さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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やってきた冒険者2

ドラゴンの現れた鉱山を抱える村───フィッド村に唯一つだけの、村人や鉱山に出稼ぎに来た鉱夫達の憩いの酒場。

そのカウンター席には、蹄獣人のマッガン、虎人のゲーテ、砂狐人のジピコス、それに魔人のヘクトルの4人の客が座っていた。

 

その内の一人、ゲーテは興奮して席を立ち、あるテーブルを今から餌を狩る獣の眼でじぃっと視線を送っている。

更に、ジピコスはカウンターを背にゲーテと同じテーブルを見詰めていた、此方は下婢た笑いを浮かべていたので目的はゲーテとは少し、ズレていたとも思える。

残りの二人、マッガンはカウンターに突っ伏してクックッと含み笑いを止めないヘクトルを、ジロッと迷惑そうな顔で暫し眺めていたが、いつ終わるとも知れないので頭をカリカリと掻いて自分のグラスに視線を戻すと一気にぐいと飲み干した。

 

「そんじゃいっちょ、殺りますか!ぶちのめした後は好きにしていいんだな?ゲーテ。」

 

 

舌舐めずり混ざりに、嬉々としてジピコスがゲーテに訊ねると、

 

「俺に聞くな。」

 

 

バッサリとゲーテが答える。好みでは無いとかでなく、趣味では無いのだ。

声も上げるのが辛そうなほどボロ着れになった女と一夜を供にするなど。

 

「言質はとったからなぁ。あのエルフは俺のもんだ。」

 

 

逆に、涙ながらにボロボロになりながら、許しを乞うてくるエルフとの一夜を思いながらジピコスは熱く昂る。

そう言うとまずジピコスがゆっくりと狙い定めたテーブルへと歩みを進める。

軽く舌打ちをしてそれを追うゲーテ。

二人分の床が軋む、歩んでいく音が届くと、突っ伏したまま二割増しに含み笑いが大きくなるヘクトルなのだった。

それを聞いてマッガンは顔を覆い、面白くなさそうにマスターを見る。

すると、女マスターは黙ってグラスを研きながら肩を竦めて見せた。

店に迷惑を掛けてこないなら、私闘だとして儲けも損も無いから、係わり合いたく無かったのかも知れないかった。

 

 

「ズ、ズ・・・何よ?」

 

 

狙いのテーブルの目標の人物の肩に、ポンと手を乗せるジピコス。

それでも酒の注がれたグラスを離そうとせずに黒髪のエルフ耳───シェリルは無視をするのもどうかと思ったのか言葉だけで訊ねる。

シェリルの座るテーブルの上には既に10数の空き瓶が並んでいた。

それだけ飲んでいるにも関わらず、シェリルは酔った素振りの一つも無く、これから起こる事柄が解っている様に自然体でグラスを空にすると、空いていない酒を探して再び注ごうとした、その時だった。

 

「ちょっと表出て貰っていいかな?」

 

 

ゲーテが注ごうとしたグラスを右手で、シェリルに気付かれない様に掴み、高く掲げてお決まりの誘い文句を口にし、掲げたグラスをチャポっと音を発てて揺らす。

 

「んー、凛子譲ってあげるわよ。」

 

 

注ごうとした酒をチラリと見てテーブルに置くと、詰まらなくて堪らないと言いたげに同席していた人間の少女───凛子(まぷち)に振る。

 

「えーとぅ、わたしは嫌かなぁー。」

 

 

すると値踏みするかの様に、カウンターから歩いてこの自分達のテーブルに闖入した、二人を眺めていた凛子も視線を逸らし、シェリルをにへらと笑いながら見詰めて否定の返答を返す。

凛子ことまぷちに、獣人二人の相手は酷であろう事は解りきっていながらのシェリルの態で、どれほど迷惑に感じているかは知れるだろう。

 

「嫌かなぁー、だって。」

 

 

「・・・ざっけんな!」

 

 

シェリルにふざけたつもりはこの時点では無かったのだが、かと言って獣人の申し出を諸手を上げて受ける気も更々無い。

しかし、ジピコスはそうは取らなかった様で声を荒げると叫んでテーブルを叩く。

 

