コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS R2~蒼失の騎士~ 作:宙孫 左千夫
エリア11。アッシュフォード学園のクラブハウスにあるルルーシュ・ランペルージの自室。
(……見つけた)
ルルーシュは、その鋭利な目元を更に細めた。
暗い部屋、電気は点いていない、それもあってノートパソコンから浴びせられる光で、繊細な顔に濃い陰影が浮かぶ。
(ロロを懐柔し、機密情報局をほぼ手中に収めて。俺はついに……)
複雑な顔で、ルルーシュはディスプレイを見つめる。
画面にはブリタニア軍の中でもトップシークレットに該当する情報がまとめられていた。
その中には、ルルーシュにとって忘れられない、あの名前があった。
(お前の尻尾を捕まえたよ、ライ)
迷わず画面上の友の名をクリック。情報が拡大表示される。しかし、そこには友の手がかりどころか、黒の騎士団のバイザーをつけたライの写真と、
<処刑済み。データ無し>
ルルーシュは親愛なる友に対する無機質な記載に、衝撃も、驚きも、悲しみさえせず。ただ冷淡にその二言の表示を眺めていた。いや、それどころか、その細い口元にニヤリとした歪みが生まれ、
「ふはははははははっ!」
声が漏れ、笑みが溢れる。悦に染まった声がこだまする。
友の死に高笑い。しかし、決して気が狂ったのではない。
むしろ、逆だ。
(良かった。これでハッキリした)
確信した。
(ライは“生きている”)
どこか冷たさを感じられる笑顔のまま、ルルーシュは開いた指をグッと熱く握り締めた。
皇帝の直轄である機密情報局にまでライの処刑情報が提示されていないのは、つまり、その情報を秘匿するのでは無く、抹消したいという事だ。
秘匿される情報というのは、人の目から隠される必要はあっても、何らかの理由で残しておく必要のある情報の事だ。そして、この機密情報局とはそうゆう秘匿される情報を扱う機関である。
しかし、その機密情報局にもライの情報が無いという事は、ライの情報は秘匿も残しておく必要も無くなったという事……。それはつまり、その存在は消えたのでは無く、生まれ変わったのだと予想できる。
ギアスの存在を知らない人間がこの情報を見れば、ブリタニアに都合の悪い人間が黒の騎士団にいたから、とでも予想するだろうが、ルルーシュは違うと知っている。なぜなら、自分もその体験者なのだ。
そう、敵は――皇帝のギアスは人の記憶をいじり、その人物を強制的に生まれ変わらせる事ができる。
(一番心配していたのはライが処刑されて、その情報が正確に記載、もしくは公開されている事だった。映像なんかがあればこれ以上無い証拠になるしな。しかし、こうも堂々と隠蔽されていると、そのわざとらしさに笑いすらこみ上げてくる)
ルルーシュは喜びをかみ殺そうともせず、再度クックックと陰のある笑いを浮かべた。
(やはり、ライは俺と同じく記憶を消去され、いや、自分より強力にギアスをかけられ、新たな人生を歩んでいる。という線が濃厚だな……)
だからこのようにライという存在を抹消したのだ。生まれ変わったライがいる以上、前のライの情報などあった所で邪魔にしかならない。いや、ある必要が無いのだ。
次に、ルルーシュはそのページを消して、新たな情報を探し始める。
(ライが、記憶を改ざんされたとして、新たな人生を送らされているとすれば……)
自分が皇帝の立場だったとして、ライという優秀な人間を自由にできるとしたらどうするか。
「とりあえず、軍人から探すのが妥当か」
そして、ルルーシュはここ一年でそれなりの戦果を得た軍人に絞って、データの洗い出しを開始した。
ライがブリタニアの軍人になったとしたら、優秀な手腕をもって、この一年で大なり小なり確実に戦果は上げているはずだ。また、“ここ一年で軍に入隊した”という条件は考慮しなかった。
そんなもの本人と周りの人間の記憶をギアスで操作すればどうとでもなるからである。
ルルーシュは小一時間ほど作業を続ける。数は五万程、話にならない。
機密情報局のデータベースだ。軍事国家特有の、民衆の戦意高揚を狙った数多い過大に持ち上げられている軍人についても、ここでは正当な評価が下されているはず。それでも、優秀な軍人がこの数……。
ルルーシュは、改めてブリタニアという国家の底力を感じ取れた気がした。
数多い軍人の中から、二十代以上の男は枠から外す。年齢などいくらでも、ギアスで本人に信じ込ませる事ができるとはいえ、いくらなんでも、あのライの外見で三十歳代の軍人にするのは無理がある。
