さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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決戦!!

「くっ、こいつ!倒せない?」

 

「だああああらっしあやああああああ!!!」

 

「ヘクトルも、シェリルさんの攻撃も全く効いてない。」

 

氷壁となった岩の向こうに居たのは・・・龍神様なんかじゃなくて。

龍神様のいる筈の場所は広大な空間が広がっていて、壁のあちこちから大小様々の水晶が飛び出しとにかく暑い、着ている鎧を思わず脱ぎ捨てたくなる程。

 

シェリルさんが飛び出し、ヘクトルが何度も斬り付けているのは全身のほとんどが赤黒い目の無い芋虫か蛇のような姿をしていて、尾の方までは見えないけどウゾウゾと小さな触手が生えている。全身見える限り。正直、見るだけで気分が悪い。

ヘクトルが吠えて飛び上がり袈裟斬りを仕掛けたけれどモンスターにいつもの様にザックリ斬れると言う事は無くて。頭を振り回してぶつけられるという、逆に手痛い応酬を貰う始末。

 

「皮膚を覆う小さな触手は触れるものを腐らせますです。だからっ、ゾイルト!」

 

ゾイルト! 必死の表情でシアラの唱えた水球が勢い良く着弾、余り効いている様子では無いのはヤな感じ。アスカムが何時かのわたしを見るみたいにヒールを連発しているのを見て、ヘクトルにわたしもヒールを掛ける。

 

「口が唯一攻撃が効くのです。でも・・・」

 

びっしりと埋まるように顔の前に牙が生えている口。

それを聞いていたヘクトルが口目掛け斬りかかる。

あ、牙に弾かれた。まあそうなるよね。

 

その上、薄緑色の液体を吹き出すモンスター。それを体をよじってぎりぎりでかわす。落ちた粘液によって溶ける床。

 

「口からも腐廃する体液を吐き続けるのです。腐廃の邪竜・ワームです。」

 

「竜神様?」

 

「勿論違います。食べられたか、身を隠しているのか。今は見えませんです。」

 

説明してくれる難しい表情をしているシアラに、もしかしてと思わず聞いてしまったけど。そんな筈は無いよね、やっぱり。

龍神様食べられちゃったのかな?あ、またヘクトルが口を狙って斬りかかる、ヒールしなきゃ。

そう思った時周辺がぞわっとする程冷たく冷え込む。シェリルさんに初めて会った時感じたあの全身全ての凍る感覚。

 

「シアラ、水を。」

 

「はいですっ。」

 

ワームと言われる目の無い邪竜をヘクトルが一人で惹き付けている状態になっている今。

涼しい顔をしたシェリルさんが婀娜っぽく片手を上げてシアラの水を要求し、魔力の冷気を周辺に生み出す極大の凍気。

さっきまでの暑さが嘘の様に周辺が一気に冷気に包まれ意図を理解したシアラの水球が間髪置かずに連続でワームに着弾し続ける中、シェリルさんの魔法が完成した。

 

「ダルテ!」

 

地底の空間に呪文が響き渡るやいなや周辺が冷気から凍気にまで高まって、必死の形相でシアラが唱え生み出す水球も氷塊となり、ワームの牙や皮膚に着弾し、皮膚に張り付いた触手すら抉り弾き飛ばす。

 

鉄の森でオークの群れを1瞬で沈黙さしめた、強力無比で生けるものを死に追い立てる凶悪なまでの凍気がワームを集中して何度も、何度も襲い凍りつかせ様と炸裂する。

それを凍気の吹き上げるドライアイスの様な蒸気を左の手で避けながら片目を閉じて見ていた。

 

「ちぃっ、まだ生きてやがんな。」

 

嘘ぉ。悲痛なヘクトルの叫びにも似た声にワームを見るとその姿はあちこち凍って動かせないものの口や残った触手は変わらず蠢いている。

 

「腐廃の触手は抉ったから斬れなく無いんじゃない?反撃開始といきましょ!」

 

