何も持っていない少女が、蟻の女王と出会った話。

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 何となく書いてみたくなったものではありますが、作者の文章力が無さ過ぎて意味不明になりましたー。
 そんなもので良ければ、どうぞ。暇潰しにでもしてやって下さいw



第1話

 

 

 この世に生を受けた時、その赤子は自分の母親を殺した。

 

 否。それは正確にいえば正しい事実ではない。産まれた赤子には何らおかしい所は無かったし、母親の胎内を出た時点で大声で泣くことも出来ないほどに弱っていたのは赤子も同じことであった。むしろ、赤子の方が死ぬか、母子揃って命を失っていた可能性の方が高かったであろう。

 けれど一体どういうことか、母の代わりに命を永らえた赤子を、父親は恨んだ。

 

 母と父はとても仲の良い夫婦であった。母は幼い頃からNGLに所属する団体員で、父はミテネ連邦でも上級階級に分類される人間だった。

 出会って恋をした二人は、父側の両親の反対を押し切って駆け落ち同然にNGLで結婚をし、こうして子を設けたのである。

 

 身体の弱い母は、それでも子どもを望んだ。妻の身体を心配する夫の言葉にも、頑なに子を堕ろすことを良しとしなかった。しぶしぶ折れた父の不安をそのまま形にしたように、そうして母は命を落とした。

 

 愛する人が自分より大切にしたもの、愛する人を死なせた原因。産まれた赤子を疎ましく憎いものとして見る父が、その子を冷遇するのは当然だったのだろう。赤子は育児放棄に虐待を受けたまま育った。

 

 食べ物を与えられないので、自分で探した。赤子のうちは何故生きているかもわからなかったがしばしば身食いを繰り返した。

 着替えや風呂を知らなかった。衛生なんてものもわからなくて、匂いに耐えかねた父親が水を溜めた湯船に放り込んで沈ませた時は、殺されるのだと思っていた。

 常識なんて知り得なかった。学ぶことは父親を怒らせないことや自力で生きるしか無いということばかりで、良いことも悪いことも教えられなかった。

 言葉を知らなかった。誰かと言葉を交わしたことのない子どもが話せる筈もなく、それが言葉だということさえ知らずにいた。

 

 ――――それでも、赤子であった少女は生きていた。

 

 到底生命の維持に必要なものが揃いそうにない環境の中でも、何故かその少女は生き残った。そして成長とともに活動範囲も広がったことで、まともな育ち方をしていない少女の歪さは、周囲の人間の目から見ても明らかとなった。

 

 少女は善悪を知らなかった。

 少女は自分を知らなかった。

 誰か他の人、自分ではない他人から見た自分という存在が、どれだけ歪んでいて狂っているのか、何も知らなかった。

 

 ただ、彼女は不思議に思う。

 

 少女は彼等に恐れられていた。まるで下手に手出しの出来ない化け物が人間の居住区を彷徨いているのを見るような、そんな目を常に向けられていた。

 少しでも妙な行動があれば逃げようと観察しているような、監視しているような視線がいくつもいくつも向けられた。

 少女の周囲に居る人間は、機会あれば少女の命を狙っていた。けれど少女は、それでも死ぬことはなかった。

 

 少女は疑問に思っていた。

 

 ……何故彼等はそれだけのことで死ぬのか、不思議でならなかった。

 

 何度も叩かれたから、叩き返した。殴られたから、殴り返した。石を投げられたから、投げ返した。突き刺されたから刺し返したし、殺そうとしてくるから同じように返した。少女が理解できないことに、そのどれもの結果として彼等は呆気無く死んだ。

 

 少女は不思議でならなかった。

 自分はそれくらいのことをされても死なないのに、どうして彼等は死んでしまうのかわからなかった。彼等が死んでしまうことをされているのに、どうして自分が死なないのか意味不明だった。

 

 ――――そして、いつであったか、弱いものは死んでしまうのだと知った。強いものが生き残るのだと聞いた。

 

 そうか、彼等は弱かったから死んだのだ。自分は強いから生きているのだ。少女はそう納得して、けれど何が強くて何が弱いのか、そもそも強いと弱いということの意味すら理解が出来てはいなかった。

 

 少女は何も理解できていなかった。自分が人間という種族であり、その他の生物とは全く違うもので、例え人間の中に交じることは出来なくても人間でしか無いということを理解できていなかった。

 

