さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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異形の鎧の男

 

南門はすぐだった。

辺りは、それまでの町の惨状と同等に、瓦礫の山と化してあちこち煙が上がっている。

 

門の壁までも、門に近い所は耐えきれずに、破壊されて穴が出来ていたり、壁その物が無くなって崩れてしまっていた。

 

「……うわぁ!」

 

門に着くまでは、誰かが倒しただろうモンスターの骸が、緩やかな傾斜を進みながら、見える範囲で相当の数転がっていたので、防衛隊は結構な激戦を繰り広げていたに違いない。

 

南門の近くには、それまでとは比べようの無い『それ』が転がっていたんだけど。

 

狼みたいな何か。

小振りなオーク。

さまざまな色のゴブリン。

どうでもいいけど、……ゴブリンて、緑色以外にも居たんだね。

 

極めつけには、トロルだったんじゃないかなって思える肌をした肉塊。

 

す、すごい!

 

防衛隊が倒したのかな?

 

それか、ヘクトルが見たって言うユーザーが倒したのかも知れない、おびただしい数の骸を見て体がすくむ。

 

モンスターと言っても、やっぱり見て気分いいもんじゃないし、死体なんて。

それに引き寄せられてる場合じゃ無い、戦闘はまだ続いているはず。

 

「……あっちかな?」

 

裂けんばかりの怒号。

喉の奥の方から絞り出すような、叫び声が痛いくらい聞こえてくる、門の向こう側から。

 

すくみ上がった体を奮えたたせ、壊された門を潜ると何処にでもある平原が広がっていて、その奥には森があり、平原を埋め尽くすまで行かないまでも、非常に多いゴブリンと狼の群れが見えた。

 

その光景は、形容するならまるで軍隊のよう。

 

 

 

 

 

門を抜けた辺りは血生臭い匂いに包まれ、

 

「うっ、ぷ。……酷い匂い……うっ!」

 

我慢できないくらい。

 

おびただしく散らばったモンスターの残骸と、今まさにヘクトルが駆け寄ってゴブリンと狼の群れに対して無双していて、残骸をさらに増やしている。

 

その奥にトロルの二倍ほどある、さらに巨大なトロルと戦っている集団が。

町の防衛隊と明らかに異形な鎧の男、どうもあれはユーザーっぽい。

 

傍観するわけにも行かないので、門の近くに固まるゴブリンの集団を避けて、防衛隊に近寄り、ヒールを掛けようとした時。

ユーザーのLVが見えた。

 

わあ、53! それは強いわ。

どんなモンスターだってザクザク倒しちゃう、あんなに凄いヘクトルより上だもん。

 

それでも巨大なトロルにはなかなか苦労しているようで、動きこそ勝っているものの、一撃でも喰らったら、簡単に動けなくされそう。

 

「ヒール! ヒール!! ヒール!!!」

 

防衛隊と、異形な鎧の男に向けてヒールをありったけ連発してみる。

 

効果はあったのか無かったのか、わからないけど。

 

巨大なトロルの猛攻も凄いし、数が圧倒的なゴブリンもチョロチョロとうざったい。

 

ゴブリンはってゆーと。

手に手に、思い思いの武器を持って目についた、あらゆる人間に襲いかかる生き物で、背丈はどれも幼児くらいと言っても。

数が数だ、一斉に襲われたら……ほとんど命の保証は無いと思われ。

 

軽くいなしているように見える防衛隊も、これだけの多くの群れに囲まれて、身動きが余り自由に取れない為にトロルに集中出来ないでいるとはいえ数匹なら、たかが知れているゴブリンにちょっかい出される度に逃げなきゃなんない、わたしも相当と言えないことも無いのか? 逆に。

少しは役に立ってると思いたいけどね。

 

だああああああああああっ!!!

