さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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天使とみまごう

「ここ、どこ?」

 

「・・・さあな。」

 

「・・・初めて来たかなって事ぐらいしか解らないわね。」

 

エウレローラやシアラに送られて、ニクスの国を離れること小一時間。

どっちに歩けばいいのか解らない森の中をただ、歩いてる。周りを見渡せば背の高くない木か遠くに崖が見えるくらいで、特に何かあるわけでもないんだけど。

ぽかぽか陽気の下、宛もなく歩き続けているのも理由があって。送られてニクスの国を離れて気付く、見たことの無い風景。

どうやら地底湖の水流を流され泳いだ分、元々のマトーヤ洞窟から離れた場所に辿り着いて居るみたい。

 

「帰るに帰れないなんて・・・」

 

ふと、青空を見上げれば遠くに陽を背に旋回してる鳥の影。翼があればぴゅーっと今頃はディアドの酒場に居て、何か食べながら冷たいジュース飲んで旅の話をしてあげてるんだろうか。その前に翼を驚かれるかな。

そんな、とりとめも無い食欲のままにどうでも良いような事を思い、ニヤついたりしてた時だ。自分達では無い気配にヘクトルが気付いて呟く。

 

「何か居るな。」

 

その声に我に返ると目の前に続く山道の向こう、二人には何て事の無いオークがこちらに背を向けてそこそこ先に歩いて居た。まだこっちに気付くとは思えない。武器を抜いてないから。気付かれたとして、距離は離れている。背に担いだ新品の弓を試したくてワクワクする胸を落ち着かせて、

 

「―――ここは任せてっ!」

 

剣に手を駆けているヘクトルを声で制止する。と、気付いているのかこっちを見ている京ちゃんに目で合図。

担いだ弓を降ろし構えると、早鐘を叩く心臓の鼓動を気持ち良く感じながら、矢羽を掴んで矢を番えオークの背に狙いを付け弦を引き絞って一気に放つと、矢は勢い込み背に突き刺さる。更に、新しい弓の特殊性能で真空の刃が追撃する。

苦しげに一声鳴いて振り返るオークに止めだよ。と、脳天目掛け胸を高鳴らせ矢を番えて弦を引き絞り放つ。すると、狙いをずれた矢は鼻先に刺さり、さっきより高い叫び声を上げ前に倒れ込むオーク。

反撃を受けずに大物を倒せたのは、武器のお陰だけど。それでもこの世界で生きていける自信に繋がった。オークを倒せたらゴブリンなんて一撃だよねー。徒党を組むのが当たり前のゴブリンを一撃で倒せないのならソロでクエストをする、冒険に出るのは致命的に厳しいよと言ったのは出逢ったばかりの京ちゃんだったかな。

 

一応な連携ではあるけどゴブリンに一度に攻め掛かられて一匹に手こずる様ならそれでは死が近い。ゴブリンに限らずモンスターも必死だから回避もするし、逃げるし、殺そうと襲ってくる。

次に繋がる速度が重要で、一撃で倒せれば、すぐに他のモンスターを攻撃に移れるから、攻撃を受ける事がぐっと減って。無傷で敵を殲滅することを可能にする。

 

「あっさり片付いちゃったわね。」

 

オークを追って駆け出したわたしの背に、歩いて追い付いた京ちゃんの声が響いて届く。

 

「もうスリングだけじゃ無いもんね。へへっ。」

 

その声に振り返って笑顔でそう答えた。わたしの後ろにはオークの骸が転がっている。アドルから食べられると聞いたけど・・・

 

「良かったな、卒業できて。」

 

そんな事を考えてる所に、オークの骸を爪先で軽く蹴りながら、無感情に祝福の言葉を掛けてくれるヘクトル。

 

***》誰かー誰かー誰かー誰かー

 

急に空に浮かぶオレンジの文字。誰かからのエリアチャットだ。

 

「まただ。前にも同じこと有ったよね。」誰?わたし達以外にもユーザーが居ること解ってたけど、どれくらい居るのかな。そう言えば・・・1クラス分くらいの人数が来てるんじゃないか?って。言ってたのはヘクトルだったかな。

 

「返事あるかな、またすれ違ったりして、ね。」

 

誰に言うでもなくて京ちゃんはオレンジの文字の浮かぶ虚空を見据えながら。

 

「何か来たな。」

 

「んっ?」

 

それに真っ先に気配に気付いたのは空を見据えていた京ちゃんだったけど、余りの光景に声も出せずに固まる。しょうがないかも知れない。わたしもヘクトルの声を聞いて真上を見上げればそこには陽を背に大きな鳥の様なシルエットだけ見えた。えっ・・・これって。

 

***》やぁああっとー!みっつけたー!

 

 

真上を見上げていたわたし達の前に、真っ白い翼を生やして、緑の髪を棚引かせながら陽気な天使?がふわりと羽ばたきながら降りてくる。ニコニコと微笑みながら。

 

 

 

 

あ!ごめんごめん!

