2016/1/14:誤字及び一部修正。一部反映し忘れてました。
2016/12/8:誤字及び一部修正。
-神世紀299年春 結城家 道場-
一騎と友奈が出会って特に大きな出来事もなく早2年も経った。一騎は肩透かしを食らわされた様な気分だったがこれ以上行動を起こそうにも自らは裏方としてもやれそうな事はない。大赦という組織にいるらしい総士と乙姫に今は任せるしかない。
幸い一騎の体の調子の方もこちらの世界では特に問題なく、色々を試してみた所むしろファフナーに乗る前のいわゆる全盛期な状態でかつさらに強靱にしたような体となっていた。
先の事を考えていたが、ある時前話での一騎の活躍を聞いた友奈の父から、
『うちの武術も習ってみないか?』
との誘いを受けた。「教えてもらった方がいいか」と思った一騎はその申し出を受けた。
「えぇい!!」
現在はこうして隣人として親しくなった友奈と日々を過ごしてることもあってかこうして一緒に稽古を受けたりもしている。友奈は華奢な見た目とは裏腹に鋭い突きを一騎に向かって放つ。一騎はそれを一つ一つ捌いていく。
「きゃぁ!」
果敢にも懐に飛び込みラッシュを仕掛ける友奈だったが、一騎は一瞬の隙を突き友奈を投げ飛ばした。一騎の一本勝ちである。
「(やりすぎたかな?)大丈夫か、友奈」
「大丈夫だよ一騎君」
友奈はゆっくりと起き上がる。昔から武術を叩きこまれている身として身体能力は十分高くしっかりと受け身をとっておることもあり打ち身とかの影響はないようだ。
「そこまで、今日はここまでにする」
「え、お父さんちょっと早い様な」
ボケる友奈に対し、一騎は少し呆れふと息を吐くと友奈に問いかけた。
「あのな友奈。今日は何の日か分かってるのか?」
「今日、何かあった……ような?あぁ~~~!!!」
友奈は突然立ち上がり足早に道場の出入り口へと向かった。
「……すみませんね。うちの娘が」
「もう慣れたようなものですから……それじゃあ俺もいったん家に戻ります」
余談だが真壁家では両親が共働きでいないことが多く一騎は結城家でお世話になっている。そのため友奈のこういう光景ももはや見慣れた様なものである。
――――――――――
side:結城友奈
お父さんや一騎君に言われてやっと思い出した。今日隣の家にまた新しい人が越してくるんだった~!
この日を楽しみにしていた私は道場を飛び出すとシャワーで汗を流してすぐに身支度して外に出た。そうすると、一騎君とは反対側のお家で引っ越しの作業を始めていた。
ふと見ると門の前にそれらしい姿が、
「新しいお隣さんだ!」
私の声に気付いて車椅子の子がこっちに気付いて振り向いた。特徴は長く伸ばした黒髪を青地に2本の白い線が入った大きめのリボンで纏めてる…綺麗で凄く可愛いなあ。
でも、なんだか不安そうで俯いているようだった。それに突然の事でなんだか分からない顔でこっちを見てるなあ。よぉし、
「同じ年の女の子が引っ越してくるって聞いてたから楽しみにしてたんだ!」
「この子と仲良くなりたい」という思いで一杯の私は手をさしのべる。
「年が同じなら同じ中学になるよね。私は『結城友奈』宜しくね」
私はにこりと微笑む。車椅子の子はさしのべられた手を掴むと私をじっと見る。すると表情が少し柔らかくなったように見えた。よかったやっぱ笑っている方がいいよ~。
あ、一番重要な事を聞かなきゃ!