外見の問題としては、もう一つ。これみよがしにライの顔にしたままの軍人にするほど皇帝も甘くないだろうから、ある程度、顔の整形の線も視野にいれて調査しなくてはいけない。と言っても、元が美形なので、整形でも限界はあるだろうが……。
また、能力の点からも言えることはある。ルルーシュは、ブリタニアからの評価が一分野に特化してではなく、平均的に高水準な能力を有する軍人を選別した。
指揮能力だけ高いとか、戦闘力だけ高いというのはライの能力の質と違うため、それは論外だからだ。
つまり、調べるのは、
“ここ一年で、ある程度手柄を立てた十代後半から二十代で、軍からは、平均的に能力が高水準という評価を受けており、そしてある程度、顔が整った男の騎士もしくは軍人”
という事になる。もちろん階級が高ければそれに伴って、高い戦果を上げやすいので、その点も考慮して、階級に反比例して戦果を上げた軍人もあとでチェックする。
(よし……)
先ほどの条件に当てはまる者を中心に調査を始める。絞っても対象の数は一万に近かった。
気が遠くなるが、こればかりは他の者に振るわけにはいかない。
自分が、やらなければいけない。
優秀な騎士の順に探した方が、ライを早く見つけやすいと思ったルルーシュは、まず、先ほどの条件に当てはまる中で、ブリタニアからの評価やその騎士の能力が高い順に並ぶ一覧を製作した。
一番上にある名前は。
(まぁ、妥当と言えば妥当だな)
ブリタニア軍から一際高い評価を受けているのはナイトオブラウンズのジノ・ヴァインベルグだった。流石はラウンズなだけあって、文武共にその評価は高い。だがルルーシュはすぐにジノを除外した。理由は簡単。ライはこんなに身長が高くない。
その次にあったギルフォードも除外。
後は、何人かの皇族親衛隊の名が続く。さすがに優秀な人間が揃っており、ルルーシュは何人かライの生まれ変わりの候補として頭の中にその名を刻んでおく。
あのグラストンナイツの名もあった。
順にアルフレッド、クラウディオ、エドガー、デヴィット、バード。
その中で、バートの項目だけ文字が暗くなっていた。これは戦死を意味している。良く見ると、欄のところどころにそのような表示があった。
(……大丈夫だ。あいつはそんなに簡単に死んだりはしない)
一瞬よぎった不安を振り払うように、作業を再開。没頭する。
ルルーシュは、グラストンナイツの中で一番評価の高いアルフレッドの情報を拡大表示させた。
アルフレッド・G・ダールトン。能力は総じて高い。ルルーシュの中のライの評価と比べてみると、大体の能力がライと同等、もしくは一ランク下といった感じだった。能力の質も良く似ている。
「とりあえず。こいつも候補だな」
記載によれば、アルフレッドは先日の黒の騎士団の囚人奪還事件において“負傷”し、現在本国で療養中となっている。
(こいつは、またこのエリア11に戻ってくるだろうから、その時にでも確認するか)
あの、エリア11の元総督であるコーネリアの息がかかった騎士なら、負傷して一時本国に帰っていたとしても必ずこの地、思い出深いこのエリア11に戻ってくるだろう。
続けて、ルルーシュは騎士達の情報を確認していく。しばらくして、ピタリとマウスを止め、眉をひそめた。
(? こんな、欄の下の方にラウンズが?)
名の知れた皇族直属の騎士の名も終わり、そろそろ、普通の騎士の名が並び始めた頃、なんと、帝国最強の騎士団の一員であるはずのナイトオブラウンズの名があった。ルルーシュはその男の情報をディスプレイに表示させた。
銀髪だ。彼のように長身でもある。最初の頃はいちいち反応していたが、似たような男を数十人と見た後ではもう何とも思わない。
名はロイ・キャンベル、ナイトオブラウンズのナンバーゼロ。
写真も三枚ほどあった。全て公務中のものらしい。
(何だこのダサい眼鏡は……センスのカケラも伺えないな……)
男は、見るからに重そうな牛乳瓶底眼鏡をかけていた。そのせいで素顔が分からなかった。
顔立ちが整っているかもしれないので、ルルーシュは、素顔の写真が無いか探そうとして、
(いや、探すまでも無いか……)
手を止めた。
項目に掲げたものの、注視すべき所は外見ではない。ルルーシュはこのロイという人物の能力と評価を見てその必要無しと判断した。
記載されている能力自体はブリタニア軍全体で見れば低くはない。むしろ高いぐらいだ。しかし、ナイトオブラウンズとしての実力は最低だ。
ラウンズ同士の公式模擬戦の戦闘結果なんて散々たるものだった。全てのラウンズに大差を空けられて完敗している。
(なんでこんな奴がラウンズなんだ?)
