『蒼穹のファフナー』でおなじみのあの店を『結城友奈は勇者である』の世界でも出します。
――― 前話終了より時間は少し戻って
「ここだ」
「…ここって小学校じゃないか。こんなところで誰が?」
「すぐにわかる」
「毎回こうだな」と思った一騎は総士の言う通り正門の前で待つ。すると、こちらに向かってくる小さな少女の姿に気付いた。
「総士~!」
「はしゃぎ過ぎだ、乙姫」
「会いたかったのって…乙姫の事か」
「そうだよ一騎。久しぶりね」
2人に駆け寄ってきたのは総士と同じ日に小学校へと編入した乙姫であった。
「本当に…久しぶりだな」
一騎は微笑み乙姫を迎える。
「さて、こうして再会できたのは喜ばしいことだが…あちらの方はどうしようか」
総士が視線を送る方向を見ると4人の少女がいる。なにやら慌ただしい様子のようだが…。
「あの人たちは?」
「俺の所属している部活の人たちだな。1人は部長の風先輩の妹さんだな」
「そうなんだ。でも、一騎が部活するなんて……ちょっと意外」
「押しに負けたというか……って乙姫!?」
乙姫が走って勇者部の方へと行ってしまった。総士はそれに頭を抱え、
「……困ったものだな。一騎、僕たちも行くぞ」
「……苦労してるな、お前」
一騎と総士も乙姫の後へつづいた。こうして、前話の出来事に続くのである。
―――――――――――
勇者部の3人+樹は一騎・総士・乙姫と共に当てもなく歩いていた。
「本当にっすみませんでした!」
「……」
「……風先輩、俺たちはそんなに気にしてませんので頭上げてください…」
ある意味潔い風の謝罪に一騎と総士は対応に困ったが本人たちも特に気にしていないとの事でその場は収めることにした。
「え?私の1個下なんですか!」
「そうよ。たまに総士といるともっと下に見られちゃうことがあるけどね」
「こんなに小さいからねえ~お兄さんが大きいからなおさらだよ」
「そうなると名前で呼んだ方がよろしいかもね」
「うん。名前で呼んでいいよ。総士と区別がつかなくなっちゃう」
その一方で風を除いたガールズトークが始っていた。引っ込み思案の風の妹樹も無邪気な総士の妹乙姫と色々話して気があったのか雰囲気は良好のようだ。
「成り行きでこうなりましたけどどうしましょうか?」
「そうだな」
「なんだか迷惑をかけたようだし、ここはこの勇者部部長犬吠崎風がこうして知り合ったゲスト2人を入れてかめやでおごってやるわ!!」
「おお~風先輩太っ腹です!」
「お…お姉ちゃん悪いんだけど、かめやさんは今日定休日じゃあ」
「な!犬吠埼風…一生の不覚、うぅ~穴があったら入りたい…」
「そんなこともあるよ、よしよし」
樹の突っ込みで汚名返上とならず落ち込む風の頭を乙姫が撫でる。彼女なりの慰め方のようだ。
「だったら、俺の行きつけの店がありますのでそっちに行きませんか?」
「え、真壁の行きつけの店?珍しいわね」
「あぁ~もしかしてあの店か~」
「あの店ってなんだ?そんなになのか」
「来ればわかるよ。(総士と乙姫なら多分驚くと思うよ)」
総士と乙姫にそっと小声で囁いた一騎。総士と乙姫は首を傾げるも一騎を先頭にみんなが続いた。
――――――――――
「懐かしいなあ。私は久しぶりに来たよ~」
友奈の脳天気な声と共にどうやら目的地についたようだ。
「あはは……」
「(一騎、なんでこの店があるんだ……)」
「(俺だって最初見た時は総士と同じ感じだったぞ)」
一騎が案内したお店は洒落た小さな喫茶店だったが店名が『楽園』、竜宮島にあった店と同じ名前と外装を見た総士と乙姫は唖然とした。
「落ち着いている感じですね」
「ほ~なかなか雰囲気ある店じゃないの」
「なんだかふらっと寄りたくなる気がします」
「こっちに越して母さんにつれられて来たんだ。父さんの知り合いがやってるんだ」
東郷・風・樹がそれぞれ店の感想を述べると、一騎を先頭に店内へと入った。
「あれぇ~?なんだかずいぶんと忙しそうだよ」
友奈が店の混雑に気付く、夕方もあってか混雑しているのはわかるが店の対応が追いついていない一騎はそう思った。
「いらっしゃ…真壁の坊主か!」
「「(!?)」」
この店の店主らしき壮年の男性が応対した。その顔は総士と乙姫にとっては明らかに知っている顔とそっくりだったからだ。
「(一騎、もしかして店主の名前って)」
「(……溝口さんだよ。なんでか俺の周囲が知っている人のそっくりさんだらけなんだ)」
