さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録   作:ぴんぽんだっしゅ

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イライザ様は良く言えばバカ、悪く言えば他人の言葉が耳に入らない、見たくないものが目に留まらない、そんな我が儘なんです。

 

 

 

だがしかし、その期待はあっさりとはね除けられた。

 

 

 

「行くわけ無いじゃない。バカなの?獣人なんて、皆雑魚ばっかり。チラッ」

 

 

 

あからさまに私を挑発するようにシェリルさんは答えると、チラリと私を窺ってからグラスの中身を喉に流し込む。

 

 

 

何故だかコートが汗ばむ気がして、首筋や脇に触れると知らぬ間に、冷や汗をびっしょりとかいていた。

 

 

 

「その手に乗りませんよ、私。死にたくないですから、それはともかく。残念です、性悪エルフを国が雇ったとなれば、連日!習練の門を叩く者が後を絶たなくなると思ったんですが・・・。チラッ」

 

 

 

これは賭けだ。

 

畏縮する全身を奮い立たせて、あくまで平静を装い涼しく、語気も滑らかにしかし、挑発するように匂わせながらシェリルさんの興味を惹かねばならない。

 

 

 

事が終われば、周辺の街や村を駆け抜け恐ろしい速さで性悪エルフの噂はデュンケリオンまで届くだろうし、届けなくては行けない。

 

陛下が望まれる、強者を集める為の修練の門、そこに目の前の黒髪のエルフ、シェリルさんが足を踏入れてくれさえすれば、性悪エルフの悪名と共に新たな強者を呼び込んでくれる・・・と、私は思う。

 

 

 

「習練の・・・門。面白そうね、暇潰しに叩き潰しに行こうかな?」

 

 

 

成功だ。

 

シェリルさんの興味を惹けたようで、きっと頭の隅にでも張り付いてくれたんじゃないか。

 

修練の門という言葉だけでも。

 

 

 

「挑発に乗ってくださり感謝致します。ああ、それと。私、この報告を済ませたら、ドラゴン退治に・・・」

 

 

 

「もう、居ないわよ。」

 

 

 

私の言葉を遮るシェリルさんの冷ややかな口調。

 

ドラゴンが居ないと言うのは眉唾ものだった。

 

 

 

「村長からも、そのように伺いました。ついては、同行しては戴けないでしょうか。」

 

 

 

村長の屋敷に到着を知らせるため足を運んだ際、ある冒険者がドラゴンを倒してしまったと、退治してしまったというのだ。

 

 

 

一瞬、何をこんな所まで来てと思ったが、その後で警備の詰所でシェリルさんに関する報告文を受け取り、目を通すとそれでも信じられ無い気持ちは強かったが、実際に本人を前にすると、本当に退治してしまったのでは無いかと思ってしまう。

 

それを納得させるだけの風格が、シェリルさんの周囲にまとわりつく得体の知れない恐怖にはあった。

 

 

 

「やだ。」

 

 

 

断られるかも知れないとは思っていたけど、まさか即断とは。

 

まいったな。

 

 

 

「そうですか、なら正式に村長から依頼を出して貰う事になりますが・・・よろしい?」

 

 

 

是非にも同行していただきたい。

 

シェリルさんが居れば安心じゃないかな、敵にするとこれ程恐ろしい人は見たことが無い・・・でも、味方とすれば頼もしすぎる。

 

 

 

「狼の皮、剥いでやりたくなってきたんだけど・・・いいかな?ゲーテ。」

 

 

 

だが、シェリルさんは肯定も否定もしないでただ悪魔のような金色の瞳を爛々と輝かせ、長く細い腕で私の顎先に触れて私を射抜くぽく見詰め、ゲーテに訊ねた。

 

 

 

何故?何故そうなる。

 

背筋が凍る思いで、ゲーテの返事を待つ。

 

 

 

「姐さぁん、役人斬って賞金掛けられるのはやめてくれよ。ま、どのみちその賞金は払われる事無いんだろーけど、姐さんが誰かに負けるわけないんだからな。」

 

 

 

呆れ顔のゲーテはどうなろうと知らない、と言いたげにシェリルさんを見る。

 

 

 

おい、・・・──おい。

 

止めてくれないのか?

