ノエルは屋敷の中に入り、部屋の奥へと向かっていく。絵画が並んでいる部屋にたどり着くと、女優マリアらしき女性が鎖につながれているのを確認した。ノエルは近づくと無意識のうちに言葉を口走っていた。
「ふむ……このまま眺めているのもいいか…」
「ちょっと、何言ってんのよ!」
陰に隠れていたリディアが突っ込む。はっと意識を取り戻した彼はしどろもどろに答えた。
「いや…うまく説明できないんだが、何かが俺にこう言えと…」
無意識のうちに口走っていたことなので言い訳もどことなくおかしい。
「わけわからないことを言っていないで早く助けなきゃ!」
大事な時に、また女性に向かって何を言っているのかと、彼女は憤った。彼は鍵で鎖を外すとマリアはようやく自由に動けるようになった。
「ありがとうございます。私、劇場に行かないと…」
「ああ、俺が連れて行こう」
「私も行くわ」
見つかりやすいリスクは生まれるが、役割を分担することでマリアを送り届けやすくなる。
「僕も行きます!」
突如背後から声がし、振り返るとラーサーが立っていた。
「お前、無事だったのか」
「正直もうだめかと思いましたが、シドさんのおかげで何とかなりました」
「あの人は本当に頼りになるな…次は俺達の番だ」
「シド…、本当にありがとう…」
3人はシドに心から感謝しているようだ。
「とにかく、この人数のままでいくとハンターから狙われやすくなる。俺とラーサーで哨戒と囮をやってリディアが連れて行くというのはどうだろう」
二人から異論がないのを確認すると、ノエルとラーサーは彼女らより先行しハンターの警戒を行った。ミッションクリアまで大きな一歩だ。
オペラ劇場にいるミンウたちは客席に静かに潜んでいた。二人はステージから舞台袖へと移動するハンターの動きを追っていた。ミッションには参加していない2人ではあったが、ミッション達成の要素の一つに、ここにいる金髪のハンターが絡んでいるとなると、その情報を知っている自分たちは少しでも他のメンバーの役に立つのではないかと考えていた。
「あれが劇場限定で動くハンター…きっと他のメンバーはマリアを連れてくるころだろう。あいつがいる限り私達が捕まるリスクも増える。だからこそ…」
「これが私たちにできる最善の策なわけね」
先ほど彼はこんな話をした。二人一緒にこのゲームに最後まで挑まないかと。それは彼女の自首を否定する意味を持っている。だが彼女はその提案に快諾した。旅をするためにお金が必要、それが彼女のゲームの参加意義であったのだが、ミンウ同様にその意義が変わってしまったからである。あまりミッションに乗り気でなかった二人ではあるが、彼ら自身も安全を確保するためには動くことが重要だと判断したのである。エリアは携帯電話を取り出すと、電話をかけた。相手はラーサーである。
「もしもし」
「あっ、エリアです。ミッションには参加していますか?」
「もちろんです、今マリアさんと屋敷を出たところです」
彼女の読み通りミッションに一生懸命参加しているラーサーはきっとマリアを連れてくるだろうと考えていたのだ。
「大体どのくらいかかりそうですか?」
「警戒しているので少し時間はかかるかもですが、遅くても5分もあればオペラ劇場に着くでしょう」
「私たち今その劇場にいるんです。金髪のハンターも今見えています。このままですと劇場の入り口あたりに現れると思います」
「情報ありがとうございます、それでは」
「道中お気をつけて」
連絡を終えたエリアにミンウは微笑む。それはさながら二人の共同作業にも見えた。そんな背後から接近していた者に気付かず…。
「っ!?」
ミンウが驚きエリアの手を取り逃げようとする。
「おいおい、俺は仲間だぜ?」
シドが両手を上げて肩をすくめていた。二人はほっとして肩を下ろす。
「街の様子はどうなっている?」
ミンウは情報を集めるためシドに尋ねた。
「こっち専門のハンターがいるせいか、向こうにハンターが集中してるぜ」
エリアはお礼とばかり今知っている情報をシドに伝えた。
「さっきラーサーに連絡したら、マリアさんを連れてこっちに来ているそうです、このまま無事につけばちょうど入り口でそのハンターと遭遇することでしょう」
「そんなら問題ねぇな」
シドは安心して答えるとすぐ彼らに背を向けて行こうとする。
「あ、あの、シドさん?もう行ってしまわれるので?」
「ああ、俺がいたら二人で協力するってのが台無しだろ?」
彼女はそれを聞き頬がほんのり熱くなった。どうやら二人の話をいつからか聞かれていたようだ。
道具屋にいたファリス達は店を出て移動しながら話をしていた。向かっている先は道具屋に隣接する大きな屋敷だ。
「俺には妹がいてな、あいつはずっとお姫様をしているから俺よりも上品で、か弱いんだ。だがあいつは大事だと思うことは全部体を張ってでも守ろうとするんだ」
「強い方ですね」
アーシュラはファリスの妹の話に感心していた。二人はどうやら身内話をしているようだ。
「そんな妹がいたから今の俺があるって感じるんだ…。お前はどうなんだ?」
ファリスが尋ねると、アーシュラは少しだけ考えてから答えた。
「私は、きょうだいはいません。でもいるとすれば弟分の存在はいます。彼は王子なんですけど、自分に自信を持っていなかったんです。だけどある旅をしてからは、いつの間にか吹っ切れて自分の力を出し始めたように強くなったのです」
私もそうなりたいとアーシュラは付け加えた。きっと彼女が自首をせず逃げ切りたいと思うのはそんな体験が背景にあるからなのかもしれない。せっかくなのでアーシュラにもう一つ質問をぶつけることにしてみた。
