さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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グラちゃんと子供たち

村に着いてすぐ、わたし達は村を出ることが出来なくなった。

 

 

正確に言うと都から派遣される役人が到着後、調査が終わって安全と確認されるまで、だ。

 

 

決まり、らしい。

 

 

クドゥーナに付いて、報酬を貰ってすぐに出るつもりが、役人を呼びに行くのに急ぎなので2日強、役人がえっちらおーちらっと村に来るまで4日・・・早くて4日・・・準備に手間取れば5日。調査が1日・・・2日かな?それで、合計すると、だ。

 

「10日ぁ?魔法でビューンて出来ないのっ。」

 

 

京ちゃん、朝から五月蝿いや。

作業用転移ゲートが鉱山の広場にあったらしい、けど壊れて動かないぽく。

 

 

「マップ見てよ、都までどれくらい離れてる?」

 

「むう。・・・そうね、ああ、100㎞は有りそうねっ。ったく、じゃあクドゥーナ使えばいいじゃない?真っ直ぐ飛べば、この・・・ホトネア山を避けても半日くらいで着くんじゃない?」

 

 

マップをわたしは自分のメニュー画面で、京ちゃんは京ちゃんのメニュー画面で見てみる。

サーゲートも地勢はカルガインと変わらない、大体は。

北は山で中央は草原か台地、南は森林が広がっている。

ここフィッド村も北寄りなので周りは山、少し南に降りれば草原に出て都に繋がる街道に出る。

この『少し』が半日なのか、小一時間ほどかもわたしは知らない。勿論、京ちゃんだってだ。

憂鬱そうな京ちゃんの言うルートは南に降りずに真っ直ぐ都に向かうってゆう、クドゥーナくらいしか出来ない事なのは解りきっている。翼はそこらの人には無いもの。

だけど、

 

 

「クドゥーナの速度は鳩並だし、無理っぽくない?・・・ん!」

 

 

クドゥーナの速度は速くない。

鳥とすれば遅いと言ってもいいかも。ふわふわ、ゆらゆら飛ぶのは得意でも、ビューン!ってひとっ飛びは難しい、とても・・・とても。

鳥とすれば彼女は重い。

マップから目を離してわたしは気付いてしまった。

とんでもなく、目を離してはいけなかったもの。

小生意気なドラゴンの事を。

 

 

「グラクロ知らない?」

 

 

「さぁねー?その辺に居るんじゃない。」

 

 

そんな、詰まらなさそうな、心ここに非ずっぽい投げ遣りに言わなくても。

ど、どうしよう?

 

 

 

「た、大変だよ?町中でブレスでも吐いたら、死人が出るなんて騒ぎじゃ終わらない!」

 

「ああ、面倒な!そっか、・・・そうよね。波動砲かってくらいは、破壊力、あるもん。・・・探すかー。」

 

 

そうだよぉ、面倒な事になっちゃったんだ!グラクロが居ない。

どこ行っちゃったんだ、不良ドラゴン。

京ちゃんは肩を鳴らしながらそんな事言ってるけど、ホンっトに大変なんだよ、解ってる?

 

どこ行ったんだか・・・グラクロは。

 

 

 

 

 

その頃───グラクロデュテラシーム・・・長いから(以下略)こと、グラクロこと、グラちゃんは物珍しさと、折角下界に降りたのだからと村をブラブラするつもりで凛子の目を盗み、宿を裏口から外へと出た。

それはもう今のグラクロの大きさからすれば、充分に大冒険だったのだ。

 

 

彼のドラゴンがヌイグルミの様な身にやつした姿で歩いているのは裏路地。

村は大通りに商店が立ち並び、その裏手には住民が暮らす住宅があり裏路地はそこを通っている。

ドラゴンの金色の瞳に映るもの全てが目新しいもの。

長屋ぽい繋がった家が建っている。

足元は石畳。頭上は革紐で渡された洗濯物が電線の様に窓から窓へ、手摺から手摺へと連なって干されている、ドラゴンは知らない事だが。

もうどれくらい歩いたのか、退屈に感じ始めたその頃だった。

広がっている広場に不意に出てしまった。ドラゴンは辺りを見回すが他の道は見当たらない。

 

 

一つ溜め息を吐いて来た道を戻ろうとすると、

 

「おい、来てみろよー。」

 

 

子供が駆け寄ってそのまま仲間を呼ぶ。

グラクロが見上げると、視線がぶつかってくる二つの紺色の双眸 。

 

 

「はっ、はぁっ、変なやついる。」

 

更に子供の後ろから別の子供が顔を出す。

呼ばれて駆けてきたのか、少し息を吐いて。

 

子供は5、6歳と言った所ぽく、その頬には子供の証しと言っても良い朱が浮かぶ。ドラゴンには知らない事だが。

 

 

「なんだこいつー?」

 

「───どけ、お前ら。」

 

 

子供に触れられそうになり、グラクロは躱すつもりで体を動かした、つもりでしか無かった。

口に出した直後、びたんっ!と音を立てて石畳にキスをすることになったからだ。

足が縺れた結果、そうなる。

グラクロ自体、今の体に、小さな歩幅しか無い足に馴れてはいなかったのだから。

彼のドラゴンがドラゴンのままであったなら、逆ギレだろうとこの場で街を更地に変えていたことだろう。

グラクロの怒りの沸点は低い、余りにも低い。が、低いゆえに熱も冷めやすいと言うもので、自ら起き上がる頃には、『ふん・・・今日は許してやるか。』などと脳内で独り言を唱えるほどなのだから。

 

 

 

「何だ?喋るぞ?」

 

 

 

「僕知ってる。妖精って言うんだ、小さいだろ?」

 

 

「妖精だと?俺様がベヒモスだ。」

 

