さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録 作:ぴんぽんだっしゅ
「……なあに……湿気た顔してんの、よ! こっちまで! 下がってくるじゃない!」
左腕を掴まれたまま胸元をぐん、ぐんと揺すられて頭がクラクラする。
この、酔っ払いが好き勝手しやがってえ、……ううーん。
飲み過ぎて気持ち悪いかも、酔っ払いはわたしだ。
シェリルさんも酒臭いから酔っ払いだ。
言い返せないので、されるがままにしてれば、その内終わると思ってたのに。
「ほら、ほら! ホラっっっ!」
ビンタが3発入った。
しかも、3発目で掴まれてた胸元を離されたものだから、その場にズサッと崩れ落ちる。
「いつまで引きずってんの? 受け入れろって命令したでしょ。傲慢よね、生き死にを楯にして鬱ぎこんで勝手に浸って。あんたよりね、実際に家族失った人たちの方が苦しいのよ! 悲しみを乗り越えなきゃ進めないから生き残った事をこんなに喜んで、……失った事を酒に融かして忘れるんでしょう。今のあなたは偽善。駄々っ子がグズってるだけなのがなぜわからないの!」
わたしの背に時に怒りを孕んで語気を強めて、時に悲しみを込めて語気を弱弱しく痛い言葉が突き刺さる。
いやまあ言ってる事はわかるよ?
だけどとても理不尽。
鬱ぎ込んでる理由も聞かずに勝手に思い込んでビンタを喰らわすって、何様?
「……理由が違う……」
思いっきりほっぺがヒリヒリ痛い、ジンジン熱い。
「なに?」
「話聞いてよ。何を勘違いしたか知らないけど! 飲み水が無いから絶望してたの、……よ」
言わせんな、恥ずかしい。
これこそシェリルさんの言う駄々っ子だ。
そうだ、声高に言ったって無い物ねだり。
きっと馬鹿みたいに。
当たり前にある筈のモノが、いきなり無くなってしまう日常。
人によってそれが。
家族だったり。
友達だったり。
愛するひとだったり。
その当たり前が、わたしには水だった。
ただそれだけ。
あの後、シェリルさんに一生懸命に必死に謝られたけど、一言どころじゃない余計が多いんだ。
許すって言ってるのに、『普段真剣に謝らないから謝りかた気に入らないかも』だなんて。
それこそ馬鹿にしてる。
ごめんって、一言謝ってくれて。
こっちの言い分解って貰えたら、それでいいのに。
……はあ、……何とか仲直り出来た、と……思う。
それで目下の目的、
「水か……、確かに飲めないと解ると余計に欲しくなるわよね」
「マナでぱぱっと出せないかな? 水素ってゆーか、周りに水ならずーっとういてるとゆーか。空気から飲める水作れないのかな?」
そう、水。
氷結魔法あるんだから、何とかならないかなあ? って、初歩の氷魔法を使って貰ったんだー。
でも失敗した。
「じゃあさ、さらっとぷちアイス」
発動して、床に落ちて、割れて、……消えた。
その後も何度もマナの魔法で氷を出すけど、その度に消えるだけで。
これはあれか、目的を果たすと魔法は消えてしまう?
最後にダルテで広場の温度を急激に冷まして、無理じゃね?
と、言う事に落ち着いた頃になって何やってんの?
とヘクトルが顔を出す。
「おっかしいなー、アルフに聞いてみる」
納得が行かなそうに口にすると、メニューを開いて何かをするシェリルさん。
傍目には、指が忙しなく空を切ってるだけ、にしか見えないんだけど。
それはほっといて、
「あのさ、ヘクトル」
「ん?どした」
「飲み水が無いんだって。この街」
「聞いた。バカ高い金出せば買えるんだろ? でも、それってさー10000グリムあれば1日分くらいになるんじゃ? 俺、3000万グリムあるし、あいつはもっと持ってるぞ、きっとな」
詰まらなそうに、人差し指を左右に振りながら、そう言ってヘクトルはメニュー画面を開いて硬貨や、金貨を取り出してみせる。
あっさり解決してしまった。
いやいやいや、
「3000万グリムあるの?」
「クエスト真面目にやってればある。これで水は買える、解決したか?」
そもそも、一グリム硬貨と一万グリム金貨あるの知らなかったんだろと続けるヘクトル。
あーそう言えばグリムで買い物したこと無かったわ。
ちなみに百グリム銅貨に千グリム銀貨もあるらしい、ゲームでは空気過ぎて用途に困ってたみたいだけど。
知らなかったとは言え、成金が2人近くに居たんだなー。
水は金をだせば飲めるのがわかったけど、問題ってそこなのかな?
町の人には手が出ないのは変わって無いんだって。
「わたしたちが困らないのはわかったけど、町の人は飲めないの変わらないじゃない?」
諭すようにヘクトルに言ったら、
「解ってないなあ。町が困ると何がある? 何が起こる?」
何がある、何かあるらしい含みを持たせてヘクトルは、見たこと無い怪しさを湛えた瞳を光らせて、こっちを見詰めてくる。
わたしが考え込むと、
「はい、時間切れー。答えは、クエストの依頼が冒険者ギルドか冒険者の溜まってる酒場にくる、でした」
く、クエスト?
