さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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マトーヤの洞窟

 

 

「こっちくんなー。わぁあああぁああああーっ!」

 

 

 

 

わたし今ぴんち!

絶賛ピンチちう!!

なんて……わかりきってる。

 

走って逃げるわたしの後ろに迫るのは、ゴブリンを乗せたグランジ。

グランジは牛みたいな、でも顔はオーク、豚みたいな猪みたいな。

 

ぷちファイアを連発で喰らっても涼しい顔で追ってくる足を止めない。

 

嘘だろうー。

ちょっとは効いてるはずなのにっ!

 

なんでこうなってんのかってゆーとー……

 

 

 

 

 

 

「何かあったんですか?」

 

「なんだお前。近所のガキか?ガキに用はねえんだ、あっちいってな。ほら、これやるから」

 

イライラ顔でおぢさんがそう言って、わたしの右の掌をすぅっと持ち上げて肉革の切れはしを握らせた。

 

……………………。

 

これは、食べ物じゃなくて空腹を紛らわせる為に噛むものらしい。

 

戦争とかで直ぐに食べるものが手に入らない時、仕方無く咬んで食べた気にさせる………………待って、ちょっと待って!

 

空腹を疑われた?

ちゃんと食べてるしっ!

そんなにみすぼらしいかな?わたし……。

 

取敢えず貰っとく。

あんがと、おぢさん。…………じゃなくて、

 

「ん?こっちは考え事してて忙しいんだ。ほらほら、早くあっちいけって」

 

「何かあったんですか?何かあったんですねっ?」

 

直も噛み付くようにおぢさんに話しかける。

まだなんかあんのかコンヤロウォって言いたげな顔してて怖いけど。

 

いや、近所のガキじゃないからー。

クエスト貰う迄はおぢさんの前離れないよ。

 

わたし、ちょっとね…………ほんのちょっとだけ役に立つんだよ。

 

街の為にトロルと戦ってる場に居たし、氷の川にも行ったんだよ。

着いていっただけかもだけど。

 

あ、と思いだし、

 

「ぷちファイア……」

 

ぼそっと力無く呟く、わたしの取っておきの攻撃魔法は、線香花火を少し大きくした程度の火花をその場で放った。

 

何かを狙ったワケでは無いから、その場でパチパチッと爆ぜて消えてしまう。

 

それで十分だと確信してたんだけど。

そーだよ。

 

スリングにオマケで付いてたぷちファイアだよ。

しかも誰かからいきなりプレゼントされてたスリング。

 

これで近所のガキじゃない証明になるんじゃない?

 

ふふん、と余裕のしたり顔でおぢさんを見上げると。

 

「なんだ、…………ぷちファイアか」

 

驚かすなよと続けるおぢさん。

 

小さく舌打ちをして大きく溜め息を吐いて、値踏みするようにわたしをジロリと上から下へ眺めてから、

 

「じゃあ、ちっとばかし話、聞いてくれるかい」

 

肩を竦めて明らかにしゃーないこいつでもいいか。

と、含んでるのがわかる。

 

どちらかとゆうとバカにされてる気がしないでもないけど何分初心者だしわたしわ。

なんだ、失礼な奴だなっ!

ってとこはあるっちゃあるんだけど、クエストは欲しいしー。

 

何より金が、グリムが欲しい。

 

今、わたし何とも言えない顔してる自信がある。

 

「僕はトラケスってんだけど、仕事も残ってるのに素材が足りなくなっててな」

 

驚きの事実、おぢさんがおぢさんじゃ無かった。

その髭はなんだ!その髭が全部悪い。

髭を伸ばすなよ紛らわしい。

 

トラケスが言うには、素材が無くなりそうだから取ってきてくれる人を探してる、トラケスは仕事をしなきゃなんないから素材を取りに行けないって。

 

追加の素材を買い付けに行った店主が、王都に行ってて帰りがずれ込んでる所為だそうで、クエスト貰う筈がそんな愚痴を聞く羽目になった。

うんざり顔になるまで一通り聞いたとこで、

 

「でなあ。酷くな──」

 

「わたし、引き受けます。」

 

愚痴が長いのと、飽きたので早速このクエストを受ける事にした。

 

何々、染料(赤)と染料(黒)が10ずつ。+出来高。

報酬は1万グリムと。

……へぇー、出来高…………だって?