子供二人に行く手を阻まれているグラクロは、考えを変えてちょこんとその場に座る。

興味を惹かれた、と言うのがぴったり来るんじゃないかな。

グラクロは自分に対して不遜な態度で迫る人間にこそ、興味を惹かれる性分ぽくヌイグルミの様な躰になっても根底は変わっていなかったから。

シェリルが、グラクロに対して取った態度は彼のドラゴンの永い悠久の時を経てなお、最初の初体験。

今、目の前で行く手を阻む子供で二回目とゆう事は、特に免疫にもなって居らずグラクロにとって物珍しかったに違いない。

幾分、グラクロを妖精と決め付けた子供には、利発さをもう一人よりは感じるのだが、それだけだ。

グラクロの興味を惹かれたのはもう一人の方だった。ガン見でじろじろ。

 

何事はともあれ愉快な、知らないことが始まる予感を感じはしていた。

 

 

「おう。偉そうな妖精、俺たち村の外に出れなくて暇なんだよ。」

 

子供は目をグラクロに落としながら上から目線で話し掛けて来る。

しばらくすると、子供は何か思い付いたぽくパチンと指を鳴らして、

 

「そうだ!妖精なら見付からずに外でれないか?」

 

 

一層爛々と輝く期待に満ちた双眸 。

ぐわっとグラクロの鼻先まで顔を近づけて。

口振りから察する所、村の外に出れなくなった為、仕方無く村の中で遊んでるぽく、グラクロとは違う意味合いで退屈に過ごしているよう。

 

 

「止めなよ、鉱山に悪い魔物が出たから外に出れなくしてるんだよ。危ないから村に人を集めるって父ちゃん言ってた。」

 

 

利発そうな子供が子供なりに必死な表情で、もう一人の言葉に反応した。

グラクロが目覚めた事で、・・・ごほんっ。子供の言葉を借りると悪い魔物と言うもので、それが子供には知らされていないがドラゴンということになれば、暴れだしたら想像も着かないとなるのは当然な考えだったのかも。

 

村の外の者は救う為に入れるが、一度入れば事が終るまで出れない。

 

王国が部族の協力的な集団でしか無かった頃からの古いしきたり・・・先人の知恵、と言うものだったのかも知れない。

少数では魔物に対抗出来なくとも、力を合わせば退治とまでは行かなくとも手痛い傷を与え集落を守る事が出来ていた。

その為に幾万の犠牲が出たとしても。

メルヴィの教えにもある───自然淘汰、と賢い人々は考えた。

増えすぎた人類を魔物が襲い、その数を調節してるのだと。

一方では、神の気紛れな試練であるとも。

 

しきたりは絶対で、子供にも守らなくてはならない決まり、そうして人は未来に人を繋げて来たのだからかも知れない。

 

 

「なんだ?真面目だなケイン。角の丘に行くくらいいいだろ、いつ行っても魔物なんて居なかっただろ。」

 

「そうね。ケインは男のくせに、怖いの?丘に行くだけって言ってるじゃない。」

 

 

どうやら、利発そうな子供の名前はケインと言うようだ。

またひょっこり子供が増える。今度は女の子で、二人より少し年上に見えるかも知れない。雰囲気だけだ、背は同じか、二人よりむしろ低かった。

子供二人の視線が女の子に集中するのを見て、グラクロも女の子を見上げる。ダメだ、シェリルの方がずっといい。グラクロはまだ幼女幼女しい女の子にはさほど興味を抱かなかった。女の子の服装が袖無しのシャツ一枚で、その丈が鳩尾迄の為に臍も出ている、シェリルの最近の普段着と対して変わらなかったからか何故か比べていた。

そもそもシェリルの服は横乳も丸見えにして首のチョーカーで布を支える類いのものなのだが、ドラゴンにはその違い解る筈も無く。

地黒というのか女の子の肌は二人に比べてかなり焼けて黒い。

小麦色に焼けるはこういった焼け方だったかも知れない。

その肌の焼けように女の子からは快活さも窺える。

言ってみればワンパク、お転婆幼女と言って差し支えは無いんじゃないか。

 

 

「・・・セフィス。ダメだよ、妖精さんからも言ってよ。妖精なら魔物が居るの解るよね?外は危険なんだっ!て、セフィスとデフックに。」

 

 

ケインは地黒の女の子───セフィスが現れたことで厳しい表情を幾分か弛めたが、危険を危険とも思わずむしろ村の外に出たがる二人を止めるのに必死は必死だった。

更に、グラクロに上から目線で会話している子供はデフックと言うらしい。

 

三人は幼馴染みで家ぐるみの付き合いもある。

家が近い事から、用事で両親が空けるとでもなると手の空いている家に預けられるのはしょっちゅうで、一つ上のセフィスはデフックやケインの面倒を物心付く前から既に見ていた程だったから幼馴染み以上兄弟未満、そんな関係。

 

 

「俺様は妖精じゃねえ!最強のベヒモスだっ。」

 

 

 

グラクロは妖精では無い、眠りについていたドラゴン。

中でも最強の、最凶のベヒモス。

そんな事をしらぬ風で蔑ろにしてくる子供達に凄んで警告する。

子供には蔑ろにしているつもりなどなく普段通りだったのだが。

その不遜な態度に興味を惹かれるのもあるが、業腹でもあるようで。

金色の瞳が睨み付ける。

人間などほぼこれ一発で震え上がり尽く跪いて来たのだ。しかし、今。

彼のドラゴンの姿は無い。

睨み付けたつもりのグラクロは、すがりつく様な瞳でデフックを見ていたのだから笑える。

 

 

 

「ベヒモスだとかいいんだよ、俺たちを外に出させてくれよ。」

 

 

