絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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2つの世界が交わってしまった事で生まれたある出会い。

2016/9/1 誤字脱字修正
2016/9/15 一部修正
2017/1/25 誤字修正


外伝【乃木園子の章】
外伝1 奉られた少女と元祝福


-神世紀298年秋 樹海内-

 

「瀬戸大橋が……崩れる!?」

 

黄土色の髪の少女が黒髪の少女を抱え陸地に跳躍し、地面へと下ろす。彼女の眼前には魚の形をした化け物が四国の象徴ともいえる『瀬戸大橋』を海中から壊しにかかっていた。

 

「わっしー…」

 

彼女は『わっしー』と呼ぶ少女を起こそうとしたが止めた。

 

彼女たち2人は勇者であり神樹からの神託により『バーテックス』と呼ばれる人類の敵が決戦を挑むことが判明し、もう1人の仲間を失ってしまった事あり新たな力を託されバーテックスと対峙していた。

 

その最中、新たな力を用いた際、起きてしまった異変に黄土色の髪の少女は気づいてしまった。いざという時に頭が働く彼女は新たな力の代償…勇者システムのおぞましい部分を看破してしまっていた。

 

この時点で黒髪の少女は足が動かなくなっており、彼女自身は片目の視力を失っていた。

 

その代償をこれ以上背負うのは自分だけでいい。そう覚悟すると身を起こした2体のバーテックスと対峙した。

 

「わっしーが痛めつけてくれたおかげで、私一人でもなんとかなるよ~」

 

黄土色の髪の少女は誇り高い気持ちになる。高らかに叫ぶとその力を使った。

 

「勇者は根性、だよね~ミノさん!」

 

異形な存在に真正面から向かって行った。

 

 

 

-神世紀299年8月30日 大赦系列病院 特別室-

 

黄土色の髪の少女は人類の敵バーテックス相手に切り札を何度も繰り返した。敵を撃退したものの代償で様々な身体の機能を失ってしまい寝たきりとなってなった。

 

彼女の名前は『乃木(のぎ)園子(そのこ)』。

 

ここは決戦で崩壊した瀬戸大橋を一望できる彼女のために与えられた病室。

 

「おはようございます」

「……おはよ~」

 

寝たきりとなってからはお付きの人に日記を新規に記述してもらったり、付け足したりしてもらっている。園子にとって数少ない日々の過ごし方だ。

 

「……それでは失礼いたします」

 

日記は検閲されてしまうだろうが、元から小説を書くのが好きな園子としてはそれで気が紛れた。

 

お付きの人は記述を終えると出て行ってしまう。園子はまた部屋に1人残された。

 

「……ぐすっ」

 

日常生活が送ることが困難となり大赦で直々に管理された園子であったが、言い方を変えれば『生き神』という形で安置されているようなものであった。親元から引き離され周囲の大人たちは彼女を『四国をその身をもって救った勇者』などとまるで彼女自身を神と崇めているようで『人』として見てはくれなかった。

 

「うぐっ……うう…」

 

園子の心は徐々に後悔に蝕まれていった。奇しくもこの日は園子の生まれた日…誕生日であった。

 

「わっしー…ミノさん……つらいよぉ…苦しいよぉ…」

 

齢13歳の身としては心が強く、ここまで心の内のつらさ・苦しさ・悲しさを出さなかった園子であったがここまでたまってきたものが表に出てしまったようだ。園子は涙を流しすすり泣いていた。

 

「ねえ?」

「…っ!」

 

園子が顔を上げると誰もいなかったはずの部屋に彼女と同い年と思わしき少年がそこにいた。

 

「…どうして、泣いてるのかな?」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:少年

-西暦2148年 竜宮島上空-

 

「ミール…俺はもう……戦いたくない!」

 

北極での決戦後に新たに生まれたミールとの戦いとなった竜宮島であったが、一騎の捨て身の説得によりその中心にいた彼は自らのミールにその意志を伝えることができた。

 

彼の名前は『来主(くるす)(みさお)』。

 

来栖はマークザインに封印されていたマークニヒトを駆り、一騎と共に空を駈ける。竜宮島の争いを察知した国連軍が爆撃機を派遣しており、今機体から核ミサイルが発射された。