「静かにしろ、ジピコ・・・」

 

 

ゲーテが怒気強くジピコスを睨んだ横面に、シェリルが掴んだグラスから水が浴びせかけられた。

 

 

「あっ、ごめん。水飲めば直るかと思って。・・・大丈夫?」

 

 

言葉とは裏腹に冷たく笑う、シェリルの顔にはゲーテを心配する素振りの一つも無い。

鬱陶しく言い寄る相手を、バッサリ断わるのに良くやって来た手だったが、この相手には逆効果だった様で大人しく引き下がる態では無かった。

 

「あーあー、よりによってゲーテを怒らせるとかねーよ。ミンチ決定じゃねーか、楽しみたかったのによ。」

 

 

楽しみが一つ無くなったかも知れず、怪訝な顔のジピコスは後退りしながら、水を顔に掛けられたゲーテに視線を動かすと唇をぶるぶる震わせ、青の強まった顔でシェリルを指差し叫んだ。

 

「何かコントでも始めるのかしらぁ?」

 

 

 

チラリと振り返り順繰りに二人の獣人の顔をシェリルが冷たく笑ったまま一瞥すると、顎から水滴を垂らしながら固まるゲーテを見定めてにこりと微笑み皮肉を孕んだ言葉を声にする。

言い寄る手合いなどでは無さそうだと判断した上で、ある種の期待を瞳の色に浮かべて。

 

 

「い、今すぐ立って歩けェッッッ!ぶ、ぶぶ。ぶちころしてやるっ!傷みで意識が飛んでもその度に叩き起こして嬲り殺しだっ!生きている事を後悔する様にじっくり痛め付けて殺すっ!!」

 

 

シェリルの思惑など知らずに、憤懣の態で握ったこぶしから血を滴らせつつ、ゲーテが激昂して咆哮を上げ、風を生んだ叫びは目の前のテーブルの上から一切を、激しいもろもろの音を立てて叩き落とす。

奮怒も頂点に達したのか、ゲーテとは口どもる事は有り得ないのだがこの時ばかりは、違っていた。

 

 

「はぁー、ダルっ・・・最近そんな絡み方されなくなったけど、うん。決めたわ、100回殺したらぎゃあぎゃあ喚く口も直るのかしらぁ?うーん、じゃあ・・・後悔させて貰っちゃおうかなー。にひ。」

 

 

 

咆哮で生まれた暴風に曝され崩れた髪を整えつつ、シェリルは刹那の時逡巡し、悪戯を思い付いた子供宜しく、不吉な笑みを浮かべるとこれまた不吉な言葉を口にする。

そして、不吉な笑みが嘲りを孕んだ冷笑に変わる頃には暇潰しの獲物に、憐れな虎人・ゲーテをロックオンしていたのだ。

真一文字に結んだその紅い唇から、チロリと艶やかに舌を覗かせて。

 

「いってらっしゃーい。周りに迷惑かけちゃダメだよぉ。」

 

「・・・何言ってんの?見るの!居ないと100回殺せないでしょ。」

 

 

そう言って手など振って見送る態の凛子を、立ち上がったシェリルが手を伸ばし、軽くデコぴんをして逃がさない。

そうした上で激昂してぶるぶる震え、激しく歯軋りを鳴らせながらシェリルを威圧的に睨み続けるゲーテに視線を戻し、睨み合いが始まった。

 

 

「・・・はい、はーい。」

 

 

逡巡するように俯いてブツブツ呟いていたがやがて、反抗はムダと判断した凛子は逆鱗は触れないでよと、内心に秘めながら100回殺すとシェリルの言った意味を思案して思い当たる事でもあったのか途端、憂鬱そうに肩を落として表へと出る為に店の扉へと歩き出した。

 

 

「てめェらあっ!コイツの次はお前を道連れに送ってやる!寂しく無いようになぁ。」

 

 

凛子の態度と言葉をあたまで反芻し、虚仮にされたとでも思ったかゲーテは声を荒げて鼻息強く凛子を威嚇した。

その時だった。

 

 

「五月蝿いっ!」

 

 