 

「出来高?」

 

「ただのガキじゃないにしても、ガキが行っていいとこじゃないのはわかるな?

でも素材は欲しいからたっくさん持ってきたらそうだな、僕がお前に服を下ろしてやるよ。それが僕が感謝してお前に支払う出来高分だい。いいか?グランジは危険だぞ。気を付けろ、絶対倒そうなんて無茶すんなよ?」

 

トラケスはわたしの服をジロジロと見ながら。

 

まるで、こいつ服作ってやりゃそれでいいだろと言いたげ。

 

はい、その通りでふ。

出来高で卸してくれるってゆー革服ホント欲しいし絶対頑張っちゃいますよ(笑)

バレちゃってるな、見透かされちゃってるなー!わたしの心のなか。

 

10ずつって事はほんとに足りなくなったんだ。

それで、間に合わせにでもいいから素材が欲しいんだね、きっと。

 

頑張れば出来高って頑張らせようとしてるじゃん、魂胆見え見え。

そいやー、なんか言ってたね。

 

グランジ?に気を付けろって。

何だろ……?グランジ?

 

わたしはクエストを受けると、ホクホク顔で東門の前に立っていた。

 

行き先はマトーヤ洞窟。

 

氷の川に行く前に転移したとこだ。

 

…………ん?転移したとこか、それじゃあ……と、思い直し、酒場にヘクトルかシェリルさんを探しに行くわたしがいた。

 

此れくらい頼っても嫌な絡まれ方はしないだろうし、ヘクトルだった場合1も2もなく投げてくれそうだしね。

 

 

 

 

 

ぐわははははは!

 

飲め飲めー!!!!

 

ぎゃあぁっははははは!!!!!!!

 

 

酒場はドンチャン騒ぎの真っ最中。

 

騒ぎの中心にいるのはシェリルさん。

 

悪酔いが過ぎるんじゃないの…………。

 

テーブルの上に客の誰かを四つん這いにして椅子替わりにしてる。

わたしは知らないけど、きっとろくでもない事に違いないよ、うんうん。

 

シェリルさんに今関わると、とんでもないことになりそうだからヘクトル探そう。

 

えーと、ヘクトルはどこかなあっと、…………あ、居た居た。

 

やっぱりカウンターの隅で、ディアドと何やら何時ものように話してる。

 

「ディアド。シェリルさんをあんなにしたまた放っておいて大丈夫?

それとヘクトル借りて良い?……ちょっとだけ」

 

わたしの声に気付くと、ディアドは視線をヘクトルからシェリルさんに一瞬変え……。

やれやれと言いたげな表情に変わってわたしに、

 

「街の英雄に、降りろなんて言えないしぃ、椅子になってる奴が泣いてたり、止めてくれって言うならともかく。あれ見てな、鼻伸ばしてさあ……。……あ、どぞ」

 

「俺をモノみたいに言うな。で、なんだよ?」

 

ヘクトルはミルク割りですか。

白い酒がジョッキに注がれている。

 

いや、そんなことはいい。

シェリルさんの周りもさっきより盛り上がって、脱げ脱げとかカオスな方向に一段と騒がしくなってるけど……。

 

そんなことわたしが無視していれば、見てみぬフリをしていれば関わることも無いのでどーでもいい。

どっちかゆーと、あのノリは怖い……身の危険を感じてしまうね。

 

「マトーヤに行きたくって。それで……」

 

わたしがお願いしてる途中でメニュー画面を弄ってるのだろう、ヘクトルの右手の人差し指が忙しなく空を切る。

 

アイテムを取り出すと、全部聞き終わってないのに何も言わずにカウンターの上に置いて、ディアドと世間話に戻ってしまうヘクトル。

 

ディアドがもういいの?

