シド達が3階にたどり着くと目の前には豪華なドアがあり、それを開けて中へ入り込むと、すでに逃げ込んだ逃走者たちがくつろいでいた。
「ここは…?」
「私の学園長室ですよ」
眼鏡をかけた男性が3人に優しく声をかける。
「私はシド・クレイマーです。皆さん方逃走者のイデアは私の妻です。そちらのシドさんにはお世話になったようで」
「ははぁ、あんたがか。本当に妙なところで縁もあったもんだな。俺もシドってんだ、シド・ハイウインドだ。よろしくな」
2人のシドはがっちり握手を交わした。その間ラーサーとミンウはほかの逃走者たちに声をかけていた。
「皆さん無事なようで何よりです」
「とーぜーん、ユフィさんはこんなの朝飯前ってもんよー」
心の中であなたはずっと隠れてただけですよねとラーサーは苦笑しつつも、よかったですと一言だけ返した。
「あんたも王様なの?」
「はい」
リルムが彼に興味を持ったようで話しかける。
「あんたもホープとおんなじで小さいね…」
「僕は僕ですから。そのうちきっと伸びるでしょう。エドガーさんみたいに」
爽やかな笑顔でリルムの毒舌を受け流す。リルムにとって男の身長は重要そうである。
「ふ~ん…こっちの王様と全然違うね~」
ラーサーの爽やかな笑顔とエドガーを見比べながら、リルムが冷たい視線をエドガーに送る。
「何を言う、女性に対しては常に優しく接するのが世のマナーなのだよ、なぁユフィ」
「そうそう、アタシにこんな協力的な人はいなかったよ。それに王様ってやっぱり金持ちだしね…イヒヒ」
エドガーにすり寄るユフィ。残念ながら彼女にはお金しか見えていないようだ。
「金で釣ったか、このロリコンが…」
ファリスがため息をつきそれには全会一致で採決がとられた。エドガーはただのフェミニストだと主張するが、聞くところによると10歳のリルムにもアタックをしかけたらしい。全員がそれはどうなんだろうといろいろ心の中で突っ込みつつも、ただ言えることは、逃走中のことなど忘れ終始リラックスした様子で皆が会話を楽しんでいた。
だが階下ではまだ地獄を見るものは少なくなかった。パンネロは行動こそが成功すると信じトンネルを駆け抜けていた。だが彼女の正面からはハンターが迫っていた。
「っ!?」
お互いが気付きパンネロは反転して逃げようとする。ハンターとの距離は十分あった。だが一本道の中、足の速いハンターにかなうわけもなくそのまま捕まってしまった。
「ふぅ…っ…ここまでか」
大きなため息をつき終わりの瞬間に浸るパンネロ。だがその顔には悲壮感はなくかえって清々しささえ感じるほどだった。
「動いて捕まっちゃったならしょうがないや…」
Rrrrr!Rrrrr!メールだ。
「パンネロ確保。残る逃走者は11人…まずいわ…」
先ほどまでパンネロと行動していたリディアは相当焦っていた。一体何人が3階にたどり着けたのかという連絡はないのだが、5分も経過していれば何人かはきっとたどり着けているに違いない。駐車場の入り口の影からハンターの動向に細心の注意を払う。だがこの包囲網を潜り抜けてエレベーターにたどり着かなくてはいけないのだ。それも制限時間内に。残りの時間はわずか4分。
(アーロンさん…さっきから静かなまま…でも私が勝手に動いたらパンネロと同じように捕まってしまう…)
葛藤に悩まされるリディア。だが一緒に行動をしていたアーロンは冷静だった。彼はすぐ近くを過ぎ去っていったハンターの動きも確認しつつ、図書館付近にいるハンターの動きを注視した。そしてついにその時は来た。
「行くぞ」
「は、はい!」
アーロンの一言で彼女は進みだした。3階へと通じるエレベーターは目と鼻の先まで迫っている。
残り3分、イデア達はまだ茂みの中に隠れていた。まだ視界に捉えているガーデンの入り口方向に向かっていくハンターを見つめながら。だがここでエリアが茂みから出て一目散にエレベーターの方向に走っていくのが見えた。
(どのみち捕まるなら動いた方がよい…、そういうことですね)
覚悟を決めたイデアも走り出す。エリアとの距離は30mくらい離れていた。それでもただ前を見つめて走ると、2人はゲートを超えてホールにたどり着く。目的のエレベーターまではもう目と鼻の先まで来た。だが彼女らはわき目もふらずに走ってきたためか、また人が多くいたためか近くにハンターがいたことにも気づかずにいた。その駆け抜ける音にハンターが振り返ると、エリアがちょうど駆け抜けていくところを目撃、追走した。だが別のターゲットが視界に入った。イデアだ。
「はぁっ…はぁっ…、ッ!?」
ただでさえずっと走ってきたイデアにもう躱すほどの体力すら残っておらず、ハンターは優しくその肩を触れ、彼女は確保されたのだった。ハンターは続けざまにエリアを狙いに行ったが、彼女はすでにエレベーターのボタンを押していて、イデアが確保されたことさえも気付かずそのままエレベーターで3階に向かっていたのだった。
