続きになります。
『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』
七色の水晶の蛇が絡み合う神器級のギルド武器。
それぞれが伝説級の色の異なる宝石を咥え各種属性に応じた様々な特殊効果をもたらす。
このギルド武器が破壊されることはギルドの崩壊を意味する。
「それが噂に聞くモモンガ様しか触る事を許されないと言う神器級の武器なのですね…」
「と、とても凄い魔力を感じますぅ…」
アウラ、マーレ共に感嘆の声を上げた。
「そうだ、少々こいつを試したくてな。」
今回モモンガが試そうと思っていることは二つある。
まず一つ目の最重要事項である自身の攻撃系魔法の発動実験。
メッセージについては問題なく使える事が確認出来ている。
しかし攻撃系の魔法についてはまだ試しておらず、もしも使えないとなると…モモンガは魔法詠唱者、最大の武器を失う事になり加えて今は忠誠を誓ってくれている配下の者達が反旗を翻す恐れもある。
そして二つ目、まぁこちらは主たる目的をカモフラージュする為の建前的なものであるがギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの性能の確認。
(よし、では攻撃魔法の発動実験から行こうか。)
「アウラ、マーレ。すまんが魔法の標的となる物が必要だ。何か用意出来るか?」
「はい! モモンガ様、今すぐにご用意致します!」
アウラが手を挙げ元気よく答えると、アンフィテアトルムの警備員兼掃除要員のワーウルフへ藁人形を持ってくるように指示を出す。
掃除要員といっても50レベルは越えるため、生半可かな冒険者などは容易くその鋭い牙で引き裂かれるであろう。
1体、2対と藁人形が設置されていく中、モモンガはユグドラシルで使っていた魔法を思い浮かべた。
(ふっふははは!・・・・わかる!その魔法の効果、詠唱速度、威力、リキャスト時間、頭の中に全て浮かんでくる!)
今まで感じたことのない高揚感、そして充実感に襲われ思わず笑みをこぼす。
そして数ある魔法の中の一つを選択し、藁人形に意識を向け魔法を発動する。
<<焼夷弾ナパーム!>>
藁人形に向けた指先から炎の球が現れ、そのまま藁人形に着弾し同時に激しい炎を発しながらゴォゥッ!!っと音を立てて焼夷弾が弾け飛ぶ。
一瞬にして藁人形は消し炭となるが横で作業をしていたワーウルフにも焼夷弾の影響が及び、「グゥウウウ」っと声をあげる。
「む! フレンドリーファイアが有効になっているのか!? なるほど・・・その辺りも考慮し使用しなければいけないな・・」
その後何個かの魔法を試し、満足したように頷く。
《モモンガさん、どうやら問題なようですね。》
《はい、この調子であればどの魔法も問題なく使えそうですよ。ただユグドラシルより効果が上がっているようですのでその辺りは少し気をつけないといけないかもしれません。》
おいもにそう答えると次の実験に移るモモンガ。
次はスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの性能確認である。
「さて、アウラ、マーレよ待たせたな。スタッフ・オブ・アインズ・オール・ゴウンの力、とくと見よ!」
(やっぱりある程度は派手な方がいいよな・・・よしあれにするか!)
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにはそれぞれが伝説級の宝石が七つ組み込まれており、能力の一つとしてその宝石の属性に対応した最上位に近い元素精霊(エレメンタル)を召喚することがき、召喚されたエレメンタルはレベル80後半という強力なモンスターだ。
「出でよ!! 根源の火精霊召喚(サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル)!!!」
対応した火の宝石から紅蓮の炎が立ち上がり、その瞬間周囲に熱風を巻き起こす。
その紅蓮の炎は周囲の空気を食らいながらその熱量をどんどんと増していく。
やがて十分に空気を食らいつくしたのか、揺らめきながら炎の柱は人型へとその姿を変化させる。
「うわー・・・・」感嘆の声を漏らすアウラとマーレ。
「ふふっ・・戦ってみるか?」
モモンガの問いに欲しかったおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせるアウラ。
(外見は本当に可愛い子供そのものなんだけどなぁ…)
そう思うものの実際のところアウラもマーレも100レベルのNPCである。
例えモモンガといえども油断すれば命に危険が及ぶ。
「いいんですか!? モモンガ様!」
「構わんよ。ただし怪我のないようにな。」
「はい! ありがとうございます!!」
やったー!!と飛び跳ねて喜ぶアウラの後ろでマーレが「ぼ、僕やらなきゃいけないことがあったんだった・・・」と逃げようとするがそこはアウラが逃がす訳はない。
がっしりとマーレを掴まえずるずるとプライマル・ファイヤーエレメンタルの前まで引きずっていく。
「準備は良いか? アウラ、マーレ。」
「はい!! いつでも大丈夫です!
