コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS R2~蒼失の騎士~   作:宙孫 左千夫

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①巻 9話『政庁 攻防戦 A』

 三人のラウンズ。ジノ、ロイ、アーニャは並んで細い輸送機のタラップを降りる。

 自分が身に着けている慣れない青紫のマントに少し違和感を感じながら、ロイは背筋を伸ばしてキビキビと歩く。

 エリア11への赴任は、ノネットからマントをプレゼントされて、初めての任務である。

 この青紫のマントをしている以上、ロイの恥はノネットの恥に繋がる。いつも以上に気合を入れて任務に取り組もうとロイは心に決めていた。

 そんな事を考えながら、ロイはエリア11に降り立つ。

「……あれ?」

 その時。ロイはこの場の異様さに気が付いた。

 迎えが無い。輸送機の周りには誰もいない。

 通常、ラウンズが植民エリアに入国しようものなら、最低でも騎士数人が車を用意して待っているものなのだが。

「ねぇジノ。僕達の到着は、ちゃんと伝えてあるんだよね?」

 ロイは、背後に立つ長身の男に問いかけた。

 緑色のマントに身を包んだナイトオブスリー。ジノ・ヴァインベルグは、

「ああ、そのはずなんだけどな。きっとみんな忙しいんだろ」

 と、いつも通りの無邪気な笑顔を浮かべて答えた。

 ロイは眉をひそめた。

「忙しい? そんな馬鹿な。いくら忙しいって言ったって、誰も迎えに来ないなんて事は――」

「そんな小さい事気にするなよ。ラウンズは心の広さも持ち合わせてないとな」

「……そんなものかい?」

「そんなもんだ。それよりロイ」

 と、ジノはロイの肩に軽く手をポンっと置いた。

「悪いんだが、お前一人で私達二人分の入国手続きもやってくれないか?」 

「? それは構わないけど。なぜ?」

 ロイの問いに対して、ジノは肩をすくめてみせた。

「実はブリタニア出発の時点で私の“トリスタン”とアーニャの“モルドレッド”の調子がどうも良くなくてな。いつ戦闘になるか分からないし、早く政庁で整備しておきたいんだ」

「そういう事なら」とロイは素直に頷いた。

「構わないよ。じゃあ僕がまとめてやっておく」

「すまないがよろしく頼む」

「ジノ」

 と、その時。今まで二人の会話を黙って聞いていた少女――ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムは、はてなと首を傾げた。

「何を言ってるの? 私の“モルドレッド”の調子は別にどこも悪くな――」

 アーニャは、全部を言葉に出来なかった。その小さな口を、ジノの長い腕が伸びてきて塞いだからだ。

「はいはい。という訳でアーニャはお兄さんと一緒に、先に政庁に行きましょうね~」

「……!」

 無言で暴れるアーニャを、ジノはその長い腕を器用に使って抑える。

「大丈夫大丈夫、怖くないよアーニャ。後でお菓子買ってあげるから、大人しくお兄さんについてきましょうね」

「それじゃあ、まるで人攫いだよ……」

 ロイがため息混じりに突っ込むと、ジノはこちらに手をヒラヒラと振り、

「いいからいいから。あとで合流しようぜロイ」

 といまだに暴れるアーニャを片腕で器用に抑えながら、気持ち悪いほどニコニコと笑う。

 少し怪訝に思ったが、だからと言ってジノがアーニャに危害を加える事などあるわけないので、どうせまたジノの無意味な冗談だろうと思う事にした。

「分かった。じゃあ、僕は。手続きを済ませてから政庁に向かうよ。じゃあね」

「ああ、いってらっしゃ~い♪」

 ロイは青紫のラウンズマントを翻し、二人に背を向け、ターミナルに向かって歩き出す。

 アーニャだけは相変わらず無言で暴れていた。

 

   ○

 