そんな目ですがりつくグラクロにデフックはなんだ?こいつ。と思いながらも要求を押し付けて来る。

セフィスと口裏を合わせて待ち合わせでもしていたのか、目を通わせ肩をがっしりと組むとニカッと笑い外に出せと言いグラクロの来た道をすっと指差した。

その先には門壁があり、警備の者が忍んで外に出るものが無いか見張っているだろう。

三人は、いや村の人間全てがベヒモスを知らない。

デフックには妖精の種類の一つで、妖精の中では偉いのかも知れないなとしか思えていなかった。

見た目がヌイグルミでは、子供にはおろか大人にも同じ態度で対応されたかも知れない。

 

 

「は?歩けよ、足があるだろー?」

 

 

当然と言えば当然なグラクロの反応。

普段ならば、それで子供達は外に遊びに出れていたのだから。

 

 

「良く見るとベヒモスちゃん可愛いい。うち来ない?お古貸したげよ。」

 

 

鳶色の瞳が潤みを帯びて色めく。

セフィスがグラクロにロックオンしたのだ。

 

 

「セフィス、話変えんなよなー。丘に遊びに行こうって始めに言ったのお前だったろ!」

 

あらぬ方向に脱線した会話を立て直そうとデフックが口を挟む。

セフィスはデフックの声に魂が抜けたぽく振り返り小さく溜め息を吐いた。

が、我に返りきゅぴんと瞳に色が入る。

丘で楽しく遊ぶんだと言いたげに。

 

 

「デフック、ダメだって。退治して鉱山の魔物が居なくなるまでの我慢だよ。」

 

「鉱山の魔物?俺様がそんなのやっつけてやる。」

 

 

ケインがデフックを注意する言葉に反応したのは、グラクロだった。

 

「おう。ホントにやっつけれんのか?ちっこいの。」

 

 

目を落としてグラクロと目を交わすデフック。

見るものが見れば、その視線には嘲りが含まれているのが解っただろう。

 

 

「一発あればやっつけてやる。俺様のブレスで・・・やめっ。」

 

意気込んだグラクロがふいにモチモチとした肌の指に掴まれ持ち上げられる。

彼のドラゴンもこうなっては吃驚するほか無い。

思わず喉をついて口に出る叫び。

 

「わあ。軽〜い、ぬいぐるみみたーい。」

 

 

セフィスが、子供達がヌイグルミと言うのも当たらずとも遠からずで、今のグラクロは彼のドラゴンの仮の姿であるだけで本体は別に在った。

彼女は振り回すぽく、軽々しくグラクロを持ち上げて頬ずりする。

そして気付いた。

その時、

 

 

「喰らえっ!」

 

 

有り得ない暴挙に憤懣のグラクロはついに耐え難く、必殺のブレスを吐く、つもりだった。

 

「どうしたよ?急に怒鳴って。」

 

 

「・・・ブレスが、出せないだとぉ!」

 

しかし、虚空にグラクロの叫び声が虚しく融けて消えるだけ。

デフックとケインが訝しい表情でグラクロを見るので、掴んで持ち上げたセフィスも『ん?』とグラクロを覗き込む。

意外と長い幼女の金髪がグラクロの顔に被さるほどに。

 

 

「僕知ってる。魔法はマナが無いのに発動するわけないよ。近所のレデフさんが言ったの。」

 

「違うってケイン、マナが無いのに使えないのは俺たちで。妖精はマナの塊みたいなもんなんだろ?いらないんじゃねーか?」

 

 

レデフとやらに教えられた知識でグラクロに、他の二人に説明するケイン。

それに真っ向から反論するデフック。マナが無ければ魔法が使えない、これは人類に限られる。

更には、人類でもマナ無しに魔法を使う方法がある。

各種召喚で力を借りること。

妖精とは棲む世界が違うとか、妖精は躰がそのものマナだとか論争は耐えないが。

子供達が熱っぽく裏路地の片隅で論争した所でそこに答えは無いか、一方的な思い込みで終わってしまう。

そもそも妖精はここには居ない、居るのは退屈が過ぎてヌイグルミぽい身にやつした彼のドラゴンの成れの果て。

 

 

 

「妖精さん、妖精さん。空飛んだり、消えたり出来ないの?飛べたら丘まですぐだよ、ビューンって。」

 

 

二人の苦悩の論争は続いていたが、セフィスはそんなのどうでもいいと言わんばかりにグラクロを鼻先まで覗き込み、鳶色のどんぐりの双眸で視線を絡めてくる。空を飛んであたしを丘まで連れてってよと。

セフィスは、ぱっちりお目めのそこそこに愛らしい顔立ちだった。

実際、村一番の屈託の無い笑顔が似合う幼女と言われていた。

器量良しな娘さんになるよと。

 

 

 

「───フォルターグ!くそっ、なんでだ?」

 

 

魔導を修めているレデフとやらがこの場に居たらひっくり反っただろう。

グラクロは爆熱超大魔法を叫んだのだから。

そして、気付く。

 

妖精でその様な強力な魔法を使うのは妖精王だけだし、妖精王の大きさも山より高い。

目の前のヌイグルミ大のそれが妖精であれば知りようの無い知識。

ではそれは何か?と、得も言われぬ恐怖に纏い憑かれるのだろう。

 

 

 

「妖精さんと遊べばいい。そうだよ、外なんか行かないでもきっと楽しいって。ね?デフック。」

 

 

デフックと舌戦を、とは言うのも苦しい罵り合いに変わっていたケインは、グラクロに目を止め代案としてデフックに同意を求めた。

村の外になんか出なくても遊べるじゃないかと。

 

 

「セフィスどーするよ、って・・・解った、解ったよ。今日はコイツと遊ぶでいいって、もう。」

 

 

ケインの代案に大賛成したセフィスを、デフックが横目に窺うと幼女はもうグラクロに夢中と言った風で、子供をあやす時に彼女が使うあれこれの手管をグラクロに試していたからデフックは無意識に溜め息を吐いてこれ以上の説得を諦めた。