シェリルさんから軽く檄が飛ぶ。普段の彼女からしたら、ジャブに相当するのか。

 

「まだ動き回れるのか、こいつ!」

 

3割は抉ったか吹き飛ばされて無くなった牙でそれでもワームはヘクトルを襲う。

 

「なにっ!」

 

染みか模様だと思っていた胴体の斑点から、1撃、2、3撃と連続した突きでワームの胴体に斬りかかっていたシェリルさんと、

ずっと頑張って一人でワームの攻撃を惹き付けているヘクトルに液体が降り掛かった瞬間、膝から二人とも崩れ落ちる。

 

「はぁっ、痛いぃぃいっ!猛毒かも。」

 

頭から液体を被ったシェリルさんの顔が苦痛で歪む。すかさずアスカムが近寄りペルナを唱えて、吹き飛ぶ?・・・何事?

と、見れば頑張って居たヘクトルも床に伏せ込んで激痛にのたうち廻っている。

毒液を被った上にワームから攻撃を叩き込まれたのかも知れない。

倒れている三人に満遍なく掛けていく。ヒールをこれで何回使ったか解らないけど魔力疲れなのかダルさが酷い。

 

「うぐぐぐ。あっあああー!」

 

何時の間にかワームの牙に肩を貫かれたヘクトルが、倒れ込んだ床から持ち上げられて悲痛な声をあげる。ワームは動きが回復していた。ダルテを喰らう以前と変わらないくらいに。

痛みを感じないのかこいつ。本能のままにワームは目の前で必死に絡んでくるものに只持てる全てで叩き潰しに来ているだけかも知れない。だから凍った体が溶けて仕舞えばそれだけで以前と同じ動きが出来てしまうのかも。

 

「まだ、まだよ。」

 

宙に持ち上げられて苦しむヘクトルを助けたのはシェリルさんの強烈な衝き、レイジング・スラッシュだ。

 

剣先が刺さった所から朱の光の刃が追撃するようにワームの頭を貫く。頭を貫かれたからと言って何事も無く、鬼の様な形相で突き刺さっているシェリルさんをブウンと頭を振って振り払う。

 

「ゾイルト!」

 

シアラの水球が壁に叩き付けられそうになったシェリルさんとのクッションになって助ける。すぐに立ち上がったシェリルさんがシアラに向かいウインクと親指を立てて感謝を伝える。わたしとアスカムはヒールを掛けるのを忘れない。

 

「はぁっ!」

 

きっ!っとワームを睨みつけシェリルさんが払うように斬り付け、迫る潰れた頭のワームを避ける。

 

「だああああっらああっしやあああああっっっ!!!」

 

吠えたヘクトルが垂直に斬り付け、続く横凪ぎに払う十字斬りでワームの胴を切り裂く?堅く傷は付いても裂けるまでのダメージを負うことは無かった胴体へ蓄積されたダメージがここに来てついに裂けるに至ったのかも知れない。

 

イギイイイイイイイイ!

 

醜悪な叫び声を上げてのたうつワームが復讐の一撃を斬りかかっていたシェリルさんに放つ。

 

「きゃああああああ!」

 

またも頭を振り回して掬い上げるような強烈な一撃を喰らって天に舞い上がったシェリルさんに、更に休みなく追い討ちを掛けるのか落ちてくる所目掛け、口から生えた鋭い牙で串刺しにしようと迫る。

懸命に足場の無い宙で剣を構え牙を払おうとしていた。そこをそうはさせないとヘクトルが飛び掛かる。

 

「死に腐れあああっ!」

 

剣を垂直に振り上げ、ヘクトルがワームの牙に、口に力の限り振り下ろし切り裂く。すると、『く。』の字にひしゃげ曲がり自由の効かなくなっていたシェリルさんをもう狙う事はない。自由落下してくる彼女をシアラの放つ水球が再びクッションになって助ける。

 

