絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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あらかじめ『活動報告』等で語っていましたが、当話ではある原作改変が起こったという結果で物語を描かいています。


外伝2 再会…そして

視点:乃木園子

 

片目の光を失う前はいつも見上げていた青い空、その最も近いところに彼女はいた。もしも動ければ綿菓子のような雲海にその手を伸ばしていたであろう。今、乃木園子は風となっていた。

 

「園子、大丈夫?」

「大丈夫~♪」

 

そばにいる来主が身体が不自由な園子を支えその身を案じる。かなりの高さだが呼吸が苦しいなどはない。恐らく、来栖に従える赤い体をしたフェストゥムによるものだろう。

 

「見えた。あそこだよ」

 

雲海を超えると目的地が姿を現す。もう少しこのままでいたいと園子は思ったが名残惜しそうな表情を見せものの園子は了承の旨を伝える。来栖の言う人に会いに行くという目的で本来自分がいるべき病室を無断で飛び出している分そこら辺の分別はついているつもりだ。

 

2人と1体は何かの施設だと思わせる構造物の屋上へむけゆっくりと降下し始める。

 

「やあ、首尾はどうだい」

「滞りなく…」

 

もう一人の来主の従者が施設屋上にて待ち構えており声をかける。園子はいつの間にか人間体となった従者に抱えられており用意された車椅子へと乗せられた。辺りを見渡すと屋上からは崩壊した瀬戸大橋が見えるため彼女が住む旧坂出市の近くだということは理解できた。

 

「私の住んでいる所に近くにこんな所が…」

 

「情報を集めている最中に見つけたんだ」

 

「そうなんだ」

 

「来主、私は戻る」

 

「ん、分かったよ。何かあったらよろしく」

 

「了承した。後は任せる」

 

従者の1人はそう言い残すとその場から消えた。

 

「何をしに行ったの?」

 

「園子がいなくなったら大変なことになるからそのためにね。……時間も限りがあるようだし行こうか」

 

「あー…」

 

来主に促されて3人は施設内へと入っていった。

 

 

 

施設内を進んでいく3人であったが、車椅子に乗る園子はきょろきょろと周り見渡していた。

 

「気になる?」

 

「うん……」

 

その様子を見かねて隣にいた来栖が訊ね、園子は正直に答える。園子がこれまで見てきた光景を思い返そうとするが、

 

「なんか……便利な道具を出してくれるたぬきロボットさんがいた世界?っぽいような~」

 

「……何、それ?」

 

「えっと、長くなりそうだからまた今度でいいや。みおみお、ここに会わせたい人が?」

 

「そうだよ」

 

「話してくれないのかな」

 

「…その時になってからね」

 

ある種の例えに脱線しそうになるも園子は来主に自分に会わせたい人について改めて確認をとるが来栖はその人について詳しくは教えてくれなかった。

 

通路を進みつつも園子は来主の会わせたがっている人物のあたりを付けようとしたが、彼女の知る限り該当する人物はほぼいなかった。

 

「閉じちゃってるねえ~」

 

やがて3人は金属で出来た両開きのドアの前に着いた。扉の横隣にはスリットの入った電子機器が備え付けられており、ドアは固く閉ざされているのを示すランプが赤く表示されていた。

 

「問題ないよ」

 

来主が目配せすると車椅子を押していた従者が対処をしようと電子機器の前に立つ。

 

――― pipipi

 

「「(!?)」」

「えぇ!!」

 

突如として機器から電子音が鳴るとランプが緑に点灯、ドアはゆっくりとスライドし開いた。

 

「何もしていない」

 

開けようとした従者が否定の意を示す。園子はおろおろとした表情で来栖を見つめてきた。

 

「開いたならいい。園子、行こう」

「う、うん」

 

来主は園子に促し、3人は部屋内へと入っていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:????

 

この施設内の一室。モニターやコンソールがいくつも並んでいる部屋にて、施設の通路を進んでいる園子たちの動向をモニター越しに眺めている人たちがいた。

 

「そう…そのままそっちへ」

 

その中の黒髪の少女が小さく呟く。

 

「侵入者、進路を維持。数分後には重要区画深部へ到達する模様」

 

オペレーターが逐一動向を見定めをその情報を正確に伝える。

 

「……目的はあの少女か」

「そうよ」

 

責任者と思わしき男性が訊ねると少女はあっさりと肯定した。少女はそう言うと部屋の出口へと歩み始める。

 

「1人では危険ではないか」

 

「……心配なら人員をつけてもいいわ。大丈夫、こういうのは慣れているから」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:来主操

 

【来主】

 

従者が来栖に思念で呼びかける。

 

