カンピオーネ!~智慧の王~   作:土ノ子

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ヤンデレ黒タイツ氏のリクエストをやっと実現できました。
日付を確認するとなんと約一年前。お待たせしてすいません。

今回は清秋院家への婚約話。オリジナル設定がてんこ盛りのため細かいところはスルーしていただけると助かります。




幕間 清秋院恵那 ②

燦々と太陽が空で輝く中、建物の入り口から出て、思う存分ノビをする。たったそれだけのことが随分と嬉しい。神殺しになる前もなった後も1か月近い長期療養など経験したことが無い。そのせいだろう、久しぶりに全身で浴びる陽光がやけに明るく暖かいように感じられた。

 

ヴォバンとの死闘から既に一ヵ月近い時間が経過し、赤坂将悟はそのほとんどを担ぎ込まれた病院ですごしていた。

 

最初の一週間はまさしく地獄、絶え間なく続く苦痛のため夜もろくに眠れずに過ごした。第二週、そして第三週目は少しずつ薄れてきた全身の呪詛と格闘しながら痛めつけられた身体機能を取り戻すことに専念した。その甲斐あって大分復調したが、そこから先は暇との戦いだった。仮にも長期療養、絶対安静の身なのだ。少しでも余計なことをしようとすれば即座に人が飛んできてベッドに連れ戻される。

 

実のところ今もまだ痛みが時折走り、四肢の動きがぎこちないのだが、本人としてはもう少し早く退院しても良かったのではないかと思っている。もちろんそう思っているのは本人だけで、病院に運び込まれた直後は診察した医師が即座に治療を諦めた程の重態だったのだ。普通の人間なら半時間を待たずに死亡、奇跡的に生き延びてしまったとしても一生病院のベッドから動けなかっただろう。

 

結局のところ、将悟が入院した病院のスタッフ達は全身を蝕む呪詛になんら有効な対抗手段を持っておらず、カンピオーネの驚異的な治癒力を手助けするのがせいぜいだったと言うのが実情である。もちろん病院のスタッフ達を責めるのはアンフェアと言うべきだろう。《破滅》の劫火に焼かれた呪詛を癒せるものなどそれこそ神様かカンピオーネくらいしかいないのだから。

 

そんな医者泣かせな患者だったが、ようやくお役御免となり、軽やかな足取りで世話になった病院を去ろうとしていた。将悟の面倒を見ていたのは事情を知らされたごく少数の関係者が主だったため、見送りに来たものは皆無だったが、もちろんそんなことは気にせず悠々と歩き出す。

 

退院して早々だが、一刻も早く足を運びたい場所があるのだ。そのためにわざわざ多忙の極みである甘粕に繋ぎを取り、アポイントメントまで取ったのだから。他ならぬ将悟の《剣》、あの戦いで重傷を負った清秋院恵那が療養しているという、清秋院家本宅まで。

 

奥秩父にあると言う例の本宅、交通の便が極めて悪いと言うことで足を用意すると先方から言われたのだがわざわざ自分一人のために大袈裟なことをさせるのも気分が悪い。やけに恐縮されたらしいが自分で足を用意して向かうから構わない、と押し切らせてもらった。

 

言うまでもなく将悟が使う“足”は公共の交通機関でも免許を持っていない自動車でもない。その類稀なる才能を頻繁に称えられる魔術でもって移動するつもりだった。たまにはちょっとしたルール破りも良いだろうと携帯から地図アプリを呼び出して教えられた住所を入力、その大雑把な位置を確かめるとおもむろに『転移』。

 

同じ東京都内程度の距離なら太陽の権能でブーストをかける必要もない。

 

特段鍛えているわけでもないのに戦う中で勝手に研ぎ澄まされていく魔術の腕前は、数か月前とは最早別人の如き成長を遂げていた。あるいは権能の掌握というプロセスが魔術の習得とある程度似ているからかもしれない。いや、他の魔王達は恐らく意見を別とするだろうが将悟の権能は呪術的な要素が絡んだ権能が多い。第一の権能たる《原初の言霊》などはまさしく神々の魔術を再現する権能だ。そうした独自の事情も関係しているんかもしれない。

 

さておき、空間転移であっという間に清秋院本家の近くまで来た将悟だが、目の前という訳でもない。無造作に『人物探査』の魔術(身体の一部を持っていればその持ち主の位置を探れる魔術。今回使ったのは恵那の頭髪である)を使い、正確な位置を確かめると再度『転移』をかける。

 

今度こそ、清秋院本家の前に立つとそびえたつ巨大な門扉を見上げる。元は奥秩父に建造された山城だったという。結局一度として実用されることなく基礎だけを残して解体され、その上に今の清秋院本家が建てられたと聞くが…軽く敷地内を魔術で探ってみると端々に物騒な呪力の気配があったり、さりげなく配置された警備の目や緻密に敷かれた結界の存在から恐らくは防衛機能が現役なのだろう。山城の解体もこの防衛性能を考えると、基礎から呪術的に手を加え要塞化するために敢えて行ったのではあるまいか? 流石は平安時代から千年を超えて続く四家の一角というべきか。

 

使用人や清秋院家に仕える従者達がまとめて住み込みで生活しているという触れ込みに相応しい、恐ろしく巨大な邸宅。その門扉を確認してみるが呼び鈴などという現代的なものは見当たらなかった。果たしてどうやって客人の応対をしているのか…疑問に思った将悟だった。

 

そんな疑問を弄んでいると、次の疑問に辿り着く―――さて、どうやって到着したことを伝えたものか?

