ゆゆゆキャラの夏凜が主役なためファフナーキャラの出番は相当薄めです。
2017/6/13 誤字などを修正
-神世紀302年 6月12日早朝-
――― pipipipi
携帯端末のアラーム音が部屋中に鳴り響こうとした瞬間手が伸びる。
「……」
この部屋の住人である三好夏凜が端末を操作しすぐにアラームを止める。カーテンの隙間から刺しこむ光にむくりと反応し軽く伸びをしながら起き上がった。
(む…大分擦り切れて薄くなってる。そろそろ限界かしらね)
洗面所で顔を洗いトレーニングウェアに着替えた。
「お、おはよー夏凜。相変わらず早いわね~」
リビングへ向かうと同じ部屋の住人である犬吠埼風がいた。夏凜よりも早くに起きてキッチンで朝食を作っているようだ。
「…おはよう」
今の夏凜は風とその妹である樹と同居している。
勇者としての御役目が終えてから讃州地方で日常を過ごしたいと大赦へ希望を出していた夏凜だったが、体制が変わった大赦から風たちと一緒に暮らせという辞令がきた。大赦の前体制の事もあり夏凜もそうだが風たちにも色々あったようで詳しく聞いたが新しくできた後見人の意向らしい。その裏では讃州地方へと引っ越した夏凜の生活態度を知ったあるお人好しが一枚かんでいるのもあるが……。
「んじゃ、いってくる」
「玄関にいつもの置いてあるから忘れるんじゃないわよ~」
樹はまだ夢の中であろう。そう思った夏凜は風に見送られると玄関に置いてあるバッグと担ぐと駐輪場に置いてある自転車へとまたがり、日課であるトレーニングのため漕ぎだす。トレーニング場である浜辺へと着くと準備運動を終えた夏凜はバッグから木刀を二本取り出し素振りを始める。感触を確かめるように軽く何回か振ると、目を瞑りゆっくりと長く息を吸い一気に吐き出す。
「……ふっ!!」
目を見開き集中力を高め木刀を振るう夏凜がやっている型の円舞だ。御役目を終え平和に戻った今でも夏凜は欠かさず続けている。彼女にとって自らを現すものでもあり、これは夏凜が勇者として戦ってきた証みたいなもので今の時点ではやめる気はない。
「やぁっ!!!」
時間にしてみれば数分程度だが高い集中力と体力を必要する。見た目以上に過酷だ。その型の円舞を演じるのが朝の鍛錬の仕上げであるが勇者としての訓練を乗り越え、それからも鍛え上げてきた夏凜にとっては造作でもない。これでも勇者であった頃より訓練内容が少なくなった方だ。
「ししょー、お見事です!」
そんな夏凜に称賛の声があがる。自分を『ししょー』と呼ぶ幼い声に気づいた夏凜は声がした方へ向く。
「おはようございます!」
「おはよう、富子」
勇者部の活動で出会った園児『富子』がタオルと手渡してくる。夏凜は汗をタオルでぬぐいながらバッグからドリンクを取り出し飲み干した。鍛錬で火照った体によく冷えたドリンクが染みてくる。
「それじゃあ、始めるわよ」
「ししょー、よろしくお願いします」
一息ついた夏凜は富子への稽古の指導を行う。讃州地方で過ごしてから少し奇妙とも思える関係は変わっておらず今もこうして続いている。今でも彼女の家族とは贔屓になっているくらいだ。
「今日はここまで!」
「ありがとうございましたー!」
互いに礼を鍛錬と指導を終える。夏凜は荷物をまとめ自転車の籠にバッグを入れた。
「ししょー、少し待ってください」
「どうしたの、富子?」
弟子の様子に戸惑いの表情を見せる夏凜。それを余所に富子は自分のバッグをがさごそとし何かを探していた。
「ししょー」
意を決し、富子は夏凜の目の前に立つと小さな体を精一杯伸ばし箱を差し出してきた。
「お…お誕生日おめでとう!」
「あ……」
間の抜けた声を出す夏凜。今日は夏凜の誕生日であるが同時にもうこんな日だったんだっけ?と自問自答する。夏凜も笑みが綻び弟子からのプレゼントを受け取る。
「ありがとう」
正直に自分の気持ちを言葉に表すとその小さな頭を撫でる。くしゃくしゃと頭を撫でるとえへへと富子も満面の笑顔で喜んでいた。
――――――――――
富子を別れた夏凜はアパートへと戻り朝食を食べ終わった後、風と樹と一緒に出掛けることになった。その途上で、勇者部の仲間たちと合流すると地元のショッピングモール『イネス』へと向かった。
昨年は受験のために小規模なパーティとなったが今年は思いっきり遊んで誕生日を楽しもうというコンセプトらしい。樹に関しては歌手活動を本格的に始めた成果なのか、なんと推薦をとってしまったため憂いもなかった。
「おーーーーー! 『にぼっしー』、来てる来てるよぉ~。打点高いよぉ~」
服飾売り場にて主役である夏凜は園子の手により着せ替え人形と化していた。
「あー……やっぱり、私にはこういうのは…」
「そんな事ないよ~」
今の夏凜の服装は園子がセレクトしたフリフリの服装だ。普段は動き易いシンプルな服装を好む夏凜にとってこういうのは慣れておらず、恥ずかしさなのか顔を赤くしていた。
「あっはっは! 昔のアタシと同じこと言ってら! あはははっ!」
園子の親友の1人である『三ノ輪銀』が腹を抱えて笑っている。
「ッ! ……そういう、あんたこそ今の服装に対してどう思うのか言ってみなさい!!」
痛烈な突っ込みで返した。今の銀の服装も夏凜と同じフリフリの服装であった。銀は「うん、そうだったわ」と現実を直視したのか少し頭が冷えた様子だ。それを見た園子は光悦した表情となっていた。
(ま、まずい。このままでは園子が次何持ってくるか。かくなる上は)
銀に視線を送る夏凜。どうやら銀も夏凜が感じている危機のようなものを察したのか頷いた。
((……誰かに園子を止めてもらわないと!!))
