当時のサイバー技術とナノテクノロジーの粋を結晶し作り上げられたオンラインゲーム、DMMO-RPG ユグドラシル。
その異様なまでの自由なプレイスタイルやユーザー自身にて作成可能である膨大なグラフィック等、ゲーマーが熱中熱狂したタイトルである。
自分もそんな中の一人だった。
会社の同僚から勧められ物は試しにという軽い気持ちで始めてみた訳だったが・・・・
同僚と同じようにドハマリしてしまった。
いや、同僚よりハマってしまったと言っても過言ではないだろう。
インした初日に既存プレイヤーからPKされ最悪の気分を味わったものの、そこに現れたのは眩い白銀色の高貴なオーラを放つ鎧を身に纏った聖騎士と、その聖騎士とは全く正反対のそこに死が存在しているかのような禍々しい黒い負のオーラを放つローブに身を包む髑髏の魔法使いだった。
「初心者さんですかね?」
その死の魔法使いがその外見とは想像もつかない気軽さで自分に声をかけてきた。
「はい。今日から始めたのですけど、いきなり殺されてしまって・・・」
「今ユグドラシルでは人間種以外の種族のPKが流行ってますしね・・・」
「誰が始めたのかわかりませんけど、許せる事じゃないですよ。」
白銀の鎧を纏った聖騎士は怒りを言葉に滲ませつぶやく。
「あ!お礼がまだでした。蘇生してもらってありがとうございました。」
「いやいやいや! お礼なんていいですよ! もうちょっと自分たちが早くここを通りがかっていれば未然に防げたんですが・・
申し訳ない。」
こちらが助けてもらったのに何故か頭を下げ謝る禍々しい髑髏の魔法使い。
その見るものすべてが恐怖で凍りつきそうな恐ろしい外見とは裏腹に紳士的な物腰。
あまりのギャップに思わず笑ってしまう。
「ふははは!」
「え??」
「いや、すみません。あの失礼ですが、その恐ろしい外見なのにほんと紳士的なのがツボに入ってしまって笑」
「ああ笑」
「モモンガさんはうちのギルドのギルドマスターなんですよ。ひと癖ふた癖もあるギルドメンバーを纏めてるんですからほんとすごいですよ。」
白銀の鎧を身に纏う聖騎士はそう答えた。
「もう べつにすごくないですって。中身はただの凡人ですから。笑」
そんな感じでしばし時間を忘れて談笑する。
「では、本当にありがとうございました。いきなり心折れそうになりましたけどもうちょっと頑張ってみます。」
そうお礼を言い、その場を後にしようとした時。
モモンガと白銀の聖騎士は同じ事を思っていたのか、お互いの顔を見合わせた後に頷きこちらに再度声をかける。
「もしよろしければ自分たちのギルドに入りませんか?」
それからの日々は本当に楽しかった。
ギルドのメンバーと一緒にレベル上げをしたり、未踏破のダンジョンの攻略、レイドボスと呼ばれる各エリアにいるボス討伐に連れて行ってくれたりもした。
最初は足手まといではあったがゲームを続けていく内に少しずつではあったがギルドに貢献できるようになってきた。
またこのゲームには課金要素も多くあった為、特に趣味もなかった自分は金の使い道もなかったことから重課金することとなる。
「LV100到達おめでとうございます! おいもさん!」
「おめでとう、おいもさん!」
「ありがとうございます。モモンガさん、たっち・みーさん。」
「おー! おいもっち、とうとうLV100になったかーおめでとう〜」
遅れて部屋に入ってきたぺペロンチーノが嬉しそうにおいもに声をかける。
「ありがとうございます。ペペロンチーノさん。」
「これでナザリックの白と黒の盾は完ぺきだ。」
そう言うたっち・みーの言葉にモモンガとペペロンチーノはうんうん。と黙って頷いている。
白というのはもちろんユグドラシル上で5人もいないと噂される最強クラスの「ワールドチャンピオン」であるたっち・みーの事だ。
「いあ、たっち・みーさんには遠く及びませんよ・・・でも少しでもこれでみなさんの役に立つことが出来るいいなと。」
自分はキャラクターを作成したとき某レトロゲームのキャラから漠然と龍の騎士を想定し、タンク職になろうと決めていた。
ただ、その後、ギルド・アインズ・ウール・ゴウンに加入したことから若干キャラメイキングの方向性を考え直すこととした。
純粋な防御力ではクラス最強であるワールドチャンピオンのたっち・みーさんがいる。
攻撃力なら武人建御雷さん。
だったら攻防それぞれで役に立てるクラスはないものだろうか?そう考えたのである。
そこで導き出されたクラスが暗君(シャドウルーラー)と言われる暗黒騎士から派生する最上級クラスだ。
主な特徴は物理攻撃時にドレインが付与され、攻撃対象のHPを吸収できる。