天に伸びたワームは牙を伸ばし口を開いていた。そのままではシェリルさんは危なかったけど、決死のヘクトルの特攻とシアラの水球に助けられた。

 

「ゆ、許さないからっ・・・お願い。少し、時間を稼いで!」

 

振り返って鬼の様な形相でワームを睨みながらも距離を取ると一息吐いて、精神を練る為にじっと瞑想に入った。

 

「剣が、溶けるっ!くそ虫がっ。」

 

ヘクトルの剣の刃が溶けて切れ味も何もという感じ。

刃から体液が垂れて一緒に溶かされて刃は殆ど見えないくらい。

その事に暫く前から気付いていたシアラがエンチャントの付与を完成させる。

 

「サンダー・ブレイク!、ゾレスト・ブレイク!」

 

力或る呪詛の付与に依って二股の槍の片刃に、まずパチッバヂィッと言う音を伴って雷電が付与され、もう片刃にズォオオオと言う音を伴って止まぬ激流が付与されたシアラが丹精こめたエンチャントの槍が振りかぶって投げられる。

 

「この槍をっ!」

 

声に反応し、視線だけで槍の投げつけられたのを感じヘクトルが受け止めた。ヒールを受け続けてはいたが、その姿は満身創痍で。

文句は言ってられない、皆疲れている、そう言いたげな目をしていた。

 

「槍は専門外なんだが・・・言ってらんねえか。」

 

持ち手を確認する様にじっくりと、受け止めた槍を握り直す。振り上げながら飛び込んでワームの頭に渾身の力で突き刺すとヘクトルの力に耐えれなかったのか、突き刺さったまま砕け散る二股の槍。

それを見て、え?と吃驚してしまったヘクトルは慌ててメニュー画面から入っていた剣を取り出す。

ワイバーンの牙を鍛えて削り出したヴァイヴァミアの銘を持った真緑の刀身のその剣は、まだヘクトル自身重さに慣れていないのも使って無かった理由の一つ。

 

「ゾンド・ブレスですっ!」

 

ワームの周りに無数に生み出される。ゾイルトよりも一回り小さな水球が幾度もワームの胴体、頭に、全体にぶつかっていく。本能のままに周辺に当たり散らすだけの目の無い邪竜にはそれだけで敵の位置を定められなくなるのかも知れなかった。

 

「かっ、は!これもダメか。この剣で!」

 

動きの止まった邪竜に此れでもか!と慣れない大剣を振りかぶって・・・なんと、叩きつけたのはワームの方だ。ヘクトルは慣れない大剣を振りかぶってワームに届かずに振り払われた形で床に叩き付けられた。

 

ちょうどその前後、地底空間に眩いオーラが走った。

 

「これでっ!」

 

閉じていた目を開くと普段は金色の瞳が蒼く光り、ワームに向かって駆け出す。

 

「決める!」

 

全身に青白いオーラが表れそして爆ぜて、再び握った刀身に絡み付く。それを二度ほど繰返しキラキラと刀身は輝くと、冷気を生み出し凍気にまで引き上げて、

 

「―――エクセ=ザリオス!」

 

一瞬でワームの動きを奪い、蒼く輝くオーラが斬撃となって体液まで凍り尽かせて切り裂く。

 

「よくもっ!やったな!芋虫のっ!くせにぃ!」

 

凍り付けたワームの頭を、刀身に纏うオーラが収まるまで、気の済むまで突き刺し続ける、それでも嫣然とした表情を浮かべるシェリルさんの顔は自分より強いいものさえもを圧倒して喜ぶドSの顔をしていた。久しぶりに見た様な気がするけどそれでもやっぱり凄い斬撃。ダルテでも死に追いやる事の出来なかった邪竜を完全に凍土に封印しちゃった。

 

まあまだヘクトルは納得いかないのかワームに向かって飛び上がり垂直斬りや払い、突き、あらんかぎりに斬り付けている。気の収まるまでどぞ。それだけむかつく敵だった事は解るし、わたしだって剣を持ってたら気の済むまで斬り刻みたいくらいだもん。誰も死ななかったのが救いなだけでわたし以外満身創痍だ皆。

 

ん?わたしのとこまでワームが来なかっただけで決して怖くて後ろに下がってたワケじゃないからね。

そこ、間違えないでね?