ゲーテが気付かない内に背を取ったシェリルが放つ、左足を軸に腰を捻った右足の回し蹴りが鋭いヒールのかかとで刺さる様にゲーテの背を捉えた。

瞬間、その場から消える様に吹き飛んだゲーテは酒場の板壁を轟音をあげ突き破ると、表の大通りの舗装もされてない地べたにめり込む勢いで叩き付けられた。瞬きする遑さえ与えられなかったゲーテ当人は勿論、エルフと舐めきって居たジピコスや他のテーブルに居た客も何が起こったのか解らず暫しあんぐりと口を開けたまま世界が止まる。

 

「ぐあっ?」

 

 

痛みや、陽光で温められた地べたの感触に我に返ったゲーテがまず、驚きと痛恨のない交ぜになった叫びを上げたのを衆目の耳に届くと同時に再び世界が動き出す。

この時点でゲーテもおかしいと、尋常では無いと気付けていれば良かったのだが、背を取られた事にも気付けず唯不意討ちを喰らわされた、不意討ちで無ければこの一撃は躱していたなどとポジティブに思案を巡らせていたものだから始末が悪い。

この世界での、種族差での虎人の立ち位置を考えれば、当然そう言った答えに行き当たって仕舞うのは避けられない事だったとしても、例外があると思い付けなかった事は今のゲーテの学の無さもあったかも知れない。

ラミッド近辺には既にカルガインからシェリルと言う、黒髪のエルフの質の悪い噂が流れ着いている頃だったからである。

 

「わ・た・し・が100回相手してあげるって言ったでしょ?あっ、違った。ごめん、───殺すって言ったんだったや、てへ。」

 

 

自らが壊した板壁を一瞥すると、酒場の扉を音を発てて開け放つシェリルは猫撫で声で、しかし鈴の鳴る様な凛とした口調で歩みを止めずにゲーテを睨みながら喋って居たが、逡巡してにやあと微笑むと甘えた声になり、舌を覗かせて挑発した。

 

「細っい腕も足ももいで豚小屋に放り込んでやるぁっ!」

 

 

膝で立ち上がるとよろめきながらシェリルに睨みつけて駆け出し、不気味な笑いを浮かべてゲーテは衆目が顔を背ける様な台詞を言い放ちながら、シェリルの肩に掴み掛かろうとした・・・はずだったのだが。

 

「ああ、遅い。」

 

 

 

逆に待ち構えていたシェリルに手刀で掴み掛かろうとした掌を叩かれ体勢を崩したところ、勢いを殺せずに体当たりの体勢で突っ込んでしまった状態のままカウンター気味に肘が鳩尾に叩き込まれ、

 

 

「がああっ!」

 

 

翻筋斗打ってそのまま地面に叩き付けられたゲーテは悶えた様な叫びを一つ上げて膝立ちに立ち上がると、自身の口元に違和感を感じ手で拭う。

 

「本気出しなさいよ。耳は飾り物なの?イヌか何かでしょう?」

 

 

と同時に冷淡に笑うシェリルの明らかな挑発の言葉が口に出て、ゲーテの心の深い部分に刺さる様に響く、グサリと。

 

「ふっふざけるぬぁっ!イヌだとぉっ?俺は戦士だっ!ピューリーの英雄になる男だあっ。」

 

 

拭ったその手に血が染みていたのと、シェリルの愚弄する言葉がゲーテの逆鱗に触れた事で、呂律が廻らないほどにゲーテが憤怒する。故郷を離れてより、唯の一度もイヌ呼ばわりはされた事が無かったことから、プライドも何もない交ぜに踏みつけられた心地で咆哮を上げ、シェリルに喰い殺す勢いで睨みつけ威嚇した。

 

「いいから、戯れ言よね?黙って、わたしを後悔させて下さいませ?」

 

「み、見せてやるぁっ!俺のっ。」

 

 

戦闘種の誇りを傷つけられた上に、戯れ言と切って捨てるシェリルに牙を剥き出しにして無理矢理に獣化を急ぐゲーテの内心は本調子の俺ならやってやれない事など無いと、シェリルに未だ触れた感触すら無いのに都合良くポジティブに思案を巡せる。

 

 

「ふーん、で?」

 

