さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録 作:ぴんぽんだっしゅ
いざ! 氷の川へ……。
って、近くのダンジョンまで転移アイテムでひとっ飛びだったので何の苦労も無かった。
きっと苦しい冒険の旅が、なんて……思ってた時もあったんだよ。
ダンジョンから氷の川まで歩く間に、襲ってきたモンスターをサクサクと2人が片付けるのを見るまでは。
襲ってくるモンスターのLVが弱いね、2人からすると。
ざっと武器を振るえば、終わってしまうくらいには。
泥漁り……は、したけどろくなもんじゃなかったことを付け加えておこう。
そんなに苦労も無く、ピクニック気分で鼻唄混じりにしばらく歩いていると、干上がって乾いた川の岸辺に出る。
……ここが……。
岸辺から視線を上流に向けてそちらを見上げると、不自然に白いエリアが。
雪だったり凍っている氷の塊だったりするのかも知れないなとは思ったし、誰の瞳にもそれは明らかにおかしく映る。
町は言うほど寒く無かったし、ダンジョンからこの岸辺まで歩いた感じ、まだそれほど急激に冷たいなって思わなかった。
ディアドやレットの言った、『防寒をしっかりな』って言葉がまだ実感出来てないくらいだったし、日本の秋のシーズンくらいの寒さってわたしの肌の体感だと言ってもおかしくないくらいなんだけどって、上流をもう一度見上げる。
こうも、世界観変わるのかな?
こっちが秋ならあっちは真冬ってカンジ。
ダウン、欲しい……。
鎧と、後は薄い服っか無い。
ともかく進もう。
わたし、考え事をしてる間に置いてかれそうになる。
「──なぁーに、やってんの? 先行くわよっ」
「わ! ま、待ってー」
離れた所からシェリルさんの声。
それにハッとして視線で追うと、もう。
走って追い掛けないといけないくらい置いてかれてた。
薄情だ。
ん?
わたしが存在感、無いのかな……。
この岸辺が氷の川への入り口になっていて、上流に進めばシェリルさんの目的のヒュドラや、氷の川を凍り付かせている原因もあるはず。
岸にそって上流に進めると、特に待ち合わせをしてた訳でもないのに何故かレットが。
やあ、と挨拶をしている横で、さっくりモンスターを倒していたりするのを見た限り、この人も規格外なのかも。
ビュンと言う風切り音をさせながら、数太刀入れるだけで、その大きな獣は動かなくなった。
「早かったな、俺も今着いたとこだ」
レットは、刃に付いたモンスターの血を飛ばしながらそう言って歩いてくる。
氷の川は、そう呼ばれてるだけで別に、年中氷ってる川ってわけではないみたい。
ディアドさんに教わったんだけど、冬なら凍り付いて流れ無いのは判る、冬も過ぎたのに水が流れ無いから下流に水が枯渇したんだって。
調べに行った冒険者が持ち帰った情報によって、やっと氷トカゲの異常発生と解ったと。
それで、10日前に討伐依頼を出してブルボンでは討伐隊が用意されているとゆうね。
その……調べに行って帰ってきた冒険者が。
レットなんだって。
レットの前にも沢山、冒険者を送り出したけど有力な情報はおろか、無事に帰ってきた人は居なかった状況で、原因もわからずブルボンにも断られ続けて、今に至るということなんだ。
それにしても寒い、寒すぎる。
転移してきたダンジョン[マトーヤ洞窟]の辺りはここと比べたら別世界。
これが氷トカゲの仕業なのね、町の人の為にも早く終わらせて帰りたい。
そんな風に考えてる間に、ヘクトルとシェリルさんはレットと何やら話してるみたいだった。
嘘だ! とか、覚えてないの? とか、知らないとか、前を歩く3人のそういった声が耳に届いてくる。
「一緒にparty組んだぞ?」
「ごめんな、知らんぞ」
「レットをグリゴラスから助けた事もあったんだけど?」
「すまないが、人違いじゃないか? お前らとは昨日の酒場で会ったのが始めてだ。グリゴラスもまだ見ぬモンスターだな。」
「「ええー!」」
前を行く2人から心底吃驚した声が上がった。
どうも2人はレットの事をよく知っているみたいなのに、レットは2人を知らないみたい。
確かにおかしな話だよね。ヘクトルもシェリルさんもあんなに親しそうに接しているのに、レットはどこか引いている。
「あ、着いたぞ。前に氷トカゲを見た辺りだ。おかしいな……前より……、雪の量が増えた……」
レットのビックリした声にヘクトルが地図を開いて確認する。
ここに間違い無いみたいだけど、レットは少し焦った様に辺りの雪を調べ始めた。
その時だ。
ワラワラと、大きな獣が周辺の木々の向こうや、乾いた川の岸辺から姿を見せる。
おまけに、グギギギギギギと奇妙な音を立てる白い鱗の塊が現れる。
「氷トカゲだ。気を付けとけよ、凍気を吐く」
レットは叫んで剣を抜く。
が、ヘクトルはさも詰まらなさそうに欠伸をひとつつくと、
だあああらっしゃあああ!!!
