。
「どったの、急に改まって?」
「……少し総士と話したくて」
「何々、男同士の…?」
風がからかうようにして訊ねようとしたが、一騎と総士の顔を一目見るとそのままドアの方へと振り向いた。
「ま、親友同士じゃないと話せない内容もあるからね…わかった。みんなには私から言っておくわ」
気を遣ってくれたのか風が部室から出て行った。部室内には一騎と総士のみが残される。
「総士、聞きたいことがある」
「お前からとは……だが、受けよう」
総士も聞きたいことがあるなら聞こう、答えようとする意志を感じられる。一騎は単刀直入に話題を切り出す。
「みんながいるから言わなかったけど、お前あの女の子の事知っているな」
「知っている。お前にも話したはずだが」
「……お前が会ったっていう3人の勇者の誰かなのか?」
この世界のアルヴィス施設にて総士が話してくれた3人の勇者たちの事を引きあいに出す。総士は僅かに頷いた。
「あの女の子は『乃木園子』。僕と乙姫が出会った勇者に選ばれた少女の一人だ」
「そうか。あの子がか」
「日常生活を送るのが困難になって大赦に祀られている……筈だったが、なぜか小学生の姿のままだったがな」
「なんで、俺たちの前に現れたんだろう?」
「……不明だ。あの子は突拍子でもない事を考える子だったからな、こればかりは本人に会ってその意図をただしてみない事には」
「あの子、どこか悲しい目をしてた」
一騎は園子が問いかけてきた時の彼女の目からどこか悲しそうに感じられた。前の世界でも同じような目をした少女たちと対話した経験による賜物である。
「お前もそう思ったか、僕の知っている彼女とはどこか影が落ちたような感じだ」
夢で出会った少女が『乃木園子』であると断定した総士も思うところがあるのか複雑な表情である。
「……なんだ、2人だけなのか?」
そうしていると道生が入室してきた。片手間には何らかの資料を持ち歩いている。
「みんなは帰ってしまったか」
「はい。俺らは話すことがあって少し残ってて」
「道生さん、『壁』の調査の方は」
「……わりい、成果はあげられなかったわ。こんなに長い歴史なのに大赦の方も『神樹様』の全容がわかってないのか調査は芳しくなかった」
人知を超えた存在である『神樹』は大赦でも総て分かったわけではなく、前例もない事態ということで早急な調査を進められているものの総士や一騎も納得させられるような結果があげられなかったらしい。
「それと、総士。システム自体には異常がなかったぞ」
「異常なしですか!?」
総士は道生経由でアルヴィスにジークフリードシステムなど総てのシステムの点検を依頼したが特に異常は見受けられなかったという。
「だけどな。司令からこれを渡してくれと」
道生から紙のファイルを渡される。総士はその中身を見た。
「……やはりか」
総士がぽつりと呟いた。一騎もファイルの内容を覗き見たが専門用語が多くてはっきりと理解することが出来なかった。総士はその内容を見終えると、一騎の方へと向き合った。
「一騎、僕は乙姫のところへ行く」
「今からか」
「なに、そんなに心配するような事じゃない……僕の予想を確信に変えるのかは乙姫に聞かなければならない」
「……わかった。そっちは任せる。友奈たちには俺が言う」
深く理由を訊ねようとしたがやめた。総士と乙姫、兄妹でもあり、元はコアとその導きをこう者としての関係の問題だなと一騎は思うことにし、2人は解散しそれぞれの目的の場所へと歩を進めた。
――――――――――
「「乙姫ちゃん、まったね~」」
乙姫はこの日は友だちと学校で遊んでおり、気が付けば夕方の時間となっていた。その途上、帰りの方向が違うことで友だちに手を振り別れた。
(芹ちゃんたちをくっちゃべっていたら遅くなっちゃった。総士はもう帰ってるのかな)
そんな風に思いながら帰路へとつく。そんな物思いを耽っていたが、讃州地方にて住んでいる家の前にいた1人の人物を見つけたことにより中断される。
家の前にいた人物は、彼女にとって兄と呼べる人物であった。
「総士、ただいま」
「乙姫、戻ったか」
乙姫はいつもの帰宅の言葉を述べるが、総士の険しい表情になにがあったのかと、彼女も真剣な表情となる。総士の傍らにはあるファイルが抱えられているのに気づく。
「昨日、夢でだが『乃木園子』に会った」
「園子ちゃんに!?」
「彼女は僕と一騎、勇者たちを呼んだといっていた。それで君だけが呼ばれていなかったのが少し気になっていた」
「……私も会いたかったなあ」
「……本当に会っていないのか?」
総士がもってきたファイルを乙姫に見せる。内容はアルヴィス内の警備記録であった。
「隠していた割に綺麗すぎると思ったから前々から調べていたんだ」
「……ばれちゃったか」
乙姫も添削前の記録と総士の様子から自分の行動にごまかす気もなく、あっさりと認めるような形をとった。
「システムの方を疑ってアルヴィスに問いただしたら、今日父さんから渡された。……それにシステムを戦闘中に書き換えれるのは君しかない」
「……正解」
あっさりと白状する乙姫。
「怒らないの?」
「甲洋の事例もある。君はコアであった時から自分の意思で事柄を進めていた。今回もそうなんだろう?」
乙姫の問いかけに総士は首を横に振った。
「うん。園子ちゃんと約束したから」
「やはり会っていたのか!?」
乙姫は園子がアルヴィスへと来た時のことを話した。
「聞いた通りの彼女なら自由には動けない。なるほど、協力者がいるのか」
「近いうちに会うと思うよ。だけど、今はそれよりも重大な事があるよ」
「乃木がここでやろうとしている目的か」
「そう……『強いられてしまった運命』を知る彼女が勇者たちに与える試練。試練の答えを勇者たちに選ばせる…その時が」
『勇者の章』が「痛い 痛い 痛い 砕け散っていく位」……きつい。本当にあと2話で解決できるのかと……。