 三十分後。ジノはご機嫌だった。

「なんだなんだ、こんなものか? 大した事ないな、ここの守備力も」

 ジノは操縦桿を巧みに操作すると、彼の愛機であり戦闘機である“トリスタン”はツバメのような機敏さで、空を縦横無尽に飛び交う。

 遅れて、その“トリスタン”の通った軌跡の後に多くの銃撃が浴びせられた。

「♪」

 ジノは鼻歌混じりで“トリスタン”を旋回させ、機首を地上のナイトメア群に向けた。

 その地上にいたナイトメアは“ブリタニア軍のサザーランド”だったが、ジノは迷わず二つのスラッシュハーケンを発射する。

 打ち出されたハーケンは弧を描いて敵の“サザーランド”に襲い掛かり、計六機のナイトメアを易々と切断した。

「攻撃方法は中々良かったよ、諸君」

 ジノは指を振って、切断された“サザーランド”のコックピットから這い出す騎士達に労いの言葉を呟き、次の標的を探す。

 すると、“トリスタン”のモニターに、一人の少女が映し出された。

 アーニャだった。ラウンズのマントはしておらず、あのへそ出しルックのパイロットスーツ姿である。

『……ねぇ、ジノ』

 アーニャは、何かを口に詰めているかのようにくぐもった声で呟いた。彼女もジノとは違う場所で、専用機の“モルドレッド”を駆り、戦闘の真っ最中だった。そのせいか、顔はしっかりとジノを見つめているが、手元はせわしなく動いている。

「どうしたアーニャ、そんな顔をして。強い奴でもいたか?」

 ジノが尋ねると、アーニャは首を横に振った。

「じゃあ、どうした?」

 しばらく、アーニャは黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げて言った。

『ロイに、怒られない?』

 その顔は、見事に不安そうな色に染まっていた。

(ああ、なるほどね……)と、ジノは納得した。

「怒るんじゃないか? あいつは“こういうノリ”は嫌いだろうし」

『……』

 アーニャの元から暗い顔が、ますます沈んでいく。

 ちなみに“こういうノリ”とは、政庁の守備力を試すために、その政庁にラウンズが攻撃をしかけるようなノリの事だ。現在、絶賛実行中でもある。

「アーニャ。さっきも言ったが、ここの守りが弱いって事は、ナナリー総督の危険に直結するってことだ。だから、これは新総督のためでもあるんだ」

『それは、分かってるけど……』

 ジノはナナリーの名を出したのはちょっと卑怯だったかなと思いつつも訂正はしなかった。そもそも、言っている事に間違いは無い。

「もし、ここの守備隊がこのまま私達の突破を易々と許すようなら、後でラウンズの名の下に、守備部隊を増強するよう命令しないとな」

 すると、アーニャは少し考え込んで。

『……分かった』

 と、しぶしぶ了解し、彼女は意識を戦闘に戻した。しかし、まだ通信は繋がっているのでジノは一応言っておく、

「おっと、くれぐれもやりすぎるなよ。死人なんかもっての他だからな」

『分かってる。怒られるならまだしも、嫌われたくはない』

 というアーニャの言葉を最後に、通信はプツンと切られた。

 ジノは思わず笑ってしまった。

「アーニャの奴。相変わらず、ベタ惚れだな」

 ラウンズの間では周知の事実だが、アーニャはロイの事が好きだ。

 それが異性としてなのか、それとも単なる年上の男性に対する憧れなのかは分からないが、とにかく好意を抱いている。

 だが、残念な事にその好意は、本人――つまりロイには正しく伝わっていない。

(ロイはアーニャの事を妹分として見てるからなぁ……)

 ロイもアーニャに好意を持っている。しかし、それはアーニャがロイに向けるものとは全く種類が違うものだ。

 こう言ってはなんだが、それがやがて悲しい結果にならないかと、ジノは少しだけ不安になる。

 あと五年。いや、三年もあればアーニャは美しく成長する。その時は、流石にロイだってアーニャに“女”を感じる事になるだろう。

 そうなれば、ロイだって鈍いけど馬鹿じゃない。ちゃんとアーニャの気持ちにも気付くだろうし、それを受け入れる、か受け入れないかは分からないが、うやむやにはせず結果はきちんと出す。