「(一騎もか…)」
一騎と総士が漫才のような会話をする中、店長が続けて言った。
「ちょうどよかった。シフトの代わり際に混雑しやがった。しかも、大学生のバイトが講義で遅れ気味だし、こちとら追加分のケーキを取りに行かないといけねえ。ちょっと手伝ってくれ!」
「…分かりましたよ。みんな適当に座っててくれ。ちょっと手伝ってくるから」
「一騎君、私も手伝うよ」
「それには及ばないわ。真壁、友奈!」
風がみんなの前に出て、胸を1回ポンッと叩く。そしてくるりとその場を1回転すると右手を前にかざしドヤ顔で言った。
「この窮地、勇者部が引き受けたぁぁ~!」
「か…かっこいい~~~!!!」
「え、えええええ!!!」
風のはっきり言うと恥ずかしい決めポーズに乙姫が目を輝かせ反応する。それに樹は目が点となり驚いた。
「お嬢ちゃんたち、あの噂の勇者部か!ちょうどよかった。後でサービスするから手伝ってくれないか?」
「風先輩が決めてしまいましたが、私もお手伝いさせて頂きます」
「任せてください~」
「お姉ちゃん、勇者部じゃない乙姫ちゃんと総士さんはどうすればいいの?」
「本来なら手伝う義務はないが……「総士~私らも手伝うよ」な!?」
「いいの乙姫ちゃん」
「せっかくこうして会ったんだし、いいでしょ総士」
「総士、俺からも頼む」
「……しょうがないな」
「お姉ちゃん、私も手伝うよ」
「さっすが私の妹」
乙姫ノリノリな様子で、親友である一騎の頼みで総士も渋々ながらも協力する事となった。勇者部ではないがその活動も姉からじかに聞いている樹もやる気の様である。
「真壁の坊主ならここのメニューの事分かってるから厨房だな。そうだな……後1人程厨房に入って、残りは接客……おっと小学生組は裏手の方で皿洗いだな。じゃ、俺は早々に行って取ってくるわ」
「友奈ちゃん、私をあそこまでお願い。一騎君、私は邪魔にならないように手伝うわね」
「あぁ。わかったよ」
「樹、乙姫連れて裏手の方をお願い」
「分かったよ。お姉ちゃん」
「で、問題は総士なんだけど…接客できるの」
「それぐらい僕にも出来る」
こうして楽園の店長の頼みで勇者部一同+3人はお手伝いが始った。
――――――――――
――― 1時間後
勇者部の一同+ゲストのみんなの奮闘もあってか夕方のラッシュの時間を乗り越えた。遅れて来たバイト店員の人たちの加入や店長が早々に戻ってきたこともあるが、各々の活躍が光っていた。
前世では雇われコックの経験もあってか手慣れた様子でメニューを仕上げていく一騎、車椅子ながらも手際が良く見た目以上に機敏に調理の補助を行う東郷。
接客の方も男性客に対しては気さくでサバサバとした風、明るく相手がとろけてしまうような笑顔を持つ友奈。女性客に対してはクールで落ち着いた総士。タイプが違う3人の活躍でトラブルなくお客店内でつかの間の一時を楽しんでいた。
一方裏の方では小学生ながら奮闘する樹と乙姫により綺麗になった食器が滞りなく供給された。
「いやぁ、本当に助かった。これは俺の驕りだ」
7人は既にテーブル席についており、目の前には店長が奢ったメニューであるカレーライスが置かれている。
『いただきます』
「ッ―――!……美味しい!」
「何これ!…何杯も食べたくなっちゃうわ!」
「頬っぺた落ちちゃいそうです」
「♪~」
どうやら大好評のようで、風に至ってはおかわりを頼んでいる。
「……何だか私の中での認識が揺らいでしまったかも。友奈ちゃんは前から来ているの?」
「そうだよ東郷さん、昔から何杯も食べてたよ。それでうどんと同じくらい好きになっちゃたんだ。……それにしてもまた腕前上がったのかな。前よりも美味しい♪」
友奈もこの店では常連といった立場である。そのせいかカレーに関してはうどんと同じくらい好きになったらしい。
「(この味、まさかな…)一騎、少し聞きたいことが」
「どうした、総士」
「……ここのカレーに関わってないか。どうもな、お前のカレーに似ているような」
「少し…ね。実は…」
――― 3年前
一騎が親につれられこの店を知った後、友奈と共に訪れた時に起こった出来事である。
「いつも来てくれてるからな。俺の新作カレーを食べてくれ」
「「いただきます」」
店長が店をもっとにぎわせたいとの事で新しく出す新作のメニューを開発し、こうして常連相手に試していた。その日は友奈と一騎だったが、事の次第は食べた後の友奈の一言で始まった。