これによりオートリジェネに近しい自己回復手段を得ることとなる。
また前衛職でありながら魔力が高く、その魔力を消費することにより相手に対し、さまざまな状態異常を物理ダメージと共に上乗せすることができる。
代表される魔法としてスカージと呼ばれるものがあるが、これは対象に継続してダメージを付与するもので、シャドウルーラーまで登りつめた者が使用するとその効果は絶大で、継続時間も恐ろしいほど長い。
またナイトなどでは装備できない呪われた武具も装備可能である。
しかしながら防御力はワールドチャンピオンをはじめとする生粋のタンク職には遠く及ばず、物理攻撃力は魔力が高い分、物理アタッカークラスより劣る。
さくっと言うと器用貧乏というやつだが、そこで龍人という種族が生きてくる。
龍人は初期レベルでははっきり言って弱い。
龍人は1000年生きた後に転生し、その知識を継承した上で幼生体となり生をやり直すというのが基本設定だ。
そのため、初期レベルでも魔力や知力だけは無駄に高く設定されてはいるものの、有効なスキルや魔法を初期では習得しない事から全く役に立たない。
だが中期から後期にかけて「真龍への目覚め」という種族ボーナスを得ることにより、HPの大幅な増加、物理魔法攻撃力上昇、物理魔法防御力上昇、低位物理魔法攻撃無効などのさまざまな恩恵を受けることが出来る。
これら様々な種族ボーナスにて少しでも欠点を補うことが出来ると考えていた。
なお、種族レベルが最高に達すると本来の姿である龍への回帰も可能となるが、その際にはさまざまなステータスが劇的に向上する半面、武器防具などが一切装備不可能になるなどのペナルティを受ける。
「では次はおいもさんの神器級アイテム作成ですね〜」
「だなー! アイテムは何が必要なんだっけ?」
「魂を喰らうもの(ソウルイーター)を作るのに必要な素材はまず・・・・」
モモンガが取りまとめ役となり、みんなでどこから行くかなど相談を始める。
楽しかった。
本当に楽しかった。
だがそんな時間も永久には続かない。
他のメンバーも現実世界の忙しさからなのか、徐々にイン率が減っていき、かく言う自分も昇進に伴う業務の増加などで
ユグドラシルへインする時間がめっきり減り、やがては全くインすることがなくなってしまった。
以前なら多少睡眠時間を削ってでものめり込んで遊んでいたユグドラシル。
しかし慣れない新たな仕事や上に立つ立場になった事。
さまざまな要因が影響し、ゲームをする気力と体力、そして情熱を奪っていった。
これはしょうがないことなのか。
アインズ・ウール・ゴウンの加入条件の一つである「社会人であること。」
生きるためには働かなければならない、それが現実である。
そんなある日のこと、ふと一通のメールが届いていることに気がつく。
送り主はモモンガであった。
「モモンガさん! 何年ぶりだろう、まだ覚えてくれていたんだ・・」
ユグドラシルを思い出し懐かしい気持ちになりながらメールを見る。
そこにはユグドラシルのサービスが明日で終了すること。
また忙しいとは思うが、是非最後にもう一度ナザリック地下大墳墓にギルドメンバー全員で集合しないかという内容であった。
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ここはナザリック地下大墳墓9階層。
巨大な黒曜石で出来た円卓、それに併せて豪華な装飾が施された41脚の椅子。
そこに一人ポツンと寂しそうに腰かける黒い豪華なローブに身を包む髑髏の魔法使いがいた。
「ヘロヘロさんも行っちゃったか。。。本当に一人になってしまったな。。」
この髑髏の魔法使いこそ、ナザリック地下大墳墓の支配者、ギルド・アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスター、モモンガである。
「しょうがないよな・・・みんなそれぞれ生活があるんだから、ゲームばかりしていられる訳はない・・・」
「わかってる、わかってるさ・・・・」
「でもっ!!!!!!」
豪華な黒曜石の円卓にモモンガの骨の拳が叩きつけられドンッ!と鈍い音が豪華な空間に虚しく響き渡る。
「・・・あの楽しかった日々はみんなにとってそんなものだったのかな・・」
「いや、そんなはずはないよな。ごめん、みんな。」
ギルド・アインズ・ウール・ゴウンの加入条件の1つは社会人であること。
それぞれが社会人としてやるべきことがあり、みんな嫌でユグドラシルを去ったわけではない。
誰も悪くはないし、当然裏切った訳でもないのだ。
