さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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ナイショの花園

 

 

シャリアに引っ張っられて連れていかれた先は城の裏庭だった。

裏庭と行っても、城から随分離れた丘の下に広がる庭園で、距離を考えれば城とは別物と言えるかもしれない。

空を見上げれば辺りは暗く、すっかりと夜になっていて二人の姿以外、人気は感じられない。

昼間来れば、色とりどりの花が見るものを楽しませるのだろうが、夜に灯りもない庭園というのはどこか薄ら寒さすら感じられる。

二人がこれからしようとしていた、内緒の話をするにはうってつけと言えなくもない。

 

「どこ連れてくの」

 

「城の裏庭にある庭園だ。こんなに暗くなっていれば庭師も来ることはない。安心して何でも話せ?」

 

なかなかの距離を引っ張って来られたエクトは、息を切らしているが日々鍛えている騎士であり、巫女としても修行をつけられているからかシャリアはけろっとしたものだ。

どちらから言い出したでもないが、二人はその場に別々に腰を下ろす。

 

「で、何と言ったか。大臣が偽物と言うのは真か?」

 

隠そうとしているが隠せないでいる。

シァリアは地面に腰掛けるや否やエクトに視線をやって食って掛かる勢い。

その表情からは期待半分、疑い半分といった所か、頬が少し緩む。

地面に突いた指先も落ち着かない様子で、そわそわと動かしている。

勘の鋭いわけでないエクトにもはっきりとわかった。

この女はあの大臣が相当気に食わないでいると。

 

この時。

シァリアの頭の中では、『醜聞が事実としよう。ならば大臣の首は、首はっ』シァリアの手で大臣の首は胴とさよならさせられるかも知れない。

これが期待分。

 

『しかし、……実は私がコイツに謀られておるだけだという事も考えられる。……どっちなのだ……』騙されている。又は、証拠も掴まずに動いてしまっては大臣によってどんな酷い仕返しを受けるか解らないのだ。

 

「………………」

 

シァリアが答えを求めて脳内であーでもないこーでもないと焦りを見せ始めていた。

そんなシァリアを焦らしている当人のエクトはじぃっと見詰めるだけで黙っていた。

シャリアから聞き出せるだけ情報を手に入れておこう、と考えたのかもしれない。

 

「続けて、どうぞ」

 

「──?大臣の事をか? 愚痴にしか聞こえないだろうが……」

 

それからシャリアは相槌を打ち、ひたすら聞きに徹するエクトに小一時間ほど愚痴でしかない大臣について知っているあらゆるを聞かせる。

エクトはこういったNPCから情報をただひたすら聞く作業が苦ではない、むしろ好きだといっていい。

 

シャリアは生々しい事柄はこの時避けて吐き出していたのだが、

 

「もの足りない」

 

「なんだと?」

 

「凄くもの足りない。まるでパズルのピースを隠されて、虫食いで完成させたみたいにその話には……キミが大臣を嫌うエピソードが無いような気がするんだけどな」

 

エクトの鋭い指摘にシャリアがぎくっとする。

 

「ホラ、顔に書いてある。わたしは嘘をついています……ってね」

 

シャリアに近づき、前髪をめくりあげて細めた瞳でシァリアの瞳を見詰めるエクト。

 

「………………うー……」

 

瞬間、固まるもののすぐに横を向いてエクトの手をどかす。

髪を触られて恥ずかしかったのかシャリアは前髪をくしゃくしゃした。

 

「パズル?ピースか?解らぬが……」

 

故意に外した話題はあった。

それを話すには確たる証明が欲しかったのかも知れない、だからシャリアは少しおどけて話題を変える。

 

「エクトだっけ。今、何歳?」

 

それまでの彼女からは、想像も出来ないような微笑みを浮かべて砕けた口調で。

しかし、それは彼女なりの決心の顕れでもあった。

 

エクトの持っている情報を、それほどまでに彼女が欲しがる理由があるのだ。

 

「急になんだよ。……十四……になったばかり、いや、なったのかなぁ?」

 