 ロイとはそういう男だ。だから、時間さえ経てば、きちんと結果は出るし解決はする。

 しかし、

(この職業はいつ死んでもおかしくはないもんな……)

 ラウンズという高い地位は、任命された騎士に様々な権利と特権を与えるが、普通の人が持っている様々なものを奪う。

 その一つが時間だ。この地位はいつも死と隣り合わせで、しかもそれは唐突にやってくる。そう、時間は終わるのだ。唐突に。

 だから、くっつけるなら、とっととくっつくべきだとジノ思うが、残念ながら、現実問題それは厳しい。

 ロイは先程も述べたが、鈍い。当のアーニャもなんだかんだで押しが弱い所があるから。何か劇的な外的要因の変化でもない限りは二人の仲は当分平行線だろう。

(まぁ、結局こういうのは本人同士と時間の問題なわけであって私にはどうしようも無いわけだが……)

 それでも、とジノは思う。

 アーニャもロイも大切な友人だ。友人には幸せになってほしいし。悲しい結末にはならないでほしいと願う。

(スザクにも言える事だけど……)

 ジノは呆れ顔で髪をポリポリと掻く。

 こう改めて考えてみると、どうもジノの周りの男は病気と思えるほど色恋沙汰に鈍い。

 全くもって、そんなのに想いを寄せる女性陣が不憫に思えて仕方が無かった。

 その時、思考にレーダーの電子音が介入した。

 KMFの反応が二つ。

「おっ、まさか、あれは」

 ジノは、新しいおもちゃを見つけた子供のような顔で笑った。

 目の前には二騎の“グロースター”。しかし、カラーリングがただの雑魚では無い事を示していた。

 グラストンナイツ。今は亡き勇将ダールトン将軍が鍛え上げた一流の息子たちの総称。

 その内の二人が、前に立ちはだかっていた。

『どこのだれだか知らないが、ここまでだ』

『よくも、好き勝手暴れてくれたな』

 二騎の“グロースター”から、静かだが怒りを含んだ声が外部スピーカーを通して響く。同時にその“グロースター”は大型のランスをどっしりと構えた。

 その光景を見て、ジノは少しがっかりした。戦闘機相手に大型ランスなんか持ってきてどうするつもりだったのかと、理解に苦しんだからだ。

「失格。その武装は拠点を守る事に適してはいるが……」

 まぁ、それでも相手が一流の腕を持つ騎士なのは変わり無い。なら、今回はあえて相手の土俵に上がって楽しむ事にした。

「仕方ない」

 ジノは操縦桿を、横にグイッと動かす。

 すると“トリスタン”に変化が起こった。戦闘機から、腕が、足が、そして、頭部が現れる。

 やがてそれは一騎のKMFになった。スマートな体躯に、二本の角が生えたような頭部。どことなく、その姿は死神を彷彿とさせた、

 一連の変化を目撃した“グロースター”のパイロット達が驚きの声を上げる。

『なに! まさか!? あなたは……』

『可変KMF“トリスタン”……。そういう事でしたか。ジノ・ヴァインベルグ卿』

 二人の驚きの声に対して、ジノは満足そうに鼻を鳴らす。

「ああ、君たちを試しに来た。私を止めてみたまえ」

