何時からだろうか。
ゲームに胸躍るようなときめきを感じなくなったのは。
日々の仕事に追われ、自然とゲームにかける時間も減っていた。
いざやろうとしてもイマイチ気分が乗らない。
ソフトを購入するだけして、部屋の片隅の棚の上に無造作に重なっていく。
所謂'積みゲー'というやつだ。
そんなある日の就業時、最近同僚がやたらと欠伸をしている事に気がつく。
「最近やたらと眠そうだけど、ちゃんと寝てないのか?」
デスク上のモニターを凝視し、側からみたら仕事をしている風ではあるが、絶えず欠伸をしておりも今にも寝落ちしてしまいそうだ。
「いやさ、ちょっとゲームにハマっててさぁ…」
そう答えた同僚は言ってる側からまた欠伸をしている。
「流石に仕事に支障がでるのはマズイだろ…」
「そうなんだけどさ、マジで面白くて、昨日も…」
同僚はそこから昨日はギルドのメンバーとダンジョンに籠り、何々を狩ってたら未発見のアイテムがドロップしたなどと、さっきまでは魂が抜け切った人形のような状態だったのが嘘かのように目を輝かせて延々と話していた。
ここまで熱く語られるとゲームに興味を失っていた自分でも少し気になってくる。
「そこまでハマるなんてすごいな、ちょっと興味が湧いてきた。」
「お前もやってみろよ!ユグドラシルってゲームなんだけど、一緒にやろうぜ!俺のギルドのメンバーも紹介するしさ!」
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「これで準備は出来たかな。って結構初期投資で金がかかったな…」
「まぁ他に趣味も無いし、金の使い道も無いからいいか。」
話を聞いた日の会社帰り、同僚に無理やりショップへ連行されユグドラシルをプレイするために必要なコンソールなど一式を無理やり買わさた。
まぁ、興味も全くなかった訳ではないから無理矢理という事でもないかもしれない。
いざログインし、自キャラの名前を決め、キャラクターメイキングの画面に移動し、そのクリエイトの自由さに驚く。
「おいおいおい…こんなに細かく設定できるのか…」
大体この手のゲームのメイキングは数パターン雛形があり、その中で気に入ったものを選び、キャラクターを作成していくのが主だがユグドラシルのメイキングの自由度は常軌を逸しているレベルだ。
そんな中で悪戦苦闘しながらもなんとか自分が納得いくキャラクターを作り上げる。
「キャラ作るのに3時間も経ってるわ…」
ここでユグドラシルを勧めてきた同僚へキャラを作った事をメールで伝える。
「おー!キャラ作ったんだな!自由度半端ないだろ笑 」
「で、種族は人間種にしたんだよな?」
同僚からはユグドラシルの種族人口は圧倒的に人間種が多いと聞いていた。
始めは言われるまま人間種で始めようと思っていたが、メイキング時に異形種と呼ばれる種族も多数存在し、また選択できる事を知る。
「まぁ、リアルで人間だし、ゲームでも同じ種族にしてもつまらないかもしれない。」
種族をスクロールしていくと、龍人なる種族が目に止まる。
ふと以前やったレトロゲームの事を思い出す。
「確か昔のシュミレーションRPGのゲームのユニットに龍の騎士がいてカッコ良かったよな…」
そんな事を思い出し、種族は龍人に決めた。
「なんで人間種にしないんだよ…絶対に苦労するぞ…」
「今から人間種で作り直せって」
「いや、面倒くさいし、結構満足いくキャラが作れたから。ってかもうインしてるんだよ。笑」
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同僚の助言を聞いておくべきだったのか。
柄にもなくワクワクしていた気持ちはどん底まで叩き落される事となる。
所謂ゲーム開始時の初期村と言われる所までは良かった。
作り込まれた街並みやフィールド、そして個性豊かなNPC達。
ただただ驚愕していた。
もうこの時点でユグドラシルの世界観に魅せられていたと思う。
しかし、初期村周辺でレベルを少し上げ、次の街へ移動しようとしていた時である。
上級プレイヤーからPKと呼ばれる被害にあったのだ。
こちらは始めて間もない弱小キャラだ。
既存プレイヤーの攻撃に太刀打ちできるはずもない。
一撃でHPを削られ、広大な草原に崩れ落ちる。
「!???」
訳がわからないまま呆然としていると笑いながら2人の人間種のレンジャーが現れた。
「おいおい、弱過ぎだろ笑」
「だな笑 雑魚過ぎ笑」
同僚が苦労するぞと言っていたのはこの事かと。
現在のユグドラシルでは異形種狩りと呼ばれるPK行為が平然と行われ、それが流行しているという事だった。
しかもタチの悪い事に面白半分で異形種を選択した初心者プレイヤーを標的とする極悪ギルドもあるそうだ。
「始めて早々これか…」
久し振りにゲームに熱中出来そうな予感があったのに、気分はもう最悪である。
そんな時、自分の骸を上から優越感に浸りながら眺めていた2人の内の1人に閃光が突き抜ける。
バチッという音を立てさっきまで高笑いしていたはずが、ドサリと自分の横に崩れ落ちた。
「え?」
残った1人のレンジャーは自分の索敵スキル(危険察知)に全く反応がなかったのにも関わらず、仲間が一瞬で倒された事に驚愕し、狼狽し始める。
その刹那、レンジャーの体を白く透き通った刃が心臓を一線に貫く。
「ぐがぁ…」
無様な声を上げながら残りの1人のレンジャーも崩れ落ちた。
「全くこんな初期村でもPKするなんて、腐れ外道が…」
「本当ですね、たっちみーさん。」
「あ、今蘇生させますのでホームポイントには飛ばなくていいですよ。LV10以下はデスペナルティーはありませんけどね笑」
そこに立っていたのは眩いくらいに美しい白銀の鎧を身に纏った聖騎士と死がそこに降り立ったかのような禍々しさを放つ骸骨の魔法使い。
これが自分と異形種ギルド、アインズ・ウール・ゴウンとの出会いだった。