絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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時期系列は『鷲尾須美は勇者である』の1年前からスタート。

しばらく一騎視点で物語が進みます。

2016/1/8 誤字修正


第1章『真壁一騎』の章【勇者-はじまり-】
第1話 出会いと事件


神世紀297年讃州地方のとある一軒家に真壁一騎と呼ばれる少年がいた。神樹により転生させられた1人である彼の意識は覚醒した。

 

「…ん」

 

その瞼がゆっくりと開かれる寝ぼけながらも思いきり足を蹴り上げ布団を蹴っ飛ばす。寝ぼけた頭だが薄暗い部屋の天井を見る。そこはかつて竜宮島の自室の古ぼけた和室の天井に似ているようで少し違う事に気付く。

 

そして、むくりと起き上がる。意識が覚醒した頭で今までの事を振り返り前世の記憶を思い出した。そして、島のコアである織姫と神樹から頼まれたことも。

 

行動を起こそうとし立ち上がった一騎はここで自らの違和感に気付く。明らかに自分の見ている世界が低く感じるのだ。辺りを見渡しカーテンを開けると窓に自らの姿が映った。

 

「(!?)小さく…なってる!?」

 

一騎は自らについて動揺している中、突如として部屋内に電子音が鳴り響く。ふと音をする方を見ると机の上にある端末の着信音のようだ。

 

「これ、電話かな?……総士!」

 

一騎は端末を持ち上げ、画面を見ると『皆城総士』と出ていた。端末の操作に少し手間どうが着信のアイコンに触れ電話に出る。

 

《一騎か?》

 

「総士!」

 

《どうやら、一騎も無事に転生とやらができたようだな》

 

「…あ、あぁ。総士もな…乙姫は?」

 

《ここよ。総士と同じところにいる》

 

乙姫が電話に出た。どうやら総士が端末を渡したようだ。

 

「乙姫もそっちにいたのか?」

 

《うん。今の私は総士の本当の意味での妹として覚醒したみたい》

 

「え!」

 

《変わっていた事には私もだし、総士も驚いてたよ。その時の総士はね…《っ…乙姫!そ、それ以上は止めて変わってくれ!》総士に止められちゃった…変わるね》

 

電話の向こうで総士が乙姫の発言に慌てていたようだが、何回かコホンとせき込み落ち着いた総士が一騎へと告げる。

 

《……今のは気にしないでくれ》

 

「……総士はどこにいるんだ?」

 

《そこから離れた街だ。車で1時間弱の距離だからだから気軽には会いに行きづらいな》

 

「そうか。ところで俺はどうすればいいんだ?」

 

《まずは神樹の言っていた端末の情報とやらに目を通しておくんだ。この端末はどうやら日常生活に特化した一種のツールだ。極めて便利だ。見てみたら転生直後の僕らの経歴みたいなものもあった。それとどうやら神樹から僕たちにそれぞれ役目があるらしく事が起きるまで日常を送りつつ過ごせだそうだ》

 

「……役目ってのはなんなんだ?」

 

《僕の場合は神樹を奉っている組織の一族のところにいるからアルヴィスのように根幹に関わっていきそうだ。その関係でやる事もあってしばらく自由に動けない。すまないが…そっちはなんとか1人でやってくれ。幸い連絡手段はある互いに連絡を取り合おう《総士~呼んでるよ~》何かあったら連絡してくれ》

 

「……あぁ。こっちも頼らせてもらうよ」

 

総士や乙姫の無事にほっと安堵する一騎。電話を切り、総士が言っていた情報とやらを見ることに。電話には手間取ったが端末の操作はアルヴィス内で少しはやっていたこともあってかすぐに中身を見ることができた。

 

それには神樹からのメッセージも同封されていた。

 

【真壁一騎さんへ

 

この端末を起動させたということは無事に転生は完了したということですね。この端末は来るべき時に必要で先に言っておいたこの世界の情報はこの端末から見ることができます。なるべく手元から離さず持っておいてください。

 

身体が小さくなってるのはこれから出会うであろう子達に年齢を合わせたからです。なお、転生した貴方方には役目があります。貴方の場合はとある女の子を護ってください。そのために、その人の家の近所へ引っ越したということになっております。

 

島のミールの祝福でフェストゥムとなったと聞きましたが、転生し新たに人として生まれ変わってもその力は健在です】

 

「……」

 

神樹からのメッセージを見てしばし唖然とする一騎。

 

