カンピオーネ!~智慧の王~   作:土ノ子

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唐突に思いつきで書き上げていくスタイル。
次回登場予定は未定だけど何時かどこかのお祭りでコンビを組む二人を書いてみたいなぁ。

なお重ねて言うがハーレムとかないから。



ないから。


幕間 草薙静花

赤坂将悟はカンピオーネである。

妖しき魔術に関わる人々にとってけして無視できないプロフィールの持ち主ではあるが、普段の行動は私立城楠学院に在籍する一高校生という身分に収まっている。要するに普段は平凡な高校一年生に過ぎないわけで、ごく普通に過ごしていれば当然起こりうる事態ではあった。

 

東京にて草薙護堂と女神アテナが、出雲にて赤坂将悟と《鋼》の英雄神武蔵坊弁慶が生命を賭けぶつかり合った激動の日から一週間ほど経った日のことである。

 

昼休み、購買へ適当な食べ物を買いに行こうと高等部一年の教室に面した廊下を歩いている将悟。何の気なしに歩いていた将悟だが見覚えのある人物の姿を捉え、視線を向けると向こうもこちらに気づいたらしく互いの視線が一瞬絡み合った。

 

「…よう」

「…どうも」

 

ぺこりと頭を下げた小柄な、やや目つきのきつい少女(頭に美を付けても異論は出ないだろう)の名前は草薙静花といった。

 

つい一週間ほど前までは万里谷祐理の後輩という認識だったが、現在はより重要で愉快な身分がくっついていた。つまり将悟と同格の魔王、草薙護堂の妹というステータスである。本人は一切そのことを知らず、また今後も知る機会はないだろうが。

 

ちなみに護堂とは例のゴタゴタ以来特に会話を交わすこともなくごく自然に互いを無視し合うように過ごしていた。気にならないわけではないがわざわざこちらから顔を出すほどの関心はない、そもそも当たり前のように顔を突き合わせる間柄でも無い。用事が出来なければ接点を持つ気がなかった。恐らくだが向こうも似たような心境ではあるまいか。

 

実のところ護堂とは関係なく以前からふとした拍子に愉快な個性(キャラクター)を垣間見せる静花に対し意外なほど興味を持っていたりしたのだが、護堂の妹であるという点がこれまで以上の接触を断念させた。

 

ただでさえ揉め事と死闘に愛されている人生を送っているのにこれ以上正史編纂委員会の苦労の種を撒かずとも良いだろう。神殺しにとっても平穏な時間は貴重なものだ。ありがたがる気はないが日常は日常なりに愛し、楽しむのが将悟のスタイルである。

 

そう思って静花の横を通り過ぎようとしたのだが何を思ったか相手の方から仕掛けてきた。

 

「すいません、赤坂さん。放課後に少し…いえ、色々と(・・・)聞きたいことがあるので時間を取ってもらえませんか?」

 

頼んでいる立場の割には表情や挙動に内から抑えきれない怒りが垣間見えた。ただその怒りの対象が将悟かと聞かれれば恐らく違うと思われた。静花の視線は将悟を通り過ごした先、彼女の兄である草薙護堂が在籍している教室に向けられていたのである。

 

中々面白そうな気配がした。そして面白さという要素は興味関心の外にある事物に怠惰な将悟を動かす材料としては中々だ。提案したのが草薙静花という将悟の興味を引く人物であったのも拍車をかけた。

 

「分かった。待ち合わせは校門でいいか?」

「いえ、私が赤坂さんの教室に行きますから待ってて下さい」

「いいのか。大して遠くないが中等部からじゃ面倒くさいだろう」

「私が頼みごとをしてる立場ですし。それに一応年上ですから」

 

本人を前に憚りなく一応と言う辺りが気の強い性格であることを十分にアピールしていた。そして静花は知る由もなかっただろうが下手に謙られるより多少不遜であってもはっきりした物言いの方が将悟の好みだった。むしろ愉快な気分になって将悟は笑みの形に頬を歪ませ、了承の意を示す。

 

その何気ない笑みを見た静花は両手を肘に合わせた姿勢で視線を横に逸らすとやっぱり似てる、と対面にいる将悟にも聞き取れないほど小声で漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして特に何事もなく放課後となり、合流した二人は通学路をぶらつきながら適当に学院近くに構えた客足の少ない喫茶店に入った。そのまま一番奥の座席を確保すると適当な飲み物を二人分注文した。