「そうか…ところでさっきクルルに聞いたんだが、その王子とゼルだとどっちがいいんだ?」
「っ!?な、何を言うんです、急に!ゼルは関係ないでしょう!?」
顔を真っ赤にして動揺するアーシュラ。思いがけない単語の登場に慌てていた。
「なぁに、試しに聞いてみようと思っただけさ。さっき仲良くあいつとも握手したらしいじゃん?」
「な、仲良くなんか…」
どんどん言葉に詰まってくるアーシュラ。
「あー、はいはい。よーくわかりましたー」
「――ッ!!」
アーシュラが真っ赤になりながら涙目で訴えるのでファリスは追及を止めた。思春期とは本当にわかりやすいものだ。そんな彼女らの近くを歩くハンター。彼女らは近くのハンターに気付かず屋敷の扉を開け中に入る。数秒遅れてハンターもその扉の前に来たが、運よく彼女らを見逃して去っていった。アーシュラが思いっきり声に出して否定をしていたらきっと見つかっていただろう。
マリアエスコート部隊の先頭を走るノエルはアクセサリー屋の先の階段を下ると、ハンターがうろついているのを確認。ばれていないことを確認すると後方を走る3人に別ルートを指示した。
「競売場の裏の階段から抜けよう。マリアのスピードを考えるとそっちのほうが安全だ」
「すみません…あまり足が速くないもので…」
ノエルの提案にマリアが申し訳なさそうに答えた。
「私もそんなに速くないですし、大丈夫ですよ。ノエルってばマリアさんに失礼ね」
「すまない…俺たちの世界はほとんど身内ばかりで、女優とか目上の人っていなくて…」
慌ててノエルは謝るがリディアを少しばかり怒らせてしまったようだ。先ほどの一件からどうも彼女は彼に対して少し厳しい。
「僕は上から回って下の情報を逐一知らせます。通話の準備を」
ラーサーの作戦により、上はラーサーが単独で、下のトンネルルートがエスコートの本体にハンターの位置情報を教える作戦に出るらしい。ノエルは全力で階段を下り、あたりの様子を確認、後方の女性陣もできるだけ速いスピードでその中を走り抜ける。上にいるラーサーは手すりの影からハンターの様子をノエルに教えていた。
「宿のあたりに一人…それから防具屋の裏に一人います」
「よし…じゃあ俺の合図で一気にワープクリスタルに行くぞ」
ノエルが女性陣に伝える。だが、ラーサーの背後にはファリス達を見逃したハンターが迫っていた。ラーサーが先に気付くも、ハンターも気付いてしまい追走される。だが彼は任務のことを忘れていなかった。ハンターから逃げながら、本隊に指示を出す。
「今です、一気に駆け抜けて!」
「よし、走れ!」
ノエルの号令とともに女性陣がクリスタルへと向かう。ラーサーの監視していたハンターには見つかることなく潜り抜け、彼らは劇場へと移動した。劇場にたどり着くと右手側から金髪のハンターがやってきた。こちらに気付きダッシュをしてくると思いきや、ハンターはマリアを見つめているようだった。マリアはそれに気づき声をかけた。
「ダンチョー、ダンチョーよね?」
「ま…りあ……?…マリア!!」
ダンチョーと呼ばれたハンターはサングラスを外すと正気に戻ったかのように目に輝きが戻る。
「すいません、私気付いたら鎖につながれていて…」
「大丈夫だ、さあさ、ゆっくり休みたまえ。それと君たち、マリアを助けてくれてありがとう」
「いやいや、とんでもない」
「どういたしまして」
リディアとノエルも頭を下げた。無事ミッションが終わったかのようにみえた。Rrrrr!Rrrrr!メールだ。
「逃走者リディアとノエルの活躍により女優マリアは無事にエスコートが完了した。ハンターの数は3体に戻る」
「よかった…」
リディアがほっとした表情を浮かべた。だが再びメールが届いた。
「逃走者ラーサー確保、残る逃走者は7人…、あいつ…」
最も重い犠牲を出してミッションを終えたといっても過言ではないだろう。ノエルは歯ぎしりした。通話中ラーサーの足音が急にあわただしくなったような気はしていたが、ハンターに追われていたとは思わなかったからだ。
「あいつ、ハンターに追われながらもミッションに文字通り命を懸けたんだな…」
「ラーサー…ありがとう」
二人は祈るように彼に感謝した。彼の確保の情報はシドにも衝撃を与えた。
「あいつがやられただと!?チッ、納得いかねえ…」
彼にとっては息子同然の存在だった。またラーサーといれば間違いなく最強タッグだと自負できるくらいに。それほどまでに彼の存在はこのゲームに欠かせないものだったのだ。
一方指令室もラーサーの確保が話題になっていた。
「この少年…ミッションの覇者とでもいうべき大車輪の活躍でした…」
「私たちの企画したミッションにこんなに参加してくれたんだ。彼に敬意を払おう」
ルーファウスはそう言うと、ワイングラスを高く掲げ優雅に飲み干した。イリーナはそれを見計らって言う。
「社長、次のミッションですが…」
「まだ発動はしなくていい。最後のミッションは彼のような勇敢な人物がいなければ全員が詰むミッションだ。それまでほんの少しだけ泳がせてあげようではないか」
彼は意味深な笑みを浮かべモニターを注視していた。残り時間は30分、賞金は108万ギル。
「このまま眺めているのもいいか」→セリスとロックのイベント。鎖につながれたセリスのドット絵は必見(←オイ
アーシュラのツンデレはもはや2次創作の域に。FF4TAだと本編後半では空気扱いなのが残念なため勝手なイメージを肉付けしました。
ラーサーは別名ポーション王子なだけあって、逃走者に恩恵をもたらし続けましたとさ。