 

「こっちだったね。あははは。」

 

エリアチャットを使う度に虚空をオレンジの文字の列が埋め尽くしていく。

悪びれもせずに天使?は立て続けに大きな笑い声と共に目の前でくるりと廻って見せる。謝っているつもりがあるのかぺろりと舌をだして、何か思い出した様にぺこりとお辞儀をして、

 

「あなた達誰?どこから来たの?」

 

わたし達をいち、にぃ、さんと順番に指差し、大して困った風にもなく問い掛けてくる天使?さん。

 

「えっと、わたしはまぷち。カルガインから来たんだけど・・・クドゥーナさん?」

 

「え?なんで知ってるの。」

 

答えるわたしに吃驚して天使?さんは小首を傾け目をぱちくりしている。その仕種を見て思った。綺麗というよりはかわいい顔をしていると。

 

「あ、そっかそっか!ユーザーだと見たら出てるんだったよー、しばらく会ってないから忘れてた。」

 

悩んで掌で顔を覆っていたけど、思い出した様に顔を上げるとぱあっと花が咲いたかの笑顔を張り付ける天使?さん。

 

「それにね、エリアチャットを非通知で飛ばしたら、ただの迷惑だよ・・・何をしたいのか伝わらないよ。」

 

「ええっ!非通知に、あははは、なってたね。ホントだ、あははは。くすくすくす。」

 

だから迷惑って言ったんだよ?。天使?さんは大きな笑い声を上げて何が可笑しいのか、その場で震える様に、悶える様に両手で身を抱えてしゃがみ込む。

ああ、天使じゃないんだ。しゃがみ込んだ女の子の爪先を見る。そこに有ったのは大型の鳥の爪が。

 

「六堂愛那(りくどうあいな)モジってクドゥーナ、よっろしっくねー。」

 

手を出すわたしを見詰める二つの碧眼にどきりとする。やたら陽気にクドゥーナと名乗りを挙げた女の子は掌をギュッと掴んですくっと立つと、翼をはためかせてわたし達を見回し自己紹介を始めた。握っていた掌を手離すとピッと片目の前にピースサインを出してプリクラを撮るような決め顔で。

 

なんてゆーか、五月蝿い人が来ちゃったなあって、思ったんだ。そして、彼女の瞳を見詰め返してゆっくり頷くわたしの背から、京ちゃんの自己紹介をする声が響く。

 

「わたしはシェリル、あっちはヘクトル。いきなり名前言ったら、身バレするかも知れないのに・・・よく知りもしない相手に名乗れるわね。」

 

最初はただ自己紹介をしていただけだったのに、何か思い直して口ごもると涼やかに嫣然とした笑みを浮かべて問い掛ける。

うん、身バレは確かに怖いよね。わたしだって初見でそっちの名前は言えないな、男のヘクトルには仲良くなってもまだ言えてないのは心の奥底で信用できて無いのかも知れないよね。でも京ちゃんの口調はそれを考えても喧嘩を売っているようにも取れた。クドゥーナの態度にどこか気に入らないのじゃないかな。

 

「何か食べながら話そっか、何食べたい?」

 

良さげなところでテキパキとどこからかテーブルをひろげるクドゥーナ。

完全に京ちゃんの言葉を後回しにしちゃって、廻りを見回しすとふいに歩きだす。京ちゃんを横目に窺うと笑みを浮かべたまま、ひくひくと片眉を序々に吊り上げている。

 

あ、激ヤバっ!と思ったんだ。だから、クドゥーナに気付いて貰おうと彼女を追って視線を動かす先には。

彼女は気に入った場所を見付けたのか立ち止まって、腰ほどの高さのある丸くて白いテーブルにオレンジ色の四角で縁取りのされた、茶葉の様な緑のテーブルクロスを掛けて位置を整えている所だった。

 

「こんなアイテムあったっけ?」

 

つかつかと足音を立てる京ちゃんのブーツ。テーブルに辿り着くと立ち止まってその上に出されたそれ──携帯コンロを指差して。

 

「うちら、生産系ギルドには必須なんだけど?」

 

振り返ると小首をコテンっと傾げて、京ちゃんを見詰めるクドゥーナはメニュー画面を弄る指を止める。

 

「パンをさっき焼いたから、ホットドッグでいいかな?いいでしょ?」

 

と、取り出した人数分より多いパンにサクッ、サクッと切れ目を次々に入れながら、有無を言わさずにパンをホットドッグに近付けていくクドゥーナ。

 

「それにね、果実ジュースが上手に出来たんだー。ね、コンロも無いなら生産なんてやって無かったんだろー?それじゃ、味気無いものしか食べてないじゃない?」

 

馴れたもので、片手でジュースの入った瓶を取り出してテーブルに置くと、切れ目を入れたパンに携帯コンロで焙ったフランクフルトの様な肉の棒を差し込み、更に緑の野菜を添えた。更に、レンジの様な──後で聞いた所、料理用レンジと言うみたいなそれにパンを放り込み、目盛りをくいっと廻して目盛りの上に並んだスイッチをぱちりと押す。

