気がつくと彼女の目の前には懐かしい青色が広がっていた。
彼女はその懐かしさに目を潤ませ、
懐かしいと感じたことに涙した。
深い森の中にそびえる大きな湖、その草陰に一人の女性が隠れていた。
「そろそろいらっしゃる頃ですかねぇ」
彼女は自身の頭頂部に生えた、自慢のうさ耳をピコピコさせながら、そうひとりごちる。
彼女はとある理由から、異世界より自分たちを救ってくれる存在を召喚することにし、到着予測地点であるここで彼らを待っているのだ。
彼女の想定ではそろそろ、来てもおかしくはない時間である。
「いったいどんな方々がいらっしゃるのでしょうか」
それならばなぜ、こうして草陰に隠れているのかといえば、為人を見たいからである。
視界に映った瞬間襲ってくるような危険人物である可能性も否定はできない。
ただ、単純にいきなり知らない人の目の前に飛び出して、一方的に要求を突きつける勇気というか心の準備がまだできていないだけというのも否定はできないが。
「でもでも、もしかしたら王子様のような素敵でさわやかな男の人が来てくださるかもくれませんしー、そんな方が私に一目ぼれだーって言って尽くしてくれたりなんかしてー」
などと、残念な妄想をウヒウヒと垂れ流している女性を尻目に、女性と限りなく酷似した白い女性が湖の上に降り立った。
その女性は、ゆったりとした動きで優雅に湖の上を歩いて岸まで向かう。
「愛玩動物とかぬいぐるみのようにかわいらしい女性の方もいいかもしれませんねー、いやいや、大穴でみんなを引っ張ってくださる姉御肌の女性も捨てがたいものがあります」
そして、終に女性が岸に辿り着く、それと同時に空から湖に三人の人影が飛び込んできた。
天を突かんばかりの水柱と地を揺らさんばかりの轟音を響かせ彼らはこの世界に舞い降りた。
白い女性は濡鼠になったためか、彼らを冷ややかな眼差しでねめつけ、草陰の女性は轟音に身を縮こまらせていた。
「……見てないで引っ張り上げてくれねえの?」
「この程度も自力で上がれないのか?」
「冗談」
三人の少年少女は岸に上がると、冷ややかな目で眺めている、女性に向き合い、こちらも睨み付けるように見返した。
「私たちを呼んだのはあなた?いきなり空中に呼びだすなんてどういうつもり?」
「湖に落ちたからまだよかったものの、地上に叩き付けられたらそれだけでお陀仏よ?」
「知らんな。別に私がお前たちを呼んだわけではない」
「お前が呼んだわけじゃない?」
「その通りだ。私にお前たちを呼ぶ理由などない」
剣呑な空気が四人の間を流れる。
「あわわわわ、なんだか大変な雰囲気になってるのでございますですよ」
草陰の女性は、その雰囲気にのまれ、完全に出るタイミングを逸していた。
「…まぁいいわ。私は久遠飛鳥、猫を連れたあなたは?」
「……春日部耀」
「そう、ありがと。それで?野蛮で凶暴そうなあなたは?」
「見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三つそろったダメ人間なので、用法と用量を守った上で、適切な態度で接してくれよ?」
「…そう。取扱説明書をもらったら考えるわ」
「おう、それじゃあとで用意するから覚悟しとけよ」
「遠慮するわ。それで、あなたは?」
「…そうだな」
白い少女はしばらくの間考え込む。
「ミラ、私のことはミラ・アンセスとでも呼べ」
「そう、分かったわ」
「ところで、お前たちにもあの手紙が来たってことでいいんだよな?」
「確かにそうだけど、そのお前というのをやめてくれないかしら。さっきも言ったように私の名前は久遠飛鳥というのよ」
「ハイハイ分かりましたよお嬢様」
そう言うと十六夜は手をひらひらとさせて辺りを見回す。
「で、呼びつけた割に誰かが待ってるってこともねえのか」
どうするかなぁ。とつぶやきながら軽く準備運動する十六夜。
「もしかして今がチャンス!?このタイミングで飛び出せば…」
「とりあえずあそこに隠れてるやつに話を聞くか」
「ふぇ」
「あら、あなたも気づいていたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ俺」
「風上に立たれたらいやでもわかる」
「へぇ、面白い特技持ってるじゃんお前」
「どうでもいい」
「負け惜しみか?」
「好きに取れ」
「そうさせてもらうよ」
そう言うと十六夜は、一足飛びで隠れていた女性のところへ着陸する。轟音とともに。
「ちょっちょっとおおおお落ち着いて話しましょうっ」
慌てた女性は、周囲の確認もせず、湖の方に逃走する。
その女性の
「痛たたたたっ!ちょっちょっと!?掴むならまだしもいきなりクロウサギの素敵耳を引っ張るとはどういう要件でございますかぁ!?」
「好奇心のなせる業」
「へぇ、それって飾じゃねぇんだ」
「なら私も」
「どうぞ」
春日部耀はそう言うと掴んでいた耳を離し、二人が掴みやすいようにする。
「や、やめっ、そちらの人も見てないで止めてくださいぃぃぃぃぃ!」
そんな四人をミラは傍から眺めていた。