自分達以外誰もいなくなった玉座の間。
この非常事態をどのように乗り切るのか、話し合わなければならない。
まずモモンガから自身が考えた可能性を話始める。
「サーバーダウンの時間を契機に新たなサービス、例えばユグドラシル2が始まったとか?」
「いや、それはないでしょう。まずコンソールが表示されませんし、GMコールも出来ない。ましてや任意ログアウトができないなんてありえませんよ。」
おいもがそれを否定する。
「ですよねぇ・・・そうするとやはりこれはユグドラシルというゲームが現実になった?」
まったく馬鹿げた話である。
ゲームが現実になる。
しかしながら現在置かれている状況を説明するにはこれしか考えられないのだ。
「本当にありえない話ですが、そう考えるしかないと思います… 実際に自分たちはゲーム内のキャラと会話が出来てしまってますし・・・」
おいもも戸惑いながらもモモンガの考えを肯定し更に話を続ける。
「問題なのは今後どうするか。どうすれば元の現実世界に帰れるのか、それを探さないと。」
ここでふとモモンガは考える。
現実世界に自分は帰りたいのだろうかと。
確かにこのようなありえない状況になり驚いた。
だが現実の世界に未練を残すような事が実際のところないないのだ。
友人、恋人、家族などがいたのであればきっとどんな方法を用いてでも帰ろうとしたであろう。
だがモモンガ=鈴木悟にはそれがなかった。
(ふふっ…寂しい人間だよな…俺って…でもおいもさんは別だ・・・きっと現実世界に大切な人や事があるはず。この気持ちは打ち明けるべきではない・・・。)
そう考え、話を続ける。
「ですね。セバスに確認に行かせましたから何かしらの情報を得られるといいのですが。」
「モモンガさん、ちょっと気になってるというか、心配している事があるんです。」
「何ですか?」
おいもは言葉を続ける。
「先程までここにいたセバスやプレアデス達は我々の命令に従順なようでした。しかし他のシモベ達や階層守護者も我々の言う事を聞いてくれるのでしょうか? まぁ…守護者統括のアルベドがモモンガさんを愛していますし、トップがこちら側にいるということは最大のアドバンテージではあるのですけど…」
「あぁああぁ…」
アルベドの件を思い出し再び強い後悔の念が雪崩の如くモモンガに押し寄せてくるが、フッと心が落ち着く。
「あぁああ…って、ふぅ…あれ???」
「どうしました??」
「いや、勝手に設定を弄ったのを物凄く後悔してるんですが、強制的に心が安静化されたというか…」
「それってもしかしてアンデット特有の精神効果無効のパッシブスキルとか!?」
アンデットには精神に影響を及ぼす攻撃に対して耐性がある。
魅了、混乱等様々なものがあるが、アンデットの最上級クラスであるオーバーロードのモモンガにはこのような精神攻撃は一切通用しない。
「変な事を言うようなんですが、体の全てが馴染んでる気がしません?はじめからこの体だったというか…もちろん人間ですから尻尾なんかある訳ないのに、尾の先まで神経が研ぎ澄まされてるような…モモンガさんもそう感じてはいませんか?」
「えぇ…実は俺もです。この体で何が出来るのか感覚的に理解してる…。」
「魔法はどうでしょうか? そうだ! 伝言《メッセージ》が使えれば誰かしらと連絡が取れるのでは!?」
「確かに! 試してみます。」
現在はコンソールは表示されない為、そこから魔法を選択する事は出来ない。
だがモモンガにはどのようにすれば良いのか、ハッキリと理解出来ていた。
意識の糸を相手に繋げるようにイメージし、勝手の仲間達へ連絡を試みる。
「くっ…ダメです、メッセージは使えてると思うんですが、反応がないですね…」
「そうですか…あ! モモンガさん、一度自分にもメッセージ送ってみて貰えませんか?」
「わかりました。」
するとおいもの頭の中で神経の糸が何かと繋がるような、不思議な感覚に襲われる。
《おいもさん、どうでしょうか? 聞こえてますか?》
《モモンガさん聞こえてますよ! お互いに口は動いてないようですから、間違いなくメッセージの魔法は有効ということですね!》
その後なんとか運営側にメッセージが送れないかと試してみるが繋がる事はなかった。
「口に出せないような事はメッセージを使って連絡しましょう。自分はメッセージの魔法は使えないので手持ちのスクロールを使いますね。って所持してたアイテムってどうなったんだろう…?」
過去に所有してたアイテムを思い出しながらおいもは空中に手を伸ばしてみる。
!!!