 少女は自分と人間を同じものだと、識別できていなかった。

 彼女は人間を殺すことに何の戸惑いも躊躇も感じること無く、殺すという行為を行った。悪いことだとも、本来は最終手段に使われることだとも知らないわけだから、自分が殺されようとするように相手を殺すことを自然と行動した。

 彼女はそもそも、死ぬということも殺すということも、結局のところどういうことかわかっていなかったのである。

 

 倫理観の備わっていない人間は、他から見れば狂っているようにしか見えない。

 少女を恐れ、近づくことも彼女を傍に置いておくことも恐怖した彼等は、少女がその場所へ帰って来れない程遠くへ、樹海のような森の奥へと追いやった。

 そこには危険な生物がいる。まだ存在の確認されていないような未知で恐ろしい生き物が多く存在するそこであれば、今度こそ少女も生き残ることなど出来ないであろうと、彼女を恐れた人々は考えた。

 

 しかし、やはり少女は生きていた。いつ死んでもおかしくないような世界の中で、変わること無く生き続けていた。

 

 ――――そして、使命を果たすために生に燃えた一匹の蟻と出会っていた。

 

 

 

 恐れというものを、少女は知らなかった。

 初めて見た生物。けれど同じ姿形をしている人間でさえも自分と同じだと理解できていない少女にとって、恐ろしい生物だとしてもそれが特別恐ろしいものだと理解することは出来なかった。

 それが何なのか、少女にはわからなかった。

 けれど、自分と同じように呼吸して生きているものなのだということだけはわかっていた。

 

「し、の…?」

 

 衰弱し、弱っている目の前の生命。

 少女は今まで掛けられた言葉の中から一番適した言葉を探り、慣れない声を発しながら死ぬのかと一言問いかけた。

 触角も折れ、片手もない。移動がやっとであることがわかるその生物がそのままでは死にかねないということも何となくわかって、少女は首をひねった。

 

 死ぬはずだ。

 

 少女のことは別としておいて、ここまで身体を損傷していた周囲の生き物たちは大体死んでいった。

 けれどその目の前に居る生き物の目はそれらとは違って、死ぬことを拒んでいるような、強く生を望んでいるような、そんな焔を宿していた。

 

 初めて見た不思議なものに、少女は疑問を感じる。

 

 少女は、死というものをよく理解できていない。けれどその生き物にとっては到底受け入れることの出来るものでは無いのだとは理解できた。

 死ねないのだと、目が訴えているのだと感じた。

 

「んっ、」

 

 樹海の奥へと追いやられ、帰り道もわからなくなってそこで過ごすようになり始めた少女は、今日の食料として集めてきた全てをそこにばら撒く。

 両手に抱えていたそれらは音を立てて落下し、木の実や魚が岩場の上に転がった。

 その中から、外見からよく熟しているのがわかる赤い木の実を手に取ると、何の躊躇もなく少女はそれを差し出した。

 

「う、あ」

 

 生き物……キメラアントと呼ばれる生物の女王は、彼女の方も初めて見た生き物に戸惑って警戒をしていた。

 量の少ない、足りない食料を取るしかなく、兵を生むどころか栄養も足りなくて傷の治りも遅い。そんな中急に現れた生物に、警戒しないわけがなかった。

 けれど、警戒心の欠片もなく食料を差し出す幼子に、暫しの沈黙後、気が抜けて食料を受け取る。

 じっと見つめてくる少女の目の前で木の実を食べてみせれば、嬉しそうに笑った少女は残りの食料も拾って持って来た。

 仕方なしに魚を手にとって食べる女王を見つめ、少女も木の実にかぶり付く。

 恐らくは、誰も予期していなかった二つの種族の出会い。

 

 それは、人間として生きることの出来なかった少女と、人間の血を引いた蟻の物語。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「あー、う」

 

 割らないように加減しながら、少女は卵に触れる。

 

 不思議だった。女王の体内から現れたそれは、歩くことも這うことも食べることもないのに、確かに生きている。

 少女が少し離れた所まで食べ物を取りに行くことで、女王は今までよりも栄養を取ることができていた。狩りは得意ではないようだが、稀に大型生物の死骸を持ってくることもあって、十分とはいえないが今まで以上に効率よく卵を生むことができていた。

 少女からも、女王からも言葉を伝えることは出来ないが、雰囲気のようなものを読んで何となく相手の意図を汲みながら行動する二人は、確かに絆に似たものを育んでいるのだろう。