 

 

シェリルもわざわざ待つような広い心は持っていない、況してや目の前の立ち塞がる敵は、蟻一匹に手を抜かず持てる限りの力で踏みつける、恐るべき狭い心の持ち主でもあったからかも知れない。

ダンっと酒場の入り口の段差を踏みつけると渾身の力で蹴り上がり、空中で体勢を整えるとミサイルキックの様に躰を畳んで凄まじい勢いのスピードでゲーテの顔面辺りを踏み抜く。

そして、ゲーテが昏倒しているのを確認すると、これで終わりではないゾと言いたげに睨み、しかしすぐににこりと作り笑いを張り付けて振り返り、壊した板壁から此方を窺う凛子を目に止めると、

 

「まぷち、ヒール掛けて。」

 

 

出番が来たよとばかりに凛子に向かってその鈴の鳴る様な凛とした口調で優しく声を掛ける。

 

「あっ、はーい。───ヒール」

 

 

一瞬、凛子も何が起こったらそうなるのか思案したが諦めてゲーテ目掛けて魔法を唱えると、キラキラと輝かしい癒しの光がゲーテの躰を包んだ。

 

少し間を置いてゲーテは起き上がると、

 

「何のつもりだあっ?」

 

「いいから、言い訳に使われない為だからっ。」

 

 

脳がぐわんぐわんと揺らされ、首が吹き飛んだかの錯覚の中、辺りを見回し憤怒の表情に変わると顔を真っ赤に湯立たせて、目に止めたシェリルに向かって吠える。すると、満足気にシェリルが言い放ち、後ろに飛び退いて距離を取ると同時に、ぶん!と音を立てて二倍ほどに肥大したゲーテの腕がシェリルの元居た位置を通過してゆく。

 

 

「血ヘド吐いて死ねえっ、エルフの分際でえっ!」

 

 

躰のあらゆる筋肉がすっかり獣のそれに変わり、牙が顎に届くとばかりに伸び、爪は鋭く鋭利な刃物の様に鈍く輝いて、何より貌が人のそれでは無くなり、虎以外に近いものが無くなる。見るものが見れば恐怖し、動揺を隠す事が出来なくなる様なゲーテの変貌、それは完全なる虎人の獣化が完了した事を示した。

ぶるると一度震えたゲーテは勝利を確信したのかニカっと微笑うと本能に従って昂り、思わず叫んでシェリル目掛け地を蹴り駆け出す。

それより疾く、シェリルは虚空を人差し指で撫でると背丈より長い得物───ウィンドスピアと名付けられた風に浮く程に軽く細い槍を取り出すと、待ち構える様に斜に構え、

 

「そうねっ、なんてゆーか、弱い、お前。」

 

 

 

宙を目前で蹴る様に駆けてくる、ゲーテ目掛けて無造作に突き立てながら呟いた。

 

「ぐぁわああああっ!」

 

 

勢い付いたまま突進していた、ゲーテは避ける術なく見事に槍の穂先を肩口に刺されて堪らず、絶叫を上げていた。

 

「何で見失うんだっ、エルフごときのスピードでっ・・・?」

 

槍を突き立てられた事よりもゲーテには腑に落ちない事があった、シェリルの姿を捉えた筈でその身を掴み取った筈の腕には肩口に悲鳴を上げる程の痛みを伴い、穂先が刺されていた。

どうにも、このエルフは腕に納まらない。

今居た位置にいつの間にか居なくて悉く攻撃は、空を切るだけ。

 

 

「早くぅ、早くぅ、ねえ?いつになったら後悔させて貰えるの?ねえ。」

 

 

乱惑の態を見せるゲーテに更に、追い討ちを掛ける様にシェリルは甘えきったしかし悶える様な声を上げて挑発をしかけつつ側面から背に回り込むと、槍を数打って突きだし振るう。

愉しくてしょうがないと言いたげに直ぐ様槍を降ろすと、唇の端に人指し指の先を咥えてくすくすと、小さく笑い声を立てながらこの世界のモノでは無い鬼神が何事か目論見を脳裏に浮かべ嫣然と微笑んで仁王立ちのままゲーテに目を落としていた。

 

 

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