 “トリスタン”は二振りのMVSを連結して、鎌にも似た槍に形を変えて、敵を牽制するように真っ直ぐに構えた。

 すぐに“グロースター”から、怒りを押し殺した声が響いた。

『いいでしょう、私たちも、このままでは収まらない』

 向けられた苛立ちを嘲笑うかのように、ジノはあえて軽薄に言った。

「ああ、本気で頼むよ」

『ッ! 言われずともぉ!!』

 火に油を注がれた騎士の叫びに呼応して、二騎の“グロースター”が槍を構える。そして怒り狂った虎の勢いで“トリスタン”に猛進した。

「ありがとう!」

 “トリスタン”はその二騎を迎え撃つように槍を振り上げた。

 この時、ジノの頭の中では、すでに二騎の“グロースター”を倒す構図が一瞬で浮かびあがっていた。

 あとはそれを実行に移すだけ。しかし……。

「って、あれ!?」

 その“グロースター”の大型ランスを打ち払うはずだった“トリスタン”の槍は大きく空を切った。

 二騎の“グロースター”が“トリスタン”と打ち合う直前に大型ランスを引き、大きく迂回してトリスタンを通り過ぎたからだ。

 そしてあろうことか、“グロースター”はそのまま一目散に逃げていった。

 繰り返すが、逃げていったのだ。そうとしか思えない行動だった。

 ジノは一瞬呆然とした。だが、すぐにハッとして正気に戻る。

「お、おいおい。マジかよ! 音に聞こえたグラストンナイツが逃走!? そりゃあ無いんじゃない!? 逃げるなよ卑怯者~!」

 ジノは“トリスタン”のランドスピナーを唸らせ、地面に煙を上げてその後を追う。しかし、中々追いつけない。

 相手は一流の操縦技術を持つ騎士が操る“グロースター”。

 その性能を完全に逃げる事に費やされてしまえば、この“トリスタン”でも追いつくのは難しい。

「ちっ、逃げ足だけは速い」

 ジノは、戦闘機に変形して追いかけようか一瞬迷う。

 その時……。

 

   ○

 

 “グロースター”のパイロット。グラストンナイツのエドガーとクラウディオは背後に迫るナイトオブスリーから全力で逃げながら、苛立っていた。

『おい! 一体いつまでこうしていればいればいいんだ!? ここまでされておめおめと背を向けるなど!』

 クラウディオがモニター越しに、コックピットを震わす程大きく怒りの声を上げる。もちろんエドガーも同じ気持ちだった。

 しかし、“トリスタン”に突撃した瞬間、“グロースター”の通信が開いて、ある上官に、“トリスタン”とは戦闘をせず、指定されたポイントまで撤退するよう命令されたのだ。階級が下である自分達はそれに従わなくてはいけない。

「気持ちは分かる! しかし、“あの方”の命令には従わなければならないだろう!」

 すると、クラウディオは吐き捨てるように言った。

『知ったことか! あんな成り上がり者の言う事など――』

「よせクラウディオ! 音声は全部記録に残るんだぞ!」

 その時、背後から爆発音がした。

 エドガーがハッとして振り返ると、

「なっ――」

 思わず息を飲んだ。

 そこには、炎に包まれる“トリスタン”の姿があった。

 

   ○

 