「っ…はぁっ…残念です…、エリア、私の分までよろしくお願いします…」
イデアはそう言い残して3階へ移動するエリアが乗るエレベーターを見つめていた。
残るリディア、アーロンはこのすぐそばまで迫っていた。今イデアを捕らえたハンターがもう少し遠ざかってから一気に行く予定だったのである。そこにいるハンターがこっちに戻ってきたら2人とも隠れる場所はなく絶望的である。時間ももうわずか一分とわずかだ。
(お願い…あっちに行ってちょうだい…)
リディアは必死に祈るが、虚しくもハンターは図書館側のほうに向かってきた。
「リディア、ベンチの下に隠れていろ」
「え――」
「―――」
アーロンはそう言い残すと図書館方向に走り出す。ハンターはそれに気づき走り出した。ハンターはベンチ下のリディアに気付かずそのままアーロンのほうに突進していった。アーロンの足はそこまで速くはない、が幾分かの距離を稼ぐことができ、リディアはエレベーターの階段を駆け上がる。エレベーターのボタンを押し、3階から降りてくるのを待つ。ちょうど60分が経過し、ガーデンの生徒たちが一斉にサングラスを装備すると、エレベーター街のリディアに突進を仕掛けてきた。幸いにもエレベーターのすぐ近くには人はおらず、ぎりぎり間に合うタイミングでエレベーターに乗り込むリディア。
「助かったのね…」
そう呟く彼女の頭の中はほっとした気持ちよりもずっと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「最後のアーロンのかけてくれた言葉…『これはお前の物語だ。捕まって楽になるか、逃げ延びて辛い思いをするか…それを決めるのはお前自身だ』…か」
守ってくれたのはすごくうれしいことであった。だがその代わりに自分を犠牲にしてしまう…リディアには幼少期から周りにそんな人が多くおり、そのたびに悲しい思いをした。だからこそ自分がもっともっとしっかりしなければいけないと思っていた…その矢先だった。
「ありがとう…アーロンさん…本当に……あり、が…とう」
3階に着くころにはリディアは完全に泣き崩れていた。とにもかくにもこれでイベントは終了することになった。すでにミッションクリアしていた女性陣(となぜかエドガー)が彼女をなだめさせに来た。
「まぁまぁ、じきに収まるさ」
ファリスが彼女を撫でながら優しく言った。
「別にアタシは悪いこととは思わないよ。助けてもらったならそんな申し訳なさそうにしてなくてもいいんだって」
ユフィも彼女を励ました。
「そうそう、姉御もくの一もそう言ってることだし、元気出して!」
リルムも彼女を元気づけようとした。
「「「だからエドガー(色男)は引っ込んでて!!!」」」
三人の女性に口をそろえて突っ込まれたためエドガーは肩を落としながら退場していくが、リディアもこれには吹き出してしまった。
「うん…そうね、ここで終わりじゃないものね…」
涙を拭いてリディアは立ち上がった。リディアが学園長室に入ると、男性陣が拍手で彼女を暖かく迎えた。逃げ切った逃走者全員が揃うと学園長のシドがモニターを取り出した。
「やぁ、俺がラグナだ。さっきのメールの通り君たちをこのラグナロクに招待しよう。またこの通信はそっちの声も聞こえるようになっているから質問をしてくれても構わないぞ」
「はい、僕たちはその飛空艇に乗ってその後どうするのでしょうか?」
ラーサーからの質問にラグナは「いい質問だ」と大げさなポーズをとって答えた。
「この飛空艇で逃走してもらいたかったんだが、いかんせんそこまで大きな設備じゃないんだ。だが君たちが最初に神羅カンパニーの飛空艇に乗ってきただろ?それと同じような改造がこの飛空艇にもされてある。つまり、君たちを別会場に連れて行って、そこで逃走してもらう予定だ」
メンバーがざわめいた。
「その会場はどこなのさ?」
ユフィが率直な質問をラグナにぶつけた。
「まだ会場は秘密だ。それにまだ逃走者全員集まったわけじゃない、全員揃ったら発表するさ」
「全員ったって、3階にいる俺らで全員のはずだぜ」
シドがみんな思っていることを代弁するかの如く聞き返す。
「とりあえずこれを見てくれ」
ラグナが画面を切り替えるとそこにはすでに捕まっていた逃走者たちが映った。
「これから捕まった逃走者たちの延長戦だ。この中から2名復活したのち別会場に移動するぞ!」
3階に逃げ切った9人が見守る中、こうして新たなる戦いが始まったのだった。
次回、早々に散っていった逃走者たちが活躍する…かも?なおリルムのあだ名 ファリス→姉御 になりました。他の人のあだ名も随時出すかも。アーロンのリディアに対するセリフは今回に合わせて少しばかり改変してあります。エドガーは安定のエロガー路線です。