さいよわ───チートなエルフと魔人が護る最弱な彼女が綴る異世界黙示録 作:ぴんぽんだっしゅ
目の前を駆けてく二人は慌てた感じで。
わたしが裏口を開くとすぐにノースリーブに丈の短いミニスカート姿の愛那と、ピンクのワンピース姿の京ちゃんが入り口から出ていくのが見えた。
ピンクのワンピース姿って事は、京ちゃんの中身がぐーちゃんの方。
遊びにいくにしても普段なら歩いて出て行くけど、今日はどうしたんだろ?それくらいにしか思ってなかったこの時は。
二人の出ていった後の食堂にはお客さんが数人と、愛那の携帯コンロ、後、
「お肉ぅ!」
お肉が数切れと、タッパに入ったお馴染みマスタード漬け肉が残されてて、相当急いで出ていったのが解る。
ん?
テーブルの上にメモ書きと思える紙切れが・・・何々、『ちょっと出まぁーす。まだ食べ足りないでしょ?食べてもいいよ。 愛那』
片付け忘れじゃなくて、急いでたからとかじゃなくてわたし達の為かー、有り難く頂こ。
携帯コンロのスイッチをオン!
そしたら火の調節して、お肉っ、お肉っ!
乗せてっ、お肉ぅッ!
後は焼くだけ、タレが残念なのはこの際しょーがないよね、自然とフン、フン♪と鼻歌が出る。
空から降ってきたり、飛んできたりする敵に人型戦闘兵器で戦うあの超ヒット映画のOP。
葵ちゃんが好き過ぎて、わたしも良く一緒に見てたから、自然と覚えちゃったや。
鼻歌を響かせながら、お肉を焼いていると階段をカツーン、カツーンと高い音を立てて降りてくる人影。
階段に一番近いテーブルだったし、降りてくるのは京ちゃんだとすぐに解って、手を上げてアピール。
すると、白と黒のワンピース姿は普段と同じだったけどデザインがちょっち違う、今日のは袖が無くて右半分は全部白、左半分は同じ様に全部黒になっていた。
太股までスッポリ包むブーツも無しでシースルみたいな、でもぴっちりカエル皮の飴色のストッキング、シースルで透けててすらりと長い足が強烈に強調されてる。
足元はバックル・・・本当に京ちゃんはバックル好きだなー。
バックルが3つ付いた青いハイヒール、そんな格好をした京ちゃんはわたしの顔に目を止めると、黙ってテーブルの対面に椅子を引いて座る。
酒場にまた行くつもりだったのかなー、暇だし着いていってもいいんだけど。
そう思ってたら、網の上のお肉をどこから出したのか塗り箸で摘んで、タレにさっとくぐらせてから口に運ぶ。
長くて黒い髪の毛を手で寄せるのは、もうどうしてもやんないと食べれないの解る、けど。
「美味しい?」
ちょっとそれ、わたし焼いてたんだけど。
薄く目を出して、京ちゃんを睨みつつ聞いてみた、勿論京ちゃんがくぐらせたのは残念なタレ。
「まあまあ。」
返事はあっさりとしてた。
それでもお箸は狙い定めて網の上からまた一枚、お肉を摘む。
えー、わたしもお肉、食べたいんだけどな?
ちょっと眉間か、額の辺りがひくつくのを感じたよ。
食い物の恨みは怖いんだから、京ちゃんと言ってもそれは棚上げしてでもお肉の事、恨むから。
何て思いが伝わったのか、タレにくぐらせたお肉をわたしの顔の前に差し出し、京ちゃんが『ん。』なんてしてくる。
自分で食べれるけど、だけど。
京ちゃんの瞳を見ちゃうと、やめてよとは言えなくなる、真剣なんだもん。
そーゆー事がやりたいんだよね、きっと。
結局、食べたけど。
彼氏を作って、存分にやればいいのに、わたしと比べなくても・・・充分モデルで通じるくらいに綺麗なんだから、モテモテだったんじゃないの?って思うんだよね。
あ、でも。
基本怖いから近寄り難いくて、告られたりとか無さげっちゃ、うん。
頑張れー、京ちゃん。
「マスタード漬け肉美味しいよねっ。」
赤黒い、または濃い赤色の肉はすぐに無くなっちゃって、美味しかったけど少し量が足りないよ。
愛那、食べすぎ。
もちょっと残しててもいんじゃない?
「こればっかりだと、美味しいのかどうかも解んなくなるわよ?食べるけどね。」
文句なのか、わたしの話を無視するのが悪い気がしたのかマスタード味に飽きてそうな答え戴きましたー。
わたしは美味しーって思うよ、こっちのお肉の方が日本で食べる肉より。
えっと、確かガルウルフってゆー魔物の肉なんだよね、この中身。
「ロカって見た目は鹿ぽいのに、肉質は牛でしかも上等なとこがいいよ。」
ボナールさんの焼いた肉もそう、バイト先のザックさんの焼いた肉もロカの肉なんだってね。
歯応えは牛、んで口に入れると舌で融ける感覚。
やらかいのだ、そして何より美味ーいっ。
メニュー画面をチラと開けば。
ロカのブロック肉があったりする。
食材、とか考えたりしなかったしょーじき愛那に会うまでは。
魔物の肉を食べるのはニクスで知ったけど、それ以前からアイテム化した肉だけは、メニューの操作でアイテムBOXに入れる事が出来たから、解体なんて出来ないわたしでも放りこんでそれ以来触ってない肉もある。
「そー言えばグランジ、牛と豚どっちの味するのかな。」
タイミング良く名前があがった、グランジの肉もそれに該当。
ヤルンマタインさんが仕止めたグランジ。
アイテム化した、お肉を全部持っていかなかったから貰っておいたんだよね。
「筋肉!ってカンジだし、牛ぽいんじゃないの。」
問い掛ける京ちゃんの金色の瞳を、ぐっと見詰めながら答える言葉にも力が入る、ぎゅうっと掌を握りしめる。
今からグランジ、焼いちゃう?