と聞いてくると、いいのいいからと返して。

 

わたしはイラナイ子かー?

 

違うよね、ヘクトルは深読みして、解ってくれたんだよね?

 

初心者が強くなった気になって、で洞窟に行きたいんだって言ってるから行かせてやろうってコトだよね♪

さすが、ヘクトル。

わたしが言わなくてもわたしの心の声を感じてくれて、それっぽく理解してくれちゃって♪

 

いや、ポジティブに考えてもヘクトルをいい奴に変換できないなあ……そんなわけあるかっ……て。

頭を過ってく。

 

今、わたし邪魔なん?

 

……ま、いいや。

ヘクトルは平常運転だよ。

うん、うん。

いつも通り。

 

転移アイテム有り難く使わせて貰うよ、じゃあねー。

 

◇マトーヤ洞窟を使うとあっとゆーまにそこは洞窟の前。

 

転移アイテムってしゅごぉーい!!

 

メニューでマップを確認。

あ、街の東に結構来ちゃってるや、歩いたらシンドイかも……。

 

氷の川の時は皆急いでたし、じっくりマップ見たり出来なかったから、一応氷の川らしき川の位置も見てみるけど。

 

マップ上じゃ、街から直接氷の川へ行った方が速かったんじゃあ…………。

あ、川が凍ってた地点が入り口って事だから、マップ見て川と近くても実際は違うのか、なるなる。

 

ふーん、川の水源の裏側にもダンジョンあるじゃん。

 

ま、今は目の前の洞窟かな。

クエスト完全達成してお礼貰うんだから!

 

マトーヤ洞窟は入り口から含有鉱物のせいか壁の色は青銅色。

その壁のあちこちに生えてる苔のせいなのか天井部分からうっすら光っている。

 

と、言ってもカンテラが必要ない訳でもないので、カンテラに蝋燭を刺せるだけ刺して、それとは別に一つに火を付ける。

 

ぷちファイア。

 

刺せるだけ刺したのはメニュー画面から取り出すのも手間だしね。

 

 

 

仄かな灯りを放つカンテラを手に、手探りするように初めての独りダンジョンに足を踏み出した。

 

わたしがここで狙うのは、染料の材料になる苔の採取orビーンズ赤とビーンズ黒から直接染料を泥すること。

 

苔だと100単位必要との事から直接染料(赤)or(黒)が欲しい。

でも、苔なら其処ら拾に生えてるので合わせて採取も頑張っちゃいますよ!

 

目指せ!下ろし立ての革服。

 

採取を頑張っちゃう、とついつい奥に移動しちゃうけど気にしない。

 

ビーンズ赤は初心者に毛が生えた位でも楽々倒せるらしい。

疑問なのは苔を食すから染料を泥するのかな?ってコト。

 

早速バトりたいとこだけど、ごわ服で来ちゃったから装備を整えてっと一応ね。

 

ヘクトルと塔に行った事はあるけど、入り口でじっとしてただけだし。

少し、緊張してきた。

そして採取に戻ろうと洞窟の壁に振り向くと早速、居た。

ビーンズ赤!

 

「ぷちファイアっ」

 

うにょっうにょっと動くか動いてないのか解らないくらいにしか近寄ってこないモンスターを狙って唱えるとシュウっと燃え上がり、見た目10㎝程のビーンズ赤はジュウウウっと蒸発する。

 

楽勝楽勝!