「貴方のお名前は?」
「私は……『
東郷さん…かっこいい苗字だねえ。
side out
友奈と『東郷美森』という名の車椅子の少女の名前の紹介が終わった頃2人は不意に足音が聞こえそちらに振り向いた。そこには彼女らよりもひとまわり背の高い黒の短髪の男の子が立っていた。
「一騎君!」
「友奈、先に挨拶は終わったのか」
「え?知り合いなの」
東郷美森という少女は突然現れた見知らぬ男の子におどおどとしていたが友奈の知り合いということで警戒心がいく分か解けた。
「紹介するね東郷さん。この男の子は『真壁一騎』君。私の家の近所の子でちょうどあなたとは反対側になるよ」
「『真壁一騎』です。ええと…」
「『東郷美森』よ」
「よろしく、『東郷』」
「よろしくね。結城さん、真壁君」
東郷は友奈と一騎の手をそれぞれ握り握手をした。
――――――――――
3家の子供たちの顔合わせも終わり、友奈が東郷にこの辺を案内したいとの希望で一騎もそれについていくことになった。
そんな中案内したのは近くの大きめの都市公園だ。今は桜の時期と重なっているためかどの樹も桜の花が咲き誇っている。そんな中を友奈は東郷の車椅子を押し、一騎は一歩後ろからそれに続き公園内を色々とお互いの事などで話ながらうろついている。
東郷も徐々に打ち解けてきたようなのか自分の事を話す事が多くなる。東郷が料理が趣味ということで一騎がそれに興味をもったのが切欠である。
「一騎君も料理できるんだ」
「まあ、それなりに」
「結構美味しいよ。東郷さんのもいつかきっと食べてみたいかな」
「そう…ね。今はこの身体だし、慣れてきたらってことでいいかしら?」
一騎は前の世界では幼い頃から料理をしているし喫茶店の雇われコックもしたことがあった。口数が少ない彼でもこういう話題には自然と会話が続く。
「あ、ちょっと行ってくるね。一騎君、東郷さんの事をよろしくね」
会話も一段落し友奈はある桜の木の下につくと傍に車椅子を止めて離れて行ってしまった。何か作業をしているようだが、一騎はこの場合どうしようかと考えていたが、東郷が先に口を開いた。
「あ…あの」
東郷は思い切って気になった事を一騎に聞いてみる。
「ゆ…結城さんは…なんで私のためにここまでしてくれるのかしら?」
「ここまでって?」
質問の意図がわからず首を傾げる一騎。
「結城さんは事故で足がこうなって…記憶も失った私にこうして向き合ってくれている。それでなんでここまでしてくれるのか、どう考えているのかが気になってしまって」
一騎は思った。友奈は東郷にとって事故で不自由な体になって始めて出来た友達だ。それに事故の事で悲観的になっているようだ。自分にうまく言えるかと問いかけるが、
「……そうは深く考えてないと思うよ」
友奈とはそれなりに付き合いがある事で自然と思った事を口にできた。
「え?」
「多分、東郷と仲良くしたいってことしか考えてないんじゃないかな。2年も一緒にいるけど、あの子は本当にまっすぐなんだ」
一騎なりに友奈の事を東郷に説明していく。そうしていると友奈が2人のもとへと戻ってきた。
「東郷さ~んおまたせ~。はい、これ」
友奈は東郷に即席で作ったのか桜の花びらであしらった押し花の作品を手渡した。
「さっき東郷さんが桜の花びらを持っていたのを思い出して作ってみたんだ。今日仲良くなった記念だよ。これからもよろしくね」
手渡されたプレゼントと友奈の笑顔に東郷の表情が緩む。東郷はそれを純粋に『嬉しい』と感じた。
「ありがとう…友奈ちゃん」
「(!?)うん!」
東郷は友奈に満面の笑みでお礼を言うと一騎へと向き直った。
「……友奈ちゃんの事、教えてくれてありがとうね…一騎君」
「わぁ…一騎君まで名前で呼ばれちゃった~」
――――――――――