実は誕生日は直近だったのだが、迎える前に此方に来てしまって実際には迎えたかどうか解らないエクトだった。

それまでどうとも思わなかったか、わざと考えようとしていなかったのか、ふいに両親の笑顔がエクトの頭を過る。

 

『誕生日の前に居なくなっちゃって、心配させちゃってるかな。日本……帰りたいけど、うーん……帰りたいのかな? パパやママには悪いけど、日本じゃ出来ない経験がいっぱい出来そうだし、飽きたら帰る。でも、いつかは帰るから』

 

エクトの中で優しい両親の笑顔が曇っていく。

その両親の顔に向かって小さくバイバイしてみせた。

勿論、心の中で。

 

「わたしは十五だ。ふふ、同じか少し上かと思っていたぞ。素直に言う、巫女としての、わたしの問題についてだ。だが、その前に大事なことを聞きたい、エクトはイーリスの人間か? そうで無いのかだ」

 

何事か憚れるように故意に言葉を選んで喋る彼女は、嫌なことを思い出したのか表情が暗くなってゆく。

 

「質問の意味がわかんない」

 

それを気づいてはいたが敢えて指摘せず、更に情報を聞き出そうとする。

彼女の話はどこか真に迫っていない。

そう、判断材料として必要な部分がごっそり抜けている感じがしてエクトに違和感を覚えていた。

 

『話していいか迷っているのか、話すつもりがないのか。それとも試されているのか』

 

「イーリスが解らないか?イーリスは神だ。かつ、グロリアーナにとって危険な存在だ。それとも解らないふりで、当たり前の事を喋るわたしを笑っているのじゃないだろうな?」

 

そういうことならと呟いて傍らに置かれた剣にシャリアの手が掛かる。

 

「いいや、そういうことなら。うーん、……どう答えたらいいのか解らない.....」

 

それを見てあわててエクトは否定する。

イーリスの事を知っているとすればシナリオで、クエストで、必要最低限に関わった事だけだった。

 

イーリスと言えばイーリス教団だろうか?

ふと、意識の端にそんな狂った集団を思い出す、と。

 

「イーリス教団で無いという証しをわたしに見せてくれ。これを──」

 

「なんだ? これ、ペンダント?」

 

そう言ってシャリアが懐からジャラリと出したのはペンダント大の何か。

 

イーリス教団が持っているのを見た事があった、確かあれは。

 

「これはな、イーリス信徒の炙り出しに使われるものだ。信徒に取って命にも変えられんものだとゆう。全く、こんなただの刻印付の首飾りひとつ。信徒にはそうでも、それ以外には取るに足らぬただの首飾り。本当にくだらん話だろ。……さあ、踏めっ!」

 

興奮したように急に立ち上がって、こんな板切れが!と叫びながらシャリアが地面に叩きつけたそれは形は違えど日本で言えば十字架、ロザリオと呼べるものかも知れなかった。

踏み絵ならざる踏みペンダントをやれと言っているのだ。

 

「これで気が済んだ?」

 

躊躇なくエクトはぐりぐりとこれでもかと執拗に形が崩れるほどペンダントを踏み潰す、まるで吸っていた煙草の火を揉み消すように元の形がわからなくなる。

エクトの足の下を覗けばそれほどグッシャグシャにされた首飾り。

 

エクト自身、イーリス教団は好きでも嫌いでも興味が無かったのだか、あるクエストを受けたのを切っ掛けにそれは憎悪や畏怖にすり変わっていたのだ。

 

そんなエクトの行動と顔付きが変わったのを見て、ポカンと口を空けたままでいるシャリアは間を取ってハッと気付くと、

 

「おお。それはもういい……やりすぎだ。それを信徒に見られたら磔の上で首をもがれて胸を穿たれるだろう。……神を神とも思わない悪魔、……と罵りを受けながらな。ああ、気が済んだ。では、本題に入ろうか」

 

そこまでやらんでもと、言いたげにジト目で視線を送りながら、

 

「まず、何から話せばよいか──」

 