わたしとの約束、ね。

 

 

「こ・・・っっ。」

 

コテンっとその場に倒れ込むシェリルさん。

いつものあれだ。使用後は睡魔とバトるして簡単に負けちゃうんだなぁ、いい寝顔だね。さっきまで怖い笑い声上げてワーム切り刻んでた人とは別人みたいだよ。

 

振り返ってアスカムとシアラの二人を探す。

視界に捕らえられないからだ。

いた。入ってきた壁に穿たれた穴の近くまで逃げてきて・・・そこでリバースしたんだね。

わたしもそうだよ、魔法疲れって言って良いのかこの吐き気は。

魔法酔いなのか?とにかくシアラの介抱をアスカムは受けながらリバースちぅ。シェリルさんはすやすやお昼寝ちぅだし。ヘクトルは相変わらず斬り付けるの止めないし。

 

「ワーム・・・どうしよぅか。」

 

泥はヘクトルが気が収まるまで待ってみようと思う。

ヒュドラの時は、かませみたいな魔石しか泥は無かったけど、目の前のワームは実体がある。是非にも期待しちゃうよねー。

 

「シアラ、龍神様どこ?」

 

いかんいかん、目的を忘れてた。ここに来たのはワーム退治じゃなくて龍神様に会いにきたわけで。

 

「ヤー。気配はあるです。何か事情があって姿出せないのかもです・・・」

 

龍神様ってシアラの、エウレローラの神様じゃ無かったっけ?姿を出せない事情ってなんなの。

 

「出てきなさーい。」

 

変わらず返事は無い。

 

「ヘクトル。」

 

「ん、なんだ?」

 

ここに来て会えないで帰れない。やっちゃえヘクトル。

 

「この部屋壊しちゃっていーよ、ね?龍神さまー。」

 

やっぱり、返事は無い。

気配はあるって言うんだから生きてるし、居るんだここに。

やっちゃえヘクトル。

 

「神様の祭壇じゃ無いのか?」

 

「やっちゃえ、ごーごー!」

 

その時だ。

 

「ちょっと!待ってて、待ってみて。」

 

天井から女の子の声がして暫くの間を置いて緑の髪を束ねた小4くらいの、眉を吊り上げた気の強そうな女の子が降りてくる。

 

「『●ピュリティ・ドーテだって。』何かな?」

 

「マナだな。」

 

「え"!」

 

本気で祭壇を壊すつもりも無いわたしとヘクトルの芝居だったわけです。

わたしは泥漁りを、ヘクトルは床に座ったまま。

何処からか耳をそばだてて此方の会話を聞いてんじゃないのー?と、思ってヘクトルと一緒に、龍神様を騙して誘きだしたの。

 

「ヤー。龍神様の気配です。」

 

シアラの指差す方には天井から姿を現した気の強そうな女の子が。

 

「あの、ちびっこが?」

 

そうね、大体わたしの腹くらいかな身長。こんな子が龍神様ー?

 

 

「観念したわ、龍神と呼ばれておる!しかし、もう幾年訪れる者のおらぬ只の老いて弱った竜よ。」

 

目を細めて龍神様はぽつりぽつりと喋り始める。ちょっと、話が違うような。ちびっこは自分を龍神と言い、何年も誰も来てないって。振り返ってシアラを見咎め、話おかしくない?と念じる。

シアラは電波でもないから特に何も伝わらなかったけど。

 

「ちびっこが言う事はホントなの?」

 

今度は声に出してみた。これでわたしの言いたい事は解って貰える。

 

「ホントです。洞窟自体、最近まで立ち入り禁止だったです。」

 

