さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録 作:ぴんぽんだっしゅ
でね、タイユランの店の前。
生きてたら店開けるって言ってたけど開いてないや。
まあ、まだこの辺りは逃げた先から帰って来てないみたいで鎧戸やシャッターが下がったまま。
開いてるお店無いものかなーと1軒1軒逐一叩いてみる。
返答は無いし、人の居る気配が無い。
酒場や大通りは人が戻って少しずつ活気が出てきたのに。
路地の商店には開けてるお店って無いみたいだ。
そう諦めて路地を奥に抜けようと歩いてたら、前から見知った格好の人達が歩いてきてかち合った。
あちゃあー。
酔ってないといいけど、警備隊の誰かさん。
「よう。氷トカゲを退治したんだってな?
酒場の奴らそりゃもうはしゃぎまわってたぞ。俺たちの仕事になんなきゃいーんだがな」
「見てただけだよ、わたし。ヒールしか無いから。一緒についてっただけでお礼とかされちゃうと、まぁ……悪い気はしないよ?
でも、逆に悪いなぁって思うんだー……ヘクトルとシェリルさんの手柄なのに。あ、ホラ。お酒もダメだし、さ♪」
タイユランのとこを覗きたかったのもそう、路地のお店を見たかったのも単に、わたしが役立たずだと痛感したからだ。
シェリルさんに絡まれるのが嫌なのも絡まれた先で言い返せない、役立たずだから。
わたしに1撃必殺の技があればなあ。
シェリルさんに何を言われたって言い返せるのに。
今は無理。
その資格がないって。
「……ヒールだって立派なもんだよ?騒ぎたいだけなんだ、悪気は無いよ。あいつらも、……痛い思いをしてたんだから、少し大目に見てやってんだ。氷トカゲには仲間を何人もやられてるから、な。俺の知ってるやつも帰ってきてねえんだ、だから。俺からもお礼を言わせてくれよ。ありがとうな、お嬢ちゃんたち」
「どもです。効果も今一つですから」
明らかに掛ける言葉を探した、警備隊の誰かさんは目が泳いでからそう言ったのでお世辞とわかる。
続けて出てきた言葉は、愚痴まじりの警備隊の誰かさんなりのここ数日続いてた問題についての気持ち。
この誰かさんも氷トカゲとか氷の川のモンスターに身近な人を殺されてたのか……って思って暗くなりがちの思考を頭を軽くふるふる振ってリセットし、ベイスさんによろしくと言ってその場は別れた。
話込んでると長くなりそうだし、悲しい話にシフトしてくともらい泣きしちゃいそうだし。
別れ間際のわたしの背に、
「ヒールがなきゃバイタルずっと飲んで無きゃなんねーだろ」
誰かさんなりの、はげましの言葉を力いっぱい貰っちゃいました。
「お仲間だって助かってる筈だぞ。だから、こんなとこいねーで宴にまざらねーか」
ぷっ、お酒飲めないんですってば。
そう言ったんだけどなぁ、だからぁ、宴には行かない、行けないのに。
わたしにエールをくれてるんだろうか、と受け取っておく。
いやまあ、ちょっとね、心にクるものはあったよ。
だから、振り替えってお礼を言って後なんだか照れ臭くなっちゃってその場を走って逃げちゃった。
宴に混ざらねーか。かぁ、………………混ざれねーよー。
今、顔真っ赤できっと、シェリルさんにヘクトルに茶化されるよー。
ありがとう。
警備隊の誰かさん。
路地を奥に突っ切るように走って、気づいたら大通りで開かれてる市の端に出てしまう。
決して大きくない市のテントから、賑やかな談笑の声や、売り子の客引きの口上が聞こえてくる。
市だー、人が帰って来てるの実感するなあ、てしみじみ歩いてたらその内の1つに目が止まって足を止める。
これ革かぁ、でも縫製がちゃんとしてて可愛い。
いいなあ。
でも、…………値段も50000グリム、か。
いい値ついてるなあ(泣)
目に着いたのはワンピース、革製。
そもそもこの世界、柔らかい生地の布がとても貴重。
今着てるのは男女フリーの黒地のドラム缶みたいな、ごわついた服で腰をぎゅっと帯で締めて着る。
このごわ服よりも革製品のか少し高いけど着心地はいいみたい。
シェリルさんはそもそも、ごわ服を断固拒否して着ないし。
ヘクトルとお揃なのも何か変だけど、もっと嫌なのは警備隊の誰かさん達も寝起きは皆これってこと。
つまり、パジャマで歩き回ってるみたいな。
わたしは、パジャマ持ってるから勿論着替えるけど?
こんなにグリムで困る事になるなら、フレに誘われた時くらい真面目に狩りに付いてくんだったね、そしたら50000グリムくらい……しかも、これ石鹸も貴重らしいからさ。
なんか臭うんだよね。
はあ、困った。
二人は成金だってわかってるけど、石鹸が安い高いじゃなくて、カルガインにある数が少ないだけらしいから余計だ。
買えるんならヘクトル辺りに頼んで、嫌だけどさ。
そこはそれ石鹸は必需品じゃん。
ヤな臭いが自分が発生源とか嫌、絶対いやーあぁぁ…………
なんだっけ?
クエスト真面目にしてたら、成金になったって言ってたよねヘクトル。
やろう!
背に腹は変えられないって、何か違うけどごわ服で歩き回りたくない、むしろ着たくない。
せめて革の服でいい、可愛いのは高いから。
ごわ服脱出の為に。
クエスト探そう。
…………って一念発起してから市を離れて大通りを北に向かってぽてぽて歩いてるけど、全くクエスト見つからない。
酒場にあるのはわかってる。
けど、酒場で依頼受けるのは酒場に回されてくるのは1日2日で達成出来るものじゃないじゃない。
そんな事わかりきってる、わたしは御手伝い程度のお使いみたいなクエストを探してたんだ。
お使いありませんかー、初心者でも出来ちゃう簡単なものでいいんです。
……むしろ簡単な御手伝いしか出来ないです。
ふう、なかなか落ちてませんね、クエストって。
そうやって脳内劇場絶賛公開中…………絶賛後悔ちうだった時だ。
困り顔の。
革の服を着た、立派な髭を蓄えたおぢさんが突っ立っていた。
ここは大通りを過ぎて北の広場に近い。
見ると縫製商店らしい。
これはフラグじゃない?
何か素材が、急に足らなくなったとかそんなじゃん?
「何かあったんですか?」
その時は、内心シメシメと思ってたんだ。
話を聞いちゃって後戻り出来ずに、誰かに頼れないのに、安請け合いしちゃったかなあ。
って後悔するのに。