もうセフィスはあのヌイグルミにメロメロだな、と。独りごちる。

 

 

「ケイン、良いこと言った!あたしの事わかってんじゃん。妖精さんそう言うことで遊ぶことになったよぉー。」

 

「ケイン、デフックも。触ってみて〜。」

 

「・・・ザラザラあ。」

 

「・・・固え!」

 

 

 

「ね?ぬいぐるみみたいなのにヌイグルミじゃないでしょ。」

 

 

幼女が気付いた事とは、ヌイグルミに見えてもふもふはしてないと言う殆ど、どうでも良いことだった。

 

 

「ねー!・・・そう言えば妖精さん、名前は?教えて。」

 

セフィスの双眸がグラクロの鼻先まで近寄る。

屈託の無い笑顔でにっこり微笑み掛けて。

その声を聞いてグラクロは、特に何も考えず口を開く。

 

 

「俺様の名はっ。グラクロデュテラシームグラネジュ・・・。」

 

 

「長ーぁい。覚えられないよーぉ。」

 

 

長ったらしいグラクロの名前を聞いている内に、ケイン、デフック、セフィスはぐで〜んとだらけてしまう。

いつ終わるとも知れぬ、その延々とひたすら長い名前に堪らずセフィスがダルそうな声で叫ぶ。

すると、グラクロは金色の瞳で幼女を見詰めると、呪文を唱える様な、長い自己紹介を止めぞんざいに言い放った。

 

 

 

「好きに呼べよ。勝手にな。」

 

 

グラクロはセフィスから視線を外すと、思慮なく子供達に向かって叫ぶ。

 

 

「僕、最初の所を取ってグライクで良いと思うんだけど。」

 

「グライクぅ?グラで良くね。」

 

「じゃーぁね、グラクロのグラちゃんで。」

 

 

子供達は金色の瞳を覗き込みながら、三者三様のグラクロの呼び方を口に出す。

ケイン、デフックの言葉にセフィスは二人に交互に視線を動かすと、同じ様に口に出してから決定ね!と高圧的に目配せをした。

 

 

「グラちゃんかぁ。で、何しよう。かくれんぼ?」

 

「かくれんぼかぁ、まあいいぞ。」

 

「グラちゃんかくれんぼ解んないよねぇ?」

 

 

 

 

ケインが提案したかくれんぼをデフックが受け入れて頷くと、セフィスも受け入れたぽくグラクロを肩車すると駆け出し、何事か思い出した様に振り返ると、

 

 

「デフック鬼ね!はい、決まり。じゃ、ケイン隠れよー。」

 

 

デフックをびしぃっと指差し、ケインを促してから、また振り返ると広場の中へ駆け出す。

三人の中で“かくれんぼ”の独自ルールとして、広場から出ない。

それは広範囲に隠れては、一向に誰も見つからず鬼になってしまうと、ずっと鬼を続けなくてはいけなくなったからだ。

小さな村でさえ子供達にとっては非常に大きなエリアだったわけで。

 

 

「ちっ、すぐ見付けてやっから。」

 

 

口の端を吊り上げると舌打ちをしてデフックは壁の方に向き直り、しばらく自分がいきなり鬼にされた事に納得出来ずにブツブツと呟いていたが、すぐ見付けて鬼が変わる!どうせならあのヌイグルミを鬼にしてやる!と思い直すと顔を上げ、最初のお決まりの言葉を広場全体に届けとばかりに力一杯叫んだ。

 

 

「もういいかー?」

 

 

 

「まだー!」

 

 

 

間髪入れずに近くからケインの否定的な声が届く。

そうすると、鬼であるデフックはまた壁に向かって、ブツブツと文句をしばらく呟き、息を吸い込んで顔を上げてお決まりの言葉を空を向かい叫んだ。

 

 

「もういいかー?」

 

「まだだよぉー。」

 

 

 

今度も間髪入れずに後方からセフィスの否定的な声が届く。

三度デフックは壁に向かって不遇を訴えるように呟き、しばらく待つと顔をしかめて顔を上げるのを止めて壁に叫んだ。

 

 

 

「もういいだろー?」

 

 

様子がおかしいと振り返るデフック。

その瞳に映ったのは普段と変わらぬ広場なのでした。一方は裏路地なのだが、残りは住居、一軒屋や、長屋が建っていてこの広場には修理の為の建材や住居を建てた時の残った木材が転がしてあった。

大きな木も何本か立っている。

更には、長屋の屋上や一軒屋の二階の広場に面した部分など、鬼から見える場所も隠れ場所にしても良い事になっていた。

そんな中ハシゴが、長屋の屋根に立て掛けられているのが目に飛び込んでくる。

 

 

 

「・・・。」

 

そして、二人からの返事は無い。

ニッと笑うとデフックはハシゴに向かって駆け出した。

独り事の様に呟いて。

 

 

「すぐみっけてやんよ!」

 

 

その頃、長屋の屋上の小さな物置に隠れたセフィスとグラクロ。

グラクロは暗がりに連れ込まれて眠くなったので、ひょこひょこ歩くと物置の引き戸を少し開けて出ていこうとした所をセフィスに呼び止められて、むんずと直角に曲がった角を掴み上げられ引き戸も閉められてしまった。

 

 

 

「ぐーちゃん、出てったらダメだよ。」

 

 

角を握った手をグラクロの胴体に持ち変えて、金色の瞳を覗き込みセフィスがそう言うと、

 

「・・・そうか?寝てればいいか?」

 

 

茫洋とした表情(ヌイグルミに表情があるとしたらだが。ヌイグルミでは無いので。)でグラクロは覗き込んでくる鳶色の双眸に問い返した。

 

 

 

「寝たら、見付かった後逃げれないよ?」

 

「・・・ふん。」

 

「セフィスみっけ。グラみっけ。」

 

 