何とも言えない顔で頭を掻きながらシアラは喋る。

 

「いつぞやこやつの気配、匂いは外でしていた。」

 

ビシィッと指差す方にはシアラが。

 

「立ち入り禁止ですと書かれた場所は・・・入りたくなるです。」

顔を真っ赤にしながら照れて俯く。

 

「加護も祝福も与えてやる事は出来ぬ名ばかりの神とはいえ寂しい事よ。祭りも幾年無く、その上大切な祭壇もそこの邪竜に暫く前に奪われ、出来る事など何一つ無くなったわ。その様がコレよ、力を無くし姿も消えるか・・・の我を何とか助けたのはそこの童の好奇心じゃったのだの。天井の隅でやっと生き永らえておったのだよ。」

 

喋りながらトコトコと歩いて来て、シアラの所まで来ると、

 

「座って、抱かせておくれ童。我を生かしたのは童の、好奇心とは言え想ってくれた心だからのう。力の無くした我には抱いてやるくらいしか出来ん。」

 

いやいやいや、どうみてもシアラを座らせた龍神様の方が抱かれてますよ。

龍神様、頬を朱に染めてるしそんなに嬉しかったんですね。命の恩人に抱っこされたかったのね。それとも抱き寄せようにも手が届かないで恥ずかしいのかな?

 

何とかめでたしめでたし。かな?

 

「そう言えば、帰る道無いよね。」

 

めでたしめでたし、じゃない。道塞がってるの!

 

 

「そうですか。竜神様は姿を・・・」

 

「シアラとも話をしました。少し時間を下さい。」

 

眉を寄せて困り顔のエウレローラには取り敢えずそう嘘を付いて置いた。

このちびっこが龍神だとかニクス達は信じないだろう。それでもシアラだけは目の前で見ているので龍神と解っている。

それだけではない。懐かれていた。

 

彼女の掌をぎゅっと握り締めて燥いでいるのが証拠だ。

 

 

 

 

あの後で、力を無くした龍神様はわたし達を引き連れて祭壇まで歩くと、シアラに指示をする。と、祭壇が割れて何やら階段が。

隠し階段はを降りると今度はぐるぐるとスロープを登ってゆく。着いた先は城の裏庭ってオチだね。

 

信仰を集めていた頃は龍神様自ら、この隠し通路を使って城の戦士や兵士に激励に行ったり、近隣を荒らす魔物を鎮めに行ってたりしたんだって。

すやすやしてるシェリルさんをヘクトルに任せて残りのメンバー+龍神様で謁見とゆうか報告に行ったわけ。「取り敢えず、お腹空いたからご飯だね。もう外も暗いし。」

 

チラッチラッと横目でエウレローラを見る。女王なんだよね?いいもの食べさせなさいよ。と、言う念が通じたのか、わたしが食い意地の張った顔をしてたのかどうか。

 

その夜、盛大な宴がエウレローラの名の元に開かれることに。やったね!

 

城の大宴会場。百畳ほどの畳が敷かれた、旅館の宴会場にも見えるそこに足の短いテーブルが所狭しと並べられその上には、大皿の上に色とりどりの食材が乗せられており、そんな大皿が百枚以上テーブルの上に乗っている様はまさに宴会。

 

悔やまれるのは最も活躍したヘクトルは早々に酔いつぶれ、そもそもお昼寝ちうなシェリルさんは襖と寄り添う所しか見てない・・・

 

そんな中もの凄い食欲で一人で大皿を何皿も平らげていたのがアスカム。

ああ、もう凄かったのなんの。シーター族が食べ物を前にすると?顔をほぼ犬化させるなんて知らなかった。

皿をひょいと持ち上げるとーザラザラと、ばっくり開いた大きな口にぺろりと消えてしまう。

 

酒好きなのかボトルを一気に犬口に流し込む様は元気なシェリルさんが見たなら勝負を挑む所だったかも知れない。酒好きで暇ならディアドの店でボトルを空にしてるらしいし。

ま、アスカムは2本一気にだからスピードだと敵わないかもね。

 

