さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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ささやかな休息

 

 

 

───ふああ……?

 

気づけばテントの中に居たりします。

 

 

ああ、あのまま寝ちゃったんだっけ。

運んで貰っちゃったんだ。

起こすと悪いとでも思ったのかな? 防衛隊の人達。

なんだ、隣にシェリルさんも寝かされてるじゃん。

 

スヤスヤ気持ち良さげに寝ちゃってさあ。

簡素ながら二人余裕で寝転んでいられるテントの外は暗いけど、もうすぐ夜が明けそうだった。

 

ああーあ、何だろ。

今更、恐怖が湧いてきた。

あ、涙まで出てきた。

寝起きに涙って.....おい。

なんだかなあ。

 

グスングスン.....

 

やだな、……止まらない。

どうしよ……?

次から次に溢れちゃって。

 

こんなトコで泣いちゃってたらシェリルさん、起きてきちゃう。

ぐすっ、でもだめだ。

泣き切っちゃわないと、きっとまた泣いてしまう。

 

今日は人の死を見すぎてしまった、助けられたかも知れない命。

 

それでも、どこかまだ受け入れて無いみたいだ。

ふぇぇえん、次はわたし?

 

「どこか痛い? どうしたの」

 

やっぱり起きてきちゃうか。

声を殺して泣いたつもりだったんだけどなあ。

 

「すいません、……起こしちゃって」

 

「気にしないで。ね、それよりも何で泣いてるの?」

 

寝たままで、こっちを心配そうに窺っているシェリルさんの優しい声。

気遣ってくれてるんだ。

 

「ぐすっ、なんか力抜けちゃって。そしたら、……昨日は色々ありすぎて……助けられたかも、知れなかった……ぐすっ、のに!」

 

毛布を掌が痛いぐらいぎゅっと握り込む。

 

「なぁんだ、怖かったの。受け入れて行かないと後が辛いわよ? 寝て起きたら元通り……なんて訳無い事、わかったでしょう? ここは平和な日本じゃないんだから不条理なんていくらでも、……今日以上の事だってある。今日は運が良かったっておもってるぐらいなんだけど」

 

喋りながら、物々しい表情に変わっていくシェリルさん。

片方の眉が徐々につり上がってく……。

 

……なんだろう、わたし達二人より人の生き死を見てきたみたいに言うけど。

 

それと、なんか最初の印象とどこか違う。

 

背は見上げるぐらい高いけど、わたしと同年代くらいかなって、顔付きとかで判断すると可愛い部類。

でもでも、どうも違うなこれは。

 

キツい表情に変わったシェリルさんは物凄く大人みたいだし、説教じみた言葉使うって随分上なんじゃないかな。

OLさんとかなのかも?

 

「受け入れろ? って、……簡単には無理ですって。モンスターを狩りに出たことだってないのに」

 

それは、もう凄い顔してたんじゃないかなわたし。

泣き張らした顔で思いきり隣のシェリルさんに、振り返って睨み付けてやったんだから。

金色の瞳を。

 

テントの中にはシーツも無くて、ただ二人は寝かされてるだけ。

シェリルさんはあの黒い変わった形の鎧を脱がされてて、って。

 

……あ。

わたしも同じか。

鎧、脱がされてる。

 

パアアンんんん!!!

 

そしたら、一呼吸あって。

あれ?

 

左のほっぺが熱い!

身を持ち上げたシェリルさんに、何の躊躇もなく思いきりビンタをされちゃってた。

 

いきなり何?

