さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録 作:ぴんぽんだっしゅ
その後は、地図に付けられた点に従い氷トカゲを殲滅した後、
「もう少しだー! 頑張れよ? レット」
凍り付いて流れなくなった滝に戻り、
「こっちも。もう、何とかなりそうだっ」
「ヒビが大きくなってる! 何とかなったな」
ザクザクと滝の表面を覆う氷壁を、
「(あんなに吹雪いて)さっきまで冷たかったのが、嘘みたいに暑くなった。ほっといても溶けるだろうが……、少しでも早くっ、みんなにっ、届けてっ、やりたいからなっ」
何度も何度もヘクトルとレットが、
「崩れるぞっ! 離れろーっ」
この為に用意したハンマーで協力して叩いて崩してゆく。
「…………………………うわぁ、……うわぁー!!! みっ……水、水だよー! 流れた、流れたよーっ!」
すると直に、水の流れる音がしはじめ、段々と……僅かだった水音が大きくなり……ついには、ゴォオゴォオと地鳴りを伴った轟音へと変わり、凛子が見上げれば凍り付いていた滝全体が、今まで流れを止められていた鬱憤に押されるように爆ぜて―――――
「これでー。町まで水が元通り流れていくよね。……みんな、水に困らなくなるんだよね?」
「一日、二日じゃ元通りとは言わないと思うがな。けど、……ありがとう。これでその内には皆に綺麗な水が行き渡るだろうな」
答えるレットの後ろを、氷塊を押し流しながら激流となって、溶け出した綺麗な水が流れていく。
その一連の情景を遠目から眺めている存在があった。
翠の鬣、蒼い瞳の一角獣―――ユニコーンが静かに流れ始めた川を、ただ……見ていた。
それから時間を7日程巻き戻し――――カルガインの町の南東三十キロ程に進むと、大陸中央の国サーゲートのラミッドと、水の女神に祝福を受けた運河の国グロリアーナの王都とを結ぶラミッド街道へと合流する。
この合流点を北上するとカルガインがあるのだが、その途上にはモンスターの巣である鉄の森があり、迂回路のハザル山越えも決して安心できる道ではない。
このラミッド街道を、グロリアーナの王都へと向かう少年の姿があった。
このローブ姿の少年の名はエクト、実はNOLUNのヘビーユーザーである。
最低でも一日一時間は、球体の中でここ二年の間は過ごしているくらいだ。
着いてからそろそろ、二日目が過ぎようと言った所。
彼は、好奇心からカルガインを南進してここまで辿り着いたのだった。
「まだ着かないの?」
濃紫のハーミットローブを愛用している為、少年の容姿は貞かでない。
その、ハーミットローブの下から呟きを聞きつけた槍が伸びて来て、エクトの左頬の辺りで止まると、
「カルガインを出てから3日目だもんなァ、そらァそろそろ見えるんじゃねェか?」
なんと! 槍が喋っている。
槍の名はアーベンライン、冥王が三槍の内の一本であり、エクトに事実上『憑いている』為、第三者にはアーベンラインの声は届く事は無い。
「おなか空いた」
「カルガインで大人しくしなかったエクトがバァカ。悪いが、俺様は食べる必要ねェからなァ」
ガハハと豪快に笑うアーベンラインをぐいと押すエクト。
「うるさいうるさい! 勝手に新マップが更新されてたら行かなきゃだろ」
メニューを開いてマップを見る。
そこにはブルボンのシナリオで話には出てきたものの、その更新は見送られていたグロリアーナの王都の文字が表示されていた。
「だからなァエクトォ、何度も言ったがよォここはお前の知ってるゲームじゃねェよ。更新とかそう言うのはわかんねーが」
「呪いのアイテムが喋るような更新されたんだ? それとも夢?」
「どー思うもてめェの勝手だぜ、エクトォ。いいのか? さっきから変な奴が付いてきてるのによォ」
「わかってた」
アーベンラインの声に頷くエクト。
その時、街道の両脇に生い茂る木々の影からガサガサ、と大きな音を立てて何者かが姿を翻す。
「何か、高そうな服着てんなあー? 持ってんだろ? 金だせ金、量によっては命だけは助けてやっても、へっへっへ」
山賊Aが現れた。
山賊Aを倒した。
「ブレイズ・ヘル」
エクトが一声吠えると、暗黒の炎が左の人差し指から渦を巻いて現れ、目の前の男をじわじわとゆっくり焼いていく。
「何ぃ? 外道がっ!」
山賊Bが現れた。
山賊Bを倒した。
「貫け!」
ローブをくるりと翻し、振り向き様アーベンラインを使役して、右から飛び出して来た男の胸を貫く。
「このヤロウォっ! ぶっ殺す!」
山賊Cが現れた。
山賊Cを倒した。
「うざいんだよっ」
後ろから背中を狙ってダンビラが振り下ろされる。
が、見切っていたエクトは上空に飛び上がってひらりと躱し、降りきわに右手の裾から延びたアーベンラインが男の脳天にズブズブズブと深く奥まで刺さる。
「なんだあ? こいつは!」
山賊Dが現れた。
山賊Dを倒した。
「目障りなんだ──」
両手斧を力任せに振り回す大男の背中にステップを踏んで、次々と連続してエクトに向かって振り下ろされる大きな斧を躱しながら回り込み、ブレイズ・ヘルを唱える。
するとじょじょに大男は黒く燃え上がり狂ったように悲鳴を上げて転げ回り、半身が溶けた様に焼ける頃には、叫ぶ声も聞こえなくなって力尽きた。
「てめぇ!よくもっ」
山賊Eが現れた。