「・・お姉ちゃん、怖いよ、僕・・・」
対照的な二人の返事。
マーレが気の毒のような気もするが、ここは二人の実力を確認するチャンスである為、マーレには悪いが戦って貰うことにする。
(すまんな、マーレ…)
「では行くぞ! 行け!プライマル・ファイヤーエレメンタル!!」
モモンガの命令と同時に膨大な熱量を撒き散らしながら双子に襲いかかる。
ゴォォォオオ!!っと音を立て灼熱の拳をアウラに放つ。
前衛を務めるアウラは終始笑顔でプライマル・ファイヤーエレメンタルの攻撃を鮮やかにかわすと同時に両手に持った鞭で攻撃を繰り出す。
それと呼吸を合わせるようにマーレは補助魔法、そして弱体魔法を唱え姉をサポートする。
「見事な連携ですね。」
「ええ、レベル80後半のモンスター相手にここまで圧倒とは。」
モモンガとおいもは二人の鮮やかな連携が取れた戦い振りを見ながら賛辞を送る。
「じゃ、トドメいくよー!マーレ!!」
「う、うん!お姉ちゃん!」
アウラの呼びかけに応じ、マーレは『グレーターマジック・ストレングス』を詠唱。
アウラの筋力が大幅に増強され、力がみなぎって来る。
「よぉぉし! じゃバイバーイ、楽しかったよ〜『双竜打ち』!!!」
『双竜打ち』は単体の敵に対し高確率多段ヒットの物理攻撃スキルである。
さらにマーレの魔法により強化されたアウラのこの一撃は凶悪な攻撃力を誇る。
アンフィテアトルムにキィィィィンと高音が響き渡りプライマル・ファイヤー・エレメンタルは消滅していく。
「見事だ。アウラ、マーレよ。」
モモンガはアウラとマーレに賛辞の言葉をかけ、その言葉に賛同するようにおいもも頷く。
「えへへ、ありがとうございます。モモンガ様、おいも様。」
二人は照れながらもどこか誇らしげな様子だ。
「運動して喉が渇いたのではないか? 」
モモンガは空中に手を伸ばしアイテムボックスからクリスタルを磨き上げ、鮮やかな装飾を施したグラスと無限の水差しを取り出し、水を注ぐとそれぞれに手渡す。
「アウラ、マーレ、飲むが良い。」
「え!? そ、そんな申し訳ないです…モモンガ様から…」
「そ、そうですよ! 水位なら僕の魔法でいくらでも!」
恐縮してなかなか飲む様子のない二人においもは助け舟を出す。
「あれだけの働きを見せてくれたのだ。遠慮する必要はないのだぞ。そうだな…私からはこれをやろう。口に合うといいが。」
アイテムボックスから包みを取り出し微笑みながらアウラとマーレに手渡す。
「ふふ、こんななりをしてるが私は大の甘党でな。それは若干の疲労回復効果も得られるクッキーだ。」
「「ありがとうございます! モモンガ様、おいも様!!」」
声を揃え礼を言い、頭を下げる。
「んー!甘いー♫」「冷たくて美味しいです!」
二人の顔からは終始笑顔が溢れ、それをモモンガもおいもも微笑ましく見つめる。
「モモンガ様もおいも様ももっと恐ろしい方なのかと思ってました…」
「ん? 恐ろしい方が良かったか?アウラよ。」
モモンガの問いに対してブンブンと頭を横に振るアウラ。
それと同時に「や、優しい方がいいです!」とマーレも答える。
和やかな空気が流れるアンフィテアトルムの右奥から一瞬空間が歪むと数人の影が姿を表す。
「モモンガ様、遅れて申し訳…!! お、おいも様!!??」
そこに現れたのはアウラ、マーレを除く各階層守護者達であった。
アウラ、マーレのスキル、魔法は完全に捏造…すみません。
おいもは龍の姿をしてますが大の甘党という設定です。