ハンター放出まで残り1分、中にいるツォンが二人に声をかけた。
「レノ、ルード、知っているか?今日逃走者を確保した分だけ有給が増えるそうだ」
「ツォンさん、それ本当っすか!?」
ルードも声には出さずとも小さくガッツポーズした。
「残り10秒前」
アナウンスとともにレノはルードを見やる。
「相棒」
「ああ」
「今日も残業無しだぞっと!」
ブザーが鳴りハンターが放出される。このガーデン一帯に散った逃走者を目がけて……。
一方その頃ほかの逃走者はどうなっているのだろうか。バラムガーデンの中央部にある逃走者がいた。エドガーだ。
「まずは女性を探して、守りながら逃走する。そうすれば私の好感度もぐっとうなぎ登りに違いない」
参加者の中で特に好みはいますかという問いについて、
「すべての女性が私の好みと言っても過言ではない。誰でもウェルカムだ」
この男、女好きのようだ。地図を見やるとこの先には図書館があることがわかる。
「それでは知的な私はハンターから隠れつつ、女性が来るのを待つことにしよう」
その図書館にはすでに二人の女性が隠れていた。ファリスとクルルである。
「やっぱり図書館は落ち着くよな」
「ねー。シドとミドがいるところだもんねー」
「ま、いずれここも修羅場になるだろうさ…」
「うん、じゃあお互い頑張ろう!」
彼女らはそう言い距離をとって入り口を見やった。ハンターの次に面倒な人が来るかもしれない。
食堂では店をやっているわけでもないのにお客さん気分の者たちがいた。ノエルとクイナである。
「お前も何か食いに来たアル?」
「まぁ、食おうと思えば何でも…、っていうか今は逃げることに専念しなきゃだろ」
「ワタシこの世界にどんな食べ物あるか興味あったからここに来たネ」
「食いものか…、それは俺も興味あるな。ちなみに俺は肉料理が好きだな」
「肉!いいアルね!ワタシ蛙好物アルね!」
「蛙…か、俺達の世界ではもういなかったから食べたことはないな。」
「本当アルか!?今度絶対食べさせてやるアル!」
「おっ、まじか。サンキューな」
別のことで意気投合した模様だ。
訓練施設には内部も入り組んでいるためより多くの人数が集まっていた。
「訓練施設ですか…、普段はモンスターが放たれているらしいですね。私の修行にはもってこいです」
格闘少女であるアーシュラが言う。いつでもかかってこいと言わんばかりにその発言には自信がこもっていた。
「おっ、あんたもここに来たのか」
声の主はゼルだった。
「あの賑やかな…、それと私はアーシュラです。あんたとは呼ばれたくはありません」
「わりぃわりぃ、俺はゼルってんだ。よろしくな!」
アーシュラは答えなかった。
「おい、なんで無視すんだよ!」
「あなた、品が無さそうだから」
「つまり、喧嘩を売ってるってことだな!?」
「私の言葉、どう捉えようとあなたの勝手です」
ゲームとは別に険悪のモードだ。それを傍で見つめる二人の人物がいた。ガイとゴゴだ。
「どうする、あいつら?」
「私がハンターなら一網打尽だな」
彼らを心配し陰で見守っている二人だった。だが彼らの近くにハンター。ゼルとアーシュラの両者は周りに全く気付かないどころかすでにファイティングポーズをとっている。
「今すぐかかってきてもいいんだぜ?」
「まさか私を恐れているのですか?」
ハンターが2人を視界に捉え全力疾走する。
「おい、ハンターが後ろに!」
「え、本当!?」
二人は脱兎のごとく駆けだした。そのままおいてけぼりになるゴゴとガイ。遅れてハンターの存在に気付く。
「とにかく二手に分かれるぞ!」
「わかった!」
ハンターのターゲットはこの二人に絞られる。ガイはこの訓練場の中を、ゴゴは訓練場の外へ駆けだした。ハンターのターゲットは…、ガイだ。そのままハンターの魔の手に捕らえられる。直線距離では断然ハンターのほうが速い。
「おれ、ここでおわり?」
そう、捕まればあっという間に終わってしまうのだ。捕獲された場合逃走者が持っている携帯電話に捕獲情報が伝わる。
Rrrrr,Rrrrr!メールだ。
「逃走者ガイ確保、残り19人、ですか」
メールを読み上げたのはラーサーである。彼はなんとハンターボックスの近くであるガーデン入り口ゲートの影にずっと隠れていたのだ。