気合い一閃、わたしたちの右に見える群れを虐殺にかかる。
そう、虐殺だ。
モンスターが動く先に剣閃が飛んで、避けるとか交わすとかそういった動作が間に合っていない。
然程かからずに肉塊の山が出来上がる。
「ボッとしてないで経験稼げよー。」
……そんな暇ないじゃんか。
ヘクトルはさぼんなと、言うけど左の群れにもレットが飛び込んで然程差も無く決着が付く。
氷トカゲはとゆうと、シェリルさんの作り出した特大の氷の槍に貫かれて1撃で絶命したくらいだ。
それを見てレットがヒュゥッ! と口笛を吹き歓喜する。
「まさか氷トカゲを1撃とはな。嘘でもお前らと知り合いだと良かった」
「ダルキュニルよ、サイズは大きめだけど。凍気を吐く前に仕止めれば? 簡単よね」
シェリルさんがふふんと胸を張る。
だけど兜以外はフル装備だから、胸の辺りがちょっと上を向く程度で周りには伝わりづらい。
その後、もちろんヘクトルに言われて泥漁りをする羽目に。
その後も進めば進む程、当然モンスターの群れを虐殺しつつ、原因を調査してたんだけどよく判らないままだった。
その結果泥漁りは捗るわけで、
「また魔石だけ? どうなってんのっ、ここの敵は」
出てくるのは魔石という青い石ばかり、とは言っても相当な数を手に入れていた。
それを見てシェリルさんには何か思う所があるみたいで歩きながらずっとブツブツと考え込んでいるようだった。
そして、拾った魔石を見せるように言ってわたしから魔石を受けとると、あらゆる方向から覗いて軽くため息を吐く。
「全部、……ブツブツ、……おかしい! ……ブツブツ……」
真剣な表情で考え込むシェリルさん。
しばらくして、えいや! 気合いを込めて雪から顔を出していた岩へ握り絞めていた魔石を叩きつけた。
「ふふふ、やっぱり。ここの魔石は全て使用済みよ。叩きつけただけで割れるなんて相当、……力を使った後の証拠だし?」
つまり?
「使用済みだな……召喚かテイマーの可能性があるな」
勝ち誇って自慢げなシェリルさんの意見にヘクトルも同意する。
レットは歩み寄って割れた魔石のカケラを調べているみたい。
少しの間、ブツブツ呟くとレットも同意して項垂れるように俯いて力無く口にした。
……つまり?
「信じがたいことだが、……ここに表れているモンスターは、人の……悪意で操られている! 仲間や町の人を手に架けた奴が……居る!」
喋りながら徐々に表情を厳しくするレットは、ぎゅううっと音が聞こえるぐらい、防寒グローブを握り込む。
ええー、酷い事する奴がいるんだな、許せん。
具体的にそいつをどうこうする事はわたしにできないけど、せめて一発殴ってやりたい。
「あのさあ、……クエストで来てた時とこんなに状況違うと、ね? この先何が起こるか……。わたしなりに考えてみたけど、これってイロイロおかしい……わけ、……じゃない……」
唐突に横に立ったシェリルさんはひそひそと口にする。
ヒュドラ倒したいんでしょ? と返すと頷くものの、使用済み魔石かよ、ってなるくらいならクエストを降りたいらしい。
確かに、レアアイテムが欲しくて来てる二人はヒュドラを倒した後にがっかりするのはヤかもしんない。
……だけど、それは困る。
「ここまで来たのに、そ……」
「来やがった!大きいぞ。」
それはないじゃんかと言おうとしたらレットと声が被る。
ぷるぷると震えるレットの人差し指が差す、わたし達が歩いて来た方に視線を移して振り返ると、凍り付いて流れなくなった川の向こうから青い首の竜が幾つも現れた。
大きい……それに首がいっぱい、……これが、……ヒュドラ?
いつの間にかこんなに近づいてたんだ。
だああああああっっっ!!!
