さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録 作:ぴんぽんだっしゅ
気が付いたら見知った町でした
わたしはヒールを繰返し繰返し。
どれだけ経ったか、鎧の男が叫ぶ。
「防衛隊の皆さん離れてっっっこれでっ! 決めるっ!!!」
声に気付くやザザっと兵士達がその場を散る。
鎧の男はコクリっと頷くと一気に距離を詰め、巨大な──見上げたら恐怖ですくんでしまいそうに恐ろしくて、大きくて岩のようなモンスター・トロルに最後の1撃を浴びせかけようと飛びかかった。
「エクセ=ザリオス!」
男の全身に青白いオーラが表れ、そして爆ぜて、再び握った刀身に再度現れて、絡み付く。
それを二度ほど繰返しキラキラと刀身は輝くと、いっそう凍気を引き上げて巨大なトロルの動きを奪い、それが斬撃となって切り裂く。
見ているこっちまで震え上がる物凄い1撃。
うわ、やっぱりこの人はわたしなんかより・・・。
暫く経っても、周辺の空気が凍てついてダイヤモンドの様にキラキラ、キラキラと舞い輝いて綺麗だった。
──どうして。
こうなってるか、こうなっちゃってるかってゆーとってゆーと、えっと……この異世界に気付いた時の話をしなくちゃ行けないと思うんだ。
あれは──
『ふんんん?』
気がつくと、わたしが立っていたそこは毎日訪れていた町。
どこでどう間違った?
いつもみたいにネカフェからログインした後、たどり着いたのは毎日訪れていた町でした。
訪れていたのは───VRMMOの中の事だったんだけどさ....。
いやこれリアル過ぎるでしょ。
どうも、風を感じるし匂いまである。
こんなリアルなVRMMOはあり得ない。
新ブースだからってこれはないでしょ。
いつもと今日が、さっきまでの今日が違って居たのは、馴染みの店員さんじゃ無かったコトと──使い慣れた椅子が有って座るタイプの、球体型のフルダイブ装置じゃなくて日焼けサロンに置いてあるらしい、寝転んでセッティングを出す・・・えっと、カプセル型?みたいな装置だったコトだけなんだよ、ね。
昨日までと変わらずに学校へ行って、友達とバカ話をして笑って、学食で冷凍食品をチンしただけっぽい口当たりのいいホウレン草とツナのパスタを食べて、えっとそれから・・・学校帰りにネカフェに着いて。
───NOLUNオンラインは会員数100万人のどこにでもありそうな中規模なVRMMORPG。
NOLUNの売りは何と言っても職業が無いこと。
人気の職業じゃないからpartyに入れないなんて事はナンセンス、頑張ってる人には平等にチャンスが与えられなきゃだもんね。
加えて自由に育成&カスタマイズ可能なスキルもやり込み要素の一つ。
自分の好きな契約神を選んでサポートもして貰えるんだよ、これでRPG初心者のあなたも気軽に異世界体験ができるよねっ―――
って煽り文句を信じて、わたしも『強くなって』自由な異世界を自由に旅したいなー。……なんて、思ってた時期がありました。
実際は装備出来ない物だらけ、詐欺じゃん?
契約した神様もチュートリアルで話したっきり、サポートして貰って無いよ?
まぷち 》このゲームって今から何したら良いの?
自由過ぎて、何から始めたらいいか、解らなくなってchatしてたら、フレとのchatは凄い楽しくて。
気付いたら週二回はNOLUNにinして異世界を漫喫(?)してたってわけ。
こんな──異世界の疑似体験の仕方もあるんだよ、そう……受け止めてたんだ。
楽しかったし、フレンドだって沢山できたし、イベントもたまにやってて見るだけでも何てゆーの、臨場感? 町の広場に設置された空全体を使ったモニタービューで誰でも見れるんだけど、スキルや魔法でユーザー同士が戦ったり、持てる限りの力で、巨大で強大なモンスター軍団をやっつけたりと、リアルじゃまず体験の出来ないバトルを参加ユーザーが体験できて、熱く闘志を燃やしてるその姿を見てるだけでも満足出来てたし。
そんな、見てるだけユーザーも一杯居たんだ、NOLUNには──わたしも含めて。
辺境の塔カルガイン。
踏破したものの無い、天界に届いてると言われてる塔。
誰も登りきった事ないから当然なんだけど……。
どうも今わたしの立っているここは、カルガインの町の大通りの近くみたいだ。
顔をあげたりしなくても目線さえ前を向いてたら、目の前に聳えたっていたりするんだな、その塔が。
今、……手を延ばせば届きそう、かもと。
思考が。
なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ……なんだこれ―――
いや、そんな事はいいんだ。と、顔全体をきっと今わたしは青くしてる。
泣きそうになってたかも知れない。
ログアウトできない。
ログアウト。
ログインがこの世界への入り口だとしたら、出口になるのかな?