「よう、遠慮無くやってくれよ。シアラから聞いたぞ、ワームをやったんだってなあ。」

 

「あ、アドル。遠慮なんて無いよ、でも大皿1枚が限界・・・」

 

アドルは笑いながらそう言って去っていった。わたしの返事は聞き流された感じ。

皿を平らげて気付いたけど日本食に酷似している。何の肉か解らないけど美味しかった唐揚のようなもの、どんな鳥の卵を使ったのか日本で見るどの卵焼きより十倍は大きな卵焼き、何の肉か解らないけど肉団子、そもそもカルガインでは見ることのない米を使った寿司の、ネタは海は遠いので川魚を使ったのかも知れない、とにかく色見は日本で見るそれらに酷似している料理。

 

わたし達のような迷い日本人が来ていたのかも。

それで料理のレシピをニクス達に広めたのでは?そうとしか思えない料理の数々がびっしりと並ぶ。

 

食材が違うかも知れないけどね。等と、思案を巡らせていると肩をちょいちょいと触られる感覚を覚え振り向くと、

 

「ヤー。どうです。楽しんでますです?」

 

酒の匂いをさせながらぐでんぐでんの顔をしたシアラが立っていた。着替えたのか鎧姿でもカットソーでも無く、素敵な青いドレス姿に身を包んで。

 

「あ、うん。もうお腹いっぱーい。」

 

そうだ。そのことを気にならないワケが無いので聞きやすいシアラに聞いてみる事にする。すると、

 

「えーとですね、・・・大昔に神様から教わったらしいです。確か、塾でそう習いましたです。」

 

いやいやいやいや、神様が唐揚とか肉団子とか教えるってどぅよ?迷い日本人を神様と崇めてたとかなら解らない事も無いかな。

その前に塾って。

ニクス達は知らなかった事を色々教えたんだろうその迷い日本人は段々と神格化されて行ったみたいな。

そうだ、きっと。それで城内もその神様化していった日本人が喜ぶからとかであんなに日本依りの城内になったんじゃない?完璧。

 

「それで、神様はどうなったの?」

 

日本に帰れたのかな?もしかして龍神様みたいに此処に居着いてたりして。

しかし、そんな考えはすぐに打ち砕かれる。何故なら、

 

「可笑しいこと言うです。龍神様は龍神様です。ね?、シファ。神様は神様です、習ったのは『神々しい声』が聞こえてですね、頭の中に神様が宿ったと言われてるです。」

 

シファ?見ると足元にちびっこ龍神様がシアラの裾を引っ張って寝むそうに大きな欠伸を一つ。

なんだっけ、神様は声がしてニクス達の頭に宿った?なんだそれ、ニクスの人数分神様が居たのかな。

 

「ありがと。シファってちびっこの名前?神様っていっぱーい居たの?」

 

シアラの言う事が間違っているわけじゃないだろうけど。ちょっと解らないな。

迷い日本人だと思うんだけどなー。頭の中に神様が宿ったってのが理解の出来ないとこなんだわ。

 

「ヤー。名前が無いっから付けてくれってせがむです。だから私が名前付けたんですよ、シファって。いい名前です?神様はですね、一人です。神様の影響でニクスは男が料理上手なんですよ。」

 

えーとね、待って。そっかシアラが名前付けたんだね、いい。可愛い名前だよ、良かったね龍神様。

わたしはいいこいいこってシファと言う名の龍神様の頭を撫でてやる。シファは目を閉じて心地良さそうに撫でられっぱなしで。

それはいいんだけど、頭の中に宿った神様が一人ってつまり?

神様の声を聞いたのは一人って事なのかな。えーと、つまり?

姿の無い声だけの神様は迷い日本人って事にするとばっちり完璧になるんだけど。声だけが聞こえて、それが一人しか聞こえないって何か携帯みたいな感覚?

