捕まった逃走者たちはガーデンの入り口にいた。全員檻から出ると、イリーナが説明を行う。
「今からあなたたちには食堂の購買のパンを手に入れてもらいます」
「食堂のパン?」
「ええ、ここのパンはなかなか入手できないくらいおいしいらしいわ」
「そうなんだぜ、俺も毎回チャレンジするんだがいつも手に入らないんだぜ」
「うわ…」
イリーナの解説に涙を流しながら納得するゼル。だがアーシュラはおろか、ほかの逃走者でさえもドン引きするくらいだった。もちろんイリーナはゼルをスルーしながら話を続けた。
「食堂には2つのパンがある。そしてたどり着けた者の中で先着2名にはゲームに復帰する権利を与えます」
一同の目の色が変わった。前半の無念を晴らすべく挑むつもりでいるのだろう。
「パン…おいしそうアル」
「おれ、すき、パン」
ガイとクイナはパンの魅力に取りつかれたようだ。どうやら復活するためだけにミッションに参加するものだけではないのかもしれない。
「そんで俺達はこっから走っていくのか?」
「それもそうですが、君たちにはこれをつけてもらいます」
イリーナから手渡された防具を装備した。
「…!?力が吸い取られる!?」
つけたと同時に虚脱感に襲われる逃走者たち。
「無理もない、今回のゲームのため特注で作った『ウィークバングル』だ。これを装備すると身体能力の低下はおろか、すべての属性に対しても弱くなる。先ほどガーデンに100人くらいの生徒を配置したが、彼らの攻撃をかいくぐって食堂までたどり着いてほしい」
「もし、攻撃で力尽きたらその時はどうなるんですか?」
無数の魔法攻撃を躱しながら進まなくてはいけない。ホープが心配になって質問をしてみた。
「そんときはウチの出番や」
突如現れたデブモーグリとその上に乗っかっている猫のような生物(?)が現れた。
「ウチはケット・シーっちゅうんや、よろしゅうな」
猫が名乗った。
「君たちのその装備にはある仕掛けが施されていて、戦闘不能になるとこの入り口まで戻され、このケット・シーに手当てされる仕組みになっています。この世界の魔法は擬似魔法と呼ばれており、本物の魔法より威力は低いです。すぐ手当もされるから心配せず行ってくるのがいいでしょう。また勝手にこの防具を取り外すと失格扱いになるので気をつけてくださいね。後のルールは前半の逃走の時と同じです」
イリーナの説明が終わると、全逃走者が一列に並ぶ。数秒後、開始のブザーが鳴り、逃走者たちが食堂に向かって走っていく。先頭を走るのはアーシュラ、続いてゼル、クルルが並んでいる。
「来たぞ、撃てえ!」
彼らを見つけた生徒たちから容赦ない3属性の初歩魔法の弾幕が飛んでくる。
「これくらい簡単に避けれます!っ!?え…!?」
能力が低下し、普段と感覚が違うためか、躱しきれず被弾に驚くアーシュラ、そのまま体勢を崩すと立て続けに被弾。戦闘不能になったためか後続のゼルたちの視界から消えた。だが彼女に気を取られている暇はない。魔法は次々と放たれる。
「この弾幕キリがないぜ!」
「とにかく勢いつけてつっきるしかないよ!」
逃走者たちは慎重に弾幕の中を駆け抜けていった。
「いたたた…」
アーシュラは大の字になって倒れていた。
「お嬢さん、大丈夫でっか?」
ケット・シーが彼女を見降ろしていた。
「ええ、このくらいは…」
彼女がようやくのことで起き上がると次々戦闘不能者が飛ばされてきた。ホープ、ゴゴ、ガイの3人である。
「まぁあの仕掛けじゃせやろなー。それくらいこのイベントは厳しいんやでー」
ケット・シーは伸びている逃走者たちにフェニックスの尾を楽しそうに使っていた。3人もゆっくり目を開け起き上がる。
「あなたたちはどんな攻撃をどこで受けました?」
アーシュラは起き上がった逃走者から情報を聞き出してみた。
「僕たちがやられたのはゲートに続く階段のあたりです、あのあたりはファイア、サンダー、ブリザド中心の攻撃ですね」
アーシュラが倒れたのは最初の噴水の場所だった。だがホープたちはその次まで進んでいたようだが、そのあたりまで攻撃パターンは変わりなさそうだ。ありがとうと感謝しアーシュラは立ち上がった。その間にも次々に戻されてくる逃走者たち、だがその中にゼルの姿はなかった。
(悔しい…あの男には負けるわけにはいかないのよ…!だけど…)