 

周囲を見渡すと静かな店内に適度な音量でクラシックが流れ、人気が少ないせいか雰囲気は非常に落ち着いている。取り立てて特筆する点が無い地味な店としか感じられないが、中々居心地の良い空間だった。

 

静花は対面に座る人物に視線を向ける。

 

すると相手の方もごく自然に視線を合わせてきた。微かに頬を歪めた、面白がるような視線を。そのまま静かに見詰め合う時間が数十秒間過ぎ去っていく。

 

―――赤坂将悟。

 

彼について静花が知っていることはあまりない。精々が先輩の万理谷裕理と知り合いであること、彼女から怯えた目を向けられていること。最近は以前ほど怖がられていないこと。性格と雰囲気に掴みどころがないこと。それくらいだ。

 

だが、静花は対面に座る少年をみてなんとなく思う。どうも付き合いが浅い割に他人の気がしないというか……身近にいる一人の人物とどこかで似通っている気がするのだ。

 

そんなことを考えているとマスターが注文していたコーヒーを二人分持ってきた。香ばしい、良い匂いに誘われまず一口漆黒の液体を含む。苦い、が飲めないほどではない。味など大して分からないがそのまま二口めをいただいた。

 

共通の話題が少ない両者だが会話の口火を切ったのは静花だった。

 

「……最近万里谷先輩がおかしいんです」

 

無理やり胸の内に押し籠めた激情が隠せない語調で静花は言う。

 

「ちょっと前まで名前をも知らなかったのに何時の間にかうちのお兄ちゃんについて色々聞いてくるわ、お兄ちゃんを巡ってエリカさんと争ってるわ…」

 

切り出した話題にはてと首を傾げる将悟。目の前の少女は己と万里谷祐理の微妙な雰囲気を察しており、どう考えても己に相談するには不適当な話に思えたからだ。が、続けられた言葉に納得する。

 

「一週間と少しくらい前からなんですけど、万里谷先輩が赤坂さんの教室に顔を出したのも確かそれくらいでしたよね」

 

ずばりと切りこんできた。何故知っている、とは聞かない。祐理は学院内ではとにかく有名人で、茶道部の先輩後輩の関係にある静花の耳に入っていてもおかしくはない。

 

「唐突にイタリアからエリカさんが転校してきて来たと思ったら何時の間にか万里谷先輩がお兄ちゃんの“正妻”扱いされているわ……もう何が何やら。遂にお爺ちゃんから受け継がれた悪い才能が開花したのかもしれませんけど、どういう経緯でこんなことになったのかさっぱり分からないんです」

 

将悟はふむ、と重々しくうなずき。

 

「ちょっといいか。お爺さんの才能辺りを詳しく」

「いいから黙って聞いててください」

 

言葉を重ねるごとに陰々滅滅していく空気をスルーして気になった部分を聞き出そうとする将悟。それに対し、空気を読まない発言を一刀両断して二の句を継がせない静花。控え目に言って目が据わっていた。

 

「それで一週間前に何があったんですか?」

「…………」

 

思わず沈黙してしまったのだが敢えて言いたい、どう説明しろと。いや、ここはこう考えるべきだろうか。

 

―――果たしてどう説明すれば一番面白いことが起きるだろうか?

 

赤坂将悟。高校生である前に、カンピオーネである前に、彼は愉快犯(トリックスター)的な性格の持ち主であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局のところ。

 

魔術やまつろわぬ神と言った怪しげな話を一般人に過ぎない静花に対して正直に話すわけにはいかない。そうした事情はすべて省き、万里谷祐理があるトラブルに巻き込まれたこととそこに草薙護堂が絡んでいたこと。あとはそのトラブルを解決する過程であったことについて全て事実を基に話すだけに留めた。

 

もちろん魔術等にまつわる部分を話せない以上誤解が発生する余地が幾らでもある説明になったがふだんの行状がまともでさえあればそう深く問い詰められることは無いはずだ。やはり日頃の行いとは重要である(棒)。

 

話を進めていく内に額に漫画のような青筋が浮かび上がっていったがもとは自分でまいた火種である。草薙自身の手で刈り取るのが筋だろうと現在進行形で油を注ぎ続けている愉快犯は他人事ライクに考える。

 

将悟が滑らかに口を滑らせるごとに静花の額に浮かぶ青筋の太さが増していく。

 