数日後、一騎・友奈・東郷は地元の中学『市立讃州中学校』へと入学した。一騎は前の世界での竜宮島での学校ではみんな私服だったためこちらの学校の制服の着心地に違和感を感じていたがようやく慣れてから1週間が経った頃、
「友奈ちゃん、チアリーディング部に誘われていたんでしょ。入らないの?」
「押し花部からの誘いだったらなあ」
「そんな部活存在しないでしょ」
「そだね~」
放課後校内では部活動の勧誘が盛んに行われていた。友奈と東郷はこれといった部活が見つからず校内を徘徊していた。
「あら」
「東郷さんどうしたの?」
2人の正面から見慣れた顔の少年が接近してきた。何かに必死な様子である。
「「か…一騎君!?」」
「(!?)友奈、東郷、頼む!」
「ど…どうしたの!?」
「ちょっとここに隠れるから誰が聞いてきてもはぐらかしてくれ!」
「なんで…「いいから!」」
一騎は2人にそう頼み込むと空き教室へと身を潜めた。友奈と東郷はそれに唖然としていると幾多のも足音が彼女たちの耳に届いた。
「どこいった少年!!!」
「仲良く部活地獄としゃれこもうか!!!」
「こっちに行ったはずだ、探せ!!!」
彼女たちの目の前を一団が通り過ぎって言った。全員目が血走っているせいで2人はそれに恐怖した。そんな中にいた1人が足を止め彼女たちの姿を見つけた。
「おい!」
「は…はひぃぃ!」
「黒髪の1年生が通って行かなかったか?」
「……すみません、会ってはないです」
「そうか、邪魔したな」
一団がいなくなると友奈は空き教室にいた一騎を呼んだ。
「一騎君、行ったよ」
「はぁ……行ったか」
「どうしたのよ、一騎君。それにあの一団はいったい」
「いや、なぜだか知らないけど。運動部からの勧誘がしつこくってな。あれはその勧誘の人たち……」
「そんなになの、一騎君?」
「野球部にバレーボールにサッカー…というか運動部ほぼすべてからだな」
「うわぁ……」
中学に入ってから普通に馴染み溶け込むことができた一騎だったが、ここ最近の悩みはこうした運動部関連の勧誘らしい。放課後になるとこうしてほぼ勧誘に追われていた。
友奈と東郷と合流し3人は校内を徘徊してると友奈が一騎に質問してきた。
「一騎君は入りたい部活はあるの?」
「特にはないけど、運動部とかのああいうのはちょっと…でも無下にはできないからなあ」
「難しいわね…」
「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」
「ほぇ!」
「え?」
「ん?」
不意にかかる声を聞いたため3人の足は止まった。
「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」
「なぜ、2回も言ったんだ……」
3人が振り向くとそこには1人の女生徒がいた。特徴としては黄色の長めの髪をシュシュで2つのテールにしている。また、友奈や東郷よりも一回り背の高い女の子だ。
「あたしは2年生の『
『勇者部』という聞き慣れない部活名に首を傾げ、互いになにそれといった感じで見つめ合う一騎と東郷。
「『勇者部』……とってもワクワクする響きです~!」
「「えっ!」」
そんな中友奈は興味津々の様子で目を輝かせている。
「わっかる~。フィーリングあうねえ」
風は勧誘用に持ってきたチラシを渡し、3人に『勇者部』についての活動内容の説明をした。世のため人のために活動をするのがモットーで要約すれば様々な活動や部活動の助っ人などをする何でも屋のようなボランティア部に近い部活動である。それを恥ずかしがらずに勇んでやる事から風が『勇者部』とつけたらしい。
「私憧れてたんだよね。勇者って言葉の響きに…かっこいいなって」
「その気持ちがあれば…君も勇者だ!」
「おお~勇者!是非とも入部したいです!」
「凄いところに食いつくわね……でも、友奈ちゃんらしい」
「東郷さんも入ろうよ~」
「えぇ」
