絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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第1章第1話で起こった事件の皆城兄妹視点


第1章裏『皆城総士』・『皆城乙姫』の章【残された者達の権利】 (裏題:『鷲尾須美は勇者である』編)
第1話 もう一組の来訪者-きょうだい-


僕の名は皆城総士

君がこれを聞くとき もう僕はこの世にいないだろう

 

最後の時間が終わった時 

僕らは 憎しみを連なる存在によって 消されたはずだった

 

その時 僕らは奇跡を目の当たりにした

異世界の神という 未知の存在によって

消えゆく僕らの命が救われたのだ

 

異世界の神は言った

遠い宇宙から来た未知の存在 フェストゥム

人類の理解を超えた力を持つ彼らが 世界を超え

彼神の世界に災いをもたらすのだと

 

彼神は僕らに 自らの世界を救う希望になってほしいと願った

願いを受け かつて消えていった命とともに 僕らは世界を超える決意をした

 

竜宮島 戦乱で日本が消滅した後

平和という文化を残すために作られた 人工の島

僕のかつての居場所だ そこを離れるのは心苦しいこともある

 

だが僕は知ることになるだろう

世界を超えた先にある 安寧の地と呼ばれる場所を

 

 

 

――――――――――

 

 

 

神世紀297年、四国香川県『大橋(おおはし)市』かつて日本の本州と呼ばれる陸地を結んでいた『瀬戸大橋』。四国の玄関口とも言える歴史的な建造物となった橋がある事でその名がついた街。

 

その街中にある大きな西洋風の一軒家。この世界の神様である神樹により転生させられた1人である彼、皆城総士の意識は覚醒した。

 

「……ここはどこだ」

 

総士はベットから起き上がると自室と思わしき部屋の窓から外を見る。外の見慣れない風景を眺めつつも思考を重ねる。

 

生存限界を迎え『存在と無の地平線』を超えようとしたが倒したはずの敵に邪魔をされたこと、助けに来た一騎とともに自らを呼び出したとされる神樹という神の頼まれたこと、

つまりは世界を超える前の記憶、知識などすべてを覚えていた。

 

「なるほどこれが転生というわけか。……身長が縮んでいるようだが何故だ?」

 

フェストゥムの側へと一時的に身を置いていたことがある総士でさえ、このように総ての記憶を持ちえた状態で再誕するのは一生をかけても経験できない。何故背が縮んでいるのかは理解しがたい状況だったが。

 

「誰だ!」

 

突如として部屋のドアを叩く音が聞こえた。総士は部屋の外にいる者に警戒を露わにする。

 

「総士、私よ」

 

ドアを開け入ってきたのは、神樹により再び生を受けともにこの世界へと渡った乙姫であった。彼女もまた総士と同じで再会した時より小さくはなっている。

 

「乙姫か。その様子だと君もか?」

 

「そうよ。生まれ変わる前の事を全部覚えているよ」

 

「そうか。……どうしてこのような姿になったのか。わかるか?」

 

「こうなったのは、これに全部書いてあったよ。総士のもあるはずだよ」

 

総士が問いかけると乙姫がもっていた端末を見せてきた。21世紀の文明レベルにて日常的に使われていた携帯端末(スマートフォン)である。乙姫に促されて辺りを探すと机の上に同じような端末が置かれているのを見つけた。

 

「記録されているのはこの世界での私たちの立場と経歴、それにこの世界でやるべき役目だよ」

 

はじめて触る端末ながらもファイルの展開を行う。まず目についたのは張本人である神樹からのメッセージであった。

 

【皆城総士さんへ

 

この端末を起動させたということは無事に転生は完了したということですね。この端末は来るべき時に必要で先に言っておいたこの世界の情報はこの端末から見ることができます。なるべく手元から離さず持っておいてください。

 

身体が小さくなってるのはこれから出会うであろう子達に年齢を合わせたからです。なお、転生した貴方がたには役目があります。与える使命は2つ、1つ目が『来るべき時に備え、戦闘態勢を整える事』。2つ目が『この世界に関するあらゆる事を知る事』です。

 

それを行うために、我々を奉っている組織『大赦』の一族として名を連ねてあります。その一族たちに加え、あなた側に近しい人たちが力となってくれるでしょう。あなたたちが目覚めるまでにその準備もできています。

 