 炎に包まれていく“トリスタン”の中で、ジノは冷静に各種計器に視線を走らせた。

 損傷は軽微。いや無傷と言っても良い。ただ炎が上がるだけの操作式地雷だったようだ。

「こんな物……一体何のつもりだ?」

 しかし、炎に包まれて視界は奪われた。このまま前進し続けるのは得策ではない。

 ジノは機体を跳躍させて炎を払い消す。炎が散って、再び視界が開けた時、すでに二騎の“グロースター”の姿はどこにも無かった。

 ジノは不快感丸出しで舌打ちをした。

「この隙に襲い掛かってくるぐらいしろよ」

 その時、敵にロックされた事を知らせるアラームがコックピットに鳴り響いた。

 素早く“トリスタン”に回避行動を取らせる。

 同時に、さっきまで“トリスタン”がいた場所に、ライフルとバズーカの弾が降り注がれて爆発と粉塵が巻き起こる。

「攻撃? 新手か!」

 ジノが視線を上げると、三騎の“サザーランド”がこちらに銃口を向けていた。

 新たなおもちゃの登場に、ジノは唇を舌で湿らせた。

「へぇ、奇襲か。まぁ、私達以外だったら有効な戦術だったと思うよ」

 さっそく迎撃しようと、ジノは“トリスタン”の腕――スラッシュハーケンを前に突き出す。しかし、発射はしなかった。いや、できなかった。

 三騎の“サザーランド”が一目散に引いて、通路と壁の奥に消えてしまったからだ。

「って、なんだよ。また逃げたのか」

 ジノはその瞳を少々険しくして、逃げた“サザーランド”の後を追う。

「まったく。どいつもこいつもちょこまかと。少しキツイお仕置きが必要だな」

 “トリスタン”をKMFから戦闘機に変形させ、スピードを上げると、その“サザーランド”の小隊にはすぐに追いついた。

 追いついた場所は、“トリスタン”が飛びまわれる程の、大きなホールになっていた。

「はい、ここまでですよ。っと」

 “サザーランド”を照準に捉える。そしてスラッシュハーケンを打ち出そうとした時、

「!」

 横から銃撃が降り注いだ。

 ジノは達人級の反応速度で操縦桿を操作した。

 間に合った。“トリスタン”は宙に舞い上がって銃撃をかわす。

 ジノは攻撃を加えてきた相手に視線を送る。そこにいたのは、グラストンナイツの“グロースター”だった。先程とは違い、大型ランスの他にライフルを装備している。

「先回りしていたのか!?」

 その“グロースター”に機首を向けようとした時、またそれを阻むように多数の銃撃。新手の“サザーランド”の小隊だった。

「ぐっ」

 完全に虚をつかれた形になった。しかも、やっかいな事に、さっきまで追いかけていた“サザーランド”の小隊までもが反転し、こちらに銃撃を浴びせ始めている。

 いや、それだけじゃない。

 今まで気付かなかったが、レーダーを見ると“サザーランド”の三個中隊がそれぞれ別方向からこちらに近づいている。いや、今到達した。

 ライフルの黒い銃身が一斉に向けられ、倍以上に増える銃撃。破壊力を持った鉛は、まるで嵐の暴風に混ざる水滴のように縦横無尽に“トリスタン”に襲い掛かる。

 それでもジノは、巧みに“トリスタン”に回避行動をとらせ。その銃撃を避け続ける。

 とんでも無い空間把握能力と空戦技術である。並みの騎士ならいくら高性能KMFの“トリスタン”でもとうに撃墜されているだろう。

 だが、そんな並みの騎士ではないジノでも、今の状況はあきらかにマズかった。ここはいくら広い空間とはいえ所詮は施設の中。限られた空間では“トリスタン”の高い機動性能をフルには生かせない。

 全方位から浴びせられる銃弾を機敏な機動でかわしつつ、ジノは本日何度目かの舌打ちをした。

「読んでいたのか、私が“サザーランド”を追ってここにくると? いや、まさか……」

 誘われたのだ。なにせ、敵の集合速度が迅速すぎる。

 おそらく、敵の指揮官は、あらかじめ“トリスタン”がここに来ることを見越して、部隊に指示を出していたのだ。

 そうでなければ、いまの状況の説明がつかない。

(完全に嵌められたって事か……?)

 中々どうして優秀な奴がいるようだ。

 こうなれば、一時撤退するのが定石だが。

「くそっ!」

 ジノは地上のグラストンナイツの“グロースター”を睨みつけた。

 撤退しようにも、あの二騎の“グロースター”が逃走に使えそうな通路を巧みにその機体で塞ぎつつ広い範囲に掃射を繰り返してきている。

 しかもそれは敵を倒す攻撃じゃない、敵を逃がさない射撃だ。あのように撃たれれば、射線が限定されていないだけに予測しずらく安易に潜り込めない。

(少々やっかいだな……)

 逃げたいのは山々だが、ルートの確保のためには最低でもあの“グロースター”の内のどちらか一騎を倒さなければならない。

 しかし、あの“グロースター”は帝国でも指折りの騎士と名高いグラストンナイツが騎乗している。

 先ほどのように二対一の状況に持ち込んでいるならまだしも、今は敵の“サザーランド”の援護攻撃も馬鹿みたいに激しい。よってその撃破も容易では無い。

 だからと言ってこのまま長引けば、敵の数が増えるだけ。消耗戦となれば包囲されている方が――

 と、ジノはここに来てはたと気付いた。

(おいおい、まさかこの私が……)

 チェックメイトされる一歩手前。

 この状況になるように、一人の指揮官が部隊に指示を出したのなら、それは大したものだ。

「くそっ! ラウンズを舐めるなよ!」

 ジノは“トリスタン”を変形させ、銃弾の壁を突き進んだ。

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