 

ヘクトルの方は相変わらず無双モード。

物凄い勢いでゴブリン軍隊の群れを蹴散らしていた。

ホント、自分より弱い敵に対しては──むちゃくちゃ強いよね。

その軍隊のような群れも魔法を使ったヘクトルに引き寄せられ、みるみる内に一方的に残骸へと変貌してゆく。

無理やり惹き付けるプロボーグって恐いね。

 

ゴブリンを一手に引き受けていたヘクトルが粗方捌いた頃、耳を突ん割く一際大きな咆哮が上がった。

 

巨大なトロルは膠着した場を一気にひっくり返そうとしたのか、ボスに有りがちの固有技を使ったみたいだ。

効果はどのほどかわからないんだけど。

 

「仲間でも、呼んだか?」

 

「わかんない……」

 

けど、何となく恐怖で『ひいっ』っと体が震え上がった気がした。

 

間近で、まともにあの咆哮を聞いてしまった防衛隊や、鎧の男はこんなものじゃないだろうなー。

 

足が大地に張り付いた感覚を憶えるくらいに怖れ戦いたんじゃーないかな? あっちに居る立場だったらへたりこんでるだろ、わたし。

 

「はっ、はぁはぁ……。……キリがねえしっ!」

 

ヘクトルは、ゴブリン達の骸を避けて地面に息荒くへたり込む。

 

ゴブリン軍団の群れをほとんど一掃したんだから、当然お疲れだよね。

ああ……、でもヘクトルにはまだ動いて貰わないといけないみたい。

 

呼んでいたんだ、ヘクトルのいった通りに。

 

巨大なトロルの後ろには、深緑の木々が鬱蒼と生い茂り、昼なお暗い鉄の森と呼ばれる森が広がっている。

その森の中から、トロル数匹にオークが相当数現れる。

 

が、それを狙い澄ました様に、周辺の空気がキン、と音を立てて冷気を帯びる。

 

ゴブリンの群れが一掃された今は、余裕を持って集団から離れて傍観しているわたしの方にも冷気が感じられるという事は、範囲魔法の可能性が高い。

しかも即発動じゃないからとてつもなく強力な。

 

「うう、……寒っ!」

 

今は貰った髪飾りと、ウサギ耳のニット帽と、貰った鎧と、初期装備の白い服を着てるけど、思わず両肩を抱いて身を縮ませちゃうくらいに。

 

ギルド戦なんかで見てると、範囲魔法は準備時間が必要だったんだよね。

 

「ダルテ!」

 

場に呪文が響き渡るやいなや、さきほどの冷気が凍気にまで高まって、現れたばかりの新手のモンスターの群れを集中して何度も、何度も襲い凍りつかせ、同じ様にみるみる内に森の木々も凍てつき、枝木がパキパキパキと音を上げて爆ぜる。

 

わ、スゴーい!!

 

防衛隊の誰かか、鎧の男か極大氷結魔法を唱えてたんだ。

 

それにしても……傍迷惑な魔法だ、敵だけじゃない。

こっちも凍えるんですけど。

 

「ダルテ……。あのユーザー、廃人だろーな」

 

肩を竦めてヘクトルはぼそりと呟き、深く溜め息を吐く。

場をひっくり返そうとした巨大なトロルの思惑を一発で引き裂く、極大魔法。

 

確かに威力が凄まじいってことはそれだけ『やり込んでる』という証になるわけで。

 

ヘクトルの呟きに一人納得してうんうんと頷くわたし。

それを見て、

 

「おまえの思ってる意味と違うからなー、たぶん」

 

と、ヘクトルはジト目になってこっちを見ていた。

どーゆー意味と取れば?

俳人くらいは素人でもわかるよ。

面倒なので黙ってアカンベっしといた。

 

「そんじゃぼちぼち行きますか!」

 

暫く休めていた体を起こし、首を左右にこきっと鳴らして息を整え、一気に駆け出すヘクトル。

 

ちょ! もう元気になったの?

 

さっきまでぜーぜー言って苦しそうだったのに。

とか、思ってる間に巨大なトロルに一撃を打ち下ろしている。

あ……。

 

ヘクトルが地面に叩き落とされる。

 

トロルの振り払う一撃の範囲から離れられなかったみたいだ。

急げ! ヒールしか出来ないけど、出来ることで助けになりたい。

ヒールを掛けて駆け寄ると、

 

「離れてみてろ!」

 

機嫌悪くヘクトルは吐き出し、すぐに立ち上がって斬りかかる。

 

いやまあ。

ヘクトルの暴言は危険だから離れてろと、取っておこう。

足手まといだから離れてろではないと思いたい……。

 