彼女の中でメラメラと燃える何かがあった。ただ悔しさとは違う正体不明の気持ちもまた彼女をいら立たせていた。
一方先頭を走るゼルはゲートまでたどり着いていた。まさに地の利を生かしているといっても過言ではない。そこは休憩エリアになっているらしく攻撃も届かず、ハイポーションも支給される。彼がハイポーションを飲みつつ作戦を練っている中ゲートにたどり着く者がいた。次に走っていたクルルである。彼女は素早い身のこなしで魔法の弾幕攻撃もなんとか避けながらいた。
「あ、ハイポーションだ!」
クルルが喜びながら一気に飲み干す。失われた体力が回復される。
「お前、なかなかやるじゃん」
「あなたもね」
お互いを認め合う二人。
「だけど、これはまだまだ序の口みたい。鳥さんが教えてくれたのだけど、この先には相当な手練れがいるみたいよ」
「まぁそうでなきゃ張り合いがないよな、行くぜ!」
クルルは自身の能力を生かし情報を収集したようだ。二人はガーデン内部へと覚悟をもって踏み込んだ。ガーデン内の両側の水上にはボートがあり、そこにはゼルの知っている顔がいた。
「シュウにニーダ!?」
「やぁゼル、元気みたいね!でもここでおしまいよっ!」
シュウという女性はゼル達にファイラをお見舞いする。
「僕だって影は薄いけど、できるのを証明してみせる!」
ニーダという男性も続けざまにブリザラを発動。他の十数人ばかりのシード達もラ級の魔法を次々に放ってきた。だが瀕死の状態になりながらもかろうじて2人は耐え、食堂の方へ向かう。だが保健室の脇でさっきのバンドのメンバーが集まっていた。固まるゼル達にセルフィ、キスティス、アーヴァインが立ちはだかる。
「まじかよ…」
「行くわよ、みんな」
「ロケットランチャーで粉々に爆破しちゃうんだから!」
「セフィ、魔法以外厳禁だよ」
セルフィの本気か冗談かもわからない過激な発言に青くなるゼル。3人は冗談を交わしつつも互いに合図を送ると自分たちに魔法を放った。「「「トリプル!!」」」
「逃げるぞ!」
「え、あ、うん!」
魔法の効果がわからないクルルはきょとんとしたままゼルに腕を引っ張られて撤退しようとする。
「逃がさないわ、ブリザガ!!」
「どっかーん!ファイガ!」
「走れ稲妻、サンダガ!」
後方へと逃げる彼らの背中に3人は容赦なくガ級の魔法を乱発し、そこで彼らの意識は吹っ飛んだのだった。
ゴゴは一度やられた後、戦闘不能になり帰還してきたクイナと一緒に行動していた。
「あの時に見た忍者の動き、ここでものまねをしてみよう」
一度目の失敗後、ゴゴは忍者のものまねをしていたためか初級魔法の回避には難なく、クイナも攻撃パターンを二度目でわかっていたためか、たくさん食べてエネルギーをここで発揮し、動きにキレがあった。
「お前なかなかすごい躱し方だな」
「アンタもなかなかやるアル」
降りしきる弾幕を躱しきり、二人はそのままゲートにたどり着くとホープ、アーシュラ、アーロン、そしてイデアがいた。
「お前らここで何やっているアル?」
「この先で食堂へ行く方向から爆音がしたのでどうしたものか考えていたところです」
イデアが丁寧に答えた。
「このまま迷っていてもしょうがないアル、ワタシはつっきるアルね!」
「お前の真似をしてそのままついていくとしよう」
「やめといたほうが…あ…」
ホープが制止しようとするものの2人は飛び出ていき、四方から迫るラ級の魔法の餌食となった。爆煙が彼らのいた場所を覆った。
「やっぱりダメでしたか…」
みんなが落胆する中アーロンはまだその先を見つめていた。
「まだ終わってはいない…」
アーロンの言葉を聞き驚いたように皆が見つめると無事に走っている二人を見つけた。先ほど彼らが見せた回避の技はまぐれではなかったようである。だがそれも束の間、バンドの3人組にガ級の魔法の乱れ打ちを喰らいそのままジエンドとなった。すさまじい爆音はこの4人の所まで響き渡った。この能力を劣化させる防具がなくても戦闘不能になりそうだ。
「どうやら左に曲がるといくら最短距離と言えども強力な魔法が飛んでくるみたいですね。実力を持つシードの攻撃はたぶん耐えきれませんわ」
イデアの分析に全員が頷く。
「今の音何だったのー?びっくりしたよ!」
後方から追いついたパンネロが4人に話しかけた。
