FF逃走中   作:知恵の欠片

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 逃走成功か、確保か…。最後に笑うのは誰になるのだろか。


最後に笑うのは

 最後の逃走者であるノエルは隠れ続けるべきか、動くべきかで悩んでいた。だが自分のいた世界でハンターをやっていたためか耳は鋭かったので、ドアが開く音がはっきり聞こえた。今残っている逃走者はいない。必然的にハンターであることがわかる。一度じっくり探されたらもうなすすべは無い。もう一度彼は今の状況を整理してみた。ここは宿屋、ベッドなら割と多く存在している。一度逃げるタイミングさえ確保できればこの大量のベッドをかいくぐって追いかけるのは困難だ。

 

(…、そうか!いける!)

 

 彼は何を思ったか彼の部屋の枕をかき集め、部屋の奥の一か所のベッドに詰め込んだ。そして彼は入り口付近のベッドの下に潜り込んだ。ハンターが部屋に入ってくると部屋を探す中で、あるベッドが目につく。人一人分入っていそうなベッドに接近、めくろうとした瞬間だ。

 

(今だ!!)

 

 ドア付近のベッドからすかさず身を出し、ノエルは逃走を図った。ハンターもそれに気づき追いかけるが、ノエルのほうが出口に近く、また先にスタートを切っていたため、また逆に出口からは遠く、ベッドが多く並ぶ閉所ではハンターの強化されたスピードが逆に仇となりなかなか加速ができない。彼は一目散にこの宿から抜け出し、とにかく上を目指した。アウザーの屋敷に再び入ることはできないが、上のほうが街全体の状況を把握するのに都合がよく、またラーサーが屋敷周辺の木々に逃げ込んで、そのまま逃げとおせたことからそのまま隠れることで逃げおおせることが可能だと考えたからだ。彼が階段の方へと向き団の一歩目を上がるやいなや、宿屋のハンターもようやくドアを開けた。彼はなんとかそのハンターの視界からは逃れることができたが、運悪く高所に行ったことで、オペラ劇場からジドールの街に戻ってきた別のハンターに見つかってしまい追撃を受けた。

 

(残り1分30秒…ッ!)

 

 階段を急いで登り終えたノエルはちらと残り時間を確認する。彼が後ろを振り向くと、宿屋からではなく、それよりもやや遠い道具屋あたりからハンターが追いかけてきているのを確認すると、右手に曲がり茂みの中へと駆けこむ。駈け込んでからもスピードを緩めることはなく、その視界の悪さを利用しながら屋敷の裏へと逃げ込む算段だ。だが宿屋から出てきたハンターも、道具屋から競売場を経由するハンターの様子を見て逃走者が上にいるという判断を下し、猛スピードで迫ってくる。2対1という不利な状況になってしまった。彼は屋敷の裏の森の深いところにうつ伏せになる。ハンターからは一番距離を稼げる場所である。荒い呼吸を少しずつ抑え、時間を確認すると残りは1分を切っていた。

 

 牢獄では逃走者たちは静まっていた。たまに盛り上がりを見せるが、先ほどみたいに騒ぎ立てるのではなく、ハンターの行動に時たま声が上がったり、ノエルには届かないだろうが、声援を送るものもいた。その中にはつい先ほど確保されたアーシュラとファリスがいた。アーシュラが必死に祈る姿を見てファリスはふと笑った。

 

「?? 何かおかしいですか?」

 

 アーシュラは怪訝そうに言った。

 

「いや、そうじゃない。俺は今どんな気持ちだと思う?」

「う~ん…、わかりません…」

 

 ファリスはモニターを眺めながら言った。

 

「俺はな、今たまらなく悔しい。もちろんこうして笑っちゃいるけど、本当は叫びたいくらい悔しい。だけどその一方で、俺らの仲間がまだ諦めず戦っている。お前だけじゃなく、ここにいる皆がそう思っている。それがわかって今は、叫びたい自分が抑えられて少しばかりほっとしているんだ」

「……、よくわかりませんが、私の気持ちも例えるならそのような感じになるのでしょうか」

 

 アーシュラも彼女の意見に同意したようだ。彼女らの願いに呼応するかのように他の逃走者も次々に祈った。

 

「できる、にげる、おまえなら」

 

 ガイは力強く彼の逃走成功を祈る。

 

「皆心が一つにまとまってあなたを応援してる…」

 

 リディアは純粋な心で彼の逃走成功を祈る。

 

「お前の物語、見せてみろ」

 

 アーロンは彼の逃走成功を目に焼き付けようとモニターを凝視する。

 

「僕たちが成し遂げられなかったこと…、それがもう達成されるでしょう」

 

 ラーサーはノエルが自分たちの後悔を晴らしてくれると信じてやまない。

 