モモンガはぼんやりと豪華な室内を見まわし、ある一点の物を見つめる。
「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」
眩い金色の光を発するその杖はギルド武器と呼ばれるユグドラシルにおける最強の武器であり、世界級アイテムに匹敵するアイテムだ。
「こいつを作るのにはほんと苦労したよなぁ・・・」
このスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを作るために、最高クラスのギルドメンバーが集結し途方もない時間をつぎ込んだ。
あるものは仕事を休み、ある者は大切な結婚記念日を忘れインしてきた。
「本当に楽しかったよね。」
そう呟き、何か決めた様にスッと席を立つ。
「今日で最後だし、支配者として相応しい格好で最後を迎えよう。あくまでこれはギルドみんなの物だけど、今日くらいはギルマス権限発動して持ち歩いてもいいよね?」
もちろん答える者はいる筈もない。
モモンガはその壁に掛かった黄金の輝きを放つ杖に手を伸ばす。
するとスッとモモンガの手に吸い付く様に収まると禍々しい漆黒のオーラが杖から溢れ出す。
「エフェクト凝り過ぎ笑」
アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーはやたら凝り性な人間が集まっていた。
自室を改造する者、ナザリック内に豪華な温泉施設を作ってしまう者、武器や防具、または家具など作る者、そしてナザリック内に配置出来るNPCと呼ばれるキャラクターに並々ならない情熱を注ぐ者。
鬼の様にみな課金をしまくり、ギルド内で発表してはその反応を楽しんでいた。
「さて、時間もあまりないし行くか。」
そう、最後を迎えるに相応しい場所、王座の間へ。
王座の間へ行く途中、通路の端で支配者が通り過ぎるのを敬意を込め頭を下げ見送るNPC達がいた。
その先頭は一部の隙もない様子でモモンガを見送る執事のセバス・チャン。
その後ろには全員絶世の美女と言っても過言ではない戦闘メイドのプレアデス達だ。
「こんな通路で最後を迎えるのはあんまりだよな…」
「よし、みな付き従え。共を許そう。」
王座の間に到着すると絶対的支配者であるモモンガへの敬意を表す為、スッと横に並び跪き頭を下げる。
モモンガは満足気にセバス達を見渡し、その豪華な玉座に腰を下ろす。
その横にはナザリックの守護者統括NPCであるアルベドが微笑みながら主を見守っている。
「確かタブラさんが作ったんだよな、アルベドって…」
設定魔であったタブラさんがアルベドをどの様な設定にしたのか何と無く気になった。
「サーバーダウン迄は5分位あるし、ちょっと見てみるか。」
モモンガはコンソールを開き、アルベドの項目を開く。
すると…
「うげぇっ…なんだこれ?、長っ」
膨大な量の設定が画面に表示される。
これを全部読んでいたらサーバーダウンの時間を越してしまいそうであった為、スクロールしていた指を離そうとした時最後の一行に目が止まる。
「なおビッチである。」
「え?? ビッチってあのビッチだよな…流石はギャップ萌えの属性をも持つタブラさん…」
「でもこれは流石にあんまりだよなぁ…」
そう呟くとモモンガは申し訳ない気持ちも感じつつもその一文を消去した。
「空白のままってのもなんだか気持ち悪いし…」
未だ微笑みながら絶対的支配者であるモモンガを見つめているアルベド。
思わずモモンガは恥ずかしくなり目を反らす。
「こうして見るとやっぱり綺麗だよな、アルベドって…よし…」
何かを決意したように空白を埋めていく。
消された一文の代わりにこう書かれていた。
「モモンガを愛している。」
「うわあああぁああああああ!!やっぱりダメだ!無し無し無し!!恥ずかしすぎるぅ!」
自分で書いておきながらあまりの恥ずかしさに悶絶し頭を抱えるモモンガ。
「ダメだよな、やっぱり。うん、空白のままにしておこう。」
書き加えたその恥ずかし過ぎる一文を再度消去しようとした時に思いがけない事が起こった。
「最後ですし、そのままでいいと思いますよ、モモンガさん 笑」
「え????」
全く想像していなかった、でもモモンガにとっては最高の不意打ちであった。
補足
龍人の幼生体はリザードマンみたいなのを創造して頂ければと。
立派な角や牙などは当然なく、めちゃくちゃ弱いです。
完全に名前負けしている為、選ぶ人はあまりいないという設定です。
クラスに関しては某オンラインゲームの設定を拝借捏造しております。
誤字訂正致しました。