グラクロを目一杯頬ずりしながらセフィスは言い聞かせるぽく口にすると、グラクロは静かに頷く。

その時、ガラッと物置の引き戸が開け放たれ眩しい陽光が差し込んでセフィスの瞳を焼く。

満面の笑みを浮かべ勝ち誇ったデフックがその向こうに立っていた。

呪文めいて鬼であるデフックが唱える。

この言葉を耳にしたらセフィスももう隠れては居られない。

 

 

 

「あー、見付かっちった。」

 

見付かってしまったのだ。

やられたーと言いたげにぺろっと舌を出してセフィスが愚痴る。

 

 

「・・・終ったのか?」

 

「ぐーちゃん、こっち。手放しちゃダメだよ。」

 

 

光が暗闇だった物置の一角に差し込んでグラクロはセフィスを見上げ力無くそう言う。

すると、セフィスがのそりと立ち上がり物置の外に出て、グラクロをぎゅうっと抱いた。

 

「お?、おう。」

 

 

その声に、反射的にグラクロは声を上げて頷いた。

そのやり取りを見ていたデフックが溜め息を一つ吐いて、ハシゴの方に駆け出した。

ハシゴに足を掛けてまたデフックは叫ぶ。

 

 

 

「後はケインだな、すぐグラが鬼の番だ。待ってろよ。」

 

「こっち、こっち。」

 

 

ハシゴを降りて広場に出たセフィスは裏路地の方にゆっくり歩く。

広場の中心の辺りを過ぎて後ろを歩くグラクロに振り返ると、手を差し延べてにっこりと微笑みながらそう言う。

 

 

「さっき来なかったか?」

 

 

セフィスに角を掴み上げられて、グラクロが連れて来られたのは裏路地のすぐ横のへんてつの無い壁。

グラクロの言葉通り、確かにさっきまで、かくれんぼが始まる前まで居た場所だった。

三人の中で鬼に見付かってしまったら最初の場所に戻ってその時を待つのがルール。

 

 

 

「だから、ここでケインが助けに来るのを待つの。それか、ケインが捕まるのを、かな?どっちが早いでしょ、ね?」

 

 

グラクロに目を落として微笑んだセフィスがかくれんぼのルールを説明した後で、小首をコテンッと傾げて金色の瞳に訊ねた。

それには、ぶっきらぼうに首を振って答えるグラクロ。

 

「・・・知るか。」

 

「セフィ・・・ス、・・・セフィス。」

 

「───ケイン?」

 

 

 

 

 

ふいに、頭の上からセフィスの事を呼ぶ声がして、見上げるが視界に声の主を捉える事が出来ずに疑問を感じながら訊ねる。

すると間髪入れず、デフックに見付からない様にケインから囁く声が。

 

「デフック近くに居ない?」

 

「だね?居ないよ。」

 

 

セフィスはそのままぐるりと周りを見回して、傍にデフックは居ない事を確認するとそのことをケインに教える。

すると、声はするものの姿を見付けられなかったケインが、ガサガサとセフィスの真後ろに立っている木の上に姿を現した。

さっきまでは更に上の方に隠れていたみたい。

 

木の上の方は中々に葉っぱが生い茂り、隣の枝木も混ざってすぐには姿が見えないだろうからだ。

いつかは、セフィスもデフックも隠れた場所だったがケインは隠れた事は無かった。

どちらかと言えば今デフックが探しているだろう木材の隙間や建材の裏なんかがケインの隠れ場所だった。

 

「助ける、待ってて。」

 

 

ケインは木から降りようと幹を伝う蔦を掴むと一手、一歩と確認しながらセフィスに答える。

 

「ずっとそこに居たの?」

 

「ん?そうだよ。僕には登れないって・・・あっ!」

 

 

 

グラクロを離して地面に置き、心配そうにケインの居る木の上を見上げて訊ねると、軽口でも叩くぽくケインが口を開いた。

が、その時。

ケインが掴み、重心を懸けていた蔦がブチブチと音を発てて千切れる。

その一部始終を見ていたセフィスは思わず叫んでいた。

 

 

「ッ───ケイン!」

 

「なあ、何やってんだ?アイツ。」

 

「ぐーちゃん、どうしよう!ケインが落ちちゃう。」

 

 

 

重心をかけていた蔦が千切れたケインはそのまま地面に叩き付けられる・・・筈だった。

運良く一つ下の枝に、まだ短いその手を絡ませて落ちるのを何とか耐えている所。

グラクロはそれを視線に捉え、地面に視線を移す。

そしてまた視線をセフィスに戻して訊ねると、幼女は取り乱した口調であわあわと震えて視線をケインから逸らさずに答えた。

その慌て振りを目にしても変わらずにグラクロは無頓着な言葉を口にした。

 

 

「うーむ、落ちたらダメか?」

 

「怪我しちゃうよ!あたしはデフック呼んでくるから見てて。」

 

「・・・おう。」

 

 

血の気の無くなった顔をしたセフィスが唇を真一文字に組み結んで駆け出す。

その頬に熱いものを感じながら、振り返るとグラクロにウインクしてケインの方に一度視線を移すと首を左右に振って再度駆け出す。

その頃には幾条も熱っぽい滴が、幼女の小さな柔らかみのある頬をポロポロと溢れ落ちていった。

 

 

 

「ぁ・・・、ぐっ。もう、力が。」

 

「おい。」

 

「なに?」

 

「落ちたら・・・ダメか?」

 

 

 

手を絡ませて耐えていたケインから悲痛な叫び声が力無く上がる。

それを、見ていてと言われたグラクロが眺めながら声を掛ける。

間を開けて体勢を入れ替えて耐えるケインから返事がある。

すると、無頓着な言葉で訊ねるグラクロ。

 

 

 

「で、出来たらっ!落ちたくないっ。」

 

「・・・そうか。」

 