 

でもってこれが群れになると、

 

「ぷちファイアっ!ぷちファイアっ、ぷちファイアっ、ぷちファイアっっ!!このっ。このこのっ」

 

面倒で仕方ないのでスリングも併用する。

群れを殲滅すると、床にはオレンジのような染みがいっぱい。

 

その染みみたいなものはビーンズ赤の残骸で。

ここから、この中から泥アイテムを探すワケ。

 

結果はスライム液が沢山と、染料(赤)1つ。

…………足りない。

 

どんどん来いー、ビーンズならサクサクだよ。

 

ビーンズはスライムの一種…………と、言うよりはスライムを一回り小さくしたらビーンズに分類できるらしくって。

 

スライムは無機物なモンスターで、初心者が狩りやバトルに馴れるのに最適。

色々バリエーションがあって強いのも居るけどNOLUN―――ううん、ノルン世界では弱い方に分類される。

スライムが意思を持って喋って、人と仲良くできる世界もあるみたいだけどノルン世界にそれは当て嵌まらない。

 

スライムはスライム、本能だけのモンスターでしかない。

でも、少なくともビーンズ赤は染料(赤)を体内で作って人に役立ってる。

モンスターが望むと望まないと関係なく、……だけど。

 

それから群れに2、3度出会すけども染料(赤)は1つ増えただけ。

先は長いなあ。

 

それにしても、ビーンズ黒はちょっとだけ固いってトラケスに聞いたけど、まだその姿を表さない。

 

入り口付近のビーンズ赤は殆ど殲滅したのかビーンズ赤すら姿を見えない、今は。

 

しょーがないもう少し奥に行こうか、行っちゃいますか。

 

 

 

 

少し進むと脇道が見え、ビーンズ赤もちょこちょこ蠢いているのが確認できたので、ビーンズ赤を殲滅してから脇道を覗き込む。

 

「黒いの居ますかー?黒いの居ませんかぁー…………」

 

脇道は人の手で掘られていて、壁の色が洞窟の色と違い茶色。つまり、土肌のままで等間隔に柱で補強して崩れないようにしているのが見て解る。

 

脇道に興味を引かれたけど一先ずこのまま進む事にした。

奥に歩き出してしばらく進むと壁の向こうから低い唸り声が。

 

見ると、ゴブリンの巣なのか石組みのテーブルだったり椅子だったりがあってゴブリンが1、2・3・4・5…………5?

 

5匹だって、5匹も居るよ、ヤバイ!

 

1匹ならまだやれるよ?わたしだって。

 

でも、5匹をいっぺんに相手するのって南門の戦闘で経験上、わたしなんかにはまだ無茶だって解ってる。

 

早くすぐにここを離れなきゃ。

あ、気付かれた!

 

此処で焦って。

奥に逃げちゃったから大変なことに。

……なっちゃったんだよなぁ……。

 

 

 

散々逃げ回って振り返るとそこには、気味悪い笑いを浮かべたゴブリンを乗せたでっかい牛みたいな猪見たいな、モンスター名・グランジ。

 

グランジ?

聞いたことあるな。と、頭をよぎったけど思い直し駆け出す、全速力で。

 

 

 

 

んっ…………………………はあ、…………はぁっはぁっ……。

 

力いっぱい走ったから息が上がってきてしまう。

 

慌てて走り出したから気づけなかったけど……。

この奥って膨らんでいて、右側には脇道が掘られて居るけど行き止まりになっている。

 

ヤバイよ、グランジはすぐ後ろに迫ってるのに。

 

どうする?どうする、どうするわたし!

 

追い詰められて、どうする事も出来なくなったわたしの心臓は早鐘を叩いてるみたいに音は大きくなり鼓動は早くなる。

 

あ、……終わったな。

グランジが目前に迫る。

その時だ。

 

 

 

ドンッッッ!!!

 

土肌の壁が何物かに壊され崩れた。

その向こうに現れた姿は何と言っていいのかな。

 

リザードマン、は違うしなあ。

人の形は取ってるけど人じゃない、明らかに混ざってるけど何が混ざってるのか一目では理解出来ないとゆーといいのか。

 

わたしの目前に迫ったグランジは、急に現れた何物かに獲物を変える。

 

ゲーム的にいうならタゲがあっちに移った?

