ゆゆゆキャラの樹が主役なため、やはりファフナーキャラの出番は相当薄めです。
-神世紀301年12月7日 讃州市文化会館-
「おっそ~い!」
木枯らしも吹き、冬の訪れという季節に入ってきた。昨年のこの時期に勇者部はある事件に巻き込まれたようだが、同じ勇者部員でもありこの世界の来訪者たち、さらにこの世界へ有益なものとなったある種の存在の協力もあって誰も欠けずに無事に解決した。
そんな事件も終わって1年、風はある場所にて落ち着きもない様子で誰かを待っていた。
「風先輩…場所考えろっつうの!?」
「開場はしましたが、開演まであと30分もあります。少しは落ち着いてください!」
「せっかくの晴れ舞台なのに…これが落ちつけるかぁー!」
「芹ちゃん、里奈ちゃん…今の風先輩には何言っても無駄みたい」
「「…ですよね~…」」
『あはは…』
乙姫の言葉に芹と里奈は肩を落とし、この場に集まっていた女子数人、今はこの場にいない部員のクラスメイトも乾いた笑みを浮かべる。今の風は機嫌が悪いというより今日のイベントを楽しみにしていたのかかなりエキサイトしているようである。
そうこうしているとバタバタと風たちの方に一団が駆け寄ってきた。
「乙姫、みんな。待たせたようだな」
「……で、風のその様子だともしかして」
「いっつんニウム不足だね~」
風の中学卒業とともに引き継いだ讃州中学現3年生組である。しかしながら、爆発直前の風の様子に現部長の夏凜、副部長補佐の総士は呆れた表情を浮かべる。園子はいつもの調子だ。
「友奈、大丈夫なのか?」
「銀、こんなに無理をしちゃって……」
「だいじょうぶだよ~かずきくん」
「すみ~。ぎんさまはのーぷろぐれむだぜ~」
「友奈ちゃんと銀ちゃんは……こうなちゃったのか」
「うん、模試が終わってからずっと。引っ張って来たんだ」
現3年生組はこの日、高校受験の模試と被ってしまったのである。今日参加する予定のイベントにはなんとか間に合ったが、現3年生組の中で学力に劣る友奈と銀が模試を終えたが目が死んだ魚のようになっていた。一騎と美森が心配そうに声をかけたが、なんとか声に反応する程度の意識はあるようだ。
「風がこれ以上暴走する前に会場入りするわよ。それと一騎と東郷は、その2人を引っ張って行きなさい」
夏凜はこれ以上見てはいられないと思いみんなに先導の声をかける。一同は文化会館ので受付を済ませ会場入りした。
「『めぶー』、みんな~こっち~!」
「急いでくださ~い!」
「ちょっと待ちなさ~い」
「振り回されてるね~」
「やれやれですわね」
「……うん……」
――――――――――
-讃州市文化会館 控室-
「ふふ、みんな無事に来れたみたいですね」
控室にて会話アプリの履歴を見た樹がぽつりと呟く。今の樹は勇者の頃に着ていたドレスのような煌びやかな衣装を纏っている。
「樹ちゃん、入るわよ」
「あ、はい。どうぞ~」
関係者と思わしき女性が入室してきた。
「樹ちゃん、調子はどうかしら」
「はい、バッチシです。いつでもいけます」
「ん、いい返事ね。衣装も…うん、問題なし。あとはあなたのバースデーライブ、その出番まで待つだけね」
今日はなんと樹のバースデーライブなのである。1年半前のある出来事で歌手を目指すという夢をもち、姉である風に内緒であるプロダクションに応募した。送った歌声がプロダクションの人たちの目に留まったのである。その後は一悶着があったようだが騒動が落ち着いたのちに開催されたオークションに樹は合格した。
樹はそのプロダクションが主催する新人アーティスト育成プロジェクトの一員となって厳しい練習を乗り越え、既にアーティストとして人前に出た。
「……今回のライブ、これまでと違って少し規模も大きめだわ。そのプレッシャーはこれまでの比じゃないけど…」
「大丈夫です」
その目に強い意志をこめ樹が応える。
「ふふ……あれだけ頑張ってきたし、レッスン通りの実力を出せば大丈夫よ。じゃ、時間になったらまた呼びに来るから待っててね」
マネージャーは樹の様子とその目に籠った意思からやれると判断したのか、最終確認のためにいったん部屋を出て行った。
樹は控室の椅子へと座り、昂る気持ちと大舞台に臨む緊張を少し抑える。
ここまで来るのに色々あったが、それはアーティストとしての厳しい訓練だけではない。今考えてみれば、これまでの控えめな性格で、頼れる姉の庇護の下にいた自分がこの場に立っているのは考えもつかなかった。それ以前に、この世界の恵みである神様『神樹』に選ばれ、わからずも世界を守るために戦った。姉が勇者適正者を集めるという目的で作られた『勇者部』の活動や日常でもいろんなドラマがあった。