 

 

グラクロの言葉を耳にしたケインは涙声を張り上げて叫んだ。

またグラクロはポツリと呟き、ケインに視線を戻す。

 

 

「おい!ケイン、待ってろ。」

 

 

 

声はグラクロの真後ろから響いた。

グラクロが視線をそちらにやるとデフックと、少し離れてセフィス。

壁に立て掛けられていたハシゴに足を掛けてケインに振り返らずにデフックが叫ぶと決心した様にハシゴを登り、屋根に上がった。

 

 

「俺がこっちの屋根から飛び移って、引き上げてやっからな!」

 

「なあ、落ちたらダメか?」

 

 

 

 

デフックはどうやら屋根から助走を付けて、木の枝に飛び移るつもりらしい。

その距離は1・5㎡、高さは2階の屋根より高かった。

その様を見て再度グラクロが無頓着な言葉を口にする。

その言葉に反応したデフックは嘲りを含んだ口調で答えながらグラクロを見詰めていたが、ふいに真剣な顔に変わり叫んだ。

 

 

「グラ、当たり前だろ?足が折れる。打ち所が悪いと───死ぬぞっっっ!」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、メルヴィ様っ!ケインを助けて。」

 

 

 

もう掌を重ねる様に組んで、土地の神に祈る事しか出来なくなったセフィス。

 

「おいっ!今、飛ぶからな、待ってろケイン。」

 

 

「も、・・・力が、残ってないよ・・・」

 

 

覚悟したデフックの声はそれでも怖いのか震えて聞こえる。

いよいよ腕の感覚が無くなったケインが、青い顔でデフックに視線を重ねて、喉から振り絞る様にやっとで言葉にした。

その様を見てデフックはゴクリと飲み込んで駆け出す。

今のケインは気力で何とか、ぶら下がっているに過ぎないのだから。

急がねばならない。

充分な助走を付けて枝に飛び移る事にデフックは成功した。

力を振り絞ると枝を這い上がり幹を掴む。

ケインがぶら下がっている枝は、更に一つ上だった。

馴れた手付きでスルスルと木を登ってケインのぶら下がっている手を握った。

残るはケインを引っ張り上げればいい、デフックがそう思ってぶら下がっているケインを叱咤する声を掛ける。

しかし、その時。

 

 

 

「力、振り絞れっ!いくぞっ・・・あっ。」

 

 

ケインの手は力無くデフックの手から滑り落ちたのだった。

更にデフックも落ちていくケインの手を握ろうと足を滑らせまっ逆さまに。

 

 

「うやぁあ゛っ」

 

 

ケインとデフックは今度こそ、そのまま地面に叩き付けられる・・・

 

「あれ?」

 

 

事は無かった。

 

 

「なんで・・・グラ!お、お前。」

 

 

 

グラクロはふよふよと浮き上がり右手にケイン、左手にデフックを軽々と掴んでゆっくり地面に着地する。そしてまた視線をケイン、デフックの順に動かすと無頓着なあの言葉を口にした。

 

 

「だから、落ちたらダメかって言ったぞ?」

 

 

だからといって受け止めるとグラクロは言っていないのだから、ケインも落ちたくないとしか答えられないのも当然と言えば当然。

 

 

「ああ、メルヴィ様!ありがとうございますありがとうございます。」

 

 

幾条も熱い滴がその頬を滑り落ちた。

セフィスは必死に慈母神であるメルヴィに感謝の言葉を唱えて天に向かい泣いた。

自分には何も出来なかった無力を全身に感じながら。

 

 

「セフィス。御礼は俺様にだろ?おっ・・・」

 

「ぐーちゃん!ぐーちゃん!ありがとうっ、ありがとうっっっ。」

 

 

 

グラクロがセフィスに向き直り歩き出す。

必死に慈母神の名を虚空に向かい叫ぶセフィスを見て軽口ぽく訊ねると、幼女は涙を拭くのも惜しんでグラクロに駆け寄って飛び付いた。

そして、堪らず後ろに倒れたグラクロの背中をぎゅうっと抱きしめると、慈母神に負けないくらい感謝の言葉を唱えてグラクロの額、頬、口に次々と口付けをした。

 

 

「掴んだだけだけどなっ、アハハハハハっ!」

 

 

抱き絞められキスをされるまま感謝の言葉を受け続けるグラクロは勝ち誇ったぽく大声で笑い出す。

セフィスなりの最大限の感謝を表していたのだが、当のドラゴンにキスの感慨は無く、解る筈も無かった。それでも、セフィスが感謝してると言う事は理解できた。

気分が良くなって大声を出して笑い出したのだから。

 

「グラ、ありがとうな、ありがとうなっ。」

 

「グラち゛ゃん゛、あ゛りがとう、ぐすっ。ありがとう!僕、本当に。あ゛りがとう、怖か゛ったよぉおおっ」

 

「これくらいで、泣くのかお前ら。落ちただけ、そうだろ?」

 

 

 

デフックが駆け寄って来ると飛び付き泣き出す。

ケインも駆け寄り飛び付き混ざりたかったが、その力は小さな少年には残っている筈も無かった。

悔しさと喜びがない交ぜになってケインも大声で泣き出した。

そのままその場でグラクロに、感謝の言葉を唱えながら泣き続ける。

 

その様にグラクロが何も考えずに一言。

 

 

「ぐす。ぐーちゃん、違うよ。ケインは落ちた後が怖かったんだよ。痛い怪我するかも、ううん、死んじゃうかもって!」

 

 

 

間違いを解らせる様に、言い聞かせる様にセフィスは片手の手首で涙を拭いながら、グラクロの金色の瞳を覗き込んで強い口調で一歩間違えばどうなっていたか必死に説明する。

こう言う様は流石にお姉ちゃん然としていた。

 

 