成る程納得。
けどそれって金とるんでしょう。
「助けてあげられるなら助けてあげようよ、原因あるんでしょ。知っているんで……」
言い終わるかどうかの時、ちっちっちっと後ろからシェリルさんが横槍を入れてくる。
「あなたが出来もしないのに強要しようとしない。それは偽善よ?」
「だからっ! 困った人を助けてどこが偽善なの?」
「あなたが出来ないからよ? 結局、誰かに頼るんでしょ」
んんん、言い返せない。
ヒールする以外役に立つ気がしない。
「別に金貰えたからやってる訳じゃないしな。経験稼いで、レア狙ってのクエストするのに金出なくてもいいよ、な?」
意外なことに、ヘクトルが助け船を出してくれて、場が鎮まる。
強要じゃないなら、偽善てことにならないよな?
と続けてシェリルさんに釘を刺す事も忘れない。
恨めしげに睨むシェリルさんは、
「わ、わかったわよ。別に? 金なんて腐ってるからいいわよ」
完全に白旗を挙げて、ヘクトルの意見に従う。
とりあえず行くぞ、とゆっくり歩き出すヘクトル。
それに付いていくわたしの後ろを、シェリルさんが腹に一物ありそうな表情で付いてくる。
自分の思惑と違う、とでも思っているんだろうか。
少し経つと、目的の店に着いたのか立ち止まって店のドアを開けるヘクトル。
わたしが入る前に確認した看板には[ディアドの酒場]と簡単に書かれていた。
店内に入ると、天井からの魔光で明るいのに併せ、各テーブルの上にもカンテラが置かれ眩いくらい。
店内をずいっと早足で向かって、カウンターに座るが早いかカウンターの向こうに居るエルフにヘクトルは話掛けていた。
「報酬要らないからクエストよこせって? そんな事言ってくれるのは良いけど、氷結の川は並みの腕じゃ任せらんないけど?」
話をふんふんと聞いていたエルフは、酒場の主のディアドなのは間違い無い。
ディアドは、金色の胸まであるロングで、草色の給仕服が似合っていた。
年は見た目、わたしより少し上にも下にも見える、エルフだから、これでも実際年齢は百を回ってるんだって。
「後ろの黒髪女は、トロルを一撃で瞬殺出来る」
そのヘクトルの言葉に、ディアドは説明しづらそうに前髪をかきあげて一瞬、シェリルさんに視線を移して戻す。
「いや、昨日のことは聞いてある。トロルじゃなくて氷の川で困ってるのはヒュドラなんだ。ブルボンの討伐隊を待つのが賢いと思わない?」
「よこせって、余裕だから」
一歩も譲る気は、ヘクトルには無さそう。
渋々、ディアドは一枚の地図を出して来て、カウンターに雑に広げる、と幾つかに点を打って、ある一点に大きく丸を描く。
「点はね。氷トカゲが目撃された場所で、丸を付けた所は。ヒュドラが、目撃されててね。ヒュドラなんて今まで居ないのが出て、肝心の氷トカゲの退治が出来ないでいるんだ。だから、どんなに自信あってもヒュドラには気づかれちゃダメだよ? 氷トカゲさえ退治しちゃえば、川が流れ出して町の井戸にも、綺麗な水が湛えられるようになるんだから」
翠の瞳を爛々と輝かせて、ディアドは要件と注意点をさらりっと説明すると、地図をくるくると畳んでヘクトルに差し出す。
「ヒュドラは絶対やるから。」
それを受けとると、捨て台詞を吐き出すように呟いて、歩き出すヘクトル。
やる気がみなぎってる風なのに、表情はかわらず無表情にちかいのは何でなんだろね?
「そうよね。わざわざ行くんだから見逃せない良物件だと思うわ。大物だからマナ落とすかも? だしね。」
「ヒュドラは、見逃せって言ってるよね? 討伐隊が連携してやっと仕留めるかどうかでね。倒しても倒しても、再生する厄介な巨竜なんだよ?」
ヘクトルの声に反応して、シェリルさんとディアドが見事にハモる。
後を追おうと、カウンターを離れようとしたわたしはそれを聞いて、大変そうだなー、と二人を振り返って続きを聞いていると。
「話は聞かせて貰った。付いていくつもりで討伐隊の来るのを待ってたんだけどなあ。俺も行こう。」
声のした方を、その場に居た誰もが注目する。
そして、わたし以外の誰もが納得する。
シェリルさんまで、レットが行くなら完璧ね。と、なし崩しに決まってしまう。
レットって誰よ?
シェリルさん、知り合い?
ディアドもレットが行くなら少しの無理も大丈夫か。って、なんか勝手に決まってるし。
その後は、付いてこないのに気付いたヘクトルが早くしろって帰ってきたから、急いで酒場を後にして、テントに戻って荷造りを終わらせ、町を後にする。
いざ! 氷の川へ。