 

適当に人を捕まえて話を通すのがやはり無難だろうか…などとしばらくの間考えているとふと脇の通用口から和服を着た上品そうな老婆が顔をのぞかせた。往年の美貌を覗かせながら老いを衰えではなく成熟と言う形で積み重ねた、気品ある老婦人だ。一瞬、視線が合うとあらあらまあまあと柔らかい笑みを浮かべて将悟に歩み寄ってくる。そのまま恐ろしく丁寧な所作で深々と頭を下げた。

 

「失礼します。もしや赤坂将悟さまでいらっしゃいますか?」

「…ええ、はい。今日は清秋院…あー、恵那の見舞いに来ました」

「委細、聞き及んでおります。ただいまご案内させていただきますわ」

 

流石は名門・清秋院家の人間と言うべきか、将悟の名前を諳んじていると言うことは恐らく業界関係者なのだろうが、彼女の目に怯えた気配は微塵も感じられない。むしろ将悟が恵那の名前を言い直した時は年齢不相応の悪戯っぽい光すら目に浮かんでいた。

 

最初の数秒は目の前の老女が噂に聞く清秋院家当主かと疑ったが、幾らなんでもそんな人物が偶々門の近くにいたと言うのは考えづらいし、彼女の柔らかい物腰は“老女傑”とまで畏怖される人物評と噛み合わない。恐らくは清秋院家に仕える人間、その中でも偉い人なのだろう、と適当に脳裏で結論を下す。正直なところ彼女の正体に対する関心はさほどなかったのだ。

 

そのまま老女に案内されて横に縦に十数分(!?)も敷地内を歩き回るが、最初に感じたとにかく巨大という印象は間違っていなかったことが道中で証明された。

 

まず敷地が恐ろしく横に広い。塀で囲まれた一辺が視界の遠くまで延々と続いているのだから囲まれた面積の広さは推して知るべしだろう。敷地の中央近くには一際立派な母屋と思しき武家屋敷がデンと立ち、周囲に幾つもの建物が建てられている。ざっと数えただけでそこらの住居と変わらない大きさの家屋が十数軒はある。視界外にあるものも含めればもっといくだろう。

 

「こちらです」

 

少なからず歩き回ったあとおもむろに老婦人が指し示したのは巨大な母屋から繋がる家屋…思わず老婦人を見ると甚だ真面目な顔。どうやらこの一戸建てのアパート位はありそうな大きさの家屋がそっくりそのまま恵那に与えられた空間らしい。比較的郊外とは言え狭い日本でよくこんな贅沢な空間の使い方を…と、呆れる。思わず問いかけてみるとどうもこの贅沢な住居も恵那は有効活用していないらしい。というより活用する暇がないと言う方が適切か。ひと月の半分は山籠もりで青空を天井に野宿するような少女なのだ。

 

この家屋の中に恵那の私室があり、そこで恵那は身体を休めているようだった。清秋院家の跡取り娘が療養中という事情のせいか周囲におそろしく人影が少ない。いや、考えてみると邸宅の規模に比して道中見かけた人影の数も少なかったような…。

 

老婦人は臆した様子もなくそのまま家屋の中に足を進め、やがて襖で区切られた部屋の前まで辿り着く。

 

「あの子はこちらの部屋で療養しています」

「―――?」

 

ふと違和感を覚えたが、さして気にすることでもない。できるだけ丁寧に礼を言うといえいえそんな勿体無いとあの柔らかい笑みで応じられてしまった。道中特に変わった会話をしたわけではないのだが、あの老婦人との気配りの利いた応対のお蔭でどこかリラックスした気分になることが出来た。流石は名家、いい人材を抱えているなと感心していると、老婦人はあの悪戯っぽい光を浮かべた目で将悟を一瞥し、深々とお辞儀する。

 

「それではごゆっくり」

 

果たしてこの場面で正しい言葉なのか、なんとなく気になった将悟ではあったがある意味で間違っていないことに気付くのはもう少し先だった。だがこの時はなにも気付かず、将悟も応じてお辞儀すると老婦人も再度返礼をしてくれた。そのままゆったりとした足取りで去っていく。その何気ない後ろ姿には風格すら漂っていた。

 

