結城友奈に関しては明らかになっていない部分が多いため。当小説の独自設定の部分が多く占めています。
2017/3/21 後半部分を修正・加筆(友奈と東郷のシーンを追加)
-神世紀297年3月20日 真壁家-
「そうか。本当に問題はないんだな」
《ああ、あくまで簡易検査での結果だがな》
一騎は以前起きた事件(第2話より)の事後報告を総士から受けていた。
「それにしても地域ごとの一斉検診でどうにかしてしまうなんて」
フェストゥムに関してはまだ表沙汰にするわけにもいかなかったが、総士が周りに気づかれないように配慮してくれた。その手腕に一騎は舌を巻いた。
《僕も驚いてる……僕の家は大赦でも格式が高いとあったが……ここまで影響力があるとはな》
今の皆城家は総士でも計り知れない程の影響力があるということらしい。
《とにかく、一騎はその少女のことを頼む。また、フェストゥムに感応してしまうかもしれないからな》
「あぁ。任された」
そう言うと総士との連絡を終えた。
――― prrrr
間髪入れずに今度は家に備え付けられた古い黒電話のベルが鳴った。
「誰からだろう…はい、真壁です」
《もしもし、結城です》
受話器を取ると相手先は隣人の結城家の母である。
《ちょうどよかったわ。実は一騎君にお願いしたいことがあるの》
どうしたのかと思い要件を聞いてみた。
《明日うちの友奈の誕生日なの》
「友奈の誕生日なんですか?」
そう聞き返す。しかし結城母は申し訳なさそうに言う。
《そう。だけど、都合が悪いことにうちの父と明日出なくては行けなくなっちゃって多分あの子の誕生日を祝えないかもしれないの。友奈には言っておいて一応は納得はしてくれたんだけど……その》
都合が悪いことにその日のうちに結城両親から祝う事が出来なくなってしまったらしい。一瞬口ごもったので一騎は思わず聞いてしまった。
「友奈に何かあったんですか?」
《我慢していたようだけど内心凄くしょんぼりとしていると思うの……》
結城母から悲しげな声でさらに続ける。
《……あの子は私たち…ううん、自分より他人の事を本当に想ってくれるのはいいんだけど、それがあの子の良いとこでもあり悪いとこでもあるの。多分、あの子は相当我慢していると思うわ》
以前に友奈に訊ねた際の事を思い出す。他人を想いすぎているからこそなのかと一騎は思った。
「なら、どうして俺にその事を」
《友奈はあなたに本当に懐いているようだからね。あなたみたいな子なら友奈の事を任せられると思ったの》
これまでの友奈と一騎の様子からいつの間にか結城家の両親から信頼できる間柄になっていたようだ。
「わかりました。……俺にできることなら」
《ありがとう。あなたからならあの子も喜ぶと思うから…ね》
結城母との電話を終え受話器を置いた。
「(自分よりも他人の事を優先する子か)」
まるで島にいた時のあの子みたいだなと呟く。
「(プレゼントは必要だよな…他には)」
すぐに気持ちを切り替える一騎。その顔はかつて竜宮島の喫茶店『楽園』の雇われ店主の顔と化すると何かできないかと考え始めた。
――――――――――
-神世紀297年3月21日 結城家-
「それじゃ、友奈言ってくるわね」
「うん。お母さん、お父さん行ってらっしゃい~」
友奈は朝早くに出る両親を明るく見送った。
「……さてと、行かなくっちゃ」
春休みであるため友奈は学校での友人と遊びに行くつもりだ。本来なら夕方には帰宅して両親と供に過ごすつもりだった。一瞬、寂しそうな表情を見せるが彼女は自分を奮起させるように言うと施錠し家を出た。
「あ、一騎君」
その声に気づいたのか一騎が振り向いた。
「友奈どこかへ出るのか?」
「うん。お友達と一緒にお出かけするんだ」
「そうか」
「うん。…あぁ~もうこんな時間!早く行かなくっちゃ。一騎君、またあとでね~」
スマホで時間を見た後、友奈はそそくさと行ってしまった。
「……少し、危なかったな。帰ってくるまでには終わらせないと」
一騎も準備のために動くことにした。
――――――――――
「楽しかった~けど、随分遅くなっちゃったな~」