【やはり既にこちらが見られているようだ】

 

【うん、知ってる】

 

【ならばなぜ我々を(いざな)うのだ】

 

この施設に潜入してから来栖はこちらが監視されているのは把握していた。それを気にせずに園子を自らが探し出した人に会わせるつもりだったが、いざ潜入してみればまるで目的の場所へと誘導されていた。さらに、先ほどから施設内に人影がないという懸念あり、それも従者から示唆された。

 

【俺たちが来るのを待ちわびていたかもしれないね。懸念するのもわかるけど、もし俺たちに何かしようとしたら君は園子の事を優先】

 

【しかし!】

 

【やろうとしてるならもうとっくに仕掛けてくるはずだからね。ないという事はつまりはそういう事だよ】

 

来主は従者にそう念を押すと思念を切った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:乃木園子

 

やがて一同は施設の重要区画にある部屋の前へと着いた。

 

「……『特殊医療室』?」

 

園子は驚愕した表情でその部屋の名を見つめる。

 

「この扉の先に園子に会わせたがっていた人がいる」

 

「ここに……」

 

来主は頃合いとみたのか園子をここへ連れてきた目的を話すことにした。

 

「園子、君は勇者として3()()で戦っていたんだよね」

 

「うん…」

 

園子は勇者として戦いその代償で体が不自由になる前、仲間であり親友となった少女がいた。来主にも2人の事は話していたが彼は敢えて承知の上で園子に訊ねてきた。

 

(う~ん、『わっしー』は違うよねえ。元の家に戻ったから今は讃州地方だし)

 

最初に思い浮かんだのは親友の1人である『わっしー』だったが、彼女は不自由ながらも日常に戻った事は知ってある。こんな所にいる可能性はかなり低い。

 

「だけどね……。前に話したけど『ミノさん』は……っ!」

 

園子は言葉を詰まらした。彼女自身の言葉でその脳裏にある考えが浮かんでしまう。

 

「だけど…『ミノさん』は……『ミノさん』は…!?」

 

震える声で呟く。彼女はあの時、自分と『わっしー』を守って、1人残って戦って…、そして……()()()()()()。園子の脳裏に浮かんだのはあり得ない事である。

 

「園子」

 

来主は取り乱しかけている園子を宥めようと優しく語り掛ける。

 

「その気持ちは分るよ。だけど、俺は先に言ったよね? 『君にとってはつらいもの』だと」

 

病室にて来主の言ったことを思い出す。あの時、何があってもそれを受け入れることを彼に伝えたつもりだ。それが今さらこんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 

「そうだね……みおみお、お願い」

 

意を決したかのように園子は顔を上げ伝える。従者が医療室のパネルを操作すると最後の扉が開かれた。従者が園子の車椅子を押し来主がその後ろへと続く。

 

部屋の中は奥行のある細長い部屋で、園子から見て右手側には大きなガラスの窓がある。

園子の車椅子はガラス窓の正面に止められた。

 

「(!?)……っ!!」

 

園子が息を呑む。ガラス越しには白く清潔感がある静かな部屋があり、中央に大きなベット、その周囲には医療用の機械が置かれていた。

 

ベットには灰色の髪の少女が横たわっている。園子はその少女の事を知っている。いや、見間違えるはずがなかった。勇者として選ばれもう1人の親友である『わっしー』と日常を供にした。園子の脳裏にはその思い出が蘇る。

 

だけど、その少女はあの戦いで……その後、先生からその魂を神樹様に抱かれて、残された私たち2人を見守っているはずだと聞かされていた。その失った悲しみはあの時たくさん泣いて流した。

 

その筈だった。だが、彼女は園子の目の前にいる。園子はその目頭が雫で潤うとその少女の名前を叫んだ。

 

「……ミノさん!!!」

 

園子は穏やかに眠り続ける少女の顔を覗き見る。その顔は間違いなく親友のひとりである『三ノ輪(みのわ)(ぎん)』であった。




ついに三ノ輪銀を登場させてしまいました。どうして、銀がここにいるのかは次回語ります。

●三ノ輪銀
先代勇者の少女であり、『鷲尾須美は勇者である』の登場人物の1人。原作では……彼女については原作か先行上映『鷲尾須美の章』第2章「たましい」にて。

設定集にある通り、クロスオーバー作品におけるイレギュラーキャラ(ス〇ロボでいう隠しキャラ的な扱い)となります。出番はまだ先ですがね。

余談ですが…作者が『勇者である』シリーズにはまる切欠となったキャラです。ゆゆゆ本編終了後にわすゆを見て彼女について知ってしまった結果ですがね。

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