先程とうって変わって生々しい事柄も交えてシャリアが話し出す。

 

大臣の正室との不仲、好みと見るや執拗に求められ誰彼、側室にされ兼ねないなど。

その上、部下の嫁娘との情事を強要。

酷い下半身豚。

 

そして──話は真に迫って行く。

押さえきれないのか思わずスクッと立ち上がりエクトを見下ろす形になり、語気が強く口調のトーンが上がっていくシャリアを見ていてそれがエクトには解った。

何となく想像も出来るほどに。

 

「その豚が! ふざけた事を……よりによってわたしに回ってくる、ぐすっ……なんて……」

 

話している内に声は震え出し、やがて嗚咽に変わる。

シァリアは泣いていた。

そして、グシャっとまるで砂の城が踏みつけられて崩れるようにぺたんと地面にへたりこむ。

 

「それだけじゃない。わたしが断ろうものなら! あの豚め、グロリアーナ陛下をっ!………………うぅう……」

 

後半は何を言っているか解らないぐらい、涙声と嗚咽になりエクトはどうしていいか解らず、ぎゅうっと自然とシャリアの肩を引き寄せ抱き締めた。

 

「わたしが!純粋に騎士であったならば!巫女などで無ければ!」

 

エクトに抱き締められたまま胸の中で泣くシャリア。

一頻り彼女が泣き終わるまで持てる知識の全てであやし、慰めることに集中する。

 

 

 

いつの間にか2人は寄り添って寝っ転がっていた。

シャリアの涙こそ止まってはいたものの時折ぐすぐすと聞こえる。

エクトはと言うと天を見上げ何やら思案する。

決したように言葉に紡ぐ。

 

「あれは、お月さま?」

 

「ぐすっ、……そうだよ?」

 

エクトがポカンと口を空けたまま問い掛けると、何当たり前の事を聞くの、と言わんばかりのトーンで返すシャリア。

 

「おかしいな。……何度も数えたけど、──5つある!」

 

天に浮かぶその月はエクトの言う通り、五つ浮かんでいた。

 

「2つ墜ちたんだって。1つは海の底、1つは極北のハイランドのどこか」

 

吃驚しておかしな顔のまま彼女の顔を凝視するエクト。

聞いてもいないのに童歌を思い出したのかメロディーに沿って続けるシャリア。

 

「昔々、〜神々の争いがありました〜人々は巻き込まれて争い、幾万が死にました〜争いは終わらないので賢い神は都市を空に持ち上げ人々を逃がしました〜」

 

悲しいメロディーの童歌でした。

歌い終わっても彼女はエクトに自分の知っている知識を分け与えるように続けました。

 

「あの月の1つには天界樹が生えてて、5つの月は支えられてるの。まだ人々は生きててわたしを見てるの、見てるだけで助けてくれないの」

 

「それ、歌?」

 

「歌だよ」

 

「今の心境なのかな〜と」

 

照れ隠しなのかぷいと横を向いて視線を反らすシャリア。

その頬は少し朱が染みている。

次に出てきた言葉はエクトには想定外の言葉だった。

 

「あなた、カルガインの田舎者って感じじゃない。ううん、この世界の人じゃないでしょう。ね?」

 

「…………」

 

暫しの沈黙の後。

 

「そうです。と答えたらどうするの?」

 

シャリアの背を見詰める。

寝転がった地面には芝生のような背の低い草が生えていて自然と二人の熱を奪っていく。

 

「あなたの、……国の話が聞きたいな」

 

振り向いたシャリアは先程までとは打って変わって微笑みすら浮かべて、興味津々と言った空気すら纏っており、エクトはこの時何事か彼女の醸し出す雰囲気が柔らかくなっていたのを感じていた。

 

 

「何から話そうか。ええと、僕が住んでいる星は地球と言って、月はその回りを回っていて1つなんだ」

 

「うんうん、続ける続ける♪」

 

エクトは思案しながら喋り、シャリアは興味津々といった表情で話に食い付く。

 

先程までと役割が逆になる2人なのでした。

 

 

 

 

 

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