操縦技能を見るに、低く見積もれば実力はロロより少し劣る程度。おそらく黒の騎士団の零番隊で言うならばギリギリ上位に食い込むぐらいのレベルだ。
それだけでもルルーシュは、ロイ・キャンベルの項目を閉じかけたが、その下にある情報で、ルルーシュのこの男に対する興味はほぼ無くなった。
スザク並に各地の戦場を転々としているくせに、小さな功績は多いが、大きな戦果を全くあげていないのだ。
(将官であるラウンズとして数々の戦場を行き来しているくせに、それでも手柄を立てられないとは……よほど凡庸な男なんだろうな。それとも、やる気が無いのか? いや、それなら各地の戦場に出向く事もないだろう。つまりは、……やはり凡庸という事か。ってああ、思い出した。こいつは確か皇帝に取り入ったかなんかでラウンズになった男だったな)
それはあくまで噂だったが、この能力と評価で帝国最強の騎士団であるナイトオブラウンズの一員になれたのならそれも本当かもしれないな、とルルーシュはロイ・キャンベルの写真に向かって蔑みの視線を向けた。
この評価だけを信じるのであれば、この男よりラウンズに相応しい人間は何人もいた。
自身の実力に関係なく取り立てられるような人間を、ルルーシュはあまり快くは思わない。
それ最後に、ルルーシュはその男を、ライの生まれ変わりの候補から除外した。
ライは凡庸ではない。ライほどの男がラウンズという地位を手に入れれば文字通り戦闘、戦略にと大暴れしているだろう。それは言い過ぎにしても、こんな低い評価に収まるはずが無い。
こいつよりも、ライの候補として可能性がありそうなのは、まだ沢山いる。
と、この時ルルーシュがブリタニア軍内のロイの評価ではなく敵国、つまりはEUや中華連邦からのロイの評価も見ておけばこの先の展開も違ったものになったのかもしれない。しかし、そうはならなかった。
○
『ライの生存が確認できたのは分かった。それで、私に話とはなんだ』
ルルーシュの目の前にあるノートパソコンのディスプレイの中で、物憂げな美少女が、傲慢な口調で言った。その後、艶やかに欠伸。
艶やかな金の長髪は張りのある肌に絡まっている。ベッドの上で、優雅に寝そべっているその少女は、ギリギリ大切な所をシーツで隠しており、それがルルーシュにとって救いといえば救いだった。
「C,C,。お前まさか……」
『裸だよ。今から寝る所だったんだ。こんな夜分にレディに連絡をするやつは男としてどうなのだ』
「服を着るまで待たせればいいだろう。俺を!」
『急に連絡してきたお前が悪い。それに、男を待たせては女が廃るというものだ』
「ええい! 相変わらず、女としての常識に欠けている奴だ!」
ルルーシュは憎々しげに言うと、C,C,はその様子をさもおかしそうに眺め、フフンと笑う。
要は遊ばれているのだ。それが分かっているのだろう、ルルーシュの整った眉が怒りでピクピクと動いた。
『で、こんな時間に何の用だ。ちなみに愛の告白なら考えてやらなくも無いぞ。そうだなピザ五枚で受け入れてやろう』
「断る。ピザ五枚の値段だって馬鹿にならない」
大分失礼な事を言われたにも関わらず、C,C,はまた心底楽しそうに悪戯っぽく笑った。
『ふふふ。で、何の用なのだ?』
「相談がある」
『で、こんな深夜に私をわざわざ呼び出したわけか? 私はお前の相談をいつも笑顔で受け付けるカウンセラーのお姉さんではないのだぞ』
「……カレンの事だ」
告げると、C,C,はからかいの笑みをなくし、少しだけキョトンとした。
『ふむ』と、彼女は一回頷き、
『聞こう』
体を起こし、傍にあった枕を抱き寄せた。肢体も、それに伴ってベットにわずかな軋みをあげさせながら扇情的な仕草で動く。
ルルーシュは、C,C,が動いた時にシーツがずれたりしないか心配になって、思わず目を逸らそうとしたが、
(まて! なぜ俺がわざわざそんな事に気を使ってやらなきゃならない!)
