絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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時系列は、当小説の第4話直後。

2017/4/11 プレゼントシーンの加筆修正(乙姫のセリフ追加)


東郷美森 生誕祭記念特別話

-神世紀300年4月7日-

 

春。陽が差しこみ風も穏やかになり、人々にとっては過ごしやすくなってきた頃。

 

「ヤバイよヤバイよ~!」

 

友奈が慌てた様子でやってきた。

 

「……友奈さん誰かのマネですか?」

 

「違う、違うよ~!」

 

「……落ち着け…結城」

「友奈ちゃん、まずは深呼吸」

 

「すーはー…すーはー…。うん、落ち着いた」

 

あわあわと落ち着きのない友奈に総士が呆れるも宥めた。総士は勇者部に入部することは考えると言っていたが、乙姫がどうしてもと興味を持った事、勇者部との紆余曲折の出来事、それと部長である風の秘密と抱える御役目の事もあってか結局入部し事務を担当するようになっていた。

 

総士の隣に座っている乙姫もお手伝い的な形の特別部員として風が認めたが活動に友達と参加していることから半ば入部しているようなものである。

 

「もう少しであの日なんだけど…みんなって……もう買った?」

 

「東郷の誕生日プレゼントのこと? だったら当然、用意してあるわ」

 

席に着いた友奈が話を切り出す。今日、東郷を除く関係者が集まったのは近々にせまった東郷の誕生日のことである。

 

当事者である東郷は幸いともいうべきなのか私用があるため先に帰っている身である。

 

「友奈、もしかしてまだ迷ってるのか?」

 

友奈の顔が青ざめる……どうやら、図星のようだ。

 

「……だって、何にしようか迷ってるうちに今日が来ちゃったもん!」

 

「…前も同じこと言ってないかな。総士、いつかわかる?」

「……大体1週間くらい前からです」

 

一騎が訊ねるも友奈は未だにプレゼントを決めていないらしい。総士の答えに風はため息をついた。

 

「どうしても絞り込めなくって……うぅ~、ヤバイ、ヤバイよぉ~。私は何をあげたらいいんだろ~!」

 

「結城が一生懸命選んだものなら東郷も喜ぶと思うが」

 

「そんなんじゃだめだよーーー!!」

 

友奈は総士の言い分に真っ向から否定する。それもその筈、東郷の誕生日を知ったのは中学へ入学してから数日後で昨年は祝えなかったのである。

 

『つ、次の年に祝ってくれればいいから…ね』

 

当人である東郷からこう言われた友奈は張り切るのも無理はない。

 

「だって……東郷さんのお誕生日始めて祝うんだもん」

 

「総士、デリカシーなさすぎ……」

「……」

 

乙姫からジト目でにらまれる。総士はぐうの音もでない。

 

「友奈、総士が言いたいのは贈る気持ちの事じゃないかな」

 

「贈る…気持ち? う~ん、あっ」

 

一騎が総士のフォローを入れると友奈はふと以前祝ってもらった誕生日の事を思い出した。

 

「そっか! ありがとう、一騎君!」

 

何か閃いた友奈はすぐに飛び出していった。

 

「(不憫だ……)」

 

「行っちゃっいましたねぇ~」

「友奈のやつ……こういう時だけは行動が早いんだから、それじゃあみんな明日よろしくね」

 

一同は確認事項を終えると風の一声で解散となった。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

-神世紀300年4月8日 喫茶『楽園』-

 

東郷の誕生日当日、小学生である乙姫が讃州中学へ容易に入れないを考慮して喫茶『楽園』で行われることになった。それを聞いた店主の溝口が店の定休日ということで貸し出してくれたのである。

 

「友奈からだわ。店の前に来たそうよ」

 

半日授業を終えた一同は主役である東郷を待ち構えていた。そして、友奈に連れられ東郷が店内に入ると、

 

「わっ!?」

 

『お誕生日おめでと~!!!』

「東郷さん、お誕生日おめでと!」

 

「みんな……!」

 

一同はクラッカーを鳴らし祝福する。突然のことで東郷は目をぱちくりとさせたものすぐに笑顔が綻んだ。

 

 

 

誕生日会が始まり、ケーキのロウソクを東郷が吹き消すと風の一声でプレゼントを贈る時間となった。

 

「私と一騎先輩は、こういうのにしましたよ」

 

樹は讃州中学への入学したため目上の人である友奈たちの事を先輩つけで呼んでいる。

 

「木べらに、裏ごし器……お菓子作りの道具?」

 

「はい、東郷先輩には、これからも美味しいお菓子を作ってもらいたいから♪ 道具選びには一騎先輩からアドバイスをもらったので共同をいうことになりました」

 