そんな大事な出口がメニューを開いて押しても機能して無いんだよね、これってログアウト(帰れない)ってコトだよね?
あ。追加アップデート作業の影響とかだったり?
塔の内部フィールド、階層追加のアップデート終わってないはず。
前回はやっと城マップ追加で、前々回は町周辺のクエストの追加。
……だった、……よーな。
わたし、初心者のペーパーユーザーです……製品版・初期の頃から、その──参加だけはしてるけど。
会話するのが楽しくて所詮chat用だったし。
だから基本、町から出てなかったり・・・
まぷち 》誰かっ!
ログアウト以外は、ゲーム時の他の機能は変わらないみたいなんだ、だからフレにchatしてみる。
けど、inしてる人は居ないみたい・・・
まぷち 》返事してよぅ……
……そんな絶望、ホントにホントの絶望ってゆう何かを垣間見て、視界がゆっくり白く、思考が真っ白に染まって何もかもを諦めそうになっていた時だ。
ふいに声をかけられたのは―――
「よ。おまえ……何、泣いてんの?」
その声に顔を上げると、まず瞳に飛び込んで来たのは肌の色、バイオレットてゆうんだっけ? 薄い紫。
次に、蒼い髪を邪魔になってないくらいで切り揃えた、チュートリアルで言うとver.1の髪型。
ふてぶてしい態度の機嫌悪いですよー、な黒いオーラもエフェクトで見えそうなくらいに迷惑そうな表情で、影とでも言うといいのかな、そんな雰囲気を纏った薄紫色の男が見下ろしていて目が合う。
実際にそんな肌の色で、髪の色をした人はまず、リアルには会ったことは無いけど、ね。
無いけど、このNOLUNではそう言う種族なんだなー。で、済んでしまう、オークって豚の顔に血色の良さそうな肌をしたモンスターの姿をしたユーザーだって居るんだし。
ま、レアなケースって言えばレアなケースで、今目の前に居る紫色の人だってそこそこレアだったりする……確か、魔人て種族だ。
無意識に脱力したのか、わたしは座り込んでいたみたいで。
声を掛けてきた人の頭の右上にはこう書いている、ヘクトルと。
それはゲーム時のユーザーを表す機能だった。
ログアウト出来ない・・・現実に帰れない!―――
まぷち 》あう、どうしよう・・・
パニくってサポートメニュー画面のあらゆるリンクをクリックしてみた。
「よ、良かった、……アイテムとかはそのまま残ってる。」
軽くため息を吐いた。
思わず、声に出して喋ってるわたしが居る。
解ったことはゲームデータは残っている事、chatは飛ぶけどフレはinしてない事と、メニュー画面の時間が止まっているって事。
途方に暮れながらカルガインの大通りを歩く。
どうしよう、どうなるんだろう。
悩んでても仕方ないか……そうだ! フレは居ないけど誰かはinしてるはずっ!!
心の中でそう、叫んだ。
ぎゅっと手を握り締めて。
ここカルガインはゲームでも初まりの町、chatだけ楽しんでる人なら広場だったり外門の辺りでchatしてるはず。
……今は、たぶん夜中だけど──
期待に胸を膨らませもといた大通りを抜け、商店がわさわさと連なる通りを抜け、町の北にある広場までやってきた。
けど、広場には誰の姿もない。
それを見た瞬間、へなへなと力が抜けてその場にへたりこんでしまう。
「もしかして・・・この世界に──わたしだけ?」
フッと学校の友達の顔が目の前に浮かんだ。
ほんのさっきまで、当たり前に見てられた顔。
その顔が、脳内でドロリとスライムみたいに溶けて流れ落ちていった。
わたしのNOLUN──この世界での名前は、まぷち。
高2で髪は肩で切り揃えて天パ。
寝起きはあっちこっちに跳ねまくって大変大変。
あれこれ髪直してるだけで1時間経ってるなんでざらで。
でもでも校則はキッチリ守るのです。
自称、優等生。
なーあんてちゃっかりスマホは持ち込んでるけどね、放課後しか電源入れないよホントだよ。
あ。今の全部今から意味ないから、忘れて?