それと総士さんの場合、フェストゥムの世界にて肉体を再構成し、そのどちらとも言えない肉体になったと聞きましたが、転生し新たに人として生まれ変わらせました。フェストゥムとしての力も健在です】

 

「……極めて都合がいいというかな」

 

【敵の事に関しては貴方達に不便にならない様配慮、特に制限を設けることも致しません。

そのために近く、貴方達にとっては心強い人たちと会うことになると思われます。

 

最後に重ねて言いますが、どうか新たな世界での人生に幸があらんことを】

 

この情報をそのまま鵜呑みにするなら、総士はフェストゥムの力をもった人間。もしくはかつての乙姫と同じ状態になったのかもしれない。詳しくは調べる必要はあるかもしれないが、それによりいくつかの疑問が生じた。

 

端末の情報を確認し終え電源を落とすと、今度はベットに座っている乙姫の目の前で屈み視線を合わせ訊いた。

 

「乙姫、僕たちがここでやるべきことは分かった。最後にひとつ聞きたいことがある」

 

「なぁに?」

 

「君のこの世界での立場はどうなっている?」

 

乙姫は元は竜宮島のコア…要塞都市である竜宮島の防衛や生命維持などを司る立場であった人でありフェストゥムでもある希少な「融合独立個体」として生まれたコア型に分類されるフェストゥムである。その特性上、長期間の外での活動には耐えられず人間として生きられる期間も限られる。それが神樹と呼ばれる人知を超えた存在の手により再誕したのだ。彼女はこれまで通りの存在であるのか、それ以外の存在であるかここではっきりしておく必要があった。

 

「私はね……」

 

乙姫は自分の端末を差し出してきた。意味深な発言に困惑するも総士は端末を受け取りそのメッセージを見た。お役目に関する文題は総士を同じだったが、

 

【乙姫さん、あなたはコア型のフェストゥムとしてその生を全うしてましたね。その特異性がある以上、現状のままでは不都合であると判断しました。……勝手ながらあなたの最後の『願い』を叶え、総士さんと同じ人として生まれ変わらました。コア型としての力もそのままですが、守り神ではなく人という事で、この世界では『神の声を聞ける』少女である巫女という立場となっております】

 

「芹ちゃんたちと別れを告げた時にね…『人として生きたい、一人ぼっちになりたくない』『ここにいたい』って思っちゃったんだ。千鶴のおかげで受け入れることはできたんだけど、こんな形で夢が叶っちゃった」

 

「……そうか」

 

「こう言うのも不謹慎かもしれないけど、また『人』として生きることができてうれしいよ。……いけないことなのかな」

 

「いけないことではない。『人』としては当然のことだ」

 

「……ありがと、総士」

 

乙姫は『ワルキューレの岩戸』へと還るまで僅か3か月という人として短い生。それは島での生活は彼女にとって掛け替えのないものとなっており、それにより親しい人や島の住民たちをの別れを惜しんでしまった。乙姫が語る心情を総士は静かに聞き入れると静かに微笑み頭を撫でた。

 

 

 

この世界で役目の確認を終えると、総士は端末に同じくこの世界に転生した親友一騎の連絡先を見つけ電話を掛けることにした。通話のコールが数回行われると一騎がでた。

 

「まずは神樹の言っていた端末の情報とやらに目を通しておくんだ。この端末はどうやら日常生活に特化した一種のツールだ。極めて便利だ。見てみたら転生直後の僕らの経歴みたいなものもあった。それとどうやら神樹から僕たちにそれぞれ役目があるらしく事が起きるまで日常を送りつつ過ごせだそうだ」

 

《……役目ってのはなんなんだ?》

 

話し声から案の定、一騎は覚醒したばかりで何をするべきか分からず困惑しているような様子であった。

 

「僕の場合は神樹を奉っている組織の一族のところにいるからアルヴィスのように根幹に関わっていきそうだ。その関係でやる事もあってしばらく自由に動けない。すまないが…そっちはなんとか1人でやってくれ。幸い連絡手段はある互いに連絡を取り合おう」

 

神樹が用意したとされる携帯端末(ツール)の存在を教える。こちらからもフォローを入れる必要が生じるが、総士たちから離れた場所にいる一騎との連絡手段の確保をできたのは大きい。

 

「総士~呼んでるよ~」

 

「……何かあったら連絡してくれ」

 