視界から老婦人がいなくなるのを待ち、襖越しに声をかけると即座に声が帰ってくる。元々五感が人並み外れて鋭い少女だ。襖越しのやりとりも聞き取っていても不思議に思わない。

 

そのまま襖を無造作に開けると、部屋の中央に敷かれた布団から身を起こした清秋院恵那がそこにいた。

 

「王様、久しぶりー」

「おう。思ったよりは元気そうだな」

「もう一か月だからね! 見ての通り暇で暇で―――」

 

手を振って健在ぶりをアピールする恵那を押しとどめ、呆れた声を向ける。

 

「“まだ”一か月だろ。正直に言うがもうしばらく寝たきりだろうと思ってた。空元気を出すくらいの気力はあるみたいだがな」

「……やっぱり王様にはバレちゃうかー。うん、流石恵那の王様だね!」

「……。確認するが、後遺症は残らないんだよな。甘粕さんからはそう聞いているが」

 

恵那の呼びかけについて指摘するか迷った風の沈黙を挟み、結局は諦めた様子の将悟。その頬はほんの少し紅潮している。見ると恵那もエへへと照れ臭そうに笑っていた。何とも初々しい空気が二人の間に流れるが、ごほんと取り繕った咳払いを挟み、軌道修正する。

 

「あ、うん。それは大丈夫。お医者様も順調に身体は回復中だって太鼓判を押してくれたし。ただ、あの日に追った負傷と疲労が大分深かったみたいだからさ。大事を取ってまだ療養中」

「そうだろうな。あの時のお前は文字通り限界を超えて身体を酷使していたんだ。それを思えばもう一ヵ月休んだっていいくらいだ」

「絶対ヤダ! 暇を持て余して死んじゃうよ」

「幸か不幸か暇で死んだ例は無い。諦めて大人しく養生しようぜ。俺も動けるようになったから出来るだけ顔を出すつもりだし」

 

むー、と可愛らしく口をとがらせる恵那。彼女の王様が足繁く通ってくれる、というのは大変魅力的なのだがやはり活発な性質の彼女としては一緒に遊びに行くなどのアクティブな活動の方が好ましいのだ。

 

「でも王様は恵那以上に重傷だったんだよね。その割に元気そうなのがすっごい理不尽」

「勘弁しろよ。これでも最初の十日間くらいは人の手を借りなきゃ身動き一つとれない有り様だったんだぞ」

「え。地味にプライドと警戒心が高い王様が甘んじて人の手を借りるなんて…そんなにヤバかったんだ」

「実感するのがそこか? いや、確かにかなり抵抗があったけど」

 

特にシモの世話とかな、とこればかりは口に出せず胸の内だけで苦々しく呟く。制御に成功しない限り二度とスルトの権能は使うまい、と誓った瞬間でもあった。

 

「逆に聞くがそっちはどうだったんだ? お互い現世に戻ってからはすぐ救急車で緊急搬送だ。その後ロクに連絡も取れなかったしな」

「あー。なんか権能を通じた絆も全然繋がらなかったしねー」

 

といってもあんまり変わったことはなかったけど、と恵那。

 

「病院に行ったのは初めてだったから周囲の物が珍しかったくらいかな、面白いことは。あ、でもろくに探検できなかったのは心残りかも」

「? 初めて? 病院がか」

「うん。清秋院家にはお抱えのお医者さんと薬師の人がいるからね」

「……なるほど。流石は名家」

 

彼女と接していると忘れそうになるが、清秋院家は先祖に戦国大名がいると言う名家中の名家なのだった。その有り余る財力と権勢に任せて医者の一人や二人抱え込んでいてもおかしくは無い。あるいは病院の一つも経営しているかもしれなかった。

 

そのまま話の流れが互いの近況報告に傾き、暇に飽いた恵那に付き合って中身がないが息の合った駄弁り合いを始める。話の種は様々だったが、中には老女傑とも称えられる恵那の祖母の話も出てきた。

 

「ばあちゃんはね、んー、一言で言うと『裕理に見せかけた恵那』かな」

「…なんだその人柄。全く想像がつかないぞ」

「根っこは恵那と同じで滅茶苦茶やっちゃう方なんだけどさー。外面を取り繕うのが凄く上手いの。だから付き合いの浅い人には上品なお婆さん、なんて思われてたりするよ。恵那からすれば臍で茶が沸くって話だけどね! 若い頃に神獣とも切り結んだなんて伝説もあるし。歳を食った今でも薙刀とか上手いよ。神がかり無しなら恵那でも危ないかも」

「確かそろそろ七十代と聞いたが」

「生涯現役。歳なんて関係ない、なんて真顔で言っちゃうばあちゃんだからねー。たぶん王様とも馬が合うと思うよ」

 