今のわたしはー、初期装備の真っ白の普通の服に普通の靴に普通の短パンに革の髪留め(カチューシャ)に革の手袋に・・・気がついたら初期装備で呆然と立っていた。
えと……、この初期装備の白い服がなかなかの物で、言ってみれば運営の罠。
カットが際どい。
胸、見えそう!
タンクトップと、までは行かないけど、余裕でこのままにしておけないレベルで気になるとこ。
メニュー画面のBOXには、BOXはアイテムなら何でも。
そのまま入れて保存できる亜空間、だと思ってる。
BOXの中は時間という概念が無くて、無限に放り込める便利な箱。
メニュー画面に常にあってゲームをし続ける限り溜まってく、まるでホコリが降り積もるみたく。
そう、わたしは思い出ってゆーホコリをBOXに放り込んでるんだ。
って思えば素敵じゃない?
BOXを漁れば、昨日までログインして来たままのわたしの装備はすぐ見付かった。
「もう、会えないのかな……?」
でも──こんなコトって今まで無かった、よ?
視点が定まらないほどのやりきれない感情の波が襲ってきて、自然と大声で泣きだす。
「よ!」
その泣き声に気付いたのか、誰かが声を掛けてきた。
「よ゛がっだあ゛!・・・ヒック──」
嗚咽混じりで、しゃくりあげながら溢れ出す、大粒の涙を拭くことも忘れて声のして来たわたしの上の方を見あげると。
「おまえ何泣いてんの?」
そこには私の泣き顔を見て、ちょっと引き気味の見た感じ年上っぽい剣士が立っていた。
「気づいてないの?」
その言葉にイラッときたので立ち上がり、胸ぐらをつかむ勢いでガッと剣士の前へわたしは進み出る。
「何がだよ……」
剣士は胸の前で両手を左右に振るジェスチャーをしながら一歩下がり、わたしから距離を取った。
変なやつって思われたのかも。
「えっと・・・、そうだ──」
メニュー画面をいじっているのか、彼の人差し指が何度も虚空を切る。
急に焦ったように人差し指の動きが一層、速くなった。
彼……ログアウトしたいのかな?
出来たら泣いてないのに。
剣士は背は160くらいの。
筋肉はそこそこ、私的には少しダイエットすればいいんじゃないかと思えるお腹。
こんなアバターあったかなぁ???
魔人族特有の薄い紫の肌・・・なのはゲームのままだけど。
「落ちて寝たいんだけどさ、リンクが」
「繋がら無いから。困ってるの!」
キュッと掌で涙を拭ってから彼の目を見据え叫んだ。
出来たらとっくにログアウトしてる。
出来てたら・・・、泣いてない。
「じゃあ徹夜で狩りするか……ちッ!」
誰に向かうでもなく、彼は舌打ちをしてグイっと背伸びをしてそう言った。
「──は?」
驚いた。
彼は能天気にゲームを続けると言いはなったのだ。
何が起こっているか解らないこの世界で。
「ゲームじゃないんだよっ?」
立ち去ろうとする彼の前にズイッと立ち塞がる。
この感覚、この感触、今の温度、ゲームでは体感出来ない領域。
「退いてくれ。狩りいくって言ったの聞いてなかった?」
めんどくさそうにジト目の彼は欠伸を噛み殺しながら。
彼の前に立つわたしを、避ける様に左右に体を動かす。
「つ、着いていっていいですか?」
この人を逃したらマズいんじゃ無いの?