五感の優れた将悟がギリギリで聞き取れるほど僅かな音量であの馬鹿兄貴、と漏らすそれはそれは冷え冷えとした声音に流石の将悟も、

 

(煽り過ぎたかな…)

 

と自重を覚えるほどである。

とはいえ将悟の発言から護堂の所業を受け取ると、自分でトラブルを招き込んでおきながら裕理を巻き込んで危険に晒した挙句自分の我儘でトラブルの原因を解放したロクデナシとなる。言っては何だが静花の反応は当然といえた。

 

「お話、ありがとうございます。帰ったらゆっっっくりとうちの馬鹿兄貴を問い詰めますので!」

「……おー、頑張れー」

 

と、将悟が乾いた相槌しか打てないほど静花はヒートアップしていた。

 

「まあ、程ほどにな。程ほどに。俺も結局人伝てに聞いただけだし」

「そうなんですか?」

 

支障のない範囲で微に入り細を穿って説明したため当事者ではないという言が胡散臭く思えたらしい。多少は過熱した頭が冷え、冷静に物事を考えられるようになったのか今度は将悟に不審の目を向けてくる。嘘ではないと思うが信用しきれるほどではない、そんな視線だ。

 

「まあ、知り合いの知り合いからな?」

 

ジーっと不審な目を向けてくる静花に適当な言い訳を返す。誤魔化しはしたが語った内容に嘘はない。嘘は許さないとばかりに鋭い視線を向けてくるが、それ以上語ることはないとばかりに堂々と視線を合わせる。

 

すると幸いにもそれ以上追及することはなく納得したかのように頷く。

 

「そういう話を誤魔化すのが下手くそなところ、少しうちのお兄ちゃんに似てますね」

 

と、その代わりに予想外の妄言を吐かれたのだが。

 

咄嗟に脳内で己と草薙護堂の共通点を検索するが思い当たる節はない。心情的にも一緒にしてほしくはない。不本意そうに顔を顰め、反発する発言が口から飛び出る。

 

「世にありふれた男子高校生を捕まえて失礼なレッテルを貼るな。少なくともギャルゲー主人公もかくやな活躍っぷりの兄貴と一緒にしないでくれ」

「うちの馬鹿兄貴とタメを張れそうな同年代の男子なんて私が知ってる中だと赤坂さんくらいですけど。自分で言ってて説得力が全然ないと思いませんか?」

「ちっとも」

 

鋼鉄製の面の皮で以てノータイムかつ自分に後ろめたいことなど何もないという顔で返答したが静花が納得した様子はまるで見られなかった。

 

「そうですか? 私はお兄ちゃんと赤坂さんって結構似てると思いますよ」

「比べられている本人としてはそうは思わないが」

「人付き合いにマメじゃない割に色んな人から頼られたりしませんか? あとは普段はまともっぽい癖に変なところで大雑把で突飛な行動を取ったりとか」

 

まるで見てきたように確信した様子で話す静花へ咄嗟に抗弁する言葉が出てこない。草薙の人柄など大して知らないが、己に関して言うならばそれなりに思い至るところがある。しかしほとんど面識もないと言うのにここまでズバズバと当てられるとは。

 

魔王というのは本人だけではなく血筋もデタラメであるという法則でもあるのだろうか、と類稀な商才と勝負勘で以て外資系企業で辣腕を振るい、勇名を馳せている己の母を思う。

 

ともあれ心当たりのある様子の将悟を見てやっぱりと頷く静花。

 

「性格とか全然違うのに雰囲気が妙なところで似てるっていうか……根本的なところで似通っている部分がある気がするんですよね」

 

腕を組み考え込んでいる表情。対して将悟は全く別のことを考えていた。

 

この短い会話の中ではまだしかめっつらか怒りと嫉妬を押し込めたふくれっ面くらいしか静花の表情を見れていない。感情豊かな性格で内心を隠すのに慣れていないのだろう―――だからこそ笑ったら可愛いだろう、という益体も無い思考をつい浮かべてしまった。

 

「でも違うところもあるかも。お兄ちゃんは割と誰でも仲良くなっちゃうタイプだけど、赤坂さんは好き嫌いがはっきり分かれそうかな」

「……かもなー。少なくとも喜んで俺の悪口を吹聴するくらい嫌ってる奴らにはそこそこ心当たりはあるわ」

 