少し伝え聞くだけでその破天荒な人柄は窺い知れる。この孫にして…と言ったところか。恵那が型破りに過ぎる性格に育ったのは実の祖母から影響を受けた可能性はかなり高そうだ。そんな人物評に少しだけ考え込んでいたが、焦れた恵那が次の話題を喋り出すと応じるために忘れ去ってしまう。

 

その後も少なからずお喋りに時間を費やしていたがある時ふと話の種が尽き、何気ない沈黙が訪れる。

 

頃合いだろう、と胸の内だけで将悟は覚悟を決める。

 

少し空気が変わる。居住まいを正した将悟が真っ直ぐ恵那を見つめ、彼女もそれを感じ取って気を引き締めた。

 

「…恵那」

「なに?」

「ありがとな。お前がいたから、命を拾えた」

 

居住まいを正したまま頭を下げると、今度は恵那がそれを押しとどめる。

 

「いいよ、そんなの。恵那は何時だって何処だって王様のお供をするって決めたんだから。そのために体を張るのは当然だよ」

「それとこれとは話が別だ。助けられたら、礼を言う。王様だろうがそれを無視するのは、なんか違うだろう」

 

少しの間困ったような恵那と視線を合わせているとやがて彼女の方が折れた。

 

「…ん。それが王様の流儀なんだね。分かりました、謹んでお受け取りします」

 

ペコッとどこか元気よく可愛らしい仕草で頭を下げて返礼する。自分の我が儘を汲んで合わせてくれた少女に、もう一度心の中だけで頭を下げる。やはりこいつはいい女だな、と惚気に似た感慨も思い浮かべながら。

 

「それじゃ早速働いたご褒美が欲しいんだけど、いい?」

「もちろん。俺に出来ることならなんでもやるぞ」

「それじゃ、いい加減寝たきりなのは飽きたからさ。手っ取り早く王様の権能で回復させてよ。それで、今日は遊びにいこう!」

「―――すまん。それは無理だ」

 

間髪容れずに返すとええーっと驚く恵那。それほど無理なお願いをしたつもりがないのだろう、いや、普段ならば彼女の願い通りにするのは全く問題ないのだが今はやりたくても出来ないのだ。

 

「いまの俺はカルナの権能が使えない。手持ちの権能でお前に効きそうな回復手段はあれだけだからな。とにかく今は無理だ。もう少し待て」

「……王様こそ、後遺症じゃないの? それ」

「後遺症といえば後遺症だが…どちらかといえばペナルティかリスクと言った方が近いな」

「権能の使用条件ってこと? 確か侯爵様から逃げた後、新しい使い方を覚えたんだっけ」

「覚えたと言うにはその時意識が無かったからなァ…。さておき、新しい用法の効果はシンプルだ。『俺が死んだ時、意識の有無にかかわらず蘇生・回復させる』ことだろう…ああ、もう一個余計なおまけが付いていそうだが」

 

その余計なおまけ…幽世でのスサノオの不機嫌な様子、どこか焦げたような匂い、あの時のスサノオの台詞から何となく想像できる。おそらくこの用法はただ太陽の不死性を体現するだけではなく、破壊的な側面も持っているのだ。

 

「強力だがその分ペナルティも重い。一度使えばしばらくの間は太陽の権能が使えないみたいだ」

 

特に今回は呪力がカラッケツの上に満身創痍で使ったからな、と肩をすくめる。それがなければもう少しマシだったはずだ。

 

「そういう訳だから今すぐに、という訳にはいかない。多分もう少しで使えるようになるはずだからそれまで待て」

「オッケー。そういうことなら了解! その代わり治ったら絶対一緒に遊びに行くからね、約束だよ!」

「任せろ。俺は約束を破らせたことはあるが破ったことは無い男だぞ?」

「それ、全く安心できないから! でもすっごく王様らしいね、流石は我が背の君!」

 

半ば冗談交じりの呼びかけ。恵那は将悟がこうした恋愛関係にそこまで積極的ではないのを知っている。それに最近は《剣》としても大いに頼られ、自己承認欲求も十分満足していたため本当に軽い気持ちで言ったのだが、将悟の顔がほんの僅かにだが強張った。

 

「ああ…そうだな」

 

今日清秋院本家にまでわざわざ足を延ばした目的は恵那の見舞いだけではない。現清秋院家当主、老女傑と畏れられる清秋院蘭への挨拶も含まれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局将悟が恵那の自室を辞したのは日が中天から大分過ぎ去った頃だった。あの後も二人は会えなかった時間を埋めるように他愛のない話を続け、結局昼餉も取らずにこんな時間まで同じ部屋で過ごしたのだ。話の種があれば語り合い、尽きれば横になって静けさを共有し、またおもむろに意味もなく互いに呼び掛け合った。

 

特段何かあったわけではなかったのだが、両者ともにひどく充実した時間だったのは確かである。

 