 

「美味しいっ。飲んでみ。」

 

目を輝かせてジュースを口にするのは京ちゃんだ。さっきまで静かに怒りを含ませていた表情と打って変わって、ころころと笑いながら自然な笑みを浮かべる。ま、怒りも収まったみたいで良かった、ホント良かったよ。

 

「ほら、焼き上がったよー!」

 

ピッ、ポっと音を立ててレンジが開けば、開いたドアの隙間からモワァッと辺りを包むいい匂い。陽気に声を上げ、クドゥーナは微笑み、にやりと。

 

「マヨネーズにマスタードもあるよー。・・・ケチャップはまだ無いけど。」

 

「うわ、ホントにマスタードだ。」

 

トングの様な持ち手を使って、出来上がったホットドッグを取り出し、テキパキと金属のトレーの上に並べるクドゥーナの片手は更に、マヨネーズと手書きで書かれたシールの貼られた瓶と、同じ様にシールの貼られたマスタードの瓶を取り出す、その表情はとても自慢気で可愛く笑いながら。

 

その頃にはいつ取り出したのかクドゥーナがテーブルの周りに置かれた人数分の椅子に皆が腰掛けていた。

瓶の蓋を開けると黄色く、その匂いは鼻孔を擽る刺激的な香り。ああ、これ食べたかったんだ。マスタードなんだ、これ。

スプーンで掬ってトレーに並べる訳でなく取り出されたホットドッグを手に取り、パンに挟まれたフランク部分に適量を取る。同じ様にマヨネーズの瓶の蓋を開けて適量を掬い取りフランクに付けると、香りを嗅いだだけで期待を込めてしまったホットドッグを口にする。

むぐむぐ、ゴクッ。うはっ!美味っ美味っ、散々美味しい日本食を、日本食擬きをニクスの国で味わったけどまた違う美味しさ。

マヨネーズは、マヨネーズ擬きはニクスでも味わった。でも、マスタードや胡椒は近いものは有ったけど、似て非なるマスタードじゃ満足出来ない。ホットドッグはあっと言う間にぺろりと平らげ、腹に収まった。無くなった事で、なんてゆーか無性に更に食べたくなってしまい、情けなく指を咥えて食べ終えてない京ちゃんやヘクトルを眺める。

何か解らないけど、ひもじいよぉ。

 

「美味いけど、な。話あったんじゃないのか?」

 

「あ、あ?うーん?・・・そうだった!ね、ドラゴンが倒せないの、手伝ってくれないっかなーぁ?」

 

ホットドッグを美味そうにむぐむぐ咥えながら、ヘクトルが思い出した様に。

ふいに問い掛けて来られたクドゥーナはむぐむぐと口に含ませていた分を飲み込むと少し悩んで在らぬ方向に視線を逸らす。

続いて、ゴクっと咀嚼音が聞こえて口を開けば、ドラゴンを倒したいと言う。期待を込め、キラキラと碧眼を輝かせて。

 

「質問、ここどこ?カルガインの近くだと思・・・」

 

言い終わるのを待たずに口を挟んでくるクドゥーナ。わたしも、彼女が言うドラゴンをスルーしての質問だったけど。

 

「ぺろりっ、マップあるじゃん。ま、アスタリ山のどっかだよねー?・・・カルガインて事はこっちの地勢わっかんないのかな?あっちに見えるのがヘレハン山で・・・」

 

指に着いたソースを舐めながら、クドゥーナは口を開くと、むむぅと小さく唸りを上げながら崖を指差して説明を始める。

 

「あぁっ、ここカルガインじゃない。サー・・・ゲイト?って書いてある。」

 

マップと言われてハッとなりメニュー画面を確認した。吃驚だ、ニクスでは何も見えなかったマップには今まで見た事のない名前がずらりと並んでいたから。

否が応にもここがカルガインで無い事、ニクスの国も離れた何処かにある事が解っちゃった。サーゲイト?

 

「そっ!ここはサーゲートのアスタリ山だよー。」

 

後ろに見える崖を向いていたクドゥーナが振り返ってニコニコと繰り返す。

するとサーゲートとの発言に反応して、ホットドッグを腹の中に片付けた京ちゃんが聞き返した。カルガインからそう離れて無いと思っていたのかも知れない。その声に驚きを隠せないまま。

 

「えっ、サーゲート?」

 

「うちら、サーゲート辺り拠点にしてたからー。あははは。」

 

口に含んだジュースを飲み込み陽気に笑い出すクドゥーナ。彼女の所属する生産ギルドはどうも、ここサーゲートを拠点に活動していたみたい。

カルガインで会わなかった筈だよね。その距離は結構離れていて、マップ上にカルガインは表示されていない。

マップの端にかろうじてアスカムが口にした地名が表示されているけど、ここアスタリ山からはやっぱり離れている。

あの時の話を思い出すと、カルガインの下、東西に走る街道を指してラミッド街道と言ってたっけ。マップの端にかろうじて表示される街道と思える水色の線とラミッドの文字。

 

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