 

シェリルさんと戦うなんて無理だ・・・生存できる可能性が無い。

 

 

 

本当に?

 

私が?戦う・・・

 

 

 

「ふんっ、可愛い口きくようになったじゃない?お世辞使えるなんて、ね。」

 

 

 

お世辞?

 

いやいや、ゲーテは本気だった。

 

本気でなす術ないと呆れている、そんな顔。

 

戦るしか無いのか。

 

 

 

「・・・仕方無い、ご期待には添えないとは、思いますが戦りましょう。」

 

 

 

コートを椅子に掛け、革のベストとシャツを脱ぐ。

 

獣化なんて。

 

いつぶりかな、ラザを止めようとスールの街でして以来か。

 

 

 

上半身裸になって獣化を試みる。

 

試みると言うのは、獣化は激しい感情の起伏によって血に眠っている、本来の力を使う事、ただ全身毛むくじゃらになれるかってゆーと血の濃さ薄さ、薄くても遺伝を強く受け継ぐ──先祖帰りとゆーのがありまして。

 

私はそれだったりする。

 

 

 

「うッ、ウアアアアアアアッ!」

 

 

 

喧嘩を吹っ掛けたつもりも無いけど、興味を惹くために挑発めいた事はした。

 

獣化は進み、腕は倍くらいに膨れ上がる。

 

それを見て私はシェリルさんが既に酒場から出ている事に気付き、嫌だなと思いながらも遅れて外に出る。

 

 

 

「姐さん、殺しちゃいけませんよ。加減をしてくださいね。」

 

 

 

帽子を被った取り巻き──あっちがゲーテならこちらはジピコスか。

 

もっと言ってくれ、手加減抜きではすぐに決着がつく。

 

うん?さっさと倒れて負けてあげたら痛いのは一瞬か。

 

ラザも待たせてるし、話が早い方がいいな。

 

 

 

「ジピコス!ゲーテ!」

 

 

 

往来の真ん中でシェリルさんは準備運動だろうか、手首をぷらぷらさせながら地面に足をつけたまま、足を回転させていたと思うと、気合を込めて叫んだ。

 

 

 

「「はいっ。」」

 

 

 

「役人だってさ、関係ない。そうでしょ?いつだってわたしに喧嘩ふっかけた奴は後悔するんだっ、生まれてきた事に!」

 

 

 

返事をする二人に向かって肩越しに振り返り、改心の笑みを浮かべるシェリルさんは、冥府の蓋を開けてやってきた悪魔のように恐ろしく見えた。

 

 

 

喧嘩、売った覚え無いんだけどな。

 

生まれた事に後悔して、早く済ませよう・・・それがいい。

 

 

 

「ふぅー、行きます!」

 

 

 

一息に空気を吐いて、息を整えたら地面を蹴る。

 

既に、獣化は8割完遂して私の全身を灰色の毛むくじゃらが覆う。

 

どこか解放された気分になる。

 

欠点があって、物凄く腹が減るのだ。

 

食費を考えたら常用するべきでないし、普段の三倍くらい体を使う事になり、獣化が解けた後酷く疲れる。

 

食費の事に脳を侵されていた瞬間、シェリルさんが居ない。

 

どこ行った。

 

こっちはもう全力を尽くした、後は適当に這いつくばって許しを乞えばいいだろう。

 

 

 

「上よ!」

 

 

 

すると、声は上からした。

 

見上げると勿論シェリルさん自身、上空に跳んでいた。

 

太陽の内に入って眩い。

 

輪郭の中から飛び出す足が見えて、反射的に弾いてしまった。

 

 

 

私はシェリルさんの攻撃に反応して反撃してしまっていたのだ、今ので終わらせる筈だったのに。

 

 

 

「やるわねっ!」

 

 

 

弾かれた先で、態勢を立て直したシェリルさんが叫ぶ。

 

一瞬で私の真横に駆け寄り、背を見せての廻し蹴りがくる。

 

 

 

「ぐぅ、非礼は詫びましょう。立場を使っても逃れられないのでしたら、ね?これで許して・・・だめ?」

 