暇を告げる将悟を見送る恵那は名残惜しそうだったが、時間が付く限りは出向くからと言うと花を散らしたようにぱっと笑顔を浮かべてくれた。元々超のつく大和撫子として育てられた少女なので自分自身の幸福の基準値が酷く低いのだ。こっちの方からいろいろ気遣わないとなぁ…と思わず感じてしまう将悟だった。

 

さておき帰りの道案内については恵那が呼んでくれた。なんとも古風なことに部屋の隅にあるひもを引っ張ると、なんでも使用人がいる部屋と繋がっていて人を寄越してくれるのだと言う。普通の内線電話ではダメなのか、と問うと伝統でなんとなく続けてる、という答えが返ってくる。これもある意味でむやみやたらとマンパワーが有り余っている名家だからこその贅沢だろう。

 

しばし…と言っても待っていたのはひょっとすると分に満たなかったかもしれない。足音は静かに、しかしそこはかとなく急いできた気配を漂わせてやってきた作務衣を着た体格のいい中年男性に恵那は気さくに声をかけ、将悟の道案内を頼む。恵那におっちゃんと呼びかけられた男性も最初は将悟を見て少しばかり怯んだ様子だったが、恵那と会話するうちに調子を取り戻してきたらしい。大柄な体躯から感じられる威勢の良さを適度に引き出しながら、丁重な言葉で恵那の頼みを引き受ける。

 

無駄に威圧するのもなんだからと将悟がよろしくお願いしますと頭を下げると、逆に大いに恐縮されてしまう。やはり将悟のいる恵那の部屋へ来るだけあってカンピオーネの雷名を知る者らしい。若干動作がしゃちほこばりつつも、恵那へ声をかけた後に将悟を先導するため、部屋を辞去する。

 

そのままとにかく広い敷地を歩き回りながら、将悟にも出来るだけ気さくに声をかけてくる。礼儀作法という意味では完璧とは言い難かったが、こちらを気遣っている気配は痛いほど感じられたし、気まずい沈黙が続くよりはるかにマシだった。だがやはりこういう対応には慣れないな、と思う。

 

なにより将悟を見る男の目には微かだが常に怯えがちらついているのだ。めっぽう勘の鋭い将悟は気付きたくないことも気づいてしまう特技を持っているのだから間違いはない。尤も一か月前の私闘のことを聞き及んでいるならば無理もないことだった。いまだにニュースにもなっている東京都心の大惨事、その原因と一対一で向き合うなど普通の神経を持った人間なら御免こうむる。

 

…つまりは自業自得だろうと遠い目をしながら早急な改善を求めるのは諦める。清秋院恵那と親しくする限り、彼らとの交流は避けられないのだからもう少しマシな関係を築きたい。だがこればかりは改善のための努力を積み重ねていくしかないだろう。

 

そう結論し、恵那がいる家屋から十分遠ざかったのを確認してから、ちょっといいだろうかと男の背中に声をかける。これからする頼みをできれば恵那に聞かれたくない。相当に人間離れした五感の鋭さを持つ少女なので、家屋から少し離れた程度では会話の内容が筒抜けになりかねない。

 

「…なんでしょう。なにか無作法でもしてしまいましたでしょうか」

 

と、強面をもっと強張らせながら肩を縮めてみせる男に頼みがあるのだと続けた。

 

「頼み…はい。あっしに出来ることならば」

 

どこか悲壮な決意すら漂わせているが、そこまで非人道的なことをやらかすつもりはないので安心して欲しい…と言っても無理か。さっさと用件だけ言わせてもらおう。

 

「清秋院家当主に伝えてもらえませんか。時間がある時に俺が少し話をしたいと言っていたと」

「御当主様と、でございますか?」

 

確認するかのように問いかけられると黙ってうなずく。まあ頼みと言っても伝言程度だ。今日は恵那の見舞いが主な目的で、思った以上に遅い時間まで過ぎてしまった。次回に来た時に会えればいいくらいの気持ちだった。

 

そのまま今日は帰りますので、また来た時にでもと続けると男は途端に焦ったような気配を醸し出した。

 

「しょ、少々お待ちください」

 

と、足早に将悟を手近な一室に案内するとぺこぺこと頭を下げ、どうかそのままでと重ねて嘆願しながら部屋の襖を閉じる。その途端ドタドタと足音を響かせながら去っていく気配。そのつもりはなかったのだがどうやら迷惑をかけてしまったようだ。

 

普段から王様と呼ばれる身ではあるが、身近に置く人間からはぞんざいに扱われることも多いので、こうした過剰に丁重すぎる扱いはどうにも慣れなかった。下にも置かぬ、といったやり取りに心が拒否反応を感じるのだ。王様などと呼ばれても気質的には大勢の人間に傅かれるより気の合う仲間とぶらぶらほっつき回っている方がよほど性に合っている。

 

やっぱ王様稼業なんて向いてないな、とぼんやり考えながら待つことしばし…と言っても五分は経っていないだろう。

 