 隣で寄り添って眠ってくれる女王を、少女は好んでいた。今まで経験したことのない初めての感情だった。

 

 

 

「おー…」

 

 数日後、卵が割れた。

 中から出てきたまた違う姿をした生物に女王が何かを行ったのか、次々と出て行く様子を眺めながら少女は笑う。

 二人きりではなくなって、一杯出てきた。

 あの不思議な塊からは新しい生き物が生まれるのだと、少女は何となく理解した。

 

 

 

「うぅ?」

 

 兵が持って来た食料を食べて、何時になく機嫌が良さそうな女王を見て少女は首を傾げた。

 女王の足元には、少女からすれば久しぶりに見ることとなった布の服。それを発見して、少女は彼女が何を食べたのか理解する。

 破けた服を拾って、広げてみせた。

 

「ぉいし、った?」

 

 そうであると肯定した様子の女王に、嬉しそうに笑い声を溢した少女は服をぎゅっと抱きしめた。

 

「…こぇ、ある、っぱぃ」

 

 海とは反対側、陸の方を指さして少女は言う。

 ただただ嬉しかった。

 彼女が喜ぶような、必要とするものが一杯あることがわかって、それが一杯あればもっと増えるということが嬉しかった。

 そこに、やはり同族である人間への情なんて、微塵も存在していなかった。

 

 

 

「ま、え…?」

 

「そちには名前があるのか、と女王様は聞いてらっしゃる」

 

 住処を移してしばらく。師団長を集めて何かの話し合いを終えるなり、少女はそう問いかけられた。

 少女は女王と言葉を交わす事が出来ない。しかし、兵たちはどうやら違うようで、兵の言葉を通すことで少女も女王と意思の疎通を図ることが出来るようになった。

 問いかけられた名前という単語がよく解らず、小さく唸る。

 説明曰く、人間などに存在する、個体を識別するための記号のようなものだということだった。それで人間である少女には存在するのかと問いかけられた訳だが、そもそも少女は、自分が人間だと言うことをわかっていなかった。

 区別、ということで、取り敢えず自分を指していた単語を少女は挙げる。

 

「きょーじん、ぉやごーし、ばけ…も、の?」

 

「幼き人よ、それは本当に名か?」

 

「んー?」

 

 挙げたものを却下されて、少女は首を傾げる他無かった。

 恐らく彼女に名前はないものと、と女王に伝える亀に似た師団長と女王にも気づかず何度も首をひねって呻く少女は、声をかけられてようやく振り返る。

 

「ジルドット」

 

 と突然告げられたそれの意味も理解できなかった。

 そんな少女に、補足のように師団長は言う。

 

「女王様がそなたに与えて下さった名だ」

 

 何度か瞬きをして、「あーう?」と少女は言葉を発した。そして言葉を理解するなり、嬉しそうに笑って女王に抱きつく。

 外見通りの幼い子どものように、少女は喜んだ。

 

「あぃ、とーっ」

 

 不明瞭な言葉で感謝を伝えるジルドットの頬を撫でるようにして、女王は彼女を落ち着かせる。

 彼女達の間には、確かに絆のようなものが生まれていた。

 

 

 

「しゃーあぷ、もぉとちゅーぴぃ、ねるぴとー…?」

 

 王直属護衛官の卵にそっと手を触れて、ジルドットは女王が名づけたという三人の名前を呟いた。ただでさえ舌がうまく回らず言葉が不自由な彼女であるが、女王の付けた彼等の名前は更に発声し難いものであった。

 暫しの間首を傾げて、ジルドットは口を開く。

 

「っぱい、べて…おっきなる、だよー?」

 

 

 

「たべぅねー」

 

 王を生む準備に入り、女王の食欲が増加し始めた。

 今まで以上に餌を集める必要が出てきて、ジルドットは女王の日々大きくなっていくお腹をじっと見つめ続けた。

 部下たちが運んでくる肉団子の山は毎日消費されていき、餌が足りるのだろうかと疑問に思った彼女は、何ともなしに自分を食べるかと女王に問いかけた。

 

「うー?」

 

「食料は充分に足りている、ジルドットが餌になる必要はない。と女王様はおっしゃっています」

 

「ぅー…あい。コルト、あぃとーっ」

 

 

 

「――――おーしゃま、ぅまれ、ら……ぴと、いっちゃう?」

 