 

瞳が忙しなく動く。

わたしが、わたわたしてるとシェリルさんの声が聞こえた。

 

「しっかりしないと、すぐに動かない肉塊になって帰るに帰れないようになるよ。どこにいるか……わからない、けど連れてきた奴とっちめて一緒に帰ろう。それまでは目の前で起こるあれこれを受け入れろ。これは命令!」

 

熱い頬を押さえながら視線を向けると、真剣な瞳でじぃっとわたしを見詰める、二つの金色の光。

この時のわたしにはホントに、シェリルさんの瞳が光輝いてるように見えたんだ。

その後ろには後光まで差し込んで眩しいくらいに。

 

「なんですか、命令って。ふふ」

 

「ふふふ。いい顔になったよ、……えっと―――名前なんだっけ? 聞いていい? ハンネじゃなくてさ。日本の名前、あるでしょう」

 

頬が痛くて熱いのになんだか笑えた。

自分でもおかしいくらいに。

シェリルさんは元の穏やかな表情に戻って聞いてきた。

名前言ってもいいか、いいけど今関係あるのかな?

 

とりま、やる事はひとつ!

 

パンッ!

 

「お返しです、これで……おあいこですよ、ね?」

 

後先考えず叩きたくなったから張ってやった、どうだ。

ビンタされた頬を擦ってあっけに取られてるシェリルさんは、わたしを一点に見詰めて、可愛らしく口をぱくぱく。

 

「えっと、名前……ですっけ? 馬淵凛子(まぶちりんこ)って言います」

 

「ええ、……凛子ちゃんって言うんだ、いいお名前だね。あたしは笹茶屋京(ささちゃやみやこ)改めてよろしく」

 

名前を言い終わってにこりッと笑って見せると頬を擦っていた手を下ろし、わたしの手を取ってシェリルさんは穏やかに笑い返してから笹茶屋京と名乗った。

 

なぜ名乗った、聞きたかったのか? の疑問ににこーと微笑み『なぜって、自己紹介は人間関係の基本でしょ。どれくらい掛かるかわからないけど、日本に帰るまでは連れ添うんだから。それくらいは知っておきたいよね♪』って、……ええっ……?

 

連れ添うって……、なんか恥ずかしいんですけど。

まるでカップルじゃない?

 

素敵な男子から言われると、その気になっちゃうかもな、……熱っぽい言葉。

 

そんな、歯の浮くような台詞を言いながら、シェリルさんは口の端に人差し指立てて、ウインクしてみせる。

 

わたしはどこか、シェリルさんのその仕種とか、雰囲気に身の危険を感じてしまって。

 

ニイっと笑うと、三日月ぽくなるシェリルさんの切れ長の瞳を間近で見てるだけでも、だんだん怖くなってくる。

ほとんどにっこにこしてるし。

 

何か、何て言って言いか浮かばなくなっちゃったや。

この人、何考えてるのかちょっと……解んないな。

 

そんな事を考えているとしばしの静寂のあと、

 

「なーにー! 二人はそんな関係だったのかあー?」

 

そんなやり取りを知ってか知らずか、ヘクトルが間の抜けた棒読み台詞を言いながら、テントの幕を捲って現れるからついつい、

 

「惜しいなー、六十点!」

 

などと照れ隠しとゆーか、気恥ずかしさからどうでもいいことで場を濁そうと口から出る。

 

茶化されるのも、解らないではない。

気づけば、熱っぽい言葉を囁いて二人、見詰め合ってるこの、ちょっと妖しげな状況ではね。

 

いいじゃん、女同士の友情を深め合ってたんだから。

シェリルさんはちょっと怪しいけど、断じてその気はないぞわたし。

 

シェリルさん、シェリルさん……?

 

何で、どうして?

 

残念そうな顔で、恨めしげにヘクトルを睨んでるの?

 

……もしかしてもしかして。

ピンチって、気付かない内に助けられたのかな、わたし。

 

……シェリルさんがそっちの話題ふって来たら、流され無いようにしなくちゃだわ。

 

ヘクトルは、兵士達に言われてわたし達を呼びに来たんだって。

やり取りを聞いてたのか尋ねると、惚けられた。

ただ、

 

「おまえ、顔……真っ赤だぞ」

 

とだけ無表情で言われて、はっとする。

 

うわあ、なんでなんで?

 

顔真っ赤?

 

───えええ?