恐らく一騎も総士たちと同様、時が来るまで神樹から託された役目があるだろう。大筋の説明はできたので電話を終える。

 

「どうぞ~」

 

「失礼いたします」

 

乙姫が部屋外にいる人物に入室を促す。すると、部屋のドアが開けられ1人の女性が入室してきた。

 

「おはようございます。総士お坊ちゃま、乙姫お嬢様」

 

「おはよ。よく眠れたよ」

「(……暫くは情報収集だな)おはよう」

 

 

 

数刻後、総士と乙姫は皆城家の資料室に訪れていた。

 

この世界の皆城家は神樹を奉っている『大赦』でも大きな発言力をもつほど格式が高く、その関係で両親が忙しく家を空けることが多い。と、先ほど皆城兄妹を呼びに来た女性はが教えてくれた。その女性は皆城家で雇っている使用人の一人であり、朝食を済ませ調べ物をしたいとの旨を伝えると、この部屋へと案内してくれた。

 

「なるほど、神樹の加護があるのは四国地方のみか」

 

まず調べたのは転生した世界についてである。今いるこの場所は『神樹』と呼ばれる御神木の祝福を受け護られた日本の四国地方であった。

 

「四国地方しか残ってないとなると、竜宮島が作られたとされる北海道と同じような状況か」

 

四国の周囲を形成している神樹の根、通称『壁』の外には死のウィルスが蔓延されているとされている。神樹はそれらから人々を守り、結界内には人々が生きるための糧となる恵みをもたらしている。

 

一方で、総士たちのいたかつての世界の日本はフェストゥムの侵攻と人類軍による核攻撃により世界から消されてしまった。だが、核攻撃から辛うじて残った日本の北海道にて竜宮島アルヴィスを含む人工島が3隻建造され、その種や文化を残すことはできていた。

 

総士はその点から四国も同じ状況であるとの認識に至る。

 

「これも真っ黒だよ」

 

調べている最中、気になったのは資料の殆どが添削されていたことである。不都合と判断されたのか大部分が黒く塗りつぶされており、辛うじて見れたのは表向きに人々に伝えられている事象だけであった。

 

(『大赦』という組織の方針なのか?)

 

これほど意図的にとなると、何かの思惑があって本来記されているべきの情報を隠したと判断し、歴史書を本棚に戻す。続いて、スマートフォンに保存されていた情報を読み取る。神樹から障りの部分だけは聞いていたがさらに詳しく端末には記されており、総士たちにとっては十分知り得たい情報であった。

 

「……『バーテックス』か。『フェストゥム』がこの世界に来ているとなると、かの存在との交戦も避けられそうにないな」

 

この世界の人類の生存圏内が四国まで縮小、追い詰められてしまった元凶(バーテックス)。この世界での『フェストゥム』に相当するであろう人類の敵、恐らく彼の生命体との交戦は避けられないであろう。

 

「どの道、大赦にコンタクトをとる必要があるか……難しそうだがな」

 

必然的にかつ早急に接触しなかればならない。しかし、今の総士たちは小学生くらいの子供。子供の言う事を大人は信じてくれるのだろうか。

 

「飽きてきちゃっよ、総士……」

 

成果も上がらず飽きを見せた様子だった乙姫の表情が変わる。最初こそ首を傾げ、何かわからなそうな感じであった。思慮にふけっていた総士も乙姫の急変に気づく。

 

「乙姫、どうした?」

 

「待って、これは……」

 

これには総士もただならぬ乙姫の様子に状況を見定める。乙姫は窓越しに空を見上げていた。見上げた空には何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

この日、僅かな時間ではあるが四国中に異変が起きた。

 

空に向かって威嚇する犬や猫、我先に逃げ出そうとする小動物、空には鳥の1匹もおらず姿を消していたのが確認されたのだ。

 

しかし、時間が経つ度に終息を見せ、やがて元の営みへと戻っていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「総士、時間があるかと思ったけどそうもいかないみたい!」

 

「何……―――ッ!」

 

只事ではない雰囲気を察した総士が問いかけようとしたが、彼の脳裏にもまたある言葉が響き渡る。『心を優しく撫でるような透明な声』、同時に背筋が凍りつくような感覚に襲われる。それが意味するものを総士は瞬時に察してしまった。

 

「奴らに察知されたのか」

 