その伸ばした手の先に僅かな空間が広がり、その中にアイテムが綺麗に整頓されている様子が映し出された。
「アイテム、どうやら無事なようです笑」
空中で指をスクロールすると武器や防具、消費系のアイテムなど次々とアイテムが現れる。
「アイテムも無事、魔法もどうやらこの世界では有効なようです。最悪守護者達やシモベが反旗を翻したとしてもモモンガさんだけはなんとしても守ってみせますよ!」
おいもの心強い言葉にモモンガは深く感銘を受ける。
この状況に一人で置かれていたらどうなっていたことか。
仲間がいるという心強さを改めて感じる。
「ありがとう。おいもさん。ただ自分だっておいもさんを守りたいです。なので攻撃魔法もどこまで使用可能なのか確認しなければ。」
「それで第六階層のアンフィテアトルムですか!確かにあそこであれば魔法など試せますね!」
「はい、ただメッセージは有効だということは確認できましたが、攻撃系の魔法はまだわかりません。油断せずに行きましょう。あそこの階層守護者は確か・・・」
「ぶくぶく茶釜さんが作ったアウラとマーレですね。」
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ナザリック地下大墳墓第六階層。
ここは階層全体がジャングルとなっており、高さ二百メートルの天井には”空”が広がる。
ナザリックの運営管理システムによって天候の変化までもが設定してある為、晴れ、曇り、雨など天候が変化する。
しかしながらここは地下であり、野外ではない。
この階層を作り上げた者の並々ならぬ情熱と執念を感じる。
またここにはアンフィテアトルムという円形の施設があり、以前ナザリックへ1500名というユグドラシルユーザーによる大侵攻が行われた際、囚われた捕虜はここでみな処刑された場所でもある。
そのアリーナへと繋がる通路の空間が一瞬歪み、二つの影が現れる。
「転移も問題なくできましたね。」
「このリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが使えなかったらナザリック内の移動が面倒なことになりますし、使えて良かった。」
そこに現れたのは至高の41人と呼ばれるナザリックの支配者、モモンガとおいもであった。
本来ナザリック内では特定個所以外の転移は不可能となっている。
しかし、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン、この指輪を装備する者に限っては回数制限無しに自由にナザリック内を転移する事が出来る。
「さて、では行きましょう。おいもさん。」
「わかりました。」
二人はそれぞれ持っている武器に力を込め、そしてそのままアリーナへ向けて歩き出す。
目の前の重厚な鉄の柵はモモンガ達が前に来ると、スッと重さを感じさせず上部へスライドし、目の前に4キロメートル四方の円形のアリーナが眼前に広がる。
観客席は魔法生物であるゴーレムで埋め尽くされており、その一角に貴賓席がある。
ここでギルドメンバーがナザリックへの侵入者を戦わせ、その様子を楽しんだりしていた。
「モモンガさん、自分が先に入ります。不測の事態が発生した場合は俺が食い止めますので先に転移して逃げてください。」
「逃げるだなんて、俺も戦いますよ!」
「ふふ、そう言うと思いました。では盾はお任せください。たっち・みーさんには及びませんがこれでもナザリックの黒の盾と呼んでもらってましたからね。」
「はい! よろしくお願いします!」
そして先ずはおいもがアリーナに足を踏み入れ、その後にモモンガが続く。
「見られてるな。」
おいもがそう呟くと「とうっ!」と声が響き、貴賓席から黒い影が跳躍する。
黒い影は軽やかにアリーナへ降り立つとこちらへ向かって猛スピードで駆け寄ってきた。
その黒い影の正体はナザリック大地下墳墓、第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラである。
「ザザザザッ!!」