「この世界の魔法の中でも強力な魔法が炸裂したのですよ」
イデアが答えた。その直後パンネロに続いてアーシュラ、ノエル、ガイもたどり着く。
「よう、みんな集まってるな。作戦会議か?」
「ええ、最短距離の左側に行くと文字通り黒焦げにさせられるのでどうしようか考えていたのです」
ノエルの質問にイデアが答えた。相談してあれこれ出た意見をホープがまとめる。
「僕たちの進路は右に曲がって遠回りして食堂を目指します。人海戦術で突っ切りましょう、いいですね!」
一同は士気を高め迫る決戦の時に胸を高鳴らせていた。
一方ゼルとクルルはトンネルを通っていた。
「食堂を目指すだけならわざわざあんな弾幕をかいくぐる必要はないだろ」
「ほんとね、ここは誰もいないからとっても楽ね」
彼らは駐車場を経由して食堂へ行こうとしているようだ。イリーナも食堂へ行くのにこの場所を通ってはいけないとは言っていない。実際に止められもしなかった。
「あいつらもよく中央を突っ込んでいったもんだぜ、この勝負もらった!」
「あれ、向こうに誰かいない?」
前方にはたった一人だが人がいた。微動だにしない人影にそのまま近づく。ゼルはその少女の正体がわかると固まりつく。
「リノ…ア……!?」
「やぁ、ゼル。こんなところで何をしてるの?年下の女の子とデート?」
リノアという少女は微笑んで2人を見つめていた。彼女の冗談にもまともに返せないほど彼の頭の中は真っ白になっていた。一番考えたくない状況が起こり得るかもしれないからだ。
「お前…その、ここにいるってことは…」
「うん、そのまさかだよ」
彼女はそう言うと大きな翼を広げ飛び立った。神々しい光が彼女を包み込む。
「やべえ、逃げるぞ」
「え、ちょ、ちょっと!」
ゼルはクルルの腕をつかんでもとにいた方向へと走っていった。
一方イリーナは一つ重要なことを言うのを忘れていたのを思い出した。それはゼル達がトンネルの方向に向かっているときにちょうど思い出したのだ。この世界の魔法は擬似魔法であることは言った。だがトンネル内部にいるリノアの必殺技ヴァリー…、魔女の力を発揮することができる技により、彼女の使う魔法は本物の魔法で、かつ威力は桁違いと言うのを忘れていた。
(まぁいっか、あの道はずる賢い人たちをはめるための罠のようなものだし、せっかくしかけたのだから引っかかってもらわないと困るからね)
そう思いながら吹く風に耳を傾けた。その直後にトンネル方向から大爆発する音が聞こえたが、回復手段もあることだし放っておこうと考えたのだった。
「ケット・シー。重症患者が来るから後はよろしくね」
「はいなぁ!」
猫の手を借りたいわけでもないが、爆発の直後の静寂に彼女は浸っていたかったのだった。
3階にいる逃走者たちは各逃走者別々に映し出されるモニターに食いついていた。容赦ない学生たちの攻撃に「これは無理だろ」の声が多く見られた。だがそんな中でもミンウはリノアの放った魔法を食い入るように見ていた。
「この魔法は…!」
「アルテマですよ」
学園長のシドが答えた。
「私の知らない間にこんなにアルテマの魔法の技術が上がっていたとは…」
ミンウは感動していた。かつて驚くくらい威力の低い魔法だったのにここまでの威力を誇る魔法に成長していたことに。
「私たちの世界にもアルテマはあったよ、ねぇ色男?」
「ああ」
ミンウはこれも時代の流れなのかと一人呟いた。
「こらフェニックスの尾だけじゃあきまへんわぁ」
ケット・シーの音声がモニターから聞こえてくる。そして画面はフェニックスの尾を使っても完全に伸びている2人から切り替わりゲート付近の7人を映し出した。
「たぶんここで奴らは決めに来るだろう」
シドが呟く。他の逃走者も声は届かないけれども必死に応援していた。パンを獲得できるかどうか、勝負は佳境に入っていた。
リノアここで名前を出せてよかった!ところでヴァリーとは?リノアの必殺技で魔女の力と使って魔法を使うためこの世界の通常の5倍の威力で魔法を使えます。(ヴァリー+メテオがアルテマよりも最強)余裕のオーバーキルですね。また戦闘不能の時のアクションは「ファイナルアタック」と「りだつ」のマテリアの組み合わせです。(詳しくはFF7をやってみよう!)なおアルテマを使った後もトンネルは崩落していません。ゲームの地形ってある意味無敵ですよね。