 

何物かは手と呼んでいいのか、ミトン?のような手で握った槍で突如、目の前に現れたモンスターに向かって構え。

 

フロロォォオオオオ!

 

気合いの一声を叫んで槍を突き出す。

グランジはそれを角で弾き、壊れた壁の向こうに駆け抜ける。

 

「大丈夫ですのかー?」

 

何物かがグランジが駆け抜けた隙に、わたしに近付いて話し掛けてきたから正直吃驚。

 

……へんなアクセントの喋り方もそうだし、……まさか、人の言語を話せるとは一見に思えなかったから、口をパクパク。

 

気を取り直すまで何物かもグランジも待ってくれなかった。

やっぱり、グランジがわたしたちを見逃してくれたワケ無いよね。

 

ミトンのような手にグイッと引っ張られ、行き止まりになっている奥に導かれる。

 

あ、もしかして守ってくれてる…………の?

 

低い唸り声と突進が引き起こす地響きが耳に届く頃には、ミトンのような手を持つ何物かはグランジに身一つで特攻を掛けていた。

 

走って勢いをつけて飛び上がると、グランジの上に乗っているゴブリンを槍を横殴りに払って吹き飛ばし、グランジの上にゴブリンの替わりにすたっと乗る、と握った槍を頭上に振り上げそのまま振り下ろす。

 

すると、豪快な悲鳴を上げてグランジは何物かを振り払おうと暴れる。

 

壁に当たってグランジは動かなかった。

 

終った……の?

 

何物かがじわりじわりと動かなくなったグランジに近付いて、突き刺さった槍を抜くと持ち直し、グランジの腹にそのままグサリと刺さった。

 

これがとどめの一撃となり、一層豪快な悲鳴とも断末魔とも言えない叫びをグランジは吐き出して、横倒しにそのまま倒れ込む。

 

終った、今度こそ……。

 

そお思って一息つく、でも視線は張り付いたように何物かを見ていた。

すると、何物かはその場でごそごそと泥漁りを始める。

 

クエストで来た冒険者なのかな。

暫く、その光景を苦笑を浮かべながら見守っていると。

 

漁り終ったのか振り返る。

……うん、なんだろ……。

 

よく見ても解んない種族だわ、この人(?)

カエル人ってゆーのじゃないし、でも爬虫類とゆーかそっち系。

メジャーじゃない種族だと思う。

 

だから、わたしはジロジロ嘗めるようにこの人の各パーツを見てしまっていたんだよね。

 

後から思えば、助けて貰っておいてかなり失礼な態度な奴じゃん!わたしって。

 

「この姿が珍しいのはわかるのかー。私は、ヤルンマタインと言うのかー」

 

「えっと、まずは…………あ、ありがとう。それで、えっと……人類なんですか……?」

 

アクセントのせいなのか見た目のせいなのか言葉につまり、その上ついつい本音が口から零れた。

あ、と思ったがもう遅い。

 

ヤルンマタインと名乗った人は気のせいとは言えないくらい表情が曇って、

 

「ウロロォオオ…………馴れとるとは言え酷いのかー。我々のことはモロー族と言い、れっきとした人類ですのかー」

 

床に手を付いて落ち込むヤルンマタイン。

手を付くときにぺたんと音を立てる彼の両の掌。

 

見た目はあれだけど…………なんだろ、見馴れると可愛いと思っちゃうな。

 

モロー族のヤルンマタインか。

覚えたよ、そうじゃなくても凄いインパクトだけどさ。

 

絶体絶命のピンチを救ってくれたわたしより一回り小さい恩人?ヤルンマタインを見て思う。

 

 

「ご、ごごめんなさいっ!あんまりにも見た事も無い姿をしてるから……」

 

立って。と、手を差し出す。

 

ヤルンマタインは、わたしを見上げてやれやれと言いたげな顔に変わり、出した手をミトンのような手で握る。

 

冷たっ!