一気にその距離を詰め足で急ブレーキをかけるがとてつもないスピードで駆け寄って来ていた為、大地が砂煙を上げ削れていく。
しかし、その砂煙が二人に届かないようにアウラは当然計算しているだ。
「おいも様!!! ナザリックにお戻りになられたのですね! おかえりなさい!! モモンガ様、おいも様、私たちの守護階層にようこそおいでくださいました!」
どうやらいきなり襲ってくることはなさそうだとおいもは胸をなでおろす。
「うむ、今戻った。勝手に留守にして心配をかけたな。本当にすまなかった。」
「そ、そんな! おいも様が謝る必要なんてありません! 戻って来ていただけただけで私は嬉しいです!」
「そうか」
そう言い優しくアウラの頭を撫でる。
えへへ、と頬を赤らめながら無邪気な笑顔をおいも、そしてモモンガに向ける。
(かわいいなぁ・・・)
二人の様子を見つめモモンガは思わず微笑んでしまう。
肩口で切り揃えられた黄金に輝く髪、瞳は緑と青で左右違う色に輝いている。
耳は長く尖っており外見は10歳位の幼いダークエルフだ。
しかし忘れてはいけないのはこのように可愛い外見をしているが強力な幻獣や魔獣を使役するビーストテイマーでありレンジャーなのだ。
《モモンガさん、危険察知には反応はありません。どうやら大丈夫なようです。》
《はい。アウラの様子を見てみても反旗を翻しそうな雰囲気はありませんよね、良かった・・》
ナザリックの仲間達が心を込めて作ったNPC達だ。
自分たちにとっても自分の子供のようなもの。
やはり戦いたくはない。
「そういえばマーレはどうした?」
モモンガは辺りを見回すがアウラの弟であるマーレの姿がない。
その言葉を聞きアウラはくるっと振り返り、貴賓席の方へ向けて声を上げる。
「マーレ、早く降りてきなさい!!! モモンガ様がお待ちよ! それにおいも様がお戻りになってるんだから!」
すると貴賓席の暗がりで何やらもぞもぞと動く影が見える。
「わ、わかってるよ、おねーちゃん・・でもここから飛び降りるなんて無理だよぉ・・・」
「そんな臆病な事でどうするの! あんたも階層守護者なんだからちゃんとしなさい! 飛び降りないなら私が蹴飛ばして叩き落とすわよ?」
「!!!!」
そのアウラの鬼のような言葉に観念したのか、「えいっ」と可愛い言葉と同時に貴賓席から飛び降りるマーレ。
もちろん飛び降りたからといってケガなどする訳はない。
アウラと同じでマーレもLV100のNPCなのだから。
アリーナへ飛び降りると、杖を大事そうに胸の前で両手で抱えながらてってってとかけて来る。
「お、お待たせしました。モモンガ様。 お、おいも様おかえりなさい。」
《モモンガさん、マーレって確か男の子でしたよね? その、スカートを履いてますが・・・》
《あぁあ・・・これは、その・・・ぶくぶく茶釜さんの趣向でして、いわゆる”男の娘”というやつでして・・》
《こっ・・これが噂に聞く男の娘というやつですか!!》
おいもをここまでうろたえさせている“男の娘”、名はマーレ・ベロ・フィオーレ。
姉のアウラと共にナザリック地下大墳墓、第六階層守護者である。
外見はアウラとそっくりで、お互いに竜王鱗の革鎧を身に纏ってはいるが、アウラは赤、マーレは緑とそれぞれ色が異なる。
そして製作者、ぶくぶく茶釜の趣向によりスカートを履かされ”男の娘”として設定されている為仕草はもう女性そのものだ。
姉には逆らえずいつもおどおどとしているが、その魔法詠唱者としての能力は非常に高く広範囲攻撃を得意とする。
「まぁ そんな苛めてやるな、アウラよ。」
「でもモモンガ様、この子ったら本当にどんくさくて・・」
そう言うとギュッとマーレの尖った耳を引っ張る。
「痛いよぉ おねーちゃん・・」
「ところでモモンガ様、おいも様、階層守護者集合の時間より少し早いですよね?」
「ん、そうだな。それには理由があってな。お前たち二人にちょっとこいつの実験に付き合って貰いたいのだ。」
そう言うとモモンガは右手に握っていた杖を宙にかざした。
「「その杖はもしかして!!!」」
自分たちの身体の変化になるべく違和感なく気がつくように書いたつもりなのですがやはり難しい・・・