声を絞り出し総士は乙姫に問い、彼女もまた頷く。『祝福』の意味をもつ絶望が、総士たちが転生した四国の居場所を知ってしまったのである。

 

「転生初日から次々と……」

 

トラブルは重なるものである。端末の着信音が響き、画面を見る。相手は先ほど電話でやり取りをした一騎だ。

 

「一騎、何があった?」

 

揺らいだ感情をなるべく抑え込み、電話先の一騎へ問いかける。一騎がこちらに連絡を取ってきたのは粗方予想はついていた。

 

《今、『フェストゥム』の声を聞いた》

 

ぽつりと一騎は呟く。一騎も同様に『心を優しく撫でるような透明な声』を聞いたようだった。その声は間違いなく『フェストゥム』が人類に問いかけるもので、この世界に襲来した裏付けとなってしまった。

 

しかし、続けて出た言葉に総士は再び戦慄することとなる。

 

《それだけじゃない。……ラジオだ》

 

「何?」

 

《あの時と同じ。ラジオに受信してしまった声を聞いてしまったんだ》

 

総士の脳裏に『フェストゥム』を呼び寄せる原因ともなったあの出来事が浮かぶ。一騎と総士にとっても忘れることはないあの苦い思い出だ。

 

一騎はその光景に再び出くわしてしまった。しかも、彼から『フェストゥム』の声に感応してしまった子が出てしまったことに、総士や乙姫も動揺を隠せない。

 

「それで被害は?」

 

《ラジオに集まっていた子供たちは大丈夫だ。だけど…神樹のメッセージにあった女の子がその……『同化現象』に陥ってしまって》

 

「何だと!」

 

《それで力を使った。今は……寝てる》

 

「……また肩代わりしたのか」

 

《それでどうすればいいんだ?》

 

総士が苦々しげに呟く。一騎に潜む変性意識『万能感と救済意識』の表れなのか彼は同化現象を肩代わりする能力をもっているが、それを用いれば『同化現象』の症状の進行が進み『人』としての生存限界が近づいてしまう。前の世界の総てを引き継いだとはいえ、少女を救った一騎の身に何か起きてもおかしくはない。

 

「……こちらでも同化現象を含めて出来うるだけ早急に対応を検討する。それと、火急の事態以外は出来るだけ力を使うな。その少女の事も頼んだぞ」

 

《わかった……》

 

次々と起こる出来事に頭を抱えながらも総士は一騎にそのように告げ連絡を終える。

 

(転生初日というのにトラブルだらけじゃないか……まったく、『こんな子供だから信じてもらえない』と言ってられないな)

 

常人なら思考停止に陥ってもおかしくない状況でも総士は冷静に物事を見定め、今後の計画を練る。

 

「そ・・・当か。・・・ではない・・」

「・・・けど、・・のことよ。本日、『・・・・・答』は確かに」

 

「え……?」

 

すると、部屋の外から何やら慌てた様子の大人たちの会話が2人に伝わってきた。離れているうえにドアや壁を隔てているせいか断片的にしか聞き取れなかったが、その会話で聞こえてきた『ある専門用語』に乙姫は思わず目を丸くしてしまった。

 

「この世界にあるんだ……神樹のメッセージ通りなら」

「乙姫! おい、どこへ行くんだ」

 

乙姫が突如として部屋を出て行った。総士は思考を中断され、どこか確信をもった様子の乙姫の後を追う。

 

総士は考えに耽っていたため、大人たちが発した『ある専門用語』に気づいてはなかった。彼女を追うことで総士はその言葉の意味を目の当たりにすることとなる。




長らくお待たせして申し訳ありません<(_ _)>

リアルでの環境も変わり、休日などではソシャゲの『結城友奈は勇者である -花結いのきらめき-』『刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火』に没頭、他原作での小説を書いたりなどをして長らく手をついてませんでした。

章タイトルにもある通り、皆城兄妹は大赦サイドから開始ということで彼らの視点で『鷲尾須美の章』を語ることとなります。『結城友奈の章』の前日壇ということで、おそらくは『RIGHT OF LEFT』と同じような方式をとることとなる予定です……。

わすゆキャラいないじゃんとなりますが……次話で最も関わりが深くなる主要キャラの位置づけする子を出すこととなるでしょう。

更新が遅いですが、これからもよろしくお願いいたします<(_ _)>

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