「……一騎君が作ってくれたカレーの方が美味しいような」
「友奈!」
「ほう、話を聞かせてもらおうか嬢ちゃん、坊主」
「う……」
その後、店長に根掘り葉掘り聞かれた一騎だったが店長から協力を要請され新作の改良に着手し成功した。その後、一騎の腕前を認めた店長がこうしてメニューの監修を依頼するようになった。
――― 現在
「っていうことがあったんだ」
「……こっちでもコックとしてやっていけるんじゃないか」
「多分…ね」
――― prrr
「あ、ちょっと私出るわね」
店長の驕りのメニューを食べ、デザートを摘まみみんなが会話する中、スマホにメールがきたようで風が席を外した。
「(風先輩、またあの顔だったな)」
――― prrr
「一騎、すまない少し外すぞ」
「?あぁ」
同じく総士も席を外した。
――――――――――
【差出人:大赦
宛先人:犬吠埼風
件名:勇者支援者着任報告
本日を以って犬吠崎風が担当する地域にて大赦から勇者を支援する大赦一族の2人を遣わました。
神託の時も近くなっています。彼らと協力しお役目に備えるべし。
以下、大赦一族の名前及び画像が添付されている】
「…あの2人…大赦の一族の人なの」
風が大赦からのメールを確認し驚愕していた。すると気配を感じ後ろへと振り向いた。
「総士……」
最初は総士の事を『皆城』と呼んでいた風だったが妹の乙姫がいることがわかったので名前で呼ぶ。
総士は表情を変えずに風と向き合った。
「大赦からの連絡か」
「えぇ…驚いたわ貴方も乙姫ちゃんも大赦の人だったなんて」
「あぁ。とは言っても巫女でまだ幼い乙姫のサポートとして昔からこういう事に関わっている」
「昔?」
「こちらの話だ」
風はばつの悪そうなそうな顔をしながらも総士が大赦の者ということで頭を切り替える。
「それで何の用なの」
「こちらに来てすぐに会うと思ってなかったからな。こうして大赦に関わっている者同士少し話をしようかと」
「何よ?口説く気なのかしら」
「そうじゃないが…」
風からのからかいにわずかに表情が変わるもすぐに総士は気付いた。大赦の関連の話になるとどうも感情を押し隠しているように見える。そして、気になった事を聞いてみる事にした。
「……君はこのまま『秘密』を仕舞い込んでもいいのか?」
「…唐突過ぎないかしら?」
「時々そういう表情をすると気にしてた奴がいて、僕もこうして君と話してみて思った。僕の経験上だがこのまま黙って抱え込むのはよくないと思うが、無理に言う必要はないが……」
風は俯きながら考える。彼女なりに考えを纏めている様だ。総士はその様子から彼女なりにこの事に悩んでいるのが伺えた。風は総士も大赦の使者という事あまりにも的を得た発言から誤魔化せないと思い口を開く。
「これでいいのよ。……あたしは…いやあたし達が選ばれるとも限らないし、事前に言って選ばれなかったらまた辛くなるだけだし」
風なりの考えを聞いた総士はこれ以上は彼女自身も辛いと思った。
「わかった…。それが君の考えならここに来たばかりの僕からはこれ以上は言わない」
「え?」
「それだけ皆の事を思ってるから言えないのだろう?……変な事を聞いてすまないな」
総士は大赦内の使者について派遣された少女たちの事は知っている。大赦に関わる人たちの子だがお役目の事に関しては全くの素人だ。そういう子達に覚悟とかを問うのは無理な話である。事実、目の前にいる風ですらお役目に関する事を候補者たちに言えておらず黙ったままである。
「え…えぇ。それは気にしてないわよ」
「最後にこれだけは言っておく、いつか言わなければいけない時もくるかもしれない。それだけは忘れないでほしい。その時は、僕や乙姫も立ち会おう……そろそろ戻らないと乙姫たちが心配するな」
風もうなずくと2人は話ながら楽園の店内へと戻った。
「(真壁司令や遠見先生の苦労もわかるな…それをあの様な子たちに言わせるのはやはりどうかしている)」
と総士は心で思っていた。
「ねえ、お姉ちゃん」
店内にもどってくつろいでいた風に樹と乙姫が訪ねてきた。
「私も春から中学に入って勇者部に入るって乙姫ちゃんにも話したらね。乙姫ちゃんもも興味もって」
「私も勇者部の活動やってみたいと思って。友奈さん達が是非ともって言ってたよ」
「そっか~。でも、まだ小学生だから正式な部員にできないわね。ん~~、あたしから『特別部員』ってことで承認するわ」