 彼に声援を送っていたのはここの者だけではない。街の上空から消えていたブラックジャック号は街から少し離れた場所に着陸をしていて、そこではリルムも必死に祈っていた。彼女は先ほどまで自分に自信が持てなかった。彼女の祖父ストラゴスには今までさんざん苦労をかけた。強がって、本当は嬉しくて、悲しくて泣きたいようなことも堪えてきた。ただ祖父はそんな彼女にはとやかく言わずずっと支えてきてくれた。何か形になるお返しがしたかった。だが結果として弱い自分が勝負を諦めてしまったのだ。彼女は本当の自分はどっちなのか、それでずっと悩んでいた。だがノエルの活躍や、他の逃走者を見ているうちにその曇りは少しずつ変わってきた。その心境の変化の中彼女は彼の逃走成功を願っていた。

 

「お願い、あと少しだけだから逃げ延びて…!」

 

 残り時間が20秒を切る。ノエルの近くで落ち葉や枝が踏まれ音が響く。ハンターがどうやら近づいているらしい。ここまで来ては下手に動いて回るよりじっと息を潜めている方が賢明である。とはいっても近づいてくる足音に不安は隠せない。熱くもないのに眉間から汗が流れ落ちる。たった20秒がとても長く感じられた。カウントダウンが始まる――――。

 

――

 

――――

 

―――――――

 

Rrrrr!Rrrrr!一通のメールが転送された。

 

「逃走者ノエル、無事逃走終了。賞金144万ギルを獲得!!」

 

 牢獄内は歓喜に満ち溢れた。

 

「俺…、やったのか…」

 

 いまいち実感が沸かなかったのか、静かに呟くノエル。だが時間の経過とともに達成したという実感が沸いてきた。彼は転移魔法「テレポ」で全逃走者が集まる飛空艇に飛ばされる。確保された逃走者のいる牢獄の目の前に彼が向かおうとすると、脇にはある少女が入りにくそうにしていた。途中で自首をしたリルムだ。彼に気付くと彼女は何か申し訳なさそうな表情をして言った。

 

「あんた…、すごいじゃん…、私なんて…」

 

 落ち込む彼女に彼は気を効かせて言った。

 

「途中で自首したってそれは恥ずかしいことじゃない。君の年でここまで頑張ったんだ。自信を持てばいい」

 

 彼はそう言って彼女の頭をわしゃわしゃ撫でる。

 

「ちょ…、こら、頭撫でるな~!」

 

 彼女はくすぐったそうに身を大きくよじった。彼はそれを見てくくっと笑った。

 

「ほら、ちょっとは元気出ただろ?」

「あ…」

「ほら、行くぞ」

 

 彼女が少し元気出たところで彼は彼女の手を引き一同の待つ部屋へと向かった。中で待っていた逃走者たちは意外な組み合わせで入ってきたのには驚いた。が、それも束の間、二人は祝福された。ノエルはただ謙遜するのみだった。仲間のおかげで勝てたのだと。どの場面でも彼は確かに仲間を引き連れていた。彼と行動して助けられたという逃走者も少なくなかった。そのやり取りをリルムは凝視していた。

 

「おめでとう、ノエル君、リルム君」

 

 突如声がし、一同が振り返ると神羅カンパニーの一同が立っていた。ハンターをしていたレノ、ルード、ツォンもその場に居た。社長はそのまま続けて言った。

 

「君たちは知恵を絞りぬいてこの戦場の中を見事に逃げ切った。これは約束の賞金だ。受け取るといい」

 

 イリーナがノエルには満額の144万ギル、リルムには99万1200ギルが手渡された。二人は大金を手にすると、カメラの前で満面の笑みを浮かべた。再び後方の逃走者たちからも惜しみない拍手が起こり、こうして逃走中の第一回は無事閉幕した。

 

――

 

――――

 

―――――――

 

 ロケから数日後、無事テレビ放映が各地に流れた。テレビと言う技術も世界によっては普及してない場所もあったが、これを普及ついでに放映したので、各地では逃走中に扮したゲームが盛んに行われるようになった。後々神羅カンパニーはこれを機に興行収入を大きく得て、メテオや魔晄炉による星の蝕みを徐々に復興させていった。その放送の最後に述べた社長の言葉で締めくくられた。

 

 

 

諸君、神羅カンパニー社長のルーファウスだ。これで第一回の逃走中はすべて終わった。逃走者の分だけドラマがあったこのゲームはいかがだっただろうか。普段かかわることがないであろう人物が絡むことで、予想できない展開を次々生み出された。それが筋書きのないドラマとなり、視聴者にさまざまな感情を掻き立てただろう。各世界にいる強者、勇者はまたこぞって参加してほしい。そして再び新たな逃走劇の1ページを君たちの手で書き込んでくれたまえ。

 




 ここまで読んでくださった読者のみなさん。ありがとうございました。これで本編は一旦区切り、エピローグを2回ほどいれまして締めたいと思います。やっぱり逃走中を文体だけで表すのは難しく、また狭いマップでどうキャラが動くのかとかハンターはどれくらい速いのか書くのに相当苦労しました。最後に感想や評価をしていただけると幸いです。ちなみにここでいただいた感想はエピローグの2回分のうちの1回「神羅カンパニーの反省会(仮)」にて小説のネタorコメ返しとさせていただく次第であります。仮に何も感想が無くても、個人で反省した方がいいなと思った点をネタに書いていく予定です。2月の中旬ごろまで受け付けます。

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