 

「彼女を消すな、ミール!」

 

ミールの意思を感じ取った彼だったが結晶に包まれるとスフィンクス型フェストゥムの形態となり機体から飛び出した。『人類の火』とも言われる核をその体で受け止める。

 

「生まれよう……一緒に」

 

身体を失った来主は意識体となりミールに語り掛ける。

 

【一騎…君から空を見えなくさせているものは消したよ。勝手なことをしてごめんね。でも、これで君が空を見ることができて…うれしい】

 

ここで彼の意思は途絶えた。

 

 

 

 

 

-樹海内-

 

人類の火を止め新たに生まれ変わったはずの彼の意思は気づけば色とりどりの世界にいた。一騎・総士・乙姫が行ってしまったのを見た来主は神樹と織姫との邂逅を果たしていた。

 

「それで俺をどうしてここに呼んだの?」

 

【私から説明します】

 

神樹は少年に自らの事、世界の事、その現状、神樹の世界の問題を解決してほしい旨…一騎たちに話した内容と同じものを伝えた。

 

「それで俺がここにいるってことか。そういや、一騎たちの島にいたコアに似ているようだけど、君は誰なのかな?」

 

「あなたは……人懐っこさは変わってないけど。本質も変わらないのね」

 

「?」

 

「まあ、いいわ。私の事も教えるわ」

 

織姫の自らの事を教えた。

 

「そっか~。だから似ているのか。それと無事に生まれたんだな…次の俺が」

 

「で、神樹どうして()()の彼ではなくて、()()の彼を呼んだのかしら?」

 

織姫はふと疑問に思ったことを口にした。

 

【そうですね……。未来の彼はコアとしての役目があるせいかこちらの世界に来れる条件は織姫さんと同じで満たしていません。こちらの彼でしたら条件は満たしておりますし、おそらく『彼女』の力となれるでしょう】

 

「彼女?」

 

ここで来主にある思考が流れる人の形をしたフェストゥムの名残である『読心』だ。

 

【わっしー…ミノさん……つらいよぉ…苦しいよぉ…】

「これは…つらい…苦しい…悲しい……これはあの子のなの」

 

来栖はなぜか深い理由はわからないが、思考に流れた彼女の事が非常に気になった。

 

【(!?)やはり…貴方なら彼女の事を任せることができるでしょう。私の世界で貴方にお願いしたいことは…私が死なせないために与えた力を使ってしまった勇者である彼女の力になってほしいのです】

 

「……もう俺がいなくてもミールは次の俺が導いてくれるか。それなら俺はあの子の悲しさを消したいな」

 

【わかりました。……来栖さん、私のために奉げられてしまった『勇者』と私の世界を助けるために先へ行った彼らの事も宜しくお願いします】

 

神樹は来主の意思をくみ取ると神樹が光り輝く。辺り一面の花びらが舞い上がりその瞬間光に包まれて意識がとんでしまった。

 

 

 

 

「ん……」

 

意識を取り戻した来主は見知らぬ場所へといた。どこかの施設のようだがどうすればいいか流石にわからない。来栖はまずは状況把握へと乗り出した。

 

「ここが彼女のいるところと思ってもいいかな。……服はあるか…ん?」

 

服装は大赦の職員が着ている装束である。来主は目の前に2人が膝まづいてそこにいる事に気が付いた。彼は2人に言葉で語り掛ける。

 

「君たちは?」

 

「……我々はあなたの手となり足となる者」

 

その中の1人が来栖の手に触れる。すると来栖の頭に情報が流れ込む。流れ込んだ情報から膝まづいている2人の事が理解できた。

 

「そうか。君たちもあの戦いでいなくなったのか」

 

「いかにも」

「新たにこの世界に生まれ変わった我々はあなたの力となるように仰せつかっております」

 

「わかった。よろしく頼むよ。それでなんだけどさ…」

 

「存じております。その勇者の子の元へと案内します」

 

こうして2人の従者に案内され気配もなく部屋内に入った来主は園子との邂逅を果たしたのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「そっか~。気が付いたらここにいたんだね~。変なの~」

 