「わ~い」
「ありがとうお姉ちゃん」
そう言うと乙姫は総士の元へ駆け寄った。
「総士もやってみないの?」
「…あまり気が進まないが…」
先程の風との会話で少し気まずい事もある。総士は自分がいてはデメリットしかないと思い断ろうかと考えていたが。
「ちょっといいからしら?」
風が総士の元へ駆け寄り耳元でささやいた。
「(さっきの事を気にしているようなら筋違いよ。もう終わった事だし、お役目と勇者部は別よ)」
風のささやきを聞いた総士は少し考えた後に「考えておこう…」と答えた。
―――――――――――
喫茶『楽園』での憩いの一時を過ごした後、7人は別れそれぞれ帰路へとついた。
一騎は友奈・東郷を家まで送り届けた後、総士たちと話す事もあるので総士・乙姫が讃州地方に引っ越したという家へ向かっていた。どうやら、一騎の住んでいる所と同じ方角でかつ近いとの事らしい。
「ここが僕たちの住む家だ」
「…大きいな。2人で住んでいるのか」
「そうだよ~」
そこは2人で住むには少し大きめの家がそこにあった。
「どちらの学校にも近いし、商店まではほぼ5分で便利だ。それに……」
「…また始まったよ…一騎、早く入りましょう」
総士からの説明を乙姫が止め、一騎は皆城家へと入る。そして、居間に通された一騎はソファーへと腰掛けた。
「さあ、久しぶりに直接話そうか」
「話すって何を……」
「これからの事だよ、一騎。そうでしょ、総士?」
椅子に深々を腰掛け、切り出してきた総士だったが一騎がぽかんとした様子で返した。乙姫はそれにフォローを入れる。
「そうだな。それを話そうか。それでいいか?」
「構わないよ」
「あの連絡があってから恐らく奴らがくると予想をたてた僕たちは大赦での地位を使って準備を進めようとした。それが僕たちの神樹からの役目みたいだったからな。そして、こちらに来たのは最も可能性が高いという事らしい」
「可能性って?」
「四国の結界である『壁』の向こうからやってくるこちらの世界の『敵』と戦う『勇者』が選ばれる事だ」
総士が続けて『勇者』の説明をする。神樹の言っていた『勇者』とは、こちらの世界で人類の生存圏を後退させた存在と相対するために神樹が選んだ少女の事らしい。
そして、敵は恐らくそのタイミングで侵攻するとの神樹からの通達で最も可能性の高い地域へと赴任したそうだ。
「それで俺はどうすればいい?」
総士は一騎に端末用のSDカードを差し出してきた。
「僕たち専用のシステムのデータが入ったものだ。スマホに差し込んでインストールしといてくれ。あとは時が来たらになるから、説明にも目を通しといてくれ……また巻き込んでしまうな一騎」
「どうなっても俺はやるだけだよ。総士」
「そういうと思ったよ」
一騎は既に覚悟はできている様だ。総士はその様子を見てある意味安心していた。
―――――――――――
その一方、赤く染まった世界にて……、
side:???
【ようやく12の存在も元通りになったか】
輝く大きな樹を目指し巨大な白い物体が刻々と集結しつつある中、その様子を見ている存在がいた。この世界に舞い降りた異質な存在である。
【……2年前…僕に近き者に邪魔はされたが……今度は絶対に】
以前とは違いしっかりとした『自我』があるようだ。その存在は輝く大きな樹を睨みつける。
【あの神樹を喰らって…僕が『生命の頂点』となり……この世界を手に入れる!】
――― こうして役者はそろった。
この3か月後、多くの星の煌きがこの世界の安寧の地へと集うであろう……。絶望という名の『祝祭』と共に……。
その時こそ、僕らの本当の役目が始まる。
だが、同時に彼女たちの日常がいったん終わる事を彼女たち自身が知る由もなかった。
――― 【皆城総士】
以下、解説。
●喫茶『楽園』と店主
外装及び内装はほぼ同じなイメージで。店主はファフナーの世界での異能生存体の溝口さんのそっくりさんです。もしかしたら、また出すかもしれない。
●犬吠埼風
作者から結構いじられていますが、『~は勇者である』では影の部分が大きいキャラでもありゆゆゆでは作者の贔屓キャラ。皆城総士と関わる予定。
●犬吠埼樹
作内では皆城乙姫と最も仲良くなるポジションいわゆる芹ポジになるかと。
そろそろ設定集でも作った方がいいのかな?
次回予告は、ゆゆゆ原作で言う第1話になるためなしです。いよいよ次話から原作突入となります。