そうしてる間にも、ヘクトルは気合いの雄叫びをあげ袈裟斬りで巨大なトロルに一撃お見舞いする、と動きがさっきよりも遅くなった気がした。

 

効いてる効いてる。

ヘクトルが加わった分手数も増えて、防衛隊の兵士達とも連携良くトロルをぶっ叩いて、離れる、を繰返し繰返し。

 

わたしはヒールを繰返し繰返し。

 

……どれだけ経ったか、鎧の男が叫ぶ。

 

「防衛隊の皆さん離れてっっっこれでっ! 決めるっ!!!」

 

鎧の男の声に気付くやザザっとその場を散る兵士達。

 

それを横目に、鎧の男はコクリっと頷くと、一気に距離を詰め、巨大なトロルに最後の1撃を浴びせかけようと飛びかかった。

 

「エクセ=ザリオス!」

 

男の全身に青白いオーラが表れそして爆ぜて、再び握った刀身に絡み付く。

それを二度ほど繰返しキラキラと刀身は輝くと、いっそう凍気を引き上げて巨大なトロルの動きを奪い、それが斬撃となって切り裂く。

 

……見ているこっちまで震え上がる物凄い一撃。

 

うわ、やっぱりこの人はわたしなんかより……ううん、ヘクトルよりとんでもなく凄い。

 

ぶっ飛んだ強さだ。

暫く経っても、周辺の空気が凍てついてダイヤモンドの様にキラキラ、キラキラと舞い輝いて綺麗だった。

 

斬られた巨大なトロルに近寄ってみると、切り口からキンキンに凍りつき絶命しているぽくて。

 

もう動かないそれを確認して安心しちゃったのかさっきから何か、違和感を覚えていた事を思い出す。

トロルとは関係ないけど。

 

この人。

さあ……。

あんまり驚いたから二度見しちゃったけど。

 

名前、シェリルって。

女子じゃないの?

 

さっきまで必死だったから、気にはならなかったけどさ。

 

「あの、凄かったです。最後のは特に。あんな大きなトロルを一撃で仕止めるなんて。」

 

散っていた兵士達が駆け寄って、その人……シェリルさんに謝礼の言葉を、口々に浴びせている所にわたしも加わる。

 

「1撃じゃねえ、俺だっていいのを叩き込んだんだ。それより、エクセ──だっけ? あんなの見たこと無い。チュートリアルで神様が見せた隠されたスキルって、あれか?」

 

面倒なのか、起き上がれないのか、地面に倒れ天を向いたままでヘクトルも続けると、疑惑のその人は安堵の溜め息を吐いて被っていた黒い兜を脱ぎ、

 

「良かった、日本人居たー♪」

 

中から表れた姿は正に大和撫子。

 

日本人形にも似た容姿の黒髪美人さんだった、やっぱり。

 

良く良く思い返せば、女の子っぽい声だったわ。

 

 

エクセザリオス、あれは固有スキルなんだって。

なんでも特定のフラグを越えた先のクエストで身に付けた、秘密の……秘中の秘のスキルを更に──自分の特性に併せたオーバースキルなんだそうで。

 

用は使うとすっげー疲れるっぽいの。

浅ーく長ーく続けているわたしなんかは全く意味不明。

オーバースキル、なにそれ?

 

激戦を演じて疲れきったのか、終わった事に安心したのか、シェリルさんはその場に重い音を立てて膝から崩れ落ちる。

更に、鎧のまま寝転がって。

ふわあ、と情けない声を洩ぼしながら体を伸ばした。

 

「あなたも一緒にどう?」

 

誘われたからにはご一緒しますよ。

 

ね、シェリルさん忘れてるかもしんないけど、周りは血塗れでモンスターの骸転がったままだよ?

 

防衛隊の皆さんなんかは、助からなかった仲間の遺骸を集めて町に運んだり、まだまだ急がしそうに働いてるよ?

 

いやいや、まあまあ。

疲れたよねー、わたしも疲れたから。

 

もう少し休んでから。

手伝ったり、すればいいよね。

ボヤッと考えてるわたしの横でスヤスヤ、スヤスヤ寝息が。

あーあ、シェリルさんは寝ちゃったかあ。

わたしも寝ちゃお、少し。

起きたら状況良くなってたらいいな?

 

なんて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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