恵那程ではないが常人よりもかなり優れた聴覚がしずしずと歩み寄ってくる足音を捉える。内心はどうであれ殊更に急いでいる気配はしないから、平静を保っているのだろう―――カンピオーネを前にして。そしてさっきの男の様子から恐らくやって来たのは…。

 

足跡が部屋のすぐ外でピタリと止まり、額づく気配。

 

「羅刹の君のお召し出しと伺い、参上いたしました。清秋院家当主、清秋院蘭でございます。入ってもよろしゅうございますか?」

 

どうぞ、と声をかけると襖をあけて顔を覗かせたのは―――まあ、順当と言っていいのだろうか。恵那の話を聞いてからもしやと予感がしていたのだが…、襖を開けた先から現れた清秋院家当主は恵那の部屋まで案内をしてくれた、あの上品そうな老婦人だった。

 

あの悪戯っぽい光をまたしても目に宿して、どこか探るように将悟を見ている。いや、探ると言うよりも仕掛けた悪戯の成果を検分していると言った風だ。見掛けと違って随分と茶目っ気のある人らしい。呆れとも感嘆ともつかない溜息を吐きながら、少しばかりジト目の入った視線を老婦人に向ける。

 

裕理に見せかけた恵那、という評は存外的外れという訳ではないらしい。多少はあった緊張も消え失せ、あまり取り繕う気のない砕けた敬語で呼びかける。

 

「中々人が悪いんですね、あいつのお婆さんは」

「あら、なんのことでしょう? とんと心当たりはございませんが。ですが強いて言わせて頂けるならば」

 

ニコニコと満面の笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「あの子が自ら身命を捧げたいと思った殿方と色眼鏡を無しに触れ合わせていただく貴重な機会だったのでつい…。御不快に感じられたならば、お詫びいたします」

 

そのまま三つ指を突いて深々と畳に頭を下げる。流れるような動作に最早溜息も尽きた。元から恵那の縁者ということで粗略に扱うつもりは皆無だったが、どう対応したものかと頭を悩ませていたのも確かだ。だがこの度胸を見れば良かれ悪しかれ遠慮する必要はなさそうだ。あるいはそこまで計算してやっているのだろうか。だとすれば中々の役者である。

 

恵那が自分と馬が合うと評したのも今ならば納得できる、間違いなく傑物だ。ただし型破りと紙一重の。

 

「もうその件は良いです。それよりも今日は急に話を持ってきてしまってすいませんでした」

「まさか。羅刹王のお言葉とあらば万難排して従うのが我ら呪法の道に生きる者の定め。ましてやわざわざご足労頂いた己が屋敷で都合がつかぬとむざむざ帰らせてしまっては当家の名折れとなりましょう。どうかお気になさらず」

 

どうも建前というだけでなく、本気で言っているらしい。それだけカンピオーネの威明を評価していることだろうか。業界関係者の中では恵那が一番自分との距離が近い。その影響を最も受けるのもまた清秋院家だろうから殊更に配慮していると言うのはあるかもしれない。

 

「それで、お呼び出しとのことですが、私に一体何を…」

 

そんなことを政治分野に殊更鈍い頭で考えていると、先ほどより少しだけ緊張の籠った声音で問いかけられる。応じて益体の無い思考を打ち切り、今日の本題へと意識を向ける。元よりそのために来たのだ。

 

「そうですね。具体的になに、と改めて問われると言葉にし辛いんですが……まあ、一言で言うとケジメを付けに来ました」

「ケジメ、でございますか? それはあの子に関わることと考えても?」

「そうなります。あいつの身内である貴女とは色々と話しておかなきゃいけないことがあるので」

 

あらあらまあまあと期待と喜びが混じる声を漏らす当主。恵那とケジメ、この二つのワードが揃えば当然人生の墓場とか薔薇色の鎖とか諸々想像できるからだろう。清秋院家当主として、恵那の祖母として、両方の立場から彼女にとって慶事に違いない。

 

まあ、その想像は外れていない。それだけでもないのだが。

 

「先に言っておきますけど多分いま考えていることの斜め上の話になると思いますので」

「…単純に喜べる話では無いのですね。畏まりました、謹んで拝聴いたします」

 

ストレートに喜色を顕した表情から一変、謹厳とすら言っていい面持ちに変わる。合わせて雰囲気が一気に真面目なものになり、自然と将悟の身も引きしまった。表情、佇まい一つでガラッと雰囲気を切り替える。流石は日本呪術界を代表する四家の一角、清秋院家当主と言ったところか。こうした威厳は王などと呼ばれていてもまだまだ将悟などの若輩には持ちえないものだ。

 

「あいつから聞いているかもしれませんが、前にまつろわぬ弁慶とやり合った時、俺はあいつと権能による契約を結びました。歳を食わなくなったり、傷を負っても治るのが早くなったりと色々と厄介かつ便利な力ですが…こいつの本質はもっと別のところにあります」