「樹~こっちのはどうかしら?」
「う~ん、こっちもいいと思うな~」
「芹ちゃん、里奈ちゃん、これなんてどうかな?」
「私は良いと思うよ。芹」
「それだったら…これとこれ組み合わせれば」
決断が早かった夏凜と銀は最初に犬吠埼姉妹と2年後輩の乙姫ら『ツリセン隊』に助けを求めようとしたが服選びに夢中な様子である。
「一騎く~ん、どうかな?」
「ん、似合ってると思うよ」
「私にはこういうのは……」
「だけど、挑戦してみる価値はあるんじゃないか?」
「総士君がそういうなら…着てみようかしら」
「う~ん、服って色々多くって大変なんだね」
友奈と美森が試着した服装に対し、一騎と総士がそれぞれ感想を述べたり、または他のを勧めたりしていた。来主は学んでいる様子でこちらには目をくれてない模様だ。
「「詰んだ!!!」」
「『にぼっしー』、『ミノさん』」
園子が次の服をもってきたようだ。
「もう…」
「覚悟決めるしかないじゃないの…」
時すでに遅し、夏凜と銀は園子の方へゆっくりと振り向いた。
「次は…これ!」
「意外と…普通ね」
園子の手に握られていたのは女性ものの流行の服だった。胸に合わせて鏡を見たが普通に絵になっているようだった。
「楽しむのはおしまい。こっからは園子様、本気で選んじゃうよ」
「園子~、今日は夏凜の服だけって言ったのに!」
「『ミノさん』を見てたら、昔を思い出しちゃって……2人のキャップ萌えを見てみたかったんだ♪」
「アタシはついでかよ!……着替えてくるわ」
そう言って銀は試着室へと入っていった。
「本当はトレーニングウェア買いにきただけなのに…どうしてこうなった」
「『にぼっしー』可愛いとこいっぱいあるのに~もったいないよ~。それに『にぼっしー』はこういう服には疎いって聞いたの~。……『ふーみん』先輩と『いっつん』から私が渡したお洋服の本読んだんだよね」
「え…えぇ。まあ、一応は。でも、私…こんなにいいのかしら?」
夏凜が頷き答える。犬吠埼姉妹からいきなりファッション雑誌を渡され多少の予習は済んでいる。
「そのっち~」
「そのちゃーん、色々もってきたよ~」
「だからこそ、服選ぶ喜びを知ってほしいの…ね。それが私たちからのプレゼント~」
無邪気な笑顔を振りまく園子。夏凜は自分のために勇者部のみんなが動いているのだろうとは薄々感じていた。園子から手渡された服もそうだが、みんなで夏凜に合いそうな服を探しているのであろう。
「しょうがないわね。それが今年の誕生日のプレゼントっていうのなら甘んじて受け入れるわ」
「わぁ~ありがとう~『にぼっしー』」
「ただし、私にあった最高のを選んでやるわ……ん?」
「どうしたの~『にぼっしー』」
選ぼうとした矢先、夏凜の目にある物に目が奪われた。勇者部のみんながそちらの方を向いた。
「夏凜、あのワンピースがどうかしたのか?」
視線の先にあったのはショーウィンドウ内に飾られたワンピースであった。
「雑誌にあったやつ…なんとなく気になったような気がしたの」
「あぁ~あれね。今年の新作のやつよ。そういやんな事話していたわね」
一騎が確認を取り夏凜が答える。さらに、風から夏凜がそんな事を言っていたわねと示唆してきた。
「『にぼっしー』、あれが欲しいの?」
「ふぇ、でも高いんじゃあ」
「私たちでも買える値段です。良心的です」
「夏凜、今日は誕生日のアンタが主役よ。私たちは気にしないでアンタが決めなさい」
遠慮しようとしたが、勇者部の仲間たちから気にするなと言われる始末。夏凜の気持ちはさらに揺らいだ。
「お客様、あちらの新作限定物をお求めでしょうか?」
「え…あ、はい」
店員に聞かれつい答えてしまう。
「申し訳ありません。あちらの新作はつい昨日予約の方が入ってしまって…これから納品なんですよ」
「(!?)そんな……」
がっかりと肩を落としてしまう。どこかで欲しかったのかなと思い込んでいたみたいだ。
「『にぼっしー』」
「夏凜ちゃん…」
「仕方ないわよ。早い者勝ちのようだったし。さ、気を取り直してアンタたちが持ってきたのから選ぶことにするわ」
夏凜は割り切ると落ち込んだ表情を見せた園子と友奈を宥めた。
――――――――――