 

なぜかその瞬間、背中に寒気が走った。

 

振り返るとシェリルさんが不機嫌な表情で、

 

「惜っしいなー。泣いてる女の子をあやして慰めて……、その後は何でもアリアリだったのに。」

 

ね?

 

と、言うとわたしの両肩を押さえる。

何だと?

 

やっぱりそうか、この人は……そっちなんだ。

気を付けないと。

そうは言っても、こんなに真っ直ぐ見詰めらるのなんかなかなかないから、隙が生まれてしまう。

隙間にぐいぐい入り込んでくる感覚。

じわりっと追い込まれてる、でも。

流されないぞっ。

 

「わたし、その気ないですからっ!」

 

振りほどいて逃げ出すように、テントの外に駆け出してヘクトルを追った。

 

だめだだめだ。

こんなの馴れてないから心臓ドッキドキしてる、音が回りに聞こえないか心配なくらい。

 

こんなのヤだ、ノーマルだもんわたし。

まだ、瓦礫だらけの道をおっかなびっくり歩きながら頭パニック寸前。

そんな所へ後ろから、

 

「まだこんなとこいたの? 早くご飯いただきましょっ」

 

その声の主はわかってるけど、それでも憂鬱そうに振り向けば、相変わらずにこにこしたシェリルさんが。

 

この人はこう言う人なんだよ、きっと。

それにしても、マイペースだなー。

さっき自分が何言ったかわかってる?

 

もう……いいや、忘れよう。

 

「どっち行けばいいか、わかります?」

 

正直、先を行くヘクトルの姿も影も見えなくなっちゃったので、どこでご飯貰えるのか解んないわたし。

 

困ったように聞くと。

防衛隊舎ならこっちよと、手を取られて引っ張られ連れて来られたのは、トロルに初めて出会した広場。

 

♪〜×◯×〜♪

 

そこでは、兵士達が木製のジョッキを手に手に掲げ、わたしたちを待っていてそんな中、長い黒髪をしたシェリルさんって一目で気づいたっぽくて、そこに集まっていた兵士達が一斉に歌を唄い出した。

 

喜びだとか、感謝だとか、なぜか理解できるけど聞いたことの無い歌は、広場中に広がっていき、一通り唄い終えると一人の兵士が前に進み出て、

「乾杯! 町を救った英雄に乾杯!」

 

握ったジョッキを掲げてその兵士が大きく叫ぶと、それに合わせて回りからも同じフレーズが後から聞こえる。

 

「……そして、死んでいった友や家族に、乾杯!」

 

今度はトーンをやや抑えて、ジョッキを前に兵士皆で一斉に突きだし叫んだ。

所々泣き声混じりに。

 

家族や、友達をモンスターに殺されてるんだから、当然なのかも知れない。

でも、まだわたしはどうも受け入れられてなくて。

 

今は隣で笑ってるシェリルさんが、明日は動かなくなってるかも?

とか。

喋ることも出来なくなって、死んじゃうとか、ほんのさっきまで……昨日まで死とか考える事の無かった日本住みのわたしが!

隣に、すぐそばに死があるなんて受け入れて下さいなんて言われても……。

 

そんな直ぐに、受け入れてしまえるはず無いじゃん!

 

 

 

 

 

 

そして、セレモニー的な前振りが終わる。

その後にはささやかな宴が始まった。

 

どんな神経してるのかわからないけど……。

昨日は、ここ……。

ねー?

 

周りの瓦礫を見れば。

そこには。

血糊がべったり、まだ残ってたりさ。

 

正直、わたし的にここで宴をやろうって気にはなんないよ、やっぱり。

 

平和なとこからやって来た、わたしとは違う感性をお持ちなんだな、この兵士達は。

 

なんか、……一人で思い出して憂鬱そうにしていたんだと思う。

そんなわたしに見かねてか、狙われてたのか解んないけど。

 

すっ、と皆の持ってる木のジョッキを持った手が、俯いてたわたしに差し出される。

 

「あんた、昨日はありがとな」

 

そのどうも間の抜けたトーンの声に気付くと───ワアッと、さっきまで耳に届かなかった宴の喧騒が戻って来て、顔を上げて視線で声の主を探すと、立ち上がれないとこを助けた兵士だった。

 

名前はベイスと言うんだって。

ここに顔を出せるほどでもないけどノクスさんも命の危険ということも無くなったと言う。

 

良かったー!