 

正直、人類の温度じゃない。

 

で、ゴツゴツと固い皮膚で褐色じゃない赤茶色をしている。

 

「馴れとるのかー。私モロー族は珍しいのかー」

 

喋り始めるヤルンマタインを、見るだけでニヤけてしまうのを我慢しないといけない。

これはある意味ヤバイ。

それでも出来るだけ平静を装い質問を投げ掛ける。

 

「えっとね。ヤルンマタインさん、だっけ。こんなとこで何してるの?クエストで来たのかな?」

 

「やっぱり何か勘違いしてるのかー。私、これでも村一番の立派な戦士のかー」

 

ついつい見た目に騙されて迷子に話し掛けるようになっていた。

わたしは悪くない。

ヤルンマタインの、モロー族の容姿がつるんつるんして幼く見えるのが悪いんだ。

 

って言ってもよくよく見るとやっぱり幼いぞ、ヤルンマタイン。

ゆるキャラっぽい何かにしか見えないもん!

 

「クエストとゆうのはギルドの依頼のというのかー?私、ただいま放浪してるのかー」

 

続けるヤルンマタインは、何とも言えない表情を浮かべながら煙管を取り出す。

 

火はあるかと言うヤルンマタインに蝋燭を取り出し渡す。

ぷちファイアで火を点けると、どうものかーとヤルンマタインはお礼を言うと煙管を火に近付けて燻らせ始める。

そして、ぽつぽつと自分のこれまでを語り始めた、まるで英雄譚の様に。

 

それを相槌を打ちながらうんざりと聞いたわたしが纏めてみると。

ヤルンマタインの語った、その内容はこうなる。

 

強者を求めて村を飛び出た彼は、海を渡り、砂漠を、荒野を越え、山脈を抜けてこの大陸に着いた。

 

人の言葉に苦労しながらも、冒険者のような事をして路銀を稼いで、放浪を続けているんだそうで。

 

でも今はクエストじゃなく儀式のための清らかな水辺が必要なんだって。

 

モロー族は水棲では無いけど、水と切っては切れない関係で儀式は習慣になっているから近い内にどうしてもやりたくって、でも儀式の出来るだけの清らかな水辺がなく彷徨っていたみたいなんだよね、カッコいい風にそういって自分に酔いながら語ってたけど。

 

要は迷子じゃん?

やっぱヤルンマタインって弟みたいだわ。

なんか幼いってゆーか。

 

「うん。わたしも探すの手伝うよ、助けられたお礼もしないわけに行かないし」

 

「いいのかー?助かるのかー」

 

どーせビーンズ黒、赤探して彷徨うことになるだろうし、ヤルンマタインを手伝いながら頑張ればいいかなって思って提案する。

 

丁度煙管を吸い終わったヤルンマタインは少し吃驚したのかケホンと咳き込みながらそう言う。

 

良いよ、良いよ、とミトンのようなヤルンマタインの手を取って歩き出すわたし。

 

結果を言うと水辺はあった。

 

そこに辿り着くまでに、道に壁にびっちり蠢くビーンズ黒の大群を発見して殲滅したことや、少し歩いては苔を採取するわたしをヤルンマタインが難しい顔で見詰めていたことや、洞窟の奥に行くに連れゴブリンが増えたことや、あれやこれやを含めてヤルンマタイン居てくれてホント良かったー。

 

感謝感謝と思ったことなど追記してみる。

 

水辺にじわりじわりと近付いていくヤルンマタインを見て。

 

感動しているのかな?と思ったけどそうじゃなかった。

 

彼は履いていた革のブーツを脱いでいる。

そうすると何が見えるかと言うと足が、足の指が見えるはずの処どうみてもヒレじゃね?

 

と言えるようなものが確認出来る。

じわりじわりと歩くのはモロー族の特徴なのかも知れないと思った。

 

水辺につくと…………ん?準備運動してないか?