動けないため来主操に涙をぬぐってもらった園子は話に夢中になっていた。その表情は本来の少女のものへと戻っていた。園子の身近な話だったが久しぶりに同年代の子は話せたことで園子の心は満たされたためでもある。

 

「寂しくて泣いてたって事…なんだね」

 

「うん…お父さんやお母さん、仲の良い友達と会えなくなっちゃって…それに今日は私の大切な日なの」

 

「大切な日?」

 

「私の生まれた日」

 

「へぇ~それは大切…なんだよな」

 

「お誕生日を知らないの?」

 

来主は頷く、園子はふふっと笑うと誕生日と『大切』の意味を来栖に教えた。

 

「そっか。わかったよ、ありがとう」

 

「どういたしましてだよ~……ねえ、どうして君は私の事を……?」

 

ここで園子は自分の事を気に掛ける来栖に対して気になりさらに深く知ろうとする。自分のようにただ大赦に利用される人間のことをこんなに思ってくれる人はいなかったためでもある。

 

来主は少し考え込んだが深い意味はなかったので、自分の思いをあるたとえとしえ伝えることにした。

 

「……空って綺麗だと思う?」

 

「ふぇ?……まあ、綺麗だと思うよ~。昔はぼーっと雲を眺めて面白い形を探すのが好きだったんだ~」

 

「へぇ~」

 

「でも、こうなっちゃってからあまり見れなくて少しさびしいかな……」

 

来主が突如「空は綺麗か」と問いかけ、予想外のことに素っ頓狂な声を挙げてしまうも彼の問いかけに答える園子。園子の寂しい表情を見て来栖は続けて言葉を紡ぐ。

 

「綺麗なのにそれが見れないって凄く哀しいことなんだ。以前に俺を変えてくれた1人も空が見れなくってさ、今の俺なら彼の気持ちもわかるかな。それで、同じように悲しんでいる人をなんとなく放っておけなくってさ。だから、ここに呼びだされたのかもしれない」

 

来主の話を聞いて園子の目にはまた涙があふれていた。機能を失って以来、会う大人たちは園子のことを『世界を救う為に尽力した勇者』と見られていた。だが、目の前にいる少年は自分の事を『乃木園子』として見てもらえる。その事に園子は感情が爆発してしまい、

 

「う……うぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「ちょ…ちょっとなんで泣いているの? 泣かないで!?」

 

少年はあたふたしながらも園子と慰る。園子は言葉を続ける。

 

「違うの…これはうれしいの」

 

「うれしい?」

 

「涙はね…悲しいだけじゃないの……うれしく出…って…涙が止まらないの…ふえぇぇぇぇん!」

 

 

 

 

 

ひとしきり泣いた園子はなんとか落ち着いた。

 

「ごめんね……」

 

「あはは…」

 

落ち着いた園子は少年に肝心なことを聞くのを忘れていたので少年に質問をする。

 

「そういえば、あなたの名前は?」

 

来主は座っていた椅子から立ち上がり、少し間をおいてから答えた。

 

「『来主操』。それが俺の名前だよ」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-神世紀300年4月 大赦系列病院 特別室-

 

来主と園子が出会って早くも8ヶ月が経った。園子だがあれから彼女にとっての楽しみが増えた。来主に勇者となって過ごした日常の話や自らの考えたお話しをしたり、人懐っこいが人として知らない事が多い彼に様々な事を教えたりしていた。大赦の人には黙ってである。少しスリルがある生活になったが、日が経つにつれ彼女は年相応の少女の態度でふるまえることが多くなった。

 

「そういえば俺…実は人間じゃないんだけど…」

「ええ~!!!」

 

ある時、彼が本来なら人間ではなくフェストゥムである事を口に滑らせたのを聞いた時には大変驚いたが、彼女の元に付き従う21体もの神樹の精霊の事もあり慣れていた事もあってかなんとか受け入れられた。

 

「でも、今は人間の性質もあるんだよなあ…どちらかっていうと混ざった感じ?」

「そっちの方が驚きだよ~」

 

ある日、彼女の親友の1人である『わっしー』が生来の名前に戻して活動している事、彼女が住んでいる地方に園子と共に日常を送ったある兄妹が引っ越したと聞いた。

 