気合いを込めて袈裟斬りに斬りつけ、青い竜の1つを絶命させるヘクトル。
でも、すぐに大きく舌打ちをしてその場を飛び退く。
その間を縫うようにもう1つの竜が、更に更にヘクトルに襲いかかる。
右に、左に、時に上手くステップを踏んで、時に大きく飛びずさってヘクトルはそのヒュドラの連続攻撃を避ける。
躱す。
「しつこいっ!」
加勢したレットもザクッと切り下ろし、その場を飛び退く。
そして、時間を食えば喰うほどディアドの忠告通りに……。
ヒュドラはもぞもぞと蠢いて再生する、まるで何も無かったように。
ヘクトルもレットも絶対斬り落としたのに、竜の首。
このままだとキリがない。
ヘクトルがプロボーグを掛けてくれるので、心配せずにスリングで竜の目を狙って弾を飛ばす。
シェリルさんは何やら待機時間のある魔法か、スキルを使うみたいで腕組みして傍観している。
「やるつもり無いんだけど……ホントっ、やる気ないのよ。……はぁ」
シェリルさんは軽く息を吐いて整えると、蒼い剣を頭上に掲げて叫ぶ。
「行きますっ! ──エクセ=ザリオスっ!!」
すると、全身に青白いオーラが表れそして爆ぜて、再び握った刀身に絡み付く。
それを二度ほど繰返しキラキラと輝く刀身は、その場の冷気を凍気まで引き上げて斬撃となりヒュドラを纏めて切り裂く。
続けて飛び込んだシェリルさんはヒュドラの胴目掛け、死ね死ね死ね! を連呼して滅多斬りに切りまくる。
衝き、払い、撫で斬りにする。
そして最後に、
死ね!
と斬り上げてヒュドラは再生するのを停止して、トロルの時のように凍り付いて、砕けた(?)ように見えた。
「……消えた……?」
シェリルさんは苦々しくヒュドラの消えた後を見つめて、やはり疲れ切ったみたいで両膝から倒れ込む。
わたしが掛けよってありったけのヒールを唱えると、
「疲れただけだから。ヒール意味ないー、でも……ありがとー……」
ふああ、と可愛らしく欠伸をついて、トロルの時と同じ様に気を失ったのか寝付いたのか解らないタイミングで、すやすやと寝息を立て始める。
エクセザリオスってオーバースキルを使ったから当然なんだけど、ホント寝付くの早いな。
それに弊害ではないけど、あの時と同じ様に周囲は一気に冷やされて、ダイヤモンドの様な光の粒が舞い散っていた。
あの後。
ヘクトルとレットがヒュドラの居た辺りをざっくり調べて解った事。
それは……、シェリルさんの嫌な予感が的中したって事、……だったんだよね。
大きな舌打ちがわたしの耳聞こえてきた。
ヘクトルに違いない。
……つまり。
「やっぱり魔石が落ちてたよ。今までのと同じさ」
レットからはギリギリと歯噛みする音がした。
わたしが二人に近寄ると、振り返ったヘクトルが何気無く右手を差し出す。
ゆっくり開いた掌のその上には、今日だけで飽きるくらい見飽きた色の抜けた魔石がちょこんと乗っている。
何の役にも立たない、まるでわたしみたい……。
「召喚はマナでは無いの?」
黙って項垂れるように立ち尽くしてる二人に向かって、そう聞いたらこちらに向いて肩を竦めるレットとヘクトル。
しょうがないとは思うけど、二人とも魂が抜けたみたいに瞳に力がこもってない。
そんな二人がちょっと、……怖い。
「召喚には、魔石を使うのが一般的だ」
「テイマーも魔石を埋め込んで魔獣を操るしな……」
2人は顔を見合わせた後そう言って魔石に視線を移す。
……まあ、なんだ。
案外近くに召喚した人間が居たりして。
なーあんてそんなワケないかあ。
あはははは……。
……チラと凍った川を見あげる。
特に何にも変わった事も無いみたいに凍ったまま。
そこには、カチコチに凍り付いた川だけが静かに佇んでいた。
川の流れは聞こえない、すぐそばに寝転がったままのシェリルさんの寝息だけが聞こえているだけだった。
ちょうどその頃。
凍り付いた滝の上に佇み、四人の様子を窺う影が1つ。
その人物の名はデュノワと言った。
「ち、余計な真似を……。魔石も安くはないんだぞ?」
その言葉からもわかる通り、彼は召喚使いである。
目的があって、滝を凍り付かせ手飼いの魔獣をこの地に放った張本人であるが……彼自身、ここにいつまでも居ては身が危うくなった事を理解していた。
フロストビーストや、氷トカゲを大量に失った上、今、目の前でヒュドラまで失った。
残る氷トカゲやビーストも直、狩り尽くされる事だろう。
「こんな強い奴が居るなんて、聞かされてないぞ? ブツブツ。これまでの働きの分にブツブツ……割りに遇わん。……金を、……ブツブツ」
静かに怒気を孕んでデュノワは、振り返る事無く滝の更に上流に姿を消す。
その方向には、教皇都・ブルボンに続く道が続いていた。