さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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悪魔に魅いられようとおしごと

 

 

 

 

 

 

イライザ様と別れて小一時間。

 

 

 

居ない。

 

性悪エルフがどこにも居ない。

 

話を聞かせて貰うはずだったのに。

 

 

 

あの長い黒髪のエルフが立ち寄りそうな所を知らないか、通りすがりの蹄獣人に尋ねると、性悪エルフならと教えられたのは村に一つの酒場。

 

 

 

「ありがとうございました。これ、奢ります。」

 

 

 

案内してくれた蹄獣人に一杯奢って少しすると、専用席になってるらしいテーブルに件の黒髪のエルフが座った。

 

 

 

「ズズ・・・何か?ありましたか?」

 

 

 

私が黒髪エルフの座ったテーブルに近づくと取り巻きの一人がエルフに何やら耳打ちして、声をこちらがかける前に黒髪エルフから先に訊ねられた。

 

 

 

報告文に目を落とすと、名前はシェリルとある。

 

 

 

報告文は20数枚に上り、それを書いた警備の者の愚痴混じりに、目を覆いたくなるあれこれの羅列が並ぶ。

 

とにかく厄介事を次から次から撒き散らしているようだ。

 

そんな所はラザに酷似している。

 

陛下は喜んで戦いたがるだろうな。

 

 

 

しかし、目を通しはしたものの、凡そ目の前のすらりと細いエルフが、本当に性悪エルフと呼ばれる報告文のそれとは重ならない・・・この躰で自分の倍もある冒険者を打ちのめし続けているとは私には思えない。

 

 

 

とは言え、先のイライザ様との一戦を少し拝見しただけでも、このエルフが件の性悪エルフと呼ばれている本人だと理解した。

 

一人でイライザ様と渡り合えるエルフなど有り得ないから。

 

 

 

歩く迷惑と呼ばれるイライザ様の不名誉な通り名は伊達じゃあない。

 

兵士が10人居ても、一瞬で倒してしまい、取り押さえられ無いんだから。

 

 

 

「落ち着いたら、出頭下さいって言いましたよね?私。」

 

 

 

自分のテーブルから持ち出した椅子に座る。

 

 

 

報告文をテーブルに投げ出すと、シェリルと言ったか、黒髪のエルフの視線が報告文に移動した気がした。

 

 

 

それでもグラスは手離さない辺り、相当な酒好きなのだと私にだって解る。

 

酔っぱらい相手におしごとしなければいけないのは少し、気が沈む。

 

 

 

報告文にもあったが、いきなり暴れる事は無いらしい、そこは素直に胸を撫で下ろし安心できた。

 

 

 

「んー、どこに?」

 

 

 

報告文から視線が外れグラスに戻る。

 

 

 

せめて、瞳を見て会話をして欲しいものだがしょうがない、冒険者とはこういった手合いの方が多い。

 

 

 

「ああ、警備の詰所で良かったんですけど・・・いいですか?今。」

 

 

 

報告文の経緯を目で追いながらシェリルに訊ねた。

 

視線を移すと、丁度酒をグラスに注いでいる所だった。

 

 

 

「やだ。」

 

 

 

返事は簡潔。

 

断られるのは想定はしていたが、もうここで済ませて置きたい。

 

 

 

「やだ。じゃないです。警備からも話、伺ってますよ、ええ。凄いですね、女性とは思えない狂暴さ、だ。」

 

 

 

挑発めいた言葉を口に出すと、シェリルのにこりとした顔がこっちを向いた。

 

どこか、魅惑的と言えばいいか、セクシー・・・だと思う。

 

いや、ラザの方が何倍も私にとって素敵ですよ?

 

 

 

「喧嘩売ってる?」

 

 

 

にこやかな笑顔のまま、その艶々した唇から出てくる言葉はやはり、報告文の通り畏怖すら感じる、寒々しい口調。

 

 

 

怖い。

 

 

 

こっちを向かせる為だけに、悪魔に魂を売り渡した気分だ。

 

二人の取り巻きも布を頭に巻いたり、帽子を被っているが、雰囲気で私がやりあっても勝てないと思わせる。

 

 

 

「いいえ。おしごとしてるんです、商店を5回半壊、内1件は1階内で戦闘けいぞく・・・と。猛獣か何か?」

 

 

 

文で読むのと、口にだすのとでは内容の感じ方が変わるな、目の前でにこりと私を見ているエルフが本当にこれを?ラザか、猛獣・・・羆族でも無くてこれが可能だと言うのか。

 

 

 

「・・・おめめは節穴なの?」

 

 

 

いやぁ、シェリルさんの瞳が怖い。

 

妖しい輝きを放つ様に私の網膜を貫く。

 

 

 

グラスはまだ離さないんですね?

 

にしても、取り巻きが無くなる前から追加する酒を次々、一人で空にしているのに、シェリルさんは酔った風に無いな。

 

 

 

「いいえ。ハーフエルフらしいですね、猛獣の家族とかいらっしゃる?」

 

 

 

私の瞳は付いてますとも、ちゃんと。

 

 

 

ピューリーか、バゴイナタスが家族にいたりすればハーフエルフと言えど遺伝で・・・いやぁ、これほど遺伝だけで強くなれるものだろうか?