 

そのまま話し出すのは輝ける太陽の絆、互いが互いのために命を懸けられる信頼関係を最低条件として発動する加護の権能だ。一見無害な権能に見えるが、見方によっては人生設計に洒落にならない影響を与える厄介な絆でもあった。

 

清秋院蘭は黙って話を聞きながら、時折頷いている。話を頭の中で整理しているのだろう。

 

「太陽に由来する加護の権能。こいつは時間経過に伴って太陽の神力を俺からあいつに少しずつ送り込み、あいつ自身の力を成長させています。無理やり例えるなら肥料の溶けた水を植物にやって成長を促進させる感覚が近いかな?」

「…それだけならばさして問題がないように聞こえますが、赤坂様が殊更強調するからには違うのですね」

「ただの成長ならいいんですが―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしてこの成長は俺やあいつの意思では止められません」

 

その自然ならざる歪な成長をなんと表現するべきか、将悟は迷う。

 

「成長限界の突破…霊格の向上? …いや、いっそ()()()()()()()()()()()()と言った方が近いか」

 

言葉を探している将悟は嘆息を込めて、恵那の祖母にできるだけ感情を込めずに伝えていく。

 

「この先あいつは神がかりが無くても神獣と伍し、媛巫女の先祖になった神祖と同格の存在に先祖返りするでしょう。戦う、という一点なら神祖でも上位に入るかもしれない。そんなことが出来るのはもうまっとうな“人間”とは呼べない。少なくともそう認める奴は少ないでしょうね」

 

自身天変地異に等しき権能の所有者である将悟だからこそその発言には説得力があった。

 

将悟こそカンピオーネと成り上がってからはもはやある種の天災と見做され、まっとうな人間扱いされていない筆頭でもあるのだ。将悟自身はそういった周囲の対応に対して思うところは無いし、さんざっぱら周囲に迷惑をかけてきた経験からこの待遇も止むを得ないと納得している。だが恵那自身が、また恵那の身内が納得できるかはまた別の話だ。

 

「俺の権能で、あいつを人間以外の何かにしてしまった。今日はそのことをあいつの…恵那の身内である貴女に報告に来ました」

 

視線を真っ直ぐに清秋院蘭に向け、憚ることなく見据える。

 

「―――ただ、さっきはケジメを付けに来たとは言いましたが、謝罪に来たわけじゃないんです」

 

静かに、自責の念ではなく決意を言葉にして伝えていく。

 

「俺はあいつと絆を結んだことは全く後悔してない。貴方が何を言ってもこの約を破棄するつもりはないし、俺が死ぬまで一緒に付き合わせます」

 

目に宿る光は断固たる、というに相応しい硬質なもの。応じて見返す清秋院蘭の面持ちも固く、その視線は将悟を射抜くかのように鋭かった。

 

「神様との喧嘩にも連れていきます。出来るだけ努力はしますが、死なせるかもしれません。その時後悔するかもしれないけど、覚悟を決めたつもりです」

 

宣言する。

 

恵那(あいつ)を貰います。今日はその挨拶に来ました」

 

そう、言葉を締めた。もっともすぐに咳ばらいを一つしてから。

 

「正直刺されても文句は言えないと自覚してますが、祝福してくれると嬉しいです」

 

と、少し居心地悪そうに付け加えたけれど。

散々な仕打ちを孫にしているというのに祝ってくれ、という虫のいい願いをするのが気まずく思ったのだろう。

 

『……………………』

 

そうして硬い雰囲気のまま一秒、二秒が過ぎ…。

 

「―――律儀ですねぇ、羅刹の君ともあろう方が」

 

フッと嘆息した清秋院蘭の発言で、緩んだ。

 

「憚りながら申し上げます。あまり清秋院家の女を舐めないでくださいませ」

 

真っ直ぐに将悟を見つめ、うっすらと唇の端を持ち上げて笑みの形を作りながら堂々と言い切るさまはいっそ不敵ですらあった。

 

「あの子は武家の女として育ててあります。戦場で骸を晒すのも、神殺しの君に付き従うのであればやむを得ぬこと。ましてや当主である私やあの子がそれを恨むなど…」

 

お門違いも良いところですわ、と不満そうだ。色々と予想外な発言に、流石の将悟も応じる言葉に迷う。詰られたり、あるいは受け入れられる流れも考えていた。だが私たちを侮るなと憤慨されるのは想定の外だ。

 

「それに御子を授かれないわけではないのでしょう?」

 

そうなると少し困るのですが、と頬に手を当ててあっけらかんと問いかけてくる当主に何とも言えない表情で子供は問題なく出来ると返す。世にある夫婦はみな両親から子供をせっつかれたときこんな微妙な気分を味わっているのだろうか…と自問し、いやこれは何か違うのではと疑問混じりに自答を出した。

 