思い直して、むしろ睨み付けるようにして、視線を動かさなかった。
C,C,はその様子を見て『ガキめ』と呟いてまたまたニヤリと笑う。
ルルーシュは、今にも怒り出しそうな自分を精神力で抑えつけ、全力で無視して話を続けた。
「ライの生存は分かった。しかし、同時にライは公式には処刑されているという事も分かった」
『それで?』
「正直に言って。俺は女性の気持ちなどさっぱり分からない。だから、仕方が無いからお前に訊く。カレンにこの事実を伝えるかどうか。それについての意見を聞きたい」
『お前が私に助力を請うとなは。珍しい事もあるものだ』
「勘違いするな。助言ではなく意見を求めているだけだ。助けて欲しいわけじゃない」
『ムキになるなよボウヤ』
と、C,C,は考え込むように視線を下げた。
つまりは、簡単な話だ。
今のカレンを支えているのはライの生存という希望だ。そして、今回のルルーシュの調査で、その希望が叶った形になる。しかし……ライの公式の処遇は、あくまで処刑なのだ。
確かに、ルルーシュはライが生きていると確信した。
しかし、その確信たる証拠をカレンに示す事ができるわけではない。まだそれだけの材料は揃っていない。言い換えれば、ライが生きているというルルーシュの確信は他人から見ればただの予想、希望的観測に見えなくもない。
そして、そのルルーシュの予想、希望的観測をカレンが信じる保障はどこにも無い。
つまり、カレンに今回の情報を伝えるという事は、ただライが処刑された。という公式上の事実を突きつけ、不安を煽るだけとなる可能性が非常に高い。
今の黒の騎士団にとってカレンは最重要戦力だ。そんな彼女の気分的に落ち込んだり、また、下手をすれば精神的に戦闘不能になったり、多少なりとも、その能力が低下するような要因――ライは公式には処刑――を告げて良いものかどうか、判断がつかない。
もっとも、一年前までのルルーシュなら、例えライが確実に殺されているという事実をつかんでも、それを隠し、「まだ行方は分からない」だの「今、全力で行方を捜している」と言ってカレンに希望を持たせ続け、こき使い続けるという選択をしただろう。
しかし、流石にルルーシュは、一年前のカレンとライが生き別れてしまった事に対する責任を感じている。それに、何かライの事について分かったらすぐに連絡するとカレンと約束もした。だから……
『つまり、指揮官ゼロとしてはライの情報を隠しておきたいけど、このままだとルルーシュの良心の呵責につぶされそうだから、助けて~C,C,~。と言った所か』
助けて~、の辺りをやたら女らしい高い口で言われて、ルルーシュの苛立ちは一気に上昇した。
「相も変わらずお前の曲解した表現は俺を不愉快にさせる」
『しかし、事実だ』
その言葉にルルーシュがグッと唇を噛み、睨む。C,C,はそれを真っ向から見据えた。
しばらく、そのまま無言で見据え合っていた二人だったが――先に視線を逸らしたのはルルーシュだった。
ルルーシュは、どこか拗ねたような顔をした。
「……ああ、分かったよ。認める。俺は正直、あの二人には負い目を感じている。だから判断が鈍る」
『その甘さで、一年前敗北したというのに、もう忘れたのか?』
「分かっている。もう俺は“敵”に甘さなど持たない。しかし……」
ルルーシュは、頑と言い放った。
「ライは味方だ」
C,C,はその言葉に呆れたようだった。彼女には珍しく大げさにため息まで付く。
『おい、敵に甘さを持たない。そして今、ライが敵――つまりブリタニア軍側にいる可能性が高いことを指摘したのはお前だぞルルーシュ』
「俺はライがブリタニアの軍人になっている、と断定した覚えは無いぞC,C,。それは可能性の一つにすぎない。もしかしたら文官をやっているかもしれないし、貴族の執事でもやっているかもしれない。俺のように監視付きで一般市民として生活している可能性だってある。それに、例えライが軍人であって、俺の前に立ちはだかる事があったとしてもだ。それはあくまで皇帝のギアスで操られているに過ぎない。スザクのように本心から俺に敵対していない以上、あいつは俺の敵じゃない。だから“できれば”助けたい」
『色々突っ込みたいところはあるが……とりあえず“できれば”。とは?』