 

私は、とても悪い方に思い違いをしているんじゃないだろうか。

 

 

 

「表、いこ。」

 

 

 

シェリルさんの瞳が細くなる。

 

その潤んだ瞳も、唇も私の瞳には魔物めいて映って。

 

 

 

悪魔。

 

見たことは無いから、はっきりとは解らない。

 

目の前で長い艶やかな黒髪を掻きあげる仕種をしながら、にこりと微笑いかけてくる女の子を見ていると、何故だか遠い昔に吟遊詩人から聞いた言葉を思い出す。

 

 

 

『悪魔はいつも微笑む。命のやり取りをする時も、魂を奪う時も。その微笑みはとても美しい。』

 

 

 

「いいえ。私、・・・まだ死にたくは無いので、イライザ様は弱くは無いんですよ、見境無くなっちゃったら死人も出ますよ。それを、〈アニミテイジ〉させて、嬉々と楽しむかのように振る舞うエルフなんて他に居ません。狼ですが、薄くて、血。勝負はやる前から見えてます。故に、やりません。」

 

 

 

怖い、怖い、怖い、怖い。

 

シェリルさんの瞳の奥の揺らぎにすら底冷えする。

 

急いで取り繕わないと。

 

 

 

考えろ。

 

 

 

必死に、弁解の言葉を。

 

私には凡そ触れることも出来ないまま、目の前でにこやかな笑顔のまま、私を見詰めている黒髪のエルフに取り殺されるのではと、恐れた。

 

 

 

吟遊詩人から聞いた言葉にぴたりと合う、見る者を惑乱させる嫣然たる微笑みを見て。

 

 

 

「なら、挑発するのやめなさいね。」

 

 

 

良かった。

 

視線が外れグラスに戻る。取り巻きが立ったまま酒を注ぎ、煽るとすぐ。

 

また酒を注げ、と促すように差し出し満たされるまで注ぎおわると一口に煽る、繰り返しのその作業をしばらく、私の廻りだけ空間が固まったように見守っていた。

 

 

 

「おしごとしてるだけなんですが、私。デュンケリオンの、あの“剣鬼”を、ほうほう。絶望させた?」

 

 

 

おっと、おしごとを忘れてはダメだな。

 

我に還ると報告文を読み上げる。

 

警備の者が書いた事が事実であるのか、確かめてから陛下に報告しなければならないからだ。

 

 

 

村で起こった事の逐一の報告も任務の一つになっている。

 

私の目で見て、疑わしいと思える報告文をそのまま、届出てはダメだろうと思うから、とは別の立場もあったり。

 

 

 

なんにせよ、事実であるかを聞き出さなくてはいけないのは変わらない。

 

だがしかし、こんな報告文の照らし合わせが、難しいものになるなんて。

 

 

 

「弱い奴が偉そうに、囀ずるから。でも、剣だってもたせてあげたわ。」

 

 

 

剣鬼はデュンケリオンでも名うての冒険者だと思ったが、その剣鬼を弱い。と言い切った。

 

 

 

口振りだと、まず剣を持たせないように、奇襲でもかけて不意打ちで気絶でもさせたのかも知れない。

 

剣鬼と言っても、気絶していてはタコ殴りに合う。

 

散々ぼこぼこにした後で、剣を取った剣鬼だったが、時すでに遅しと絶望した・・・と、こういった筋書なら頷けるな。

 

 

 

「ふむ、メドイックはしかし、まだ自室から出てこれないそうですね、次。あぁこれもなかなか、エナーグですか。デュンケリオンにも名前が稀に聞こえてくる、山賊狩りをこなしたって・・・あ、興味無い?」

 

 

 

“剣鬼”メドイックは剣の腕なら、鍵十二騎士にひけを取らないと聞いているんだよな。

 

そのメドイックを『絶望』させるとはどういう事なのか・・・十二騎士の中にはメドイックに師事した方だっていると聞く。

 

 

 

十二騎士は国内最強が揃う、陛下が直接選び抜いた集団なんだぞ。

 

これを簡単に信じろ、なんて陛下の前で申し上げ難い。

 

 

 

エナーグはまあ、小物だな。

 

山賊と言っても、規模の小さめの奴等だったんだろうし。

 

 

 

「酒がまずくなるわー、あー。どっか行ってよ。それか、表いこう?」

 

 

 

シェリルさんの視線がまた私に。

 

 

 

悪魔の微笑み。

 

吟遊詩人から聞いておけば良かった、悪魔に直接会った時の対処法とか。

 

 

 

「断ります。羆族の、ほうほう。カイオットですか、大物じゃないか。あ、重そうって意味でなんですけどね。」

 

 

 

にわかに信じがたい・・・羆族《ゴーギャニル》をこの細腕でと思い、自分の腕と見比べる、私の方が太さなら大きい。

 

 

 

象獣人《バゴイナタス》と並んで羆族は桁違いに固く、強い・・・はずなんだがな。

 

 

 

「カイオッ・・・あー、熊!か、確かに?でも、固いだけの生きてる的だわ。トロくさくて、獣化?しようとしたけど完全体になる前に気を失ったから何にも変化しなかったわ。ふふっ。」

 

 

 

その、羆族との戦いを思い出しているのか、シェリルさんがグラスのふちを何回ももぞもぞ、なぞりながら私を見るでなく、取り巻きの方を向くでなく酒場の壁の滲みでも見るみたいに、しばらく黙って左手は肘を付いて顎を支える。

 

 

 

思い出すと、プッと吹き出して私の顔を悪戯っ子めいた顔つきで見て喋り出す。

 

 

 

まさか、笑ってしまうほどカイオットという羆族はなす術なくシェリルという悪魔にとり殺されたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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