山賊Eを倒した。
「よ!」
弓を引いた男に向かい左の掌を差し出すと、アーベンラインが驚くべき速さで伸びて胸板をぶち抜いた。
「エクトォ、新手がくるぜ」
アーベンラインの声を聞いて目を細め、周りの音に注意する。
馬の蹄の音が段々近づいているのを確認すると、
「……アーベンライン……」
「何だよエクトォ?」
「……おなか、……空いた……」
山賊の死体が何か持ってないか、しゃがんで探りながらエクトは力無く呟く。
運悪く山賊は食べ物を持っている様子はなかったので、それ以上は諦めたようだ。
三日飲まず食わずの上で、山賊相手に手加減無しの大暴れだったのだから、そろそろエネルギー切れを起こしてもしょうがない。
新手が敵だったら常人離れした強さのエクトでもさすがに、敵わないのかも知れない。主に空腹という意味で。
馬の蹄が近づき、空腹に負け地面に向かって項垂れているエクトの横に並んだ刹那、すでに馬上で剣を抜いていた新手と邂逅する。
「女……か? 助かった……いや、そうじゃない……」
「貴様は何者か? 我は、サロの巫女騎士・シャリア! 名を名乗れ!」
馬上の人物はエクトが山賊で無い事、その後ろに山賊の死体が散らばっている事を確認し、御決まりの口上を発するとシャリアと名乗った。
しかしそのまま騎士・シャリアは警戒を解かず、今にもエクトに斬りかかろうと構えに入っている。
同じ様にエクトもシャリアを睨み付けて、空腹に負けエネルギー切れじゃなく、体が自由に動くなら手加減はしない所だった。
シャリア側から見た所、ローブ姿の誰かは山賊の集団を、かすり傷ひとつ負わずに殲滅している、見た目に反して強者なのだろう。
自然と口の端に笑みを浮かべる。
『返答次第では斬り捨てることになるだろうが、斬り合う事を考えるとワクワクしてくる。どのように楽しませてくれるのか?』だがシャリアの望みは叶うことは無かった。
目の前の不振人物は、
「おなか空いた」
力無くそう言いながらパタリ、とその場に倒れ込んでしまったから。
「シャリア様、大丈夫ですか!」
「大丈夫だ。この者を拘束し尋問にかける、連れ帰れ!」
「はっ、直ちに!」
「まだ、残った山賊が居るやも知れない、後の事は頼むぞ」
駆け寄った女騎士に的確に命令を下すと、シャリアは手綱を引いて言うべき事を言って駆け出す。
その際に余りにも手綱を強く引きすぎて、乗った馬が背骨をしゃんと伸ばし、両前足を上げる程だった。
『まさか、グロリアーナのこんなに近くまで山賊が出るとは。我々騎士団が嘗められたものだ!』
シャリアが山賊を追って街道を西走してから数時間後。
「ガツガツ! ムシャムシャ! ゴキュッ!」
拘束を一時解かれ、エクトはグロリアーナの騎士団予備隊舎の尋問室で三日ぶりの食事にありついていた。
その料理は質より量の食事だったが、今は何より腹を満たせることに感謝するエクト。
「……そんなに急がなくても、……食事は出来るだろう。……それよりっ、名だ! お前の名を教えろ!」
その食べ方を見て、どこか引き気味にシャリアは当初の目的である少年の調査に入る。
少年は食事に夢中。
シャリアは椅子を持ってきて少年、エクトの対面にどかっと座り、睨み付けながら腕組みした。
「ング、言葉使いが成ってない女だな」
「嘗めるなっ! 名無しの下郎を切り捨てても罪にはならんぞ!」
シャリアの問いに食事を止めずに、エクトがチラ見してから咎めるとシャリアは激昂し、言うが早いかスチャッと右手で剣を抜いた。
「胴とさよならを言うがいいわ!」
強い殺意を感じたエクトはテーブルの上にシャリアが広げた紙、エクトに関する報告書だったのだが、それをくしゃくしゃにして右手でナプキン代わりにしながら、左手にアーベンラインを取り出す。
平時のアーベンラインは只の金属の筒にしか見えない為、女騎士や隊員も拘束を解く前に取り上げてはいなかった。
そもそも呪いの武器が、所有者から簡単に離れるのかも疑問。
「態度を改めろ。アーベンラインはどんな金属も貫く」
エクトは後ろに飛びずさり、独特の構えをとって斬り掛かろうと、剣を抜いたシャリアに備える。
「聞いたことがあるぞ…………。アーベンライン、冥王の魔槍……」
鞘から抜き放った白刃輝く剣を構えながらも、シャリアは目を細め不利を認めていた。
『納得だ。魔槍が相手なら山賊など何人いようと烏合の衆でしか無かっただろうな』その時同時にシャリアの脳裏に過ったのは、朝のラミッド街道に散らばった死体。
「ごちそうさま。試すか? ここでっ!」
口の中に残っていた料理を飲み下したエクトは、威嚇にアーベンラインを飛ばす。
すると、避ける暇無くシャリアの右耳のすぐ近くを真っ直ぐ壁にまで閃光が刺さる。
「む…………敵わないか。ここは、非礼を詫び、剣を降ろそう。お前にではないぞ、その魔槍にだからな!」
鞘に剣を納めながらシャリアが、屈辱を噛みしめエクトに頭を垂れた。
その更に数時間後、辺りは夕暮れに包まれようとする頃。
不慣れな馬に乗せられ先を悠然と手綱を取るシャリアに付いて、何故か王城へと連行されていたエクト。
城に付くと説明もないまま、シャリアに急き立てられ着いた先は謁見の間。
重い音を立てて開いた部屋の奥には、只一人、威厳を以て頬杖を突いた絶世の美姫が、待ち遠しそうにこちらを窺って居た。