置いてかれたらまた1人で、来るか解らない他の人を待つことになるから必死に追い縋った。
「んー」
一呼吸あって彼は困ったような顔で、私の右上辺りを差してから自分の右上辺りを指差す。
そこには緑色の枠が浮き出ていてLVと名前が書いてあった。
彼の名前はヘクトルというみたいで、そこそこLVが高い。
私は……と言うと、初心者と変わらないわけで。
「レベル足りないから即死だよ。……狩り場は塔だから」
塔と言うのは中級者の狩り場だったはず。
初心者が踏み込んだら確かに即死だろう、それでも。
「お、お願い!」
「んー」
じゃあねぇ……と、忙しなくメニュー画面をいじって空中で人差し指を振るう、彼。
「ま、なんだ。送ったから装備してみ」
言われてメニューを開いてギフトを確認。
飾り兜? と錆びた鎧がヘクトルから送られて来ていた。
「拾い物だし。レア物じゃないから……やるよ。」
「いいの? ホントに? えっと……、ありがとう。」
渡された装備を着けると、倍以上にステータスが上がったのがメニューを見ると表示されて解る。
いつの間にか止まっちゃってた、さっきまでボロボロ溢れ出ていた涙が 。
突然の優しい彼の態度に、頬まで紅く染まってる気がした、だって。
なんか顔が、顔まで熱いんだもん。
辺境の塔カルガイン。
踏破したものの無い天界に届いてると言われてる塔。
……その塔の入り口は遠くから見ても薄気味悪くて、生者が近付くのを拒むように闇より暗く口を開けていた。
近づいた今も、目の前に広がっている闇に差し込んだ手が見えなくなるほど。
「いくのか。いかないのか」
塔の前でヘクトルが聞いてくる、ビビって震え上がってしまう私の背中に。
「……いくわよ」
正直お化け屋敷に入るより怖い。
怖いんだけど、行かなきゃ。
消え入りそうな小さい声しか出てこなかったんだけど。
「んー、じゃあ誘うから」
partyの勧誘をするためにヘクトルはメニュー画面をいじっている。
少しして私のメニューに勧誘を知らせるリンクが出た。
「狩り場で2タゲはマズいから入り口に居ていいよ」
partyに私が加わったのがわかると、それだけ言ってさっさと奥へ行ってしまう。
ここでただ待っているのも暇だから、持ち物を確認してみよう。
今の今までなかなかにパニクっていたからさ、そうゆうのしてなかった。
まずは―――
さっき貰った飾り兜?、それに錆びた鎧。
広場でchatしてたら知らない人からいきなり渡されたマナ付きのスリング、フレからネタで貰ったボーダーのパジャマ。
市場で買ったサングラス、魔除けだよってプレゼントされた呪われてそうなペンダント。
生産してるフレから大量に押し付けられたカンテラに蝋燭。
仲間内で一時期流行っててバザーで値切って買ったウサギ革のニット帽に揃いの手袋。
引退してったフレから貰った大量の石ころと大量のバイタルそれ……に、フレの愛用してた装備一式。
塔内部は、おっきな巨人が立って歩けるんじゃないのってくらいに高さがあってさ、とにかく広い。
入り口から少し入ったところでカンテラ無しじゃもう1メートル先は闇。
外からの光を何らかの力で遮断されてんじゃーないのー?って思えるや。
何にも見えない。
かと言って。
初心者過ぎて何にも魔法を覚えていないから出来ることは無いので、座って待っているとボゥッと揺れるカンテラの光が。
ヘクトルがこっちの方へ向かってくるのが見えた。
モンスターを引っ張って来たみたい。
NOLUNの経験値入手方―――つまりlv上げには3つある。
まず一つ目はシナリオ本編を進める。
シナリオが進む事によって行けなかった場所や、それまで居なかったモンスターが現れたりするらしい。
二つ目にクエストを完了する。
お使いのようなものから町の警護や賊の討伐。
さらにクエストを受けると登場するダンジョンなんてのも。
三つ目。
もちろんモンスターを倒して稼ぐ。
倒せば経験値と素材、運が良ければレアドロップもするかも。
ただし──partyでモンスターを倒すなら『一度でも』攻撃してないといけなくって、攻撃していれば倒した時に経験値、ドロップ品は貰えるようになっている。