カンピオーネの力を憚って直接的な行動に出ないだろうが畏怖、嫌悪の類を向けられるだけのことはやっている。人当たりの良い性格であるという妄想を抱けるほど客観視が出来ていないわけではない。ありえない仮定だが将悟が権能を喪失しただの人間に戻ることがあれば積極的に殺しにかかる人間も出てくるかもしれない。

 

しかし返す返すも初対面に近い状況でここまで図星を突かれるとは。将悟の直感とはまた違った智慧の持ち主であるとでもいうのだろうか。

 

「それにしても初対面でここまで遠慮のない口を利かれるとは思わなかった」

「……すいません。年下なのに生意気でした」

 

一呼吸置き、流石にぶしつけだったと感じたのか静花が殊勝に頭を下げる。

 

「別にいいよ。むしろそっちの方が気が楽だ。また何かあったら呼んでくれ。都合がつく限りは出向くから」

 

ここまで遠慮のない言葉を聞かされると却って清々しい。付き合いのある人間のうち業界関係者の割合が明らかに増えてきている現状、背筋が痒くなるほど丁寧な言葉を聞かされることが多い。そういう面倒なやり取りが苦手な将悟にとって静花の物言いはむしろ一服の清涼剤に思えてくる。

 

「良いんですか? 私、結構人使い荒い方ですけど?」

 

と、確認するように静花が問えば。

 

「それはそれで楽しそうだ。“だから”良い」

 

と、将悟が物好きな発言を返す。

 

「分かりました。きっとこれからも色々とお手数おかけすると思いますけど遠慮なんかしませんから」

 

クツクツと遂に将悟は口元を抑えて吹き出してしまう。

 

知らぬとは言え仮にも大魔王たる己に対して何という啖呵を切るのか。将悟が彼女の兄と似ているというならそのデタラメっぷりにも薄々気がついているはずだ。その上で何の躊躇もなく、当然のように己を主張する自我の強さ。

 

無意識のうちに他者を狂わせ、畏怖を抱かせるカンピオーネの空気を意識することなくそれこそ柳に風と受け流している。これもカンピオーネなどという超ド級のロクデナシを兄に持つが故の資質か。

 

あっという間に静花の口調から遠慮が消えていったがこれは将悟と彼女の兄との間に共通点を見つけ、ぞんざいに扱うくらいで丁度いいと付き合い方を悟ったためだろう。

 

総評するとなんとも心惹かれる個性(キャラクター)の持ち主だ。これほど将悟の感性を擽る少女との付き合いを絶つ理由が草薙護堂では軽すぎる(・・・・・・・・・・)

 

数時間前まで静花との接触を避けていたことなど空の彼方に放り投げ、真逆の発言を向ける。

 

「いや、マジで気に入った。何かあったら是非とも呼んでくれ、地球の裏側からでも見物に駆けつける」

 

なお今の将悟が全力を振り絞れば言葉通りの真似が可能である。割と本気の発言だったのか流石に冗談と受け取ったのか同じく軽やかに冗談を返す静花。

 

「別に無理して駆けつけてこなくていいですけど。そこまで言うなら見物料の一つも貰っていいですよね」

 

にこりと笑い。

 

「とりあえずここの支払いはお願いしていいですか―――センパイ?」

 

未来の女王様の片鱗を覗かせる笑顔でのおねだりに、将悟は今度こそ爆笑した。

ひとしきり笑い倒して少女を見やると少女もまたおかしそうに笑っていた。

 

「冗談です。あんまりセンパイがお兄ちゃんと似てるからつい同じような感じでやっちゃった」

「俺をあいつと同類項に扱うのは断固拒否するが、それくらいなら軽いもんだ。ここの支払いは俺が持つよ」

 

いつの間にか呼びかけがさん付けからセンパイに変化しているが将悟は鷹揚に受け入れた。やはり思った通り彼女の笑顔は好ましい、見ていると思わず愉快な心持ちになってくる。そんなことを思いながら。

 

「いえ、でも」

「実は前々から使い道のないあぶく銭が貯まってたんだ。財布を軽くするにはちょいと足りないが肥やしになってるよりマシだろ。ここは黙って奢られてくれ」

「うわ、やっぱりそういうロクデナシっぽいところお兄ちゃんとそっくり。もしかしてギャンブルが強かったりします?」

「いや? そもそもギャンブルなんぞやらんし。ただまぁダチからはよく『貴方とは運が絡まないゲームしかしない』とは言われる」

 