「ハンターの皆さんも全員中に入ったと勘違いしてるんですね、きっと。わき目もふらず全力で走ってましたから」
ちなみにいつまで隠れているのかという問いに対し、「僕の出番が必要な時には動きます」との回答だった。
校庭のそばにはリルムとホープがいた。
「もう捕まっちゃったんだ、情けないなー」
「ガイさんってあの大きな方だね。運がなかったとしか言えません……」
「大きいといえば…、あんたって私より4つも上なのにあたしとあんまり身長変わんないね」
「僕の身長が伸びるのはこれからだ…、というかリルムが大きすぎるんだよ」
年下の少女になめられるホープ。
「あっ、ハンター来た、隠れて!」
リルムが一瞥したその先にハンター。二人は木陰に隠れる。ハンターは傍まで来たが、反転して去っていく。
「この先には何かあるみたいだ、だけど今は通れないね」
校庭の方は現在入ることはできない。それゆえハンターもわざわざ行き止まりの箇所に逃げ込まないと踏んだのだろうか。視界からハンターが消えるにつれて恐怖も消え去った。
学生寮側にはパンネロがいた。
「さっきのあれはびっくりしたね。訓練場にハンターが入っていったと思ったら数分後逃走者が一気に逃げ出してきたからね。私もあわててこっちに逃げ込んだけどどうしよう」
答えは簡単、ハンターから逃げるだけだ。パンネロがいる場所とは反対方向にリディアとアーロンがいた。
「なるほど、あなたは召喚士のガードをしていたんですね」
「あぁ、いくつもの試練があったがな」
「試練ですか…、その人はどうなったんですか」
「目的を果たして死んだ」
「えっ……」
「奴はそうだったが、その娘は違った。その父がやったこと以上をやり遂げ、生き延びた。運命の螺旋を打ち破ったんだ」
「私も私がなすべきことを頑張ります。だけどその方がどのように運命を乗り越えたかが気になりますね」
昔話に花が咲いているようだ。幸いにもここにはまだハンターの気配はなかった。
駐車場にはシド、イデア、エリアの3人がいた。車が数台駐車されていて、また薄暗いので隠れるには絶好の場所である。
「実は私の旦那もシドという名前なんです」
「そうかぁ、そりゃ不思議な縁もあったもんよぉ」
「逃走中なのにえらく暢気ですね…」
話に花が咲く二人をよそにエリアだけはあたりを警戒している。
「実際ハンターはもう放出されて…あっ、隠れて!」
エリアの見た先にハンター。まだ気づかれていないようだ。
「とりあえずこの車の陰に隠れていれば大丈夫そうかしら」
だがハンターはこちらに少しずつじりじり来ている。
「そういえばイデアよぅ、あの道はどこに通じているんだ?」
シドの見つめる先には大きなトンネルがある。
「あれはガーデンの外に通じます、私たちが最初にいた場所ですね」
「なるほど…、ただ直線だと見つかったら絶望だな…、まてよ、トンネル……。よし、俺ぁそこに行く。分かれたほうが全滅も防げるし、それに俺が囮になってやるぜ」
シドは何か思いついたようなすっきりした顔で言う。
「シドさん…、私たちのためにそんなことしなくても…」
「へっ、俺は簡単にゃぁ捕まりゃしねぇよ、まぁ見てな」
ハンターの視線を気にしつつ車の影に潜り込みながら、シドはトンネルのほうへとこっそり向かった。ハンターはそれには気付かなかったが、徐々にイデア達の近くに接近していた。その時である。
「ハンターよぉ、俺を捕まえてみろ!!」
トンネルのほうから大きな声がした。当然シドの声である。ハンターは視線を変えトンネルのほうへと駆けだした。
「ひとまず大丈夫みたいね」
「シドさん…、大丈夫かしら…」
確保の連絡のメールが入らないことを祈りつつ二人はその場所からあたりを引き続き警戒した。
場所は打って変わり神羅の指令室。そこにはゲームを遠くから見つめる社長とイリーナの姿があった。
「ツォンさんたちなかなか探すのに苦労しているみたいですね」
「ああ、世界の中での歴戦の戦士たちだ。偶然にも一人捕まえたが不意を突かねば彼らは捕まらん」
「不意…ですか」
「ああ、だからこの場でミッションを新たに発動する」
「ミッションですか?」
「あぁ、クリアしなければただ狩られ続ける恐ろしいミッションだ」
社長はパネルをタッチしミッションを発動した。残り時間110分、残り逃走者19名の運命や如何に。
次回ミッション始動