今ヘクトルにやって貰っているのはぶっちゃけ、それを利用した寄生。
α版の前ならparty戦で同じマップに居るならpartyが倒した経験値を何もしなくても貰えたので寄生が輪を掛けて横行してたんだって。
今では叩かないことには経験値は貰えないことになっている。
だから入り口にいるわたしのトコまで、モンスターを引っ張って来てくれているんだ。
引っ張られてきたモンスターはヘクトルに近づいた瞬間。
一閃の元に光の粒になって消える。
もちろん、その前に離れた所から私はスリングで一撃。
二、三回に一回は当たる感じかな。
塔に来るまでの間ヘクトルに、
『スキルは何があるんだ?』
と聞かれたから、逆にヘクトルのスキルを聞いてみた。
ヘクトル―――種族魔人
LV40
スキル:ダブルアタック カオスバスター プロボーグ スペルブロック ガード 劫十閃 飛剣 カウンターシールド
……聞いても、そうだね。
ゲームの内容を知らないわたしには、そのスキルがあるから何が出来たりするのってそんな事だって解らなかった。
一言。
思わず、疑問を声に出していた。
「スキルがあるとどう変わるの?」
塔1階のモンスターは主に、スケルトンてゆー骨。
たまにスカル。
スカルってゆーのは、スケルトンの上位で麻痺など状態異常にされるぽい。
スカルが出たら引っ張らずにその場で倒すという約束になってた。
ヘクトルが麻痺すると厄介なことになるから。
スケルトンのLVは40。
それをヘクトルはサクサク倒していく。
おかげで有難いことにあっという間にLVは10になっていた。
このNOLUNというRPG、LVがなかなか上がりづらいとゆうのも一つの特徴だったかも。
party内で倒した人に八割ほど経験値がそのまま入る。
最大六人partyで人数の下限によって経験値の量が増える、とかだったかな?
今日までLV上がってないけどね。
「そろそろ、さ。わたしも叩いたっていいよね?」
私だってLVも上がって、やれるはずだ。
すると、
「無理。死ぬだけだって」
あっさりヘクトルに却下される。
「じゃ、魔法!」
「さっきのぷちファイアか? あれは、ライターの火の代わりくらいじゃね?」
笑われた(泣) 確かに初心者御用達のぷちファイアしかマナは持っていない。
しかも誰かに貰ったスリングに貰った時から嵌まっていたぷちファイア。
ヘクトルが言う通り、使ってみたらライターの火。
だからと言って持っていないマナは──使えない。
「ヤバっ!」
「どしたの?」
「麻痺った!」
スケルトンの後ろからスカルが現れたらしい。
麻痺している間は動きが鈍く、攻撃を避けることが出来ない。
だから……。
「バイタルがぶ飲み。ひー!」
それなりにスケルトンをサクサク倒せるヘクトルでも麻痺してしまうと一転、不利になってしまうみたい。
こっちくんな。
「逃げろっ! 逃げるぞー!」
モンスターは出てこれないはず、塔の外には。
ゲーム時と同じなら付いてこれないんだって、さ。
助かった。
結論──
今、わたしには寄生するくらいしかできない。
「いや、マナ増やすか。スキル覚えるかしろ。」
ジト目でこっちを痛いくらいの視線で刺すヘクトルは、機嫌悪いですよーな、黒いオーラを隠そうともしない。
スカルに殺られそうになったからなんだけど。
それってわたしのせいか?
「ホント、誰にも会わないな。」
息も絶え絶えに入口のすぐそばにへたりこんで苦し紛れにそう言うヘクトル。
誰にも会わないっておかしい。
ハッキリ言って。
一人でスカル相手にするのは、声に出して言わないけど面倒だったみたい。
「どこで覚えるのよ?」
落ち方わかんないし取り合えずスキル覚えよっかな。
わたしだって強くなれる、きっと。
「そうだなー。大通りから脇に入った路地にマナの店ならある」
どうにか息切れはしなくなった体を石床に寝ころばさせて、どこを見るでもなくそう答えるヘクトルに、
「お金、持って無い!」
にっこりと微笑んで言い返すわたし。
マナは値がはるって話に聞いた事くらい、わたしだってある。
解るのだ、それは高価なものだと。
視線を移してヘクトルを見るとやっぱり変わらずジト目でわたしの事を睨んでいた。