夏凜は仲間たちと思いっきり遊び食べ、みんなからのプレゼントを抱え夏凜たちは自分たちの住むアパートへと戻った。
「今日はどうだったかしら?」
「まあ、良かったわよ。やっぱ、こういうノリが勇者部らしいのかな。……うれしかったわよ。……ん?」
「どしたの夏凜。何この大荷物は?」
「宛名が夏凜さんですね」
3人は自分たちの住むアパートの部屋の前に宅配ボックスに丁寧に小さな箱と梱包された大きな箱が置いてあった。何かと思った3人だったが、宛名が『三好夏凜へ』と書かれていた。夏凜は何かと思ったがそれを自分の部屋へと運び入れると小さな箱から開けてみた。
「兄貴から?」
中に入っていたのはDVDであり、夏凜は自分のPCのプレイヤーにDVDを入れると機動させてみた。
《やぁ、夏凜。……元気にしているか?》
PCの画面には兄である春信の姿が現れた。大赦での正装姿だが仮面を外し素顔を見せている。
《こんな形ですまない。俺は大赦新体制の重要な立場でな……忙しい身だし今の俺の立場だと公には出づらいからな。こうやって合間に映像を撮って伝えるのが精一杯だったよ》
前置きはいいからという表情で映像を見る夏凜。兄である春信とは以前よりかは関係は円滑になったもののいまだ苦手意識をもっている。
《一昨年は夏凜が御役目を受けて、去年は俺も忙しくなって全く祝うどころか会う事すらほどんどなかったからな……前置きはここまでだ。同封している荷物を開けてくれないか》
そう言われて同封していた綺麗に梱包された箱の包装を破り蓋を持ち上げた。
「これ…買い換えようと思ってたのに!」
中には2着の服が入っていた。1着目が夏凜が買い換えようと思った真新しいトレーニングウェアである。
「こっちは、ふぇ…な、なんでこんなのを!」
2着目はなんとショッピングモールで見かけた今年の新作限定物のワンピースであった。
《夏凜…お誕生日おめでとう。昔はこうやって祝ったのに最近はご無沙汰だったからな。それに勇者として頑張ってくれた夏凜に何もできなかった事もな。だから、俺としての気持ちで受け取ってほしい。今回俺の伝えたかったことは以上だ。今度、機会ができたら様子見に行くからな》
画面を見つめたまま微動だにしない夏凜。兄からのビデオレターに顔を真っ赤にし、どうしたものかと送られてきたワンピースを見つめている。
「ど、どうしよう…こんなもの」
そう言いつつも胸にあて鏡でチェックしてみる。やはり不思議と似合っているように思えてしまった。
「……何が精一杯なのよ馬鹿兄貴。…………それだけ言われちゃあ、受け取ってあげるわよ」
前のような関係だったら夏凜は頑なに断り受け取らなかったであろう。
「……あいつの言っていた事、今ならわかる気がするな……」
そのような心境の変化は、讃州中学の編入から始まった彼女は多くの仲間やその周囲に出会った人たちとの思い出によるものだ。夏凜にとってとても大切なものとなっており、それが夏凜の成長にさらなる後押しをしていた。
当小説本編終了後の夏凜はこうなってほしいという感じで書ききった。『勇者部所属』の富子とも絡ませたかったし、いまだに本編で出てない実兄である春信も出したかった。
余談ですが、スマホアプリ『結城友奈は勇者である-花結いのきらめき-(以下、ゆゆゆい)』で初のSSRが夏凜かつリーダースキルも強力だったためかすぐにフル強化に。日常パートでも彼女の魅力が随所に出ていたためその結果さらに詰め込むようなことになってしまいました。
●後日談の簡単なキャラ設定2(一部ネタバレあり)
・『勇者である』シリーズ
三ノ輪銀:園子と来栖と共に讃州中学へ編入。本編ではあのようになりましたが、後日談では人として勇者たちと過ごすことになる予定です。
・『蒼穹のファフナー』
真壁一騎&皆城総士:事件終息後もゆゆゆ世界で過ごすことに。ただし、一騎に関しては特殊な事情あり(結城友奈フラグ対策)。
皆城乙姫:讃州中学へ入学。勇者部の正式な部員に。
来主操:事件終息後、乃木家の養子化。
●蛇足
ゆゆゆいに登場する西暦の勇者『
●追記
ゆゆゆいにて讃州地方にイネスがない事が発覚。この世界ではあるという事にしておいて下さい。