「そのままの意味だ。俺の目的である母さんの死の真相とナナリー。その二つの達成に支障が出ない程度でできれば助けたい。そう思っている。……とは言っても、その“できれば”の範囲で俺は絶対にライを助け出すがな」
『結局、それは目標が三つに増えたのと変わらんだろ』
「優先順位。あとは覚悟の問題だ。例えば、俺はナナリーの命とライの命が天秤にかけられたら、迷わずナナリーを選ぶ」
その言葉には絶対の意志が込められていた。嘘は無い。おそらく本当にそのような状況になれば、ルルーシュは迷わず、そうするだろう。
もっとも、いくらナナリーの方が大事。と言っていても、ルルーシュがナナリーと誰かを比べるなどという事自体、相当珍しい事だったが。
結局、なんだかんだで、ルルーシュはナナリーという絶対条件で、言い訳しているにすぎない。
結論から言えば、ルルーシュは敵にいるとしても助けたいのだライを、友人を。
見捨てたくは無いのだ。いや、見捨てられないのだ。
思わず、C,C,は小さく呟いた。
――それを甘さと言うのだ。と
「ん? 何か言ったかC,C,」
『いや、何でもない……まぁ、いいだろう。これ以上は話が平行線になりそうだし。私もいいかげん眠い。で、私に聞きたいのは、ライについての情報をカレンに伝えるか否だったな』
「ああ」
C,C,はゆったりとした動作で更に枕を顔に抱き寄せ、そのまま考え込む。
ルルーシュは黙って待った。
正直に言えば。ルルーシュは今回の件はまだカレンには伏せておいた方が良いと考えている。
結局、今回分かった事は、ライが公式には処刑された。という情報のみだ。そのあと、いくらルルーシュがカレンにとって喜ばしい自分の推論を説明した所で、それがカレンにとってどれほどの心の救いになるのか疑問が残る。
いや、下手をすれば、自分がカレンを励ますために嘘を付いていると思われる可能性もある。
正直、ルルーシュは自分がカレンにそれほど信頼されているとは思って無い。
一年前、カレンが日本の裏切り者であるゼロを見捨てなかったのも、あくまでライに対する愛情があったからであり、ゼロに対する敬愛からでは無い。
だから――ライの行方がハッキリするまで、いっそ黙っておくというのも、決して間違っていない……そう思っていた。
考えがまとまったのか、C,C,はゆっくりと顔を上げた。そしてルルーシュとその視線を絡ませた後、ポツリと、
『カレンは、弱くないと思うぞ』
ルルーシュは、ある程度予想できたその言葉に「そうか……」頷いた。
少し……。本当に少しだが、ルルーシュは気分が軽くなった気がした。
「わかった。参考にする」
『素直に“ありがとう”と言う所だぞルルーシュ』
ルルーシュはクイっと顎を上げた。そして意地の悪そうな瞳をC,C,に向ける。
「ふん。お前にとって、それはそんなに簡単に言って欲しい言葉なのか?」
『……む』
黙るC,C,。そして、彼女は下から睨みつけるようにして言った。
『可愛くないぞボウヤ』
ルルーシュは愉快そうに、しかし気品を持って静かに笑ったあと、勝ち誇った口調で言った。
「おや、ありがとう魔女。最高の誉め言葉だよ」
『ふん、切るぞ。こう見えても私は忙しいんだ』
「こっちだって同じだ、俺も明日のスザクの歓迎会の準備もしなくてはいけないし、やることが多い……」
と、言いかけてルルーシュは、しまった、と心の中で言って顔を歪めた。しかし、それを目の前の魔女に悟られると面倒になるので、すぐに表情を元に戻す。
『歓迎会? まさか、また巨大ピザを焼いたりするのか?』
アウト。悟られた。
「……そ、そんな事はしない」
ルルーシュは平静を装って言ってみたが、無駄だった。
『お前は嘘が下手だな』
勘が良すぎる。この魔女は。
ルルーシュは自分の迂闊さに内心歯噛みしつつ、C,C,に向き直る。
「言っておくが、くれぐれも学園には来るんじゃな――」
『おやすみ。ルルーシュ』
「おい! C,C,――」
ルルーシュが体を起こすと同時に、目の前のディスプレイから魔女は消えた。
ルルーシュは舌打ちした。
(くっ、まぁいい。あいつにだって、スザクのいる学園に来ることの危険性は分かるだろうし。それぐらいの分別はあるだろう)
翌日、その期待は見事に裏切られることになる。