役に立ててる、わたし。

 

少なくとも今、目の前に立っているベイスさんと、顔は出せてないけどノクスさんの命を……、救えたんだよね!

 

ジョッキを受けとると、甘い柑橘系の匂いのする、オレンジ色の飲み物が注がれていく。

 

そういえば、暫く何にも口にしてなかった。

水くらいも。

 

と、思い出して喉がゴクリっと音を立てる。

行儀悪いとわかりながら、まだ入り終わって無いジョッキを急いで口に運び、一気に飲み干した。

 

いっひゃー!

生き返るう!

何だろ?

 

これ……、美味しい!

 

口当たり爽やかな中に、じんわりとした、砂糖じゃない甘みが。

 

「これ、もう一杯!」

 

空になったジョッキをずいっと差し出すと、トクトクっいう音と共に再び注がれていく。

 

これなんですかあ? と聞くと、広場の水の止まった噴水に腰掛けるシェリルさんを指差して。

 

「あの人からあんたは酒あんたは酒は早いだろうと聞いてね、まあ見た目そうだよなとは思ったが」

 

だって。

 

わたしの為に急きょ酒以外の何かを用意してくれたというのだ。

なんか嬉しくなってしまって。

 

「でも、カルガインには酒以外の飲み物ってのがな。恥ずかしい事だが無くてな」

 

「うえ?」

 

何だって?

 

「ギューをほら。これの汁で薄めて出したんだ。せめて飲める水があると良かったんだけどなあ」

 

言われて見たベイスの手には今潰したのだろうオレンジ色の果実が。

生搾りかよ、素手。

 

んー、日本じゃあり得ないんだけどここじゃアリなのかな。

飲み水が無いってゆーんだし……無いのか、水。

 

ベイスさんが言うには、なんでも飲み水は貴重で薬を服用する時以外は基本、保存が利いて安くつく地酒『ギュー』を飲んでるんだそうで。

 

そういえば、日本じゃ安いけど余所では水は高いとこもあるって習った記憶がある気がした。

 

興味無いことは、右から左へ抜けてくからね。

だから、気がするくらいではっきり覚えてない。

 

これじゃ、帰ること出来てもアル中になっちゃうね、わたし。

悩むけど、他に変えられないから飲んじゃうよねわたし。

 

薄まったギューは、口当たり爽やかになって何杯でもいけちゃう。

ついつい、空になったジョッキをずいっと。

 

ギューは元々甘い酒なのかな。

ん?

砂糖じゃない、この甘みは何なんだろう。

 

何度目かで、空にしてもジョッキに注いで貰えなくなってベイスさんを見ると、

 

「ギューはあるけどこっちが売り切れちまった」

 

差し出されたオレンジ色の果実に視線を移してからベイスさんに視線を戻すと、苦笑いが返ってきたのでへへへと苦笑いで返す。

 

物がどれだけあるかも解らずに、馬鹿みたいに御代わりしてすいません……。

ベイスさんは取ってくると言って歩き出し喧騒に紛れて消えていく。

いいですよっと言い出せず、その背を見送った。

 

空になったジョッキを見詰めてため息を一つ溢すと、その場にしゃがみこみ、また憂鬱になる。

水、どうにかしないと……ほんとに危険だ。

 

アル中じゃ学校は通えないよ……って、ウジウジ考えていると。

ぐい、と左腕を掴まれて引き起こされた。

見上げると、そこにはやっぱり。

 

にこにこ笑う、シェリルさんが居た。

 

 

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