さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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そうだ 温泉へいこう!8

 

 

京は言い切った後も息荒く、ぶるぶると全身を震わせて怒りを収める様子は無い。

眦が決する程見開かれた切れ長の瞳に怒りの色がありありと浮かび、眉は吊り上がり唇は固く結んで、肩を怒らせて憤怒の塊にでもなったかの様。

 

そんな殺気と、怒りを孕んだ気迫にあてられてクドゥーナは弁解を口にしようにも、凍りついたかのように体が指先ひとつ、動かせなくなり、それは隣で京を見ていた凛子も同じ事で固定でもされてるみたいに京から視線も離せないし、息もやり方を忘れたとも思える程、息苦しい。

 

そんな状態がしばらく続いたらゲーテや、ジピコスも気になって近寄りたくなるものだろうが、京から立ち上る黒いオーラに戦慄し、彼らも近寄り難い場が出来上がっていた。

 

やがて、京の息も落ち着いて穏やかになり普段と変わらず整った息遣いが出来始めると、クドゥーナや凛子の息苦しさもどこかへ行ってしまった。

 

・・・明らかに人為的な息苦しさだったのだろう、原因は目の前の京に違いないが、当人にも自覚は無かった様に思える。

クドゥーナは突発的に殺してしまいたい、と思ったかも解らないのではあるが、そこまでの怒りだったかどうか。

 

凛子にまで被害が及んでいるので京のコントロール出来ない所で無作為に周囲を固める或いは、息を止めるに近い何等かのスキルを使ったのかも知れない。

 

そもそも当人の京が予期せぬ事態になにが起こったかわからないぽく、しきりに両の掌を見る。

何か嫌なトラウマでもあったのだろう、自らを落ち着かせようと胸に手を当てながら、天を仰ぐ。

 

「・・・」

 

月は相変わらず5コあり今、自分がどこに居るか?を思い知ることができた、嗚呼よかったと、京が胸を撫で下ろし一応の落ち着きを取り戻したのを感じ取ったのか、

 

「・・・京ちゃん、フォロー、絶対、出来ないってば。」

 

凛子が口を開く。

その言葉には、息が出来なかった刹那の時が長ければ死んでいたかも知れない事による、今、京に凛子が思った正直な気持ち。

 

大体軽口を叩いたくらいの事に、過剰に反応し過ぎているんじゃないかと思っていた、内心はこうだ『クドゥーナがいつもの調子でちょっと気に触る事、言ったのは解るよ?態度がまるっとそうだもんね。それにしても、殺されそうになるなんて・・・京ちゃんも混乱してたしなぁ、本気でクドゥーナを殺したいと思う訳じゃ無いんだろうけど。京ちゃんのデリケートなトコに刺さったんだかなぁ?だからって、殺されたらそこで終わりだし?ちゃんと、釘刺して、こんなことにはならない様にしないと。』

今は空気が美味しく吸える。

凛子が口を開こうとすると、先に息遣いがまだおかしなクドゥーナがそれでも言いたい、言っておかないとと気力で、天を仰いだままの京に喋りかける。

 

「・・・ひゅー…ひゅー…み・・・み、みやこぉ、仲直り、しよっ?ね、それでぇ、今日の事だけっ!でいいから水に流して、えっと、こーゆーの・・・」

 

「無礼講。」

 

「そう!それにして、ね。ぶっちゃけさせてよ、お願いぃ。」

 

しかし、出てくる言葉は凛子が期待したものでは無かった、クドゥーナらしいと言えばクドゥーナらしい言い逃れにも聞こえるフレンドリーな仲直りの提案に、天を仰いでいた京が視線をクドゥーナに向けるとぽたりと頬を一粒の、水滴が滑り落ちていった。

そして、くすっと一度笑ってから厳しい表情に戻り、クドゥーナにぶっきらぼうな態度で京は答えた。

 

すると、クドゥーナは碧眼の双眸を潤ませてすがり付くように、京を見詰めてそう言い、両の腕を広げてアピールする。

 

このさいだから、ぶっちゃけたい。何もかも、思いの丈を!クドゥーナはそんな感じな気持ちだった。

シェリルという存在自体が恐怖の塊に思えて堪らなかった時期も在った、一緒にいる時間が過ぎていくにつれその恐怖は薄らいでいくが、ゴロツキを屠る姿は出逢った時のそれに重なって酷く不安になった。

 

だが、彼女の心の奥に仕舞われた思いは誰に届くものでも無い。

だからっ、ぶっちゃけたい!今は、少し近づいたり、遠退いたりしている目の前の美しい魔物めいた、みやこの心に。

 

「・・・メリット無いんだけど?はーい、今から、悪口言いまーす、でも全部許して、怒らないでねっ!・・・」

 