甘粕辺りに誘われ、麻雀もたまにやるが腕前は平凡。ただし無暗矢鱈と強い引きが味方し、負けた記憶がほとんどない。ちなみに副業ではカンピオーネ特有の豪運を有効利用して荒稼ぎしていたりする。

 

「その知り合いなんだが、最近はこの魔法少女ものが熱いとか話の種に何気なく布教してくるんだ」

「あ、そのアニメ友達から聞いた気が…。私は見てないけど評判もいいらしいですね。その人ってセンパイの同級生ですか?」

「いや、まだ三十路になってなかったと思うが…」

「一回り年上の社会人を友達扱いする高校生って普通(・・)そんなにいない気がしますけど」

 

その後、二人は他愛のない出来事をひとしきり語り合った。日常に起こる出来事のこと、共通の知人のこと。特に静花が彼女の兄についてこき下ろすのを聞くのは面白かった。それは彼女の語り口が激しくはあっても悪意はなく、むしろ慕っているのが丸分かりであるからだろう。

 

将悟が楽しんでいたのは護堂に関する話というよりそれを話す静花の生き生きとした表情だった。

 

単なる雑談、単なる世間話。しかし当人たちにとっては決して軽くはない、なにせ魔王と魔王の妹を結びつけるには十分なくらい楽しく、実りのある時間だったのだから。

 

詰まる所静花がカンピオーネである草薙護堂を慕うならば。

同じカンピオーネである赤坂将悟に親しみの一つも感じても可笑しくはなかったのだろう。

 

短くない時間をおしゃべりに費やしたあと自然な沈黙が訪れるが、全く不快ではなかった。こうした時間を天使が通り過ぎたというのだったか、とくだらない雑学を思い浮かべる将悟。何気なく店内の時計を覗くともういい時間だった。釣られるように静花も時計を見るとそろそろ帰らなきゃ、と呟く。将悟も軽くうなずいた。

 

名残惜しくはあってもそれを表に出す可愛げは両者ともにない。

 

「それじゃ、また」

「ああ、また学院で」

「学院で」

 

ただ再会を約束すると静花はそのまま振り返ることなく気風のいい足取りで店を出ていく。その後姿を残っていたコーヒーを啜りながら見送ったあと、ぽつりと独り呟く。

 

「それにしてもばしばし痛いところを当てられたなぁ…」

 

アレは恵那や将悟が持つ野性的な直感でも、祐理のような霊視でもない。

 

「強いて言えば女の勘って奴かね」

 

末恐ろしいもんだ、と一人ごちる。

 

つい先ほど気風の良い立ち居振る舞いで去って行った草薙静花。彼女の兄の存在を差し引いても十分すぎるほど個性的な少女である。どう見ても一人の良き妻、良き母として収まる器ではあるまい。良かれ悪しかれ周囲の男を振り回し、翻弄する未来の“女王様”の片鱗を見た気がする将悟であった。

 

そう遠くない未来彼女に振り回されるだろう男達には彼女はとても魅力的に映るのだろう。個性豊かな人間が大好きな将悟にとっても彼女のキャラクターに中々心惹かれるものがある。女性として惹かれるのではなく友人として付き合うと楽しいタイプだ。

 

問題を挙げるなら護堂の存在だ。逆の立場だとして将悟は呪術とかかわりのない身内がカンピオーネという生物と親しくするのを歓迎する気にはなれない。

 

だからと言って静花との付き合いをやめよう、とは思わないのだが。

 

「……ま、なるようになるか」

 

少しだけ未来の話を語るならば。

将悟が学院を卒業し…あるいは静花が社会に出る頃になってもこの二人の付き合いは人知れず続く。

 

その先に何が待っているか、それをこの場で語るのは無粋だろう。

 

ただ今後も静花が兄の不行状に関する証言者として将悟を頼る内に親しくなり、いつの間にか年が離れている割にやけに息が合うコンビとなることは確定した未来であった。

 

 

 

 




なおこの後静花の登場予定は完全に未定。
再登場を希望する皆様は静花可愛いとお書きください、100人くらいいたら次も静花の話にします。

いなくてもたぶん何時かは書きます、日常パートのどっかで登場させたい。その程度には気に入ってます。

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