「・・・落ちただけで死ぬのか?人間はひ弱だな。」

 

 

何故それほど必死になるのか解らないグラクロは素っ気なく返した。

後ろでは泣き止まない二人の絶唱が喧しく響き続けるなか。

 

 

「そうだよ、落ちたら死ぬかも知れないんだよ。」

 

「妖精はいいな、落ちても飛べるだろ。」

 

 

 

セフィスはちょっとムっとした。

感謝はするが、目の前のヌイグルミは何故か素っ気ないままで、言葉を交わせても心はやっぱり重ね合わせれ無いのだ。

セフィスとグラクロのやり取りにデフックが涙声で口を挟む。

デフックは妖精と人間の性能差を指してグラクロを羨ましがった。

飛べるじゃないか、と。

 

 

 

「お前ら、飛べないのか?」

 

 

「・・・当たり前だろ?」

 

「そうだよ?ぐーちゃん、人間は飛べるわけ無いよ。」

 

「・・・と、飛べるよ!マナは万能の力なんだ。レデフさんなら飛べるよ、きっと・・・」

 

 

 

グラクロの問い掛けに、デフックは冷やかす様に否定し、セフィスはそんなの無理だよとグラクロを覗き込んでNOと叫んだ。

しかし、真っ向から二人の答えに意義を唱えたケインは万能の力、マナを使えば人だって妖精の隣で空を飛べると力説した。

すると、デフックが同意を促す様にセフィスを見詰めて、

 

「セフィスー、お前レデフさんが飛んでるとこ見たか?」

 

「ううん・・・」

 

 

 

デフックの言葉に逡巡すると力無くかぶりを振るセフィス。

 

 

「見たことは無いよ、僕だって。けど、レデフさんがっ、万能の力だって、言ったんだ!」

 

 

 

否定的な二人を眦を吊り上げて見詰めていたがケインは意を決して口を開いた。二人に解って貰いたい、その一心で。

 

「ま、いっか。じゃ続きやろーぜ?ってグラ、寝るなよ。」

 

 

 

だが、ケインのマナの素晴らしさを説く声はデフックに、セフィスに届かなかった。

詰まらなさそうに欠伸をしてかくれんぼの続きを始めようと言い出したくらいだ。

更にはグラクロが大の字に寝転がって、

 

 

「・・・腹減った。」

 

 

 

そう言うとセフィスに視線を重ねる。

 

 

 

「あ、僕もお腹が鳴ったよ。」

 

 

 

苦虫を噛み潰したぽく顔をしかめてデフックを睨んでいたケインもグラクロの言葉に忘れていた空腹を思い出してしまっていた。

可愛く、くうーと腹が音を発てる。

 

 

「そろそろ帰ろっ、ぐーちゃんも帰る?また遊ぼーね、バイバーイ!」

 

 

 

ケインの腹の虫を聞いてセフィスがグラクロを振り返り、そう言うとデフックとケインの手を取って駆け出す。

家に帰る時は手を繋ぐのはセフィスの決めたルールだ。

こうして置けば、外から帰る時でも誰かがはぐれたりせずに家まで辿り着けるから、唯それだけなのだが。

この時ばかりは、ケイン、デフック共に頬に朱が差す。

恥ずかしいと言うより小さな少年達には、家に帰るまでのこの時が嬉しい一時だ。

だが、

 

 

「・・・おい、待て。」

 

 

グラクロが三人を呼び止める。

 

「ん?」

 

「何だよ、グラ。」

 

「動けん。何か食わせろ。」

 

 

 

子供逹の問い掛けに素直に力無くグラクロは答えた。

いつの間にか、体力切れになっていたのも勝手が解らないグラクロは気付けなかった。

 

 

「うーん・・・」

 

「いいよ、うちに連れて帰るっ」

 

 

 

渋るケインの声に、被せる様にセフィスが答えた。

その瞳はデフックの見たことも無いほど、

爛々と光輝いていてグラクロの事をヌイグルミとしか思っていないでもデフックを嫉妬させるには充分だった。

当人は嫉妬だとか解らない年頃だが。

 

 

「セフィスとこだって喰うものあんの?」

 

 

「わかんない・・・」

 

「うちならあるよ。」

 

「ケインち、連れてくぞ。いいな、グラ。」

 

 

 

子供逹のやり取りで、ケインの家に食べ物があることが解ったグラクロは少し歓喜して声に出す。

 

 

「腹減った・・・」

 

「持ってきた。朝の残りのパンだけど。」

 

 

 

 

ヌイグルミぽくセフィスに角を捕まれて一路、ケインの家に運ばれ、食べ物が用意された。

朝の残りのパンと言われて差し出された籠には大小様々のパンが10ほど。

 

「・・・むぐむぐ。」

 

「美味いか?グラ。」

 

「どう?ぐーちゃん。」

 

「嫌いでは・・・無い。」

「良かった、持ってきた分は食べていいよ。」

 

 

 

ケインの家はどうやらパン屋らしかった。

 

「・・・助かる。」

 

「こゆ時は、ね?」

 

 

 

無造作に答えたグラクロを見て、躾る様に言い聞かせてくるセフィス。

金色の瞳をぐいと鼻先まで覗き込んでパンを掴んだグラクロの手を両手で包み込んで。

結ぶ言葉に真心を込め口を開く。

 

「ありがとうって言うんだよ、ぐーちゃん。」

 

 

 

「────ありがとう?」

 

 

「そうだよ、それで、ね?」

 

 

 

セフィスの言葉を反芻するぽく、グラクロが繰り返すと軽くウインクを返して、更にぎゅっと両手に力を込めてくる。

何も知らぬ赤子にでも教える様にセフィスは又も言い聞かせ理解させる為に言葉を唱える様に紡いだ。

 

 

「食べる時はいただきますっだよ?」

 

「・・・いただきます?」

 

 

 