だがしかし、クドゥーナの思いなど知りようがない京が嘲る様にコントめいた素振りに、台詞も付けてクドゥーナを真似、とことんまで嫌悪感を示している最中、

 

「ま、そだよね。」

 

凛子が見るのが堪えられなくなったか京の演じる悪意のコントめいた何かを遮って同意し、それでも、やり過ぎじゃない?と言いたげに京を視線で射抜く。

「そうよ、そんなの・・・許さない!」

 

びしぃ!と指をクドゥーナに差して、都合がいいようになんて絶対させない!と言いたげに挑発するぽく笑いながら叫んだ。

 

クドゥーナが一見可哀想に思えるが、どっちも似た者同士で我が儘な気質が窺える気がしないでもない。

一方が、仲直りしましょ、ぶっちゃけたい、でも何を言っても怒らないで?と言えばもう一方が、そんなのムリムリ、お前の言うことなんか聞かない、とそんな感じ。

 

当人でない凛子は苦笑いを浮かべてしばらく見守るしか無かった。

 

「こ、怖いってばぁ。ねぇ、みやこってどうやったら大人しくなるの?」

 

「・・・んー・・・」

 

クドゥーナが恐怖も露(あらわ)にそう問い掛けてきてもすぐに答えは浮かばない、ただ言えることは・・・

 

「あー、思った事を一回、頭で整理してからクドゥーナは喋った方がいいかも。」

 

チクリと刺さる棘付きの言葉で京とやりとりするクドゥーナには、言葉を選べと言うことに尽きる。

だが、苦笑いを浮かべる凛子の言葉にクドゥーナが思わぬ反応を示した。

 

「それぇっ!それだってば、うち、初めて会った時ぃ言ったよねぇ。愛那って呼んでねってぇ!二人はぁ、ちゃんと名前で呼び合ってるのにっ。」

 

極々一般的な欲求で名前、それも本名である愛那と呼んで欲しいと、羨ましげな視線で凛子を、京を見詰めて唇を噛み締めてそう言いクドゥーナは左腕を目蓋に押し当てた。

その隙間から数滴の雫が溢れると、頬を伝って温泉の水面に吸い込まれるように混ざって無くなった。

 

「あー、だからそれは、気に入らなかったから。」

 

「わたしは、・・・なんと無く忘れてた。ゴメン、あいな。今度からは、気を付けるし、間違ってると思ったら言ってね。そしたら、直すし。」

 

そんなクドゥーナもとい愛那の姿を見ていてもブレない京は突っぱねる様に呟き、おろおろと凛子は謝罪する。

 

「凛子ぉ、うち、嬉しいぃ。それにくらべてみやこって壁作るよねぇ。」

 

愛那の打算では、京も少しは歩み寄ってくれている気がしたのに実際は、やはりお互いズレがあるのだろう、簡単には仲直りは出来るような気がしないでも無い。

 

「そう?ま、いいわ。名前は愛那、ね。覚えた。でも、悪口言ったのは忘れないし、許さない。それに──」

 

冷たく映る微笑を浮かべながらクドゥーナを見詰め、愛那と初めて呼んだ京だが、クドゥーナが本名である愛那と呼んで貰えた事に感動を隠せない中、すぐ口調が厳しいものに変わる。

 

「子供って言葉を二度とわたしの前で使わない、約束して?出来ないなら、仕方無いから教育、することになるけど──どっちがイイ?」

 

冷たく、厳しく、時にチクリと刺さるその言葉は京のトラウマだか、訓示なのだか解らないが逆鱗である事に変わりはないのだろう、デリケートな部分で『子供ぶって困らせたらその時は誰が止めても許さない』と言う意図が含まれていた。

 

 

 

「う、言わないよ。うん、うち、もう絶対言わない。それは約束するよぉ。」

 

「約束して、仲直りって難しい事ないよね?京ちゃん。」

 

愛那が京の静かな烈迫に気圧され、頷くままになっているとこを見て、すぐさま凛子が京を見詰めて問い掛ける。

 

愛那と京がやり合ってるだけではどうにも仲直りのできる気がしなかった。

凛子にも感じ取れたのはやはり、どこか似てて、どこか違う、二人のそんな性質だったのかも知れない。

 

「んー、態度次第?かなぁ、あいな、の。」

 

「っ!、和気あいあいで、温泉、楽しみたいのに・・・」

 

態度次第では許さないとも取れる京の仕草に、凛子ははち切れそうな思いを抱えながらも、自分まで感情に押し流されたら笑って仲直りなんか出来なくて、愛那を置いてカルガインに京は帰るかも知れないと思い直し、それまでの思いを抑えて叫び出しそうなのを我慢しながら、ゆっくり優しい口調で、順繰りに視線を変えて諭すつもりで凛子がどうしたいのかを伝えた。

 