だけど、樹にとってそれは大事な思い出であり、自分の夢を見つけ、その一歩を踏み出せた掛け替えのない宝物のようなものである。
「(ここまで来るのに色々あったなあ)わっ!?」
樹はこれまでの思いを振り返っていると、ふと頭にぽふっとした感じと重みを感じる。近くにあったセット用の鏡を一目見る。
「『木霊』!?」
木霊が樹の頭の上から彼女の目の前に降りてきた。さらに木霊の隣の虚空に光が弾けると鏡から植物の茎が生えたような外見の存在が現れる。
「『雲外鏡』まで! あ、あわわ!」
突然の出来事に慌てふためくも誰かに聞こえたらまずい。そう思った樹は少し声のトーンを落として1年ぶりに再会した2体の精霊に訊ねる。
「あ、あのう。どうして、ここに?」
とは言っても精霊は言葉では語ってくれない…一部の例外もいるが同様である。木霊と雲外鏡は宙に浮いたまま動き、何か意思を伝えようとしてくる。
「……んっと、私の応援にきた?」
木霊と雲外鏡は激しく動く。どうやら肯定のようである。樹は目が点をなるも、2体の精霊の意志を汲み取ったのか微笑んだ。
「……ありがと。木霊も雲外鏡も、私が勇者だった時、いつも守ってくれていた。私の事を思うのは当然…だよね」
木霊と雲外鏡をわしわしと撫でる。2体の精霊が嬉しそうにしているように見える。
「樹ちゃん、出番よ」
「あ、はい」
マネージャーに呼ばれ樹は控室のドアへと向かう。その途中、机の上に置かれた用紙を一目見ると、木霊と雲外鏡の方へと振り向いた。
「私はいつでもみんなと一緒にいる。みんなと……心で繋がっている。この歌だって、繋げてみせます!」
そう宣言すると控室を出る。木霊と雲外鏡がそれを見送ったが、樹には2体が『頑張って!』と言っているような気がした。
――――――――――
竜宮島でもこのような規模の催しはまずなく、会場の飲まれそうなボルテージに竜宮島組は驚きは隠せないまま、なんとか席に着いた。
ちなみに席順だが正面ステージを見て左側が階段となっており前の列から、
夏凜|銀|里奈|乙姫|芹|樹のクラスメイト3人
風|園子|操|総士|美森|友奈|一騎
である。
「これどうやって使うんだ?」
「こうやって、歌のサビとかになったら振って応援するんだよ」
会場入りしてなんとか復活した友奈から一騎はライブで使うペンライトの説明を受けていた。
『わああああぁぁぁぁぁ!!!』
会場はなんと満員。樹が新人歌手とは思えないほどの実力と可能性を秘めているのを表しているのであろう。
観客たちは今か今かと待ち望んでおり、場は既に仕上がっている。
そして、会場の証明が一斉に落ちた。前奏が流れ各所に設営されたスポットライトがステージの中心を集中して照らす、その中心には黄緑を基調としたドレスのような衣装を纏った1人の少女の姿があった。
「いつきぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ちょ、暴れるな!」
これまで何とか抑えてきた妹に対する思いを爆発させ応援幕を掲げる風。立ち上がろうとしたため前にいた夏凜がそれを抑えようとする。
【みなさん、今日は私のライブに来てくれて……ありがとうございます!
1曲目は私のデビュー曲……『カラフルワールド』!】
少女は歌う叶えたい夢のために。それが叶った今でも歌い続ける。犬吠埼樹にとって歌はみんなを幸せにするもの。
いつか世界中に届けるという夢のために樹は飛び続ける。
前回の夏凜特別話と同じ。当小説本編終了後の樹といった感じで描きました。
樹「あはは、ありがとうございます」
作者「すまないね。この作品では出番が少なくてね」
樹「やっぱり絡ませずらいっていうのがあるんですか?」
作者「ぶっちゃけると、1期勇者部メンバー5人の中で一番絡ませずらい。原作4話・9話の犬吠埼姉妹の生い立ちまではあまり出番がないし、ファフナーキャラとの絡みも然りなんですよ。その話を除いて一番、シリアスな展開が似合ってないともいえるのもあるね」
樹「作者さんは私の事が…」
作者「嫌いではありません。勇者であるの子たちに嫌いなんてありません! 展開的に絡ませずらいだけなんです!」
樹「それが聞けて良かったです!」
作者「『勇者の章』はあと4話でどこに落着するかわからないけど、こちらの本編やもうひとつの勇者であるシリーズ原作物の更新も頑張っていきますので」
樹「これからもよろしくお願いしま~す!」