 

 

今度は見事に私の腹にシェリルさんの踵が突き刺さる。

 

よろけて見せて膝立ちに私はシェリルさんに向けて頭を下げお辞儀をする。

 

最後にシェリルさんの顔を窺う。

 

悪魔、悪魔の微笑み。

 

ニコニコと私が喋るのをシェリルさんは聞いていた。

 

 

 

「役人さぁん、次は這いつくばらせてアゲル♪」

 

 

 

シェリルさんは瞳をカッと見開いてにぃと笑う。

 

これでは許しは貰えないような感じなのか。

 

では・・・

 

 

 

「這いつくばって済むのなら、這いましょうっ。これでよろしいのかな?」

 

 

 

地面に大の字に寝そべりながら問いかけていたら、

 

 

 

「ねぇ・・・何をなさってるの?ダンゼ、ねぇっ?誰かに虐められましたの?可哀想に・・・仇は取りますから、安らかに。お眠り下さいませね。」

 

 

 

そう言う声の主を恐る恐る振り返ると、何故かそこにはマントを羽織っただけの、裏路地に待たせてあったラザが居て、私は死んだことになっている様で。

 

虐められた訳でもないですし。

 

 

 

「イライザ様っ、だめですっ。これは私のケジメなのでありますっ。」

 

 

 

もうすぐ丸っく纏まって、私はこの場から退散できそうだったのに。

 

寄りによってラザに寝そべった事だけ見られるなんて。

 

 

 

ラザは勘違いしてるだろう、そして。

 

──止めようと、もう止まらない。

 

 

 

それが解っているから、泥まみれなのも忘れて獣化してたのも忘れて、ラザにすがりつく。

 

 

 

「・・・知るか。ダンゼ、淑女の上っ面なんていらねェんだ、よ。」

 

 

 

男優りなラザの言葉。

 

ああ、もう本来のラザが出てきた、デュンケリオンに行く前の素のラザが。

 

 

 

淑女の礼節、と叩き込まれたお淑やかな喋り口調や、ゆっくりと歩くなどの女の子らしい態度はラザのうわべに過ぎない。

 

 

 

父母を知らず祖父母の元で育ったあの頃のラザは、幼心にいざとなったら祖父母を自らが守ると言うくらい、男の子だったりする。

 

屋敷には私くらいしか共に遊ぶ子供も居なかったし、話言葉も次第に私に依っていったんだったか。

 

 

 

「また、曝すつもりなのですね・・・」

 

 

 

マントを見詰めながら、幼い日を思い出していた私は無駄と知りながらラザに話し掛ける。

 

今の状態ではもう、誰にもラザを止められないと知っている、暴れて疲れた所なら、なんとか止める事ができるけど・・・

 

 

 

「あったま来てんだっ!ぶっ殺す、噛み殺す!」

 

 

 

見上げると涙混じりにラザの獣化が凄い勢いで進んでいく。

 

感情が爆発してるんだろう、私は死んだことにまだなってるかも知れないな、ラザの中では。

 

 

 

シェリルさんには悪いけど、ラザの怒りの捌け口になって戴けるかな?

 

 

 

「そんなに噛み付いて来たのいたわねぇ、確か。ねぇ、ゲーテ。」

 

 

 

何故かシェリルさんはラザの言葉を聞いてにぃと微笑み、ゲーテを視線で差す。

 

女神の様な神々しい微笑みなのだろうが、後光が見えようと私には悪魔の微笑みに感じられた。

 

口振りから過去になにかあったんだろうか、私には報告文でしか過去を知り得ようがないので解らない。

 

 

 

「はい、姐さぁん。王族だって戦るんですよねえ、止めても。」

 

 

 

ゲーテは、俯いてからシェリルさんを見詰める、ゲーテとシェリルさんの瞳と瞳がぶつかる。

 

諦めた瞳と余裕の瞳。

 

 

 

もっと食い下がって止めてくれ、と言いたいとこだが全力のラザを止めれないとこの村が無くなるからな、それだけは避けたい。

 

 

 

ラザに精々殺されない程度に楽しませてやって下さい、シェリルさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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