変なテンションだった、わたしは。
そんなわたしを窺う京ちゃんの瞳が可哀想なものを見るような瞳になっていった、えっと。
その瞳は何?眉ひそめて、ジトっとした視線、片手で頬杖をテーブルに突いてわたしを見てる。
焼けたマスタード味のお肉を、残念なタレには浸けないでそのままいっちゃう。嫌な空気を変えたくて、わたしの変なテンションの理由を知って欲しくてメニュー画面を素早く開いて、グランジの肉を探す。
あった見つけた。
メニューをいじってると京ちゃんの視線を感じる。
京ちゃんも何が出るのかは、気になったみたいで箸がピタッと止まる。
グランジのブロック肉を取り出しながら、
「じゃっじゃ〜ん!」
そう言って京ちゃんの目の前に出したその時。
すぐ近くを駆け抜けるダダダダダタッと物凄い音が聴こえて、ヴェッヴェー!と甲高い鳴き声が遅れて響く。
ズサッと誰かが飛び降りるような音がして、
「ん・・・?」
京ちゃんに視線を向けると、早くから何かに気付いてたみたいで真面目な顔に変わり、にぃと口元が吊り上がる。
すると、入り口に倒れ込んで聞き慣れた、でもここに今居るはずの無い声が耳に届く。
「大変だ・・・た、大変なんだ、姐さん!」
声の主はジピコス。
振り返ると相当急がせてここまで帰ってきたのか息を切らせながら、身を起こしていたジピコスは誰かの血が頬や着ている若くさ色の革服にまで付いている。
穏やかじゃあない、何かが起こっている。
「どしたのよ?」
「オークが出て、凄っげんだよ。イライザ様が率先して潰してたけどよ・・・数がもう。お願いだ、助けてくれ。」
頬杖がもうひとつ増えた京ちゃんが微笑みを湛えた表情で聞くと、ジピコスの口からは全くわたしが考えてなかった答えが飛び出して、背筋がぞわりと冷える感覚。
巣は潰したし、リーダー格も倒したからさ、それは無いよ・・・
「数、・・・オーク?」
「ッ!──オーク!!」
京ちゃんが落ち着いた口調で、ジピコスから情報を聞き出そうと喋りかけるのと対照的にパニくって、声にならない叫び声をあげつい声に出す、わたし。
思ってもみないほど大きな声で・・・。
騒ぐジピコスもお客さんに気を使ってらんないんだと思うけど、わたしはもっと気を付けなきゃ。
同じ様にわたし達もここではお客さんなだけなんだから。
「百や二百じゃねえんだ周り全部!オークで埋め尽くされてた。」
恐ろしい光景でも見た様に、ジピコスの表情からは血の気が引いて顔色が良くない。
頭の中に数が反芻して響く。
えっ?
何か、嫌な数字を聞いたんだけど、百、二百!?
アスタリ山のオークの巣は・・・百くらいだったのにあれだけの被害が出てたから、それ以上の数ってことは、つまり・・・。
そんな事を思いながら携帯コンロの火を止める。
出したばかりのブロック肉はオレンジだか、白だか解らないけど外に居るあの子にあげる事にした、燃費がすこぶる悪いチョコみたいな鳥──シャダイアスに。
「凛子、助かった・・・シャダイアスを連れてなかったら、まだ山の中走ってたかも知れねえ。」
ジピコスから感謝の言葉が。
それに、わたしが『うん』と頷いて携帯コンロをどうしようか悩んでると、
「いいわ、行くわよっ凛子。」
そう言っていつの間にか、あの異形の黒い鎧に身を包んで婀娜っぽく微笑う京ちゃんが声のする方を見上げると居たりする。
「う、・・・うん。あ、愛那は?どうしよ、居ない。」
基本わたしは何にも出来ない、役立たず。
ヒールは出来るけど、それも回数を重ねると激しく脳が揺さぶられる感覚があって、ぶっ倒れちゃう。
ジピコスの見た感じからも山は怪我人か、それ以上の人がいっぱい居るなんて予想が出来ちゃって、怖い。
目の前に助けを求める人が居るのに、助けられないのが。
愛那なら・・・効果はヒールより無いけど範囲で傷を癒す風の妖精を使える、一度だけ見せて貰ったしお喋りしたあの子を今、連れて行きたいのに。
「置いてく、オーク蹴散らして帰ればいいだけでしょっ。」
蹴散らして帰るって、そうは言うけど数が・・・ああ、京ちゃんの瞳を見たら期待で、ウズウズしてるの解っちゃう。
ホントに京ちゃんは戦いが好きだよね、わたしは無いなら無い方が良い人だから、何がそこまで京ちゃんをウキウキさせてるのか解らないや。
「凛子ぉ、急げっ。」
入り口に立って力強く横薙に手を振り、急かすように合図するジピコス。
「わかった、メモだけ残させて。──ナボールさんっ、ここにメモ置いてくからっ、クドゥーナに聞かれたら見せて下さいっ。──行こう、ジピコス。」
愛那のメモ書きに走り書きで、メモを残して閉じる。
それをしばらく見詰めてから、厨房の中にある椅子に座って休んでいたナボールさんに向かって用件を伝えてから入り口に足を踏み出した。
ジピコスに手を差し出して。