「(!?)これ本職の人が使ってる物じゃない」

 

「俺なりにいい物という事で選んだつもりだけど」

 

「こんな良い物を。ありがとう! ふふ、貰ったからには美味しいのを作ってあげるわね」

 

東郷はその品を見抜くと感慨の声をあげた。

 

「続いてはアタシね。東郷といえば、コレしかない!」

 

今度は風が1冊の分厚い本を取り出すとテーブルの上に置いた。

 

「『歴史的軍艦大全』! やっと見つけたのよ」

 

「まあ、風先輩…ありがとうございます!!!」

 

おっとりとした見た目の東郷だが無類の日本史(特に近代史)が好きで彼女の強い愛国心の元となっている。東郷はまた感慨の声をあげた。

 

「私たちのはこれだよ♪」

 

総士がテーブルの上に箱を置くと乙姫が蓋を開ける。中身は淡い青に光る石のアクセサリーだった。

 

「綺麗なペンダント…」

 

「……これ結構な値段じゃないの」

 

「みんなが思うほど値段は高くはない。リーズナブルな価格だ」

 

「東郷さん、着けてあげるね」

 

東郷はお言葉に甘えて友奈にペンダントをつけてもらった。

 

「これにはね。ちょっとした意味があるの」

 

「意味?」

「もしかして誕生石ですか? 4月といえばダイアモンドですが」

 

「半分正解かな」

 

犬吠埼姉妹の問いかけに乙姫が少しいたずらっぽく答える。

 

「この石は『水晶』だ。4月8日の誕生石で、水のように柔らかく邪気を包み込み、浄化するとされている」

「石言葉っていうのがあってね。『永遠な愛』、『永続』、『浄化』という意味があるらしいよ。これからもみんなと絆を深めたいし、足が少しでも良くなってほしいと思ってこれにしたんだ」

 

「……素敵。乙姫ちゃん、総士君ありがとう!」

 

兄妹から贈られた誕生石の逸話に東郷はうっとりとした表情となる。東郷が2人に感謝すると今度は友奈の番だ。

 

「東郷さん、私からの一つ目のプレゼントはこれだよ」

 

「これは…まぁ、友奈ちゃんらしいね」

 

「コレかなって思って。悩んでいたんだけどこういうのは贈る気持ちが大切だから」

 

「ええと、この花は…レンギョウかしら?」

 

「うん、意味は『豊かな希望』。これからもたくっさん楽しい思い出になるようにね」

 

「これも素敵…なんとお礼を言ったらいいのかしら。でも、友奈ちゃんこれが1つ目って……」

 

「2つ目は夜になってからね。それまで楽しみにしといてね」

 

満面の笑みを友奈に見せた東郷であったが、彼女のもう一つのプレゼントの事に少し首を傾げた。誕生日会は盛況のうちに終わったのである。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……あそこに見えるのが有名な北斗七星。北斗七星はおおぐま座のしっぽなんだよ」

 

誕生日会を終えた東郷と友奈はブランケットを敷いてその上に寝そべって星を見ていた。夜空に浮かぶ星々を友奈が東郷に教えていく。

 

東郷は友奈の意図が分からなかったものの、彼女の星座の紹介に耳を傾けていた。

 

「そんな星座があるの?」

 

「ええっと、……ごめ~ん! ドレがソレかわかんないよね!?」

 

「ううん、これも素敵な贈り物よ。私、初めてよ。友奈ちゃんが私のためを思ってるんだもん。みんなからもいっぱい貰って、とっても幸せな気分よ」

 

「ほんとっ!?」

 

「えぇ」

 

「えへへ。実はね、私の星座も東郷さんと同じ牡羊座なんだ。牡羊座同士の相性って最高なんだよ!すぐに仲良くなって、ずっと一緒にいられるんだって!」

 

友奈の面を向かっての告白に東郷は顔を紅くした。

 

「あら?」

 

少し顔を俯かせると胸のペンダントの水晶が淡く光っていた。

 

「わぁ~綺麗!」

「本当ね!」

 

その日は雲一つもなく、多くの星が見えるためか夜なのに辺りは明るい。照らす光が水晶に反射して輝いているようだ。東郷と友奈はそれに見入っていた。

 

「(記憶を少し失って、こんな足で不自由になったけど、私…幸せよ…みんな、ありがとう)」

 

東郷がふと目を瞑り、今日の事をを振り返りみんなに感謝する。そして、このままずっとみんなと一緒にいれるように星の下で願った。




誕生日SPは日常度増し増しのため特にフラグ建てはなしに進行。

友奈と東郷に関しては本編終了後の段階での誕生日SPやってみたいなあ……。

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