さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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目の前で起こるあれこれを受け入れろ、これは命令

 

その部屋は鍾乳洞の奥にあった。異様だった。壁の至るところに血糊がこびりついて───血の匂いにあてられて酔ってしまいそう。

 

眼を逸らしたくなってしまう様相を呈していた。逃げ惑って息絶えたのか壁を垂れる幾つもの血の手形、叩きつけられて絶命してしまっただろう血糊と壁の凹み。

 

「───当たり、だったみたいねっ。」

 

物々しい顔をした京ちゃんが歯噛みした。喉を潰す大きな声で叫んで。

 

今、ぶっつけて首がバイバイしちゃったオークを京ちゃんが踏みつけているからか座っていたオークの眦が吊り上がった様にギラリと瞬いた気がした。

睨み付けてくる大きなオーク!───オークロード。下卑た微笑いを浮かべ、人類を真似たのか、両の耳の間に髪を生やして服の上下も着てある。そ、それに。

 

「血を・・・絞って、飲んで?、るの・・・?こいつ、・・・うっ!」

 

 

ああああああああああああぅえあうううっっっ!!!!

 

言葉に出来ない。絶叫を無意識に上げて、こ、呼吸まで苦しくなる。

吸血鬼みたいにっ、こいつ!怒りに我を失い、背負った弓を取り構える。

 

「きぃっ、消えっろおぉうおおっ!」

 

ドスタの特殊な鏃を番いってオークロードの利き手に向け放った。一瞬だって、見ていたく無かったから。何時の間にか。恐怖から、悔しさから、悲しさから、やるせなさからない交ぜになって、緩くなった涙腺を圧迫していた。すぐに決壊して、大粒の雫となって滑り落ちていく。

 

利き手なのか平べったい右手に大きなワイングラスに並々と紅い液体。

パキィンっとワイングラスは乾いた音を起てて爆ぜて割れた。続いて発動する追撃はオークロードの利き手を更に襲う。

割れたグラスを隅に叩き付け、オークロードは吼えて立て掛けられた得物を手に取る。得物は鈍く無骨に輝る大斧。

大斧を振りかぶり叩き付ける。オークロードの目の前でチョロチョロと駆け摺り廻る京ちゃん目掛けて。

 

・・・イヤだ。よく解らない感情に突き動かされて、第2射を番えた。ずっと視界の端には斬りつけ、オークロードに向かって行く京ちゃんを捉えていた。

 

 

自分で言ってたじゃん、薄壁なんだから楯役には向かないんだってさ。不条理を受け入れろとかってさ。

自分で自分が何言ってるか解んないけどっ。

 

「・・・でも。怒りが止まらない、次から次から湧いて苦しくなる。こんな時くらい、、、『怒りに身を任せて』爆発したって!いいよねっ!」

 

このよく解らない感情は───怒り。京ちゃんが充分引き付けてくれてるから、狙い研ぎ澄ませた。

 

「───外さないっ!」

 

狙う的は既に京ちゃんが撫で付け、斬払い、突いて。更には左足はダルキュニルを見舞われ、凍り付き動くに動けない。

弦を離す。

 

鏃はオークロードの自らの血煙をも孕んで喉元に触る。

ああ、突き刺さらない。それでもっ。軽快な炸裂音を上げて破裂する魔石の鏃。うねりを舞い込んで追撃も発動する。

・・・まだだ、もう一回。もう一回。もう一回。

 

 

眼を、口を、肩を触った。三度の炸裂音のあと、オークロードは声を為せない絶叫を上げて、動きを止める。断末魔だった。

 

「終わったわよ・・・、もう。」

 

 

我に返った京ちゃんに肩を叩かれ、気付くとオークロードの貌は直視出来ないくらい歪ませて、穿たれて、裂かれて形を為して無かった。

 

 

 

 

終わった。あの後、骨だけでも。と、言うでも無いままに拾い集めメニュー画面に納めていると、

 

「終わってるみたいだな。こっちも終わった、まあ・・・餌さ場だったんだろう。」

 

拭えない焦燥感を漂わせて二人が合流する。続けて言わなくても、解るよな?察しろと言いたげな顔をヘクトルがしている。

地獄でも覗いてきたのか、普段はバカに明るく陽気に振る舞う、クドゥーナも静かに黙っていた。

こっちはこっちで凄絶な状況だったんだから、想像は・・・付いちゃうけどね。

 

「・・・うちがもっと急いでたら。違ったかな?」

 

ボソリとクドゥーナ、その碧眼からは潤んで零れそうな大きな粒が。

 

誰も答えを持っていなかった。たらればを言っても、何の解決も生まないし。

仮に彼女一人が乗り込んでたって、量で押しきられ・・・て、事になっていたかも知れないから。

 

 

 

 

 

クドゥーナが地精に働き掛けてゴーレムを生み出し、鍾乳洞の入り口を埋めると広場に散らばった遺骸も集め同じ様に埋めて土を盛り、ちょっとした慰霊碑を建てる事にする。

 

願わくば安らかに───クドゥーナが地精を喚んで土地の浄化を頼むと、易士の様な出で立ちの妖精はコクリと頷いて。

両の掌から浄化をしているのだろう無数の光の礫が、出来たばかりの慰霊碑を包んで、やがて光の靄に変わると大空に向かって飛び立って行った。

 

浄化を終えたのか、何事かクドゥーナに話しかけて地精は還って行く。

 

「暫らくここで見守るって、この子。」

 

 

少しずつ地を取り戻してきたクドゥーナがなんとも言えない表情をして口を開く。

「襲われたのは多分、近くの獣人の集落。戦闘種じゃなかったから一溜まりも無かったんじゃないかな。この子に御礼言ってたって。」

 

「・・・。」

 

「そう・・・なんだ。」

 

「引き摺っても悪いし、良いわけじゃないけど。弔いに一杯呑らない?」

 

「カルガインで見た、あれ?」

 

「いいな。」

 

ジョッキを5つ用意して記憶を探るようにジョッキを掲げて叫ぶヘクトル。

 

「乾杯。魂を救った英雄に乾杯。」

 

併せて叫ぶ。

 

「・・・そして、死んでいった集落の人たちに、乾杯。」

 

 

今度は慰霊碑に向かってジョッキを前に皆で一斉に突きだし叫んだ。

もちろん、わたしは果実ジュース。

 

最後に、

 

「少ないが、皆で呑んでくれ。」

 

 

ヘクトルは左で握ったジョッキを傾けた。慰霊碑代わりの木の枝に沁みていった。まるで、皆で呑んでいるように。

 

 

 

・・・失った事を酒に融かして忘れるんでしょう。

 

 

自分達の為に。今より明るいあしたの為に。

 

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