 キメラアントの特性として、王が生まれたら女王と隊と王の隊で分裂し、王と直属護衛官は旅立つのだと教えられて彼女はネフェルピトーに問う。

 それを肯定したネフェルピトーは不思議そうな表情に変わり、ジルドットは女王の元へ残るのかと彼女に問い返した。

 

「ん、じう、じょーさま、すき」

 

「………そっか」

 

 少し残念そうに告げた彼の言葉に首を傾げて、にへら、とジルドットは笑う。

 

 

 

 彼女は女王が好きだった。

 自分を人間だと認識できていないジルドットにとって、女王も同族だと思えたわけではないけれど、今までとは違う、心地の良い唯一をくれた彼女を大切なモノだと認識していた。

 それが母親を求める子どもの感情であるということも知らず、その温かいものを感じたままでいたかった。

 

「――――し、な、なぃで…」

 

 ほろり、と頬を滑って落ちてくる水を拭う。

 何度拭っても後から後から溢れてくるその水は、枯れることを知らないかのように止めと無く目元を熱くした。

 どこか頭がぼうっとしてくるのを感じながら、拭うのを諦めてジルドットは女王の顔に頬をすり寄せる。

 

 

 この生温い水が“涙”というものであるということを、彼女は知らなかった。

 

 

 




無駄な裏設定↓

○ジルドット(命名女王)
 常識も倫理観も狂った少女。名前を与えられなかった。
 生まれた時に母親を殺す形で産まれ、それを恨んだ父親には虐待されて育った。NGLの住人達にも見捨てられていて、誰かに頼ることも出来なかった。
 結果として言葉が不自由で、人間を同類だと考えられない、自分とそれ以外という区分しかない狂った化け物と化した。
 言葉は聞き取りも断片的にしか解らなくて、相手の感情や表情、空気感で相手の言いたいことを感じ取っている。話すことは出来ないのでほぼ喃語。
 真っ当に育てば心優しい少女になっていたであろう。名残として自分より弱いもの、死にかけているものを慈しむ節が見られる。それには人間も虫も獣も怪物も関係ない。
 ただし、死んで“モノ”になったものに関しては興味を失う。遺体という概念が無いともいえる。生物でなければ只のものだと考えている。
 弱った女王を発見し、食べ物を持ってくるなど回復を助けようとする。一匹だけの寂しさや何としてでも生き抜こうとする精神、親としての母性に惹かれ、深く慈しむようになった。
 また、女王の方も一心に助けようとする相手への戸惑いから信頼、娘のように思い始める。
 人間に栄養があると教えられてからは積極的に人間狩りに参加を始めていて、食料として人間を出されても抵抗を覚えること無く人間を食べる。
 死ぬことを望まれてきたのに何故自分が生きているのかを不思議に思っており、生活の中で念に目覚めたことを自覚していない。自分が死に難いことにも気づいていない。
 自分という存在を必要と思っていないため、食料として自分を差し出そうとすることがある。
 感覚で生きている節もあり、頭の方はあまりよろしくない。ちょっとお馬鹿で、抜けていて、構ってやりたくなるような少女。放っておけないともいう。
 無自覚であるが、念は強力で凶悪。

【鬼が出るか蛇が出るか(BLACK BOX)】
 ジルが思ったこと、感じたことで念能力が暴走。本人の意思や意図は関係なく、問答無用で相手へ向かう能力。制御不能。
 嫌悪を感じた相手は調子が悪くなるし、好意を感じた相手は上手くいくようになる。
 死ねと思えば死ぬし、生きてほしいと思えば生きる。
 誓約として、ジルがこの能力を自覚した時点で使用が出来なくなる。
 虐待生活の中で発現した能力で、父親は仕事も何もかもうまく行かなくなった挙句、狂って自殺した。
念が暴走して勝手に動いているというより、実際には念自身に意識があり、ジルを死なせないことに念頭を置いて勝手に動いているようにも思える。もしかしたら、ジルの真の保護者といえるかもしれない。
 制約/自分の意志で扱えない
 誓約/能力の自覚・説明をされると使えなくなる

 /以下、発言の一部訳。(この話の中の台詞だとは言っていない)
「ジル、人間?(ジルは人間なの?)」
「どして、め? ピト、ってる(どうして同族は食べちゃダメなの? ピトー達は食べてるのに)」
「にく、んご(にくだんご)」

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