その情報を持ってきたのは来主であった。色々知りたかったが動けない園子のために付き従う精霊と共に活動した結果である。

 

「そういや『みおみお』と出会って半年以上たっちゃったねえ~」

 

『みおみお』とは来栖のあだ名である。園子は親しい人にはあだ名で呼ぶのである……変なのが多いのがたまに傷だが。

 

ここで来主は神妙な面持ちで園子を見る。園子は唯ならぬ雰囲気に見つめ返した

 

「園子、実は君に伝えたいことがあるんだ」

 

あまりにも真剣な表情に園子は緊張し、来栖の言葉に聞き入った。

 

「調べていてさちょっと気になったものを見つけたんだ。だけど、正直に言うと……君にとってはつらいものかもしれない」

 

申し訳なさそうに語る来主に対する園子だったが、

 

「そんなにつらいものなの?」

 

「うん」

 

首を縦に振る来主。だが、園子はこれまでの出来事で隠し事はいけない事だと思っている。それを知っている来栖はだからこそ、園子に選ばせたのだが彼女の答えは決まっていた。

 

「それが残酷だったとしても私は受け入れる覚悟はあるよ」

 

園子の言葉を聞いた来栖は頷くと立ち上がる。

 

「わかった。それじゃあ行こうか」

 

「? 行くってどこに?」

 

「俺が見つけた()のところだよ。この場所じゃないんだ」

 

「ええ!?」

 

来主は従者に一言告げると従者の1人は園子を抱える上げるとその体が光り輝きその姿を変えた。

 

「え、えぇ~!!! これってみおみおの言っていたフェストゥム!?」

 

従者は赤い体をしたエウロス型のフェストゥムの姿へと変わった。来栖も園子の隣に抱えられる。

 

「ちょ、ちょっと待って! 大赦の人たちにばれちゃうよ~!」

 

「大丈夫、人払いもしなくて済むよ。頼むよ」

 

エウロス型は頷くと光り輝く。するとその部屋から1体と2人の姿がふっと消えた。

 

 

 

 

 

「園子、目を開けて」

 

来主にせかされ園子はその瞼を見開いた。

 

「……うわぁ~!」

 

園子の眼前に広がっていたのは澄んだ青空とかつてぼーっと眺めていた雲海ともいえる光景。今彼女はエウロス型に抱えられ空にいた。

 

「俺と出会ったときに園子が話してくれたのを思い出してね。今、俺が出来るプレゼントっていうのがこれなんだ」

 

園子はその夢のように広がる光景を眺めていた。いつの間にか心が高揚し感動していた。

 

「うん、最高のプレゼントだよ~ありがとう、みおみお~!」

 

来主に今できる最高の感謝を示す園子。それを見た来主は、

 

「それじゃあ目的地までこのまま行こうか」

 

「わかったよ~」

 

園子が来主に二つ返事で喜ぶとエウロス型はそのまま飛行した。一応、他からは見えないように配慮されてある。

 

そして、園子は来主と共に彼が言っていた見つけた人のところまで向かう。それが彼女にとってのある種の再会であることも知らずに……。




園子の誕生日に間に合わなかったよ……。

園子「間に合わなかったけど完成してよかったよ~」
作者「園子さま~!」

来栖「…そういや服あるんだね」
神樹「さすがにあの姿で出すわけにはいかないでしょう」

というわけで、陰ながら裏で活動していたゆゆゆのキーパーソン乃木園子の顔出しとファフナーのキーパーソン来栖操(HAE版)の出会いの話でした。感想内でその正体を察している人がでてたので早々に出すことにしました。

●乃木園子
先代勇者の少女であり、『鷲尾須美は勇者である』の登場人物の1人。原作どおりに奉られた状態での登場。原作では2年間ある意味での生き地獄を耐えた鋼メンタルであったが、今作品ではそれが緩和された模様。

●来主操(HAE版)
第0.5話に出てきたEXODU版ではなく、HAE版の来栖。来主自身、EXODUSにて先代を「前にいた存在」と区別はしているため本作品では別キャラとしての扱いとして採用。感想内で言っていた園子の味方として活躍してもらうメインキャラ。

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