「ね、うちも。わーきゃー騒いで、温泉たのしかったねーぇって言いたい。」

 

その意見には賛同しているぽく愛那が喋りながら、京の手を取ってすがる様に見詰める。

 

「なのに、・・・怖い顔でこっち睨むんだよぉ、みやこ、が。」

 

すると、京は寒々とした眼差しで、愛那を刺す様に見詰め返すので、愛那は震える声で呟きながら、最後には叫びに変わる。

 

「そう、態度を改めるつもりは、無いと、うーん・・・隣、放り込まれたい?蒸し鶏もいいわよね?凛子。」

 

「和気あいあいがいいよねって。・・・和気あいあいにしたいねって、わ!た!し!言ったよね。京ちゃんも、く──あいなもっ。」

 

愛那が気にくわないのは変わらないので何をしても京の気持ちはブレない。

軽口で凛子に振ると感極まった凛子が泣くような怒ったようなない交ぜになった感情を発露させ言葉に乗せて叫んでいた。

 

もう、我慢が出来ないと言いたげに、笑いたいのに笑えない複雑な顔で。

しかし、この凛子の発言でその場にまとわりついた冷たい空気が霧散していく様だった。

顎に手を当て、京が逡巡する態度を見せる。

 

「あっ、く、って言った!また名前忘れてた!凛子、酷いよっ。」

 

「ソコ突っかからないでも良くない?クドゥーナ、あ♪あいなだっけ、ね♪」

 

ああ、いい雰囲気になりかけたのを、愛那がやはりというか台無しにした。

愛那VS京の構図は緩まない。

余計なツッコミをした愛那に京は嘲る様にからかった。

だが、悪いとも言えない、何故なら京に心境の変化は有ったようで言葉からは刺す様な悪意は抜け落ちている。

 

「──からかってるぅ?何か、やっぱり。うちは、名前も呼んでくれないんだっ・・・」

 

「あいな、違うって、ね。京ちゃんも、謝ろ?呼び慣れちゃっただけなんだよぅ、あいな。悪気無いから、ね?」

 

こんなに歩み寄ってるのに一向に良くならないと思っている愛那が、落ち込んで温泉の中に全身を押し込める様に消えるのを見て、焦って凛子が二人を取りなそうと発言した。

 

「そう、なら?喧嘩売るならいつでも買うわよ。」

 

そう言いながらも京は、愛那に対する憎らしいのか、気にくわない気持ちはすっかり和らいでいた。

それどころかなんというか、心にあったしこりの様な何かが取れ、晴れ晴れとした気持ちすら感じていたのだから。

なのに、許し切れないのは心のどこかに京なりの線が引かれて、そこを愛那なり凛子なりが越えて満たしてあげないといけなかったのかも知れない。

面倒なのだ、京は。

そういうところは子供の喧嘩のように見えなくも無い、そう言えば以前も京はこんな言葉でゲーテを許している。

 

『わたしが満足するまで終わるわけないじゃない?』

 

つくづく難儀な、我が儘な神経をしているのかも知れない、この笹茶屋京という少女は。

 

「凛子ぉ、ありがとお。みやこってば、まだ壁作るよねぇ。う、うう・・・喧嘩売るわけないじゃない、うち、知ってるんだから!喧嘩負けた事なんて無いでしょ?

軽くひねられて伸びてるもん、誰だって・・・」

 

水面から少し顔を出し、凛子、京と順繰りに視線を変えながら喋る愛那。

そんな愛那の眦には溢れるものが湛えられて、涙目だった。

 

簡単には京は素直になれない、それが災いしてると言っても、それを鑑(かんが)みても愛那は一言も二言も無駄がある。

一言多い上に言葉に棘があり刺さる、まだ精神的に幼い愛那には、自分の言葉で傷付けているという実感が薄い。

そんなとこでも、京は透けて見えて、凛子には解らない愛那の嫌な性質を感じ取っていたのかも知れない。

 

「・・・そう、良く解ってるじゃぁない。なら、喧嘩させたく無いならどぅしたらいいか?も、解ってるわよねぇ・・・?」

 

「そうやって強制するんだぁ?」

 

「ちょ、京ちゃん!だから、あいなもっ。喧嘩したいなら帰ってからやってよぅ。寛ろぎに来たんだよ?ねぇ、わたし達はギスギスしに来たんじゃないよねっ?」

 

半分より多目に喧嘩を売っているとしか、京には取れない愛那の言葉に逡巡すると、試す様に水面から瞳の下までしか出してない、愛那の頭を掴んで持ち上げ、碧眼の双眸を覗き込んでにっこり笑って言葉を紡いだら、、愛那はすぐさま恨めしそうに見詰め返して呟いたので、くすっと京は笑い声を可愛くこぼした。

 

 

 

 

 

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