「でしたら当家としては否やはありませんわ。流石に婚姻を結ぶのは赤坂様の御年齢から不可能ですので…今は、内縁の妻ということで」

 

と、あまつさえ己と恵那の結婚を既定路線のように話を勧めさえしてくる。

 

「…えーと、それだけですか?」

「はい、それだけです」

 

もうちょっとなにかあるんじゃないのか、と疑問を含めた問いかけに老婦人はどこか可愛らしささえ覗かせながらにっこりと頷く。

 

「本当は多少ご不興を買おうとあの子を大事にしていただくよう懇願するつもりでいました。ただ、今のやり取りでその必要はないと感じられましたので」

 

安心したのだと、彼女は言う。

 

「実際、御家としては良縁極まりないとしか言えないのです。羅刹王と婚姻を結ぶ利益は計り知れず、こうして深い配慮を見せていただける程にあの子を気に入って頂けているのですし。何よりあの子が心の底から惚れぬいた殿方です。反対する理由など何一つなく、反対したらそれこそあの子のタガが外れかねません」

「タガ…?」

「必要なら家を出奔しても貴方様と連れ添おうとしたでしょうし、そのくらいの気概が無ければ私から蹴り出していました」

 

物騒極まりない発言をにこにこと何でもないことのように言い切る。第一印象の上品そうな老婦人像がガラガラと崩れていく音を幻聴で聞きながら思った以上に奔放過ぎる発言に頭痛を覚えた。この孫にして…ではない。逆だ、この祖母にしてこの孫ありなのだ。

 

だが同時に思った以上にこの老女に対して親近感を覚えている自分に気付く。なるほど、恵那の言う通り彼女と自分は大分馬が合いそうだと得心する。気のせいでなければ清秋院蘭も似たような感想を覚えたようで、どこか共犯者を見つめるような悪戯っぽい視線を向けてくる。将悟の身内にまたしても曲者すぎる傑物が加わった瞬間だった。

 

「そもそも連れ合いとなる殿方が出来るか危ぶんでいた子だったので。清秋院家当主としては御子の一人を跡継ぎとして迎えることを許してくださればあとは一門挙げて慶事を祝うだけですわ」

 

奔放過ぎる孫を憂えていた名残を見せる清秋院蘭に思わずああと頷く。清秋院恵那は類稀な美少女であり、媛巫女筆頭の位を持つ優秀な術者だ。だが異性として評価した場合、その癖のあり過ぎる性格と相まって相当な難物であるのも確かである。言ってはなんだが蓼食う虫も好き好きの蓼なのだ。尤もそんな癖のある彼女だからこそ将悟が惚れたのだから、結果だけ見れば最良の縁を引いている。

 

「とにもかくにも話が纏まったからには、時機を見て公表いたしましょう。羅刹王の婚姻ともなれば日本を揺るがす一大事。御家としても内々の話で進めるわけにはいきませんし」

「……当人としてはもう少し控えめでも全く構わないんですが」

「恐れながら申し上げます。女にとって結婚は人生の一大事。であれば華々しく、盛大に盛り上げるのも当家の器量というもの。許していただけるならば孫の門出を盛大に祝わせて頂きたく存じます」

 

恐れながらと言いながら臆したところは全くない老女傑の進言にそんなものかと首を傾げる。正直恵那ならば宴の規模が大きかろうと小さかろうと気にするとは思われないのだが、女心などちっとも分からない自覚がある将悟としては否定できる論拠が無い。

 

「そんなものですか」

「そんなものです」

 

狐につままれた気持ちで問うと至極当然だとばかりに答えが返ってくる。ならば仕方があるまいと思わず頷く、恵那に与えた数々の不可逆的な変質も負い目となった。まあ結婚が可能な年齢になるまであと数年の猶予もあるのだし、と高を括って了承するのだが将悟は名家の底力というものを甘く見ていた。まず婚約が決まった祝いの宴、その後も定期的にお題目を付けては開かれる宴に早々に嫌気がさすのはそう遠い未来ではなかった。

 

とはいえそんな未来もいまは見えず、首を傾げながらも長くなる付き合いの始まりとして改めて挨拶を交わす。

 

「改めまして、赤坂将悟です。これからは身内としてよろしく」

「羅刹王と縁戚となれるなど望外の栄誉です。こちらこそ末永くお付き合いをお願いいたします」

 

表面上全く問題のない、笑顔と笑顔のやり取り。だがどこか二人の間には共犯者めいた空気が漂う。それは危険性からニトロに例えられる少年と、そんな少年と殊更に馬が合う精神性を持った老女傑だからこそ醸し出せる雰囲気だったのかもしれない。

 

さておき。

 

清秋院蘭、後年日本呪術界を二つに割る赤坂将悟の陣営における重鎮中の重鎮。首魁たる少年と公私ともに関係が深い清秋院家当主として広く知られることとなる。そんな老女傑との出会いは概ねこのような次第から始まったのだった。

 

 

 

 


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