一人で思案を巡らせるけど結局、それ以上の想像も浮かばないし、二人と相談してみよう。

 

「あ、シアラ。エウレローラはどこ?」

 

神様の事は後回し。今気になったのはこの場に女王のエウレローラの姿が消えてしまっていること。

宴が始まった頃は、乾杯の音戸をアドルに強要されて取っていたのに。

 

「女王様です?たぶん、酒に弱いから廊下にでも出てるです。」

 

そっか、酒弱いのか。んで、この場から離れて料理食べてるんかな。

じゃあ、エウレローラにも挨拶ついでに神様の事を聞いてみよっと。シファの頭を撫でていた手を止めるとシファはびくんとして首を左右に振りこっちを見上げてくる、可愛い。

 

 

シアラとシファにひとまずの別れを告げてエウレローラに会いに廊下に出ると、居るわ居るわ。ぐでんぐでんの酔っ払い連中が。廊下で寝ると風邪ひくよ?風邪あるのかな、こっち。

ま、いいや。お、居た居た。エウレローラは庭石の上に座り込んでいた。

今夜のお召し物は、透けるような白いゴムのドレスに金色のコルセット。

逆光の様に真ん前から月明かりを受けて神秘的に光るドレス。カエル皮は光沢あるから際限無く輝くわ。金色のコルセットもエウレローラの纏う雰囲気にぴったりハマって。鳶色の髪がやんわりとそよ風に棚引くのも。何を思うのか朱が差した眦に憂いを帯びるのも。思わず、息を呑んでしまうくらいには庭の風景と相挨って絵になっていた。少し、酔ったかな?くらりとする。

 

絵のエウレローラも直に失われてしまった。わたしに気付いた彼女はこちらに手を振って駆けてくる。

 

「エウレローラ、ちょっと話いい?」

 

「構いません。」

 

「あれ、なぁに?」

 

「お月さまですわ、今夜は天界樹も見えますわね。良い月夜です。」

 

神様の事なんかブッ飛んでしまってね。こんなにゆったりしてても異世界に居るんだなあって思わせられる光景はこんな所にも。

わたしが指差す先にはお月様が出ている。

月明かりが眩しいくらい・・・自発する月ってどうなの。

 

月は五つ。その内一つは真っ赤に自発し、その内一つには覆う様に少し影が付いている。エウレローラが言うには、影が天界樹という感じで。

こっちに来てからこんなにゆったり月夜を見る事無かったしね。星空を見えなくするくらい紅く自発し輝くお月様。綺麗と言うより恐怖心を煽っているかの様な。

彼女が言うには恐怖の大王が空に幽閉される為にいくつも月が必要だったんだって。そして、総ての月は支え合ってるんだって。

それから、ハイランド人の祖先が今も月に居るんだとか、七つあった月が何かの拍子に二つ墜ちてきて一つはハイランド人の祖先が乗ってて。

もう一つは沈んでしまって海の底。えっと貴女達は人魚でしょ?探しにいけるんじゃない。って言ったらね。

 

「わたしは泳げませんが。海の底を見に行くニクスは居ますわ。それでも未だどこに墜ちているのか解っていないんです。どちらにしても、わたしには無理な話なので。」

 

そうだった。カナヅチなんだったエウレローラって。

ごめん、忘れてた。ホントごめんなさい。

 

「謝らないで下さいませ。余計、惨めに思ってしまって泣けます。」

 

久しぶりに見た、カナヅチで泣く人。ニクスで泳げませんって、種を完全に否定しちゃってる感じだし、わたしには解らない、理解しようが無い大変な気苦労があるんだわ、きっと。

虹色に輝く粒を流してぐずっているエウレローラはちょっとシュールに見えて笑った。

 

 

 

翌日、起きてきた京ちゃんはとっても不機嫌でしょう。それを想像して思いだし笑いならぬ予想笑いをしてしまう。食べ物の恨みは恐い。なんちゃって。

 

 

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