【敵の事に関してはあなた達に不便にならない様配慮、特に制限を設けることも致しません。すべて貴方達にお任せいたします。重ねて言いますが、どうか新たな世界での人生に幸があらんことを】

 

メッセージを読み終わり、この世界の情報や経歴を一通り目を通す。

 

一騎は立ち上がると部屋の窓を開ける。

 

「……ここが神樹の言っていた世界か」

 

そこには竜宮島のように海と山に恵まれてはいるが自然と営みとの調和がとれており、少なくとも表向きの竜宮島よりも文化が進んでいるような感じだった。

 

神樹からのやるべき事もあるが、一騎はこれから生きることとなる風景や営みに見惚れてしまっていた。

 

「本当に平和だな……それに島に似たような感じもあるか」

 

『カズキー、起きてるの?』

 

不意に部屋の外から女性の声が聞こえた。

 

「(ん、そうか。こっちの世界での両親がいるんだった)。いるよ、母さん」

 

『お隣の結城さんのところへ挨拶に行かないといけないから降りてきなさい』

 

「わかったよ。(久しぶりに母さんって言ったな)」

 

 

 

着替えた一騎は二階の自分の部屋から一階の居間へと下りると母親らしき女性がいた。

 

「(!?)」

 

「どうしたの、一騎?まだ寝ぼけているのかしら?」

 

「いや…なんでもないよ。(ここまでやるのかよ)」

 

この世界での母親はかつて自分のいた世界の母親『紅音(あかね)』とうりふたつで一騎は驚くもなんとか平静を装う。

 

「そう?食べたら行くわよ」

 

食卓に座ると2人は「いただきます」と食前の挨拶をし母親が用意した朝食を食べ始めた。

 

「(そういや結局世界からいなくなるまで戦い続けていたからこういうのは久しぶりだな。それに…こういう食事もだな)」

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

-結城家-

「昨日越してきました真壁です」

「…どうも」

 

昨日引っ越してきた(一騎が知ったのは端末の情報でだが)真壁一家は近所の結城家へ挨拶しにきた。一騎も母親に続いて頭を下げ簡単に挨拶をする。この場に父親がいないのは朝早くから仕事に出たと朝食の時に聞いた事を補足しとく。

 

「この子恥ずかしがり屋なんですよ」

 

呟き気味の挨拶に聞こえたのか母親がそれをフォローする。結城家の両親も挨拶を返し、結城家の居間へと通される。

 

「お母さん来たよ~。あ、こんにちは~」

 

入ってから少し経ち1人の女の子が入ってきた。話によると結城家の一人娘のようである。元々は赤髪のセミショートヘアを後ろで一つに束ねているのが特徴だ。女の子は一騎の姿を見つけ人懐っこい笑顔で彼に話しかけてきた。

 

「こんにちは。えっと、君は?」

 

「私は『結城(ゆうき)友奈(ゆうな)』よろしくね」

 

「ほら、一騎も」

 

「あ…『真壁一騎』です。よろしく」

 

友奈と言う少女も交えて両家の会話が始まる。内容は子供である一騎と友奈にとってはどうでもいいかもしれないが互いの親の事もあってかその場で静かに聞いていた。

 

「ん?」

 

そんな中一騎は自分を見る視線に気づく、見れば友奈が時々こちらをチラチラと見るような動作を見せている。

 

「(なんでだろう…やっぱり気になっちゃうなあ)」

 

その様子を見た友奈の父が声をかけた。

 

「友奈、一騎君と一緒に出掛けてきたらどうだ?わざわざ付き合う事もないしね」

 

「(!?)いいの!お父さんありがとう~」

 

友奈の父から許可をもらった友奈は立ち上がると一騎の元へと駆け寄る。

 

「一騎君、行こ!」

 

「ああ、行こうか」

 

友奈は嬉しそうに一騎を誘う。一騎も友奈の気持ちをくんでなのか共に行くことにし、友奈の両親と自身の母に一言挨拶すると友奈と共に出かけることになった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:一騎

互いの両親に気をつかわれたのか近所の一人娘である友奈と出かけることになった。正直に言うとあのままあそこに居ても借りてきた猫のように大人しくなっていたと思う。

 

「ここが商店街でね~近くには大型のショッピングモールもあるけど、私はこっちの雰囲気が好きかな」

 

今は、こんな感じで案内してもらいながら友奈の話を聞いている。ちなみに最初は苗字である『結城』で言おうとしたら「名前で呼んで」と返されたのでそのまま名前で友奈の事を呼ぶことにしている。