 

わたしの知る限り準備運動に近かった、その時のヤルンマタインの行動は。

 

足を持ち上げ宙で回してみたり、首をグリグリ左右に振ったり、ミトンのような手をくるくる。

 

これは…………。

可愛いと言うかコミカルと言うか。

 

そして準備運動を終えたのか、着ている革の鎧や具足などを外している。

 

うん、コレたぶんいや、絶体!泳ぎに来たんだよね、ヤルンマタイン。

 

そう思っている間にも彼は水辺に姿を消した。

 

ばしゃばしゃばしゃ!!

 

そして聞こえる水音。

おー、クロールしてるじゃん。

 

と思ったらふつーにヒレで平泳ぎに切り返し、次は体を持ち上げながら泳ぐ。

ああ、バタフライかー。

 

習慣にしてる儀式って……コレ?

 

ジム通いのサラリーマンかよー!

 

一通り泳ぎ終えると、岸辺に上がりふぅと一息吐いて寝そべるヤルンマタインを見て、正直な心の発露を言葉に出せないわたし。

 

どこで習うんだよ?

特にバタフライなんてさ。

何てことを頭の中で実況してる時ふいに、

 

「気持ち良いのかー。お前も儀式に参加しないのかー?」

 

誘わないでよー。

そりゃわたしだってね、泳ぎたいし水浴びもしたいですよ?

 

でも水着も持ってないし、変わりになりそうなのはパジャマくらいだけど…………ん?そう言えば引退していったフレから貰った愛用装備の中に水着みたいの無かったっけ。

 

思い直し、急いでメニュー画面から装備を探す。

水着だったらいいなあと思いながら……。

 

 

 

えっとね、コレかな?

…………あー、やっぱりかあ。

エリクネーシス、…………装備制限45!

 

こーゆーオチだよ、やっぱり。

 

45てことはヘクトルより強くならなきゃ装備できないじゃん。

 

いやいやいや、水着みたいだったら何でもいいのか?わたし。

 

よく見たら……。

かなり際どいシルエットをしてるエリクネーシス。

 

ちょ、お尻のとこ!

てぃーバックだし、背中はほぼ紐だし。

 

ゲームと割りきらないと着れない、着れないよこれ。

 

あ、シェリルさんに貸してあげようかな。

今度ここ連れてきて泳がせてみよう。

 

どんだけ、恥ずかしい格好なのか自覚できるし、わたしが。

そうしよう、それがいい。

 

固まって考え込んでるわたしを見ていたヤルンマタインが一言、

 

「私、シャツ使うのかー?」

「…………あっ、はい。貸してくれるといいかな」

 

頭グルグルしてたわたしは変な喋りになりながら返事を返す。

 

これと言うのも、際どいシルエットのエリクネーシスを着た自分を想像して頭ボンってしてたせい。

どーせ装備できないのにね。

 

ヤルンマタインの替えのシャツ、柔らかい。

 

何これノルン世界じゃ高級品だったりするんじゃないの。

勝手に思ってた。

ヤルンマタインが、

 

「それ、スクイッドの皮膚のシャツのかー」

 

何の気なくそう言うまでは。

スクイッドってなんだっけ、モンスター?

これ、確かにぬるぬるしてる。

それに、ゴムっぽいなあ。

 

水浴びもしたいから装備をBOXに片付けて着替えると。

 

ああ、まるで皮膚の一部みたいにわたしにくっつく。

下着代わりの『ただの布』まで外さなくて良かったじゃん?

 

ありがとう、使わせて貰うね。

と、軽くヤルンマタインに挨拶してから水際にまで行って、まずはばしゃばしゃと体を軽く濡らして、よっしゃ!久しぶりにやるぞと気合いを入れてクロールをする。

 

あれ?見間違いかな。

目の前に人が居る気がする。

 

「──!気を付けろのかー」

 

ここは地底湖。

叫ぶが早いか水に飛び込む、増えた気配に気づいたヤルンマタインの声が山彦の様に回りの壁に反響していた。

 

 

 

 

 

 

 

 




この頃って量は書けてたなーって懐かしく思っちゃいました…
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