どうやら、友奈と東郷は『勇者部』に入る事を決めたようだ。その一方、2人を他所に一騎は迷っていた。
「一騎君も入らないの?」
「と言われてもなあ」
「ん?あんた、どっかで見たと思ったら運動部に追われている1年の男の子ね」
「知ってるんですか」
「あんな様子を見せられたらただ事じゃないって誰でも思うわよ。『勇者部』部長として事情聞いてあげるから話してみなさい」
「私が説明します。実は……」
友奈は風に一騎の事情を説明した。それを聞いた風がにやりと笑い、ニコニコしながら一騎へと向き直った。
「ええと、真壁だっけ?」
「な、なんですか」
「運動センスが抜群なんだって?」
「は…はい」
「でもさ、なんで運動部には入らないの?」
「……取り合いが激しくて何処入ってももめそうだから」
「取り合うってそんなになの?」
「友奈ちゃんから聞いた話だけなんですが一騎君は小学生の頃、この地区ではトップクラスの運動能力でスポーツテストの記録を全部塗り替えたそうなんです」
「まじんこで!!!」
「大まじです!!!」
友奈は一騎の元へ駆け寄り手を握り上目使いで彼を見る。
「一騎君としても放っておけないんだよね?」
「……まあ、そうだけど。頼ってくれてるわけだから下手には断りにくくって……」
「ははぁ~ん、だったらなおさら『勇者部』に入った方がいいんじゃないのかしら?」
「はぁ!?」
風の提案に一騎は素っ頓狂な声を挙げる。風は畳みかけるように自らの考えを一騎へと伝える。
「助っ人としてあたし等が公平に管理すれば問題はなさそうだと思うわ。そこら辺は交渉する。それに真壁は見た感じあんまり人付き合いは得意な方じゃないようだし。知り合いと同じ部なら気が楽だと思うわ」
「一騎君、風先輩もこういってるし一緒にやろうよ」
「友奈ちゃんもこう言ってるし、風先輩もなんとかしてくれるようだからこれほどいい条件はないと思うわ」
「……わかったよ」
こうして風の入れ知恵により一騎は悩んだが、結局友奈や東郷の援護もありいい感じに言いくるめられその方がマシかと割り切り勇者部へ入部することに決まった。まだ、部活動の入部申請の時期ではないということで入部の確約を取り付け今日は解散となった。
―――――――――――
side:犬吠埼風
【・ ・ ・ 送信しました】
あたしはある所へとメールを送信する。これほどうまくいくとは思わなかったけど当初の目的は達成できた。
みんなには黙っているけどあたしにはある秘密がある。それも世界に関わる事だ。でも、騙しているような気分だしこのまま黙っていてもいいのかしら。
駄目…みんなの顔が頭をよぎって…素直には言えないよ…。唯でさえあたし等の班が可能性が一番高いし早めにこういう覚悟させないといけないのに……もしかしたら選ばないかもしれないけど……。
今は心のうちに潜めておこう。機会が出来たら…なんとか言えればいいし。あの子達いい子そうだから…多分、大丈夫。
「でも、なぜ大赦は男の子である真壁も手元に収める様指令を出したのかしら?」
あたしはそんな事を思いつつも家路へと急いだ。そろそろ可愛い妹が帰ってきていると思うからね。
まだまだプロローグ部分が続きますが次話で終了し、その次の話から原作本編へと入ります。
以下、次回予告
ひょんな事から勇者部に入った一騎であったが幼馴染の友奈とその親友である東郷とともにそつなくこなし、学校生活を送っていた。そんな中頃、
「皆さん。今日は転入生を紹介します」
「『皆城総士』です。宜しくお願いします」
一騎の盟友である総士の転入がしてきた。この事でもう一つの出会いが紡がれる。
「お、お姉ちゃん!どうしてこっちの学校に」
後の勇者部の後輩となる1人の女の子であった。
次回、第4話『集う者たち』
「君はこのまま『秘密』を仕舞い込んでもいいのか?」
「あたしは……」
…【あなたはそこにいますか】