すると、またもや反芻するぽくグラクロが繰り返すと、

「うん、うんうん。そう、グラちゃん。あるだけ食べていいよ。」

 

 

今度はケインがにこにこ微笑んでグラクロの頭を撫でながらそう言った。

 

 

「い、いただきます。んぐんぐ。」

 

「もう無くなっちゃった。」

 

 

 

言質を取った、許しが出たグラクロは籠に入っているパンを詰め込む様に口に運び、用意されたグラスの水で押し流すとあっと言う間に籠は空になってしまう。

その様をあんぐりとデフックは声に出せず唯見ていた。

同じ様にセフィスも見ていて、グラクロが食べ終わるのを待って口を開く。

ほん少し、吃驚して。

この幼女に取っても見た目ではヌイグルミでしか無いんだから当然。

そして、躾をしなきゃとまた考えが頭をもたげる。

あたしがグラクロに教えてあげるんだと一種、使命感に近かったセフィスは、握った両手に力を込めてしきたりの言葉を口にする。

 

「でね?食べ終わったら、ごちそう様だよっ。ぐーちゃん、言ってみて。」

 

 

「・・・ごちそう様?しきたりが多いんだな、人間てのは。」

 

 

 

彼のドラゴンに取って食事をしたのは、先日が産まれ落ちて始めての経験だったのだから、誰も責める事は出来ない、そもそもドラゴンに食事など必要無く、退屈しのぎまたは手向かってくる相手を動けなくさせる手段だった。

それだけだったのだから。

 

 

「んふふ、そうなんだよ。神様に、食べ物に感謝して食事ってするんだよ、解った?」

 

 

 

解った様な解らない様なグラクロの返事に、それでも使命感を達成できたからなのか、満面の笑みを浮かべてセフィスはぶんぶんと短いグラクロの手を振り回して喜び、更に言い聞かせる様に食事に対しての心構えを説明して結んだ。

 

 

「んーむ、───解った。」

 

「良くできました。いいこ、いいこ!」

 

 

 

そんなセフィスにまんまと躾られたグラクロは感慨深けに頷いて、金色の瞳を覗き込んでくる鳶色の双眸に視線を重ねた。

すると、セフィスが小悪魔めいて微笑み、両手を離すと小脇にグラクロを抱えて片手で頭をこれでもかこれでもかと撫でくり回し続ける中、さすがにヌイグルミに対して嫉妬心を抑えられなくなったデフックが口を挟んできた。

 

 

「おし。俺は帰る、セフィスも送ってやるから帰ろうぜ。飯の準備、あるだろ?」

 

 

デフックの内心は煮えくり返る勢いだったのだが、セフィスに対してそう言って手を差し出し、幼女がデフックの顔を見上げて来ると内心を見透かされた気がして恥ずかしくなって霧散した。

ようは、セフィスの無垢な瞳に見詰められてデフックは小さな嫉妬心など、どうでも良くなったのだった。

霧散する前のデフックの心の声はこうだったかも知れない、

 

『俺でもそんなにセフィス姉ちゃんに抱かれたことねぇのに、羨ましいったら。爆ぜろ、ヌイグルミ!ああっ!俺も抱えられて頭ぐりんぐりんに撫でられてぇよっ!!』

 

 

 

「う、うん!そだった。」

 

 

当のセフィスはそんな事など露ほども知らずに、デフックの手を取り帰り支度をする。

幼女はこの後家族の夕餉の手伝いがあったのだ、母親の機嫌が斜めに少し傾いたかも知れないと逸る。

 

「んふふ、ぐーちゃん。バイバーイ、また明日遊ぼうっ。」

 

「・・・おう。」

 

 

 

ケインの家の前でにこにことグラクロに別れを告げると、デフックと共に手を繋いで家へと歩き始める。が、

 

「最後に・・・ちょっと、んふふ。」

 

 

 

名残惜しそうに振り返り、デフックの握る手を振りほどいて、ケインの家の前に佇むグラクロに駆け寄って頬ずりをすると、

 

「やっ・・・むむむ。」

 

 

 

その頬に入念にキスをした。

 

「セフィスー、行こーぜ。」

 

 

 

これを見せ付けられたデフックの内心はいかばかりのものだっただろうか?言葉にならない悔しさを歯軋りに込めて、セフィスを呼び戻す。

 

以下、デフックの心の声。

 

『ふっざけんなっ!ヌイグルミのくせにヌイグルミのくせに、俺なんかセフィス姉からもう一年もキスなんてして貰ってねぇんだよ!くっそー、羨ましい!』

 

 

 

 

 

「解った!本当に明日ね。ぐーちゃん。」

 

 

「・・・人間てのは面倒なしきたりが沢山あるが、これはこれで。・・・いいもんだ、な。」

 

 

 

デフックに駆け寄りながらセフィスはぶんぶんと手を振り、グラクロに別れを告げると今度は振り返りはせずにデフックの手を取り夕日の沈む方へ歩んでいく。幼女の温もりを頬に感じ、残り香を全身に纏ってグラクロも幼女とは逆に歩み始める。

子供逹と触れあった一日を反芻する様に思い出しながら、何度も頷き自身に言い聞かせるぽく独り呟いて。

 

 

 

「ん?どこへ帰ればいいんだ?」

 

 

 

退屈な日々に辟易していたグラクロは濃密な一日にそれでも満足し、にやにやとだらしなく笑いながら、しばらく歩いている所を、

グラクロを探していたクドゥーナに抱え上げられて宿へと帰り付くのだが。

 

「なぁにー?何か良い事あったの?そんなににやついてさ、グラちゃん。」

 

「・・・いや、何も。」

 

 

 

 

言葉とは真逆にこのヌイグルミはにやけ顔を張り付けたまま、しばらくするとクドゥーナの胸の中で小さく寝息を立てていた。

 

 

 

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