 

案内されながら彼女と話してみると印象としては天真爛漫で相手の事は放っておけないといった性格であるのが印象に残った。俺は口数は少なく話題に乏しいこともあってか話題があまり続かない方だ。そんな様子を見た彼女はあの手この手で話題を振り場を和ませようとしてきたほどだ。

 

「……ど、どうしよぉ~」

 

「(!?)君、どうしたの?」

 

案内の最中困っている女の子を友奈が見つけ俺たち2人はその子に駆け寄った。

 

「ネコちゃんがね…あの木に登って降りれなくなったの」

 

「君のか?」

 

「うん……」

 

「よぉし、私達が助け出しちゃうよぉ~」

 

「本当?お姉ちゃん、お兄ちゃん」

 

友奈はこう言ってるが、猫が登っている木は相当な高さである。よく見るとどっかから落ちたのか前足を切ってしまった様な傷があった。

 

「とにかく、助けなくっちゃ!よいしょ!」

 

友奈が木に登ろうとしたが少し進んだ辺りで滑り降りてきた。どうやら、木の幹が滑りやすいせいか伝って登るのはきつそうだ。

 

「うぅ~全然駄目だ」

 

「友奈…登って助けるのもいいんだけど…穿いているものを考えような」

 

「(!?)あはは…ごめんね~」

 

危うく友奈のスカートの中身が見えそうになって俺は顔を赤くしながらも顔を背けた状態で言った。

 

「ど、どうしよう。お兄ちゃん」

 

女の子は俺を頼ってくる。この木じゃあそのままは登るのはきついな。辺りを見渡すと一番低い枝は2メートル半くらいだ。今の俺の身長でもそのまま跳んでも届かないな。……ん、ふと見ると近くに足場となりそうな土管ブロックがあるな、これなら……。

 

「2人共ちょっと下がってろ」

 

俺の一声で2人を下がらせる。俺は距離を稼ぐために一旦下がり加速し走る。そして、土管を足場にして跳び一番低い枝を掴みぶら下がった。

 

「「ふ…ふぇぇぇぇ!」」

 

2人と猫は驚いているが枝をよじ登るとそのまま猫の元まで登っていく。

 

「驚かせてごめんよ。良い子だからこっちに来い」

 

猫に近づくにつれ慎重に事を進める。猫は俺が登ってきた時に刺激したようで驚いていたものの落ち着くまで待ったのもあってか警戒心を解いた。俺はすぐさま猫を抱きかかえるとその場から下へと飛び降り、唖然としている女の子へと手渡した。

 

「はい、もう離すなよ」

 

「うん、ありがとうお兄ちゃん」

 

「今度からは気を付けてね」

 

やれそうに思ったから試してみたけど島にいたときの『天才症候群』の身体能力はあるみたいだな。その後、女の子はお礼を言うとそのまま駆け出して行った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

No side

「すごい~すごいよぉ~一騎君!」

 

友奈は一騎の身体能力に感激し色々聞いてきたがなんとかこなした。一騎は照れくさそうにしている。

 

「一騎君があんなに運動が出来るなら、うちの武術やったらきっとうまくなりそうだよ」

 

「武術?友奈もやってるのか」

 

「そうだよ~。お父さんから習っててマッサージだってできちゃうんだよ」

 

「それ…武術と関係あるのか」

 

先程の出来事もあってか一騎と友奈の会話も弾む。2人は連絡もあったこともあり家路へとついていた。

 

「僕が直したんだ。だから、僕のものだ!」

 

ふと通りがかった公園でそんな子供たちの声が聞こえ2人の足が止まる。会話の内容を聞いているとその輪の中心にいる子がゴミ捨て場にうち捨てられたラジオを直したようで自慢しているようだ。

 

「へぇ~私よりも小さいのに凄いねぇ~」

 

「えっへん!」

 

友奈はそんな様子に脳天気な声で語る。

 

「そういや本当に聞こえるのかよ」

「俺、聞いたんだって。本当だよ!」

 

「『声』ってなんなのかな?」

 

「この前いじってたら偶然聞いたんだ。……「とても綺麗な声」が」

 

「『声』?」

 

それを聞いた一騎の表情が変わる。「とても綺麗な声」に関して…それは一騎たちの前にいた世界で明らかに知っているものだったからである。

 

「ねえ、ラジオの音が変だよ」

 