友奈は友人たちと命一杯遊び尽くした。商店街のうどん屋に寄り友人たちとだべったり、近所の大型ショッピングモールのゲームセンターで友人たちが様々な機種をやっているのを見たり自分もやったり、そのあとは服などを見たり、ジェラードショップでおすすめのジェラードを食べたり、ともかく挙げたらキリがない程だ。
「……しょうがないよね」
本当なら両親が友奈の誕生日を祝ってくれる……はずだった。今日は両親の急な要件が入った事を受け入れたと自分に言い聞かせるようにしてドアを開けた。
「……ただいま」
友奈がリビングに入るとぱん、という弾ける音が響き色とりどりのテープが宙を舞う。
「ふぇ?」
何のことだかわからなさそうな表情できょとんとしていると友奈はリビングにいる人影に気づいた。
「誕生日おめでとう」
「え…一騎…君?」
「? 今日誕生日なはずだろ?」
首を傾げ一騎が聞いてきた。友奈ははっと現実に引き戻された。テーブルの上には様々な料理と真ん中にはケーキが置いてあった。
「えっと…うん。私の誕生日なのは合ってるよ」
「そっか。よかった。間違えたと思ってた」
「どうして、一騎君が。それにこれ全部」
「俺が用意したよ。実は……」
一騎は友奈の両親に誕生日を祝ってくれと頼まれた事を告げた。両親も友奈には本当に悪いと思っていた事やらそのために一騎が変わりに祝ってほしいと頼まれたことも告げた。
「そうだったんだ……一騎君…ありがとう!」
ロウソクをケーキに立てると火を灯し、友奈は一息で火を消すと料理に手をつける。
「(!?)このカレー美味しいよ!」
「それは何よりだな。俺の一番の得意料理なんだ」
その中でも一騎の作ったカレーを絶賛した。これが後々に波乱をうむことになる(第4話にて)。
「友奈、これ」
一騎は包装されたリボン付きの箱を友奈に差し出す。
「わぁ~っ! これ、プレゼント? 空けてもいいかな?」
「もちろん」と一騎は返す。友奈はリボンを解き、包装を丁寧にはがし箱を開けた。
「あまりこういうのは分からなくって…」
中に入っていたのは桜の花びらの髪飾りだった。
「付けてみてもいい?」
一騎は頷くと友奈は早速髪飾りを付けた。
「似合ってる?」
「似合ってると思う」
「本当っ! 本当にっ!」
友奈は満面の笑みを浮かべ大いに喜び、一騎に詰め寄るような感じで聞いてきた。一騎はそれにたじろぐもなんとか首を縦に振り返した。
――――――――
-神世紀299年 結城家-
「…っていう事があったんだ~」
友奈は親友となった東郷にその事を語っていた。
「へぇ~。なんだか素敵ね。友奈ちゃんがいつも着けている髪飾りと一騎君にそんな事があったなんて」
東郷はうっとりとした表情でそれを聞いていた。
「でね、あの後夜遅くにお父さんとお母さんなんとか帰ってきたんだけど、一騎君2人の分まで用意してくれてて、そしたらお母さんが突然『…婿に来ない』って褒めてたら、今度はお父さんが『赦さんぞぉ』って事になっちゃって、私もびっくりしちゃったよ」
「へ…へぇ…」
友奈は少々呆れた状況になってしまった事を語り、東郷が乾いた笑いで返す。
「なんか…ちょっと羨ましいかな。友奈ちゃんの近くにそんな男の子がいるなんて。…友奈ちゃんは一騎君の事をどう思ってるのかしら」
東郷は気になった事を訊ねてみる。
「好きだよ!」
「え?」
東郷が目が点となり驚きの声をあげる。
「ど…どんな風に」
「美味しいご飯も作れるし、優しいし。気配りもできるし、好きだよ!」
「そ…そう(友奈ちゃんのこの感じじゃあ、なんだか友達としてっていう感じなのかな)」
友奈の答えから東郷はそんな感じだと思うことにした。
『友奈~東郷さん~、一騎君がきたわよ~』
「あ、友奈ちゃん。そろそろ時間よ」
「わかったよ」
その日は中学への入学の日である。友奈は鏡を見ると身だしなみをチェックし東郷の後ろへ着き車いすを押して部屋を出た。
友奈にとってとても大事なものとなった髪飾りは中学生となった今も欠かさず愛用している。
始めてキャラの生誕祭記念の特別話を描きましたがどうだったでしょうか?
蛇足:『結城友奈は勇者である-鷲尾須美の章-』見に行きましたが第1章からこの尊さ。だけど、次の第2章来月15日だけど…原作どおりなら…覚悟しなきゃいけないか
追記:終わらせ方がなにか物足りなかったのでシーンを追加。うまく纏めれたかな。