その時ラジオから聞こえてきたノイズが擦れ、キーンという耳鳴り音が辺りに鳴り響くと音が消えた。

 

いつの間にかラジオ周りにいた子供たちはその沈黙により皆息を呑み、ラジオに注目していた。

 

 

 

【あなたは―――】

ラジオから心を撫でる心地よいようで綺麗な声が聞こえた。

 

 

 

【そこにいますか?】

 

 

 

「―――っ!!!」

その中でただ1人そのラジオの『声』を知る一騎は咄嗟に動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あれ?」

 

友奈は何かに揺られているような感覚を感じながらゆっくりとその瞼を開ける。

 

「友奈、やっと目覚めたか」

 

「一騎君?あれ、私なんで…っ!!!」

 

目覚めた友奈の顔が一気に赤くなる。何故なら今彼女は一騎によりおんぶされた状態で運ばれているからだったからだ。どうしてこうなったか友奈は一騎に尋ねた。

 

「…あのう、どうしてこうなったのかな」

 

「……ラジオからキーンって大きな音が鳴り響いてな。俺は咄嗟に耳塞いだからなんともなかったんだけど他の子が急に倒れて。幸い介抱したらすぐ起きたんだけど友奈だけ目覚めなくてそのままおぶって家まで行こうとしたんだ」

 

「そうなんだ…。なんだか迷惑かけちゃったかな」

 

「歩けるのか?」

 

「うん、大丈夫。本当にありがとうね」

 

そんな友奈は太陽のようなまぶしい笑顔で微笑みお礼を言ってきた。それを見た一騎は一瞬顔を赤くしてしまった。

 

「一騎君?」

 

「なんでもないよ、友奈」

 

友奈のきょとんとした顔を見てなんとか一騎は持ち直す。2人は自分たちの家までの道をお互いの事で色々話ながら再び歩き始めた。

 

そんな中、一騎は友奈に対して気になった事を聞いてみることにした。

 

「そういえばさ」

 

「友奈って結構人は放っておけないのかな?」

 

「そうだよ~」

 

「どうして?」

 

「う~ん、なんというか……わからないや」

 

「え?」

 

「誰かが困っていていたり、傷付いてしまうことがなんとなくというか…いやなんだ。それで体が勝手に動いてしまうというか…あはは、なんだかしんみりとした話になちゃったね」

 

友奈は誰かを放っておけない性格なのか困った人を見ると助けに行ってしまう。そういう行動に関しては深くは考えたことはないらしい。

 

一騎は友奈の言葉に彼女の本質を見たような気がした。

 

「あぁ~もうこんな時間。お昼ごはんだから戻って来てって言ってたんだ!一騎君、急ご!」

 

「あぁ。わかったよ」

 

友奈は思い出したかのように足を早めた。

 

 

 

「(しかし、まさか俺の時と同じような事が起きるなんて…力を使ってなかったら相当まずい事になったぞ)」

 

本当のことを言えば、あの声で友奈や子供たちは相当()()()状態に一瞬はなった。……が、一騎がいたことであの場をいさめることが出来た。

 

「(……俺たちが体験したあの事と同じなら奴等は近いうちにきっと来る…総士と乙姫にも伝えたから大丈夫だと思うが)」

 

今は事が起きるまで見守るしかない。実はというと、友奈は神樹の言っていた護るべき女の子だそうだが、そのような任務のようにただ守るという感情ではない。ただ、今はこの世界の人間として、

 

 

 

――― この子を守ろう。

 

 

 

そんな当たり前の感情が芽生える。一騎は気持ちを新たにし友奈に追い付くと2人は家へと急いだ。




ゆゆゆ主人公『結城友奈』と転生後の一騎との出会い回でした。ラストはちょっとした事件がおきましたのでまたゆゆゆ成分が少な目になってしまった…。

一騎の母親である紅音は完全なそっくりさんとなっておりますので接点はほぼないと思います。

次話は結構時代が跳びます(以下予告)。
神世紀299年、中学へと進学となった一騎と友奈。そこで新たな2つの出会いが待っていた。

「貴方のお名前は?」

「私は……」

1人目は結城家の近所に越してきた後の友奈にとっての親友となる女の子。

「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」

「ほぇ!」

「え?」

「ん?」

「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」

「なぜ、2回も言ったんだ……」

2人目はドヤ顔の1つ上先輩である女の子。

第3話『勇者部』…【あなたはそこにいますか】

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