翌日、九校戦が開幕した。
翔人は無理やりほのかと雫に連れられ開会式に来ていた。
翔人曰く、
「開会式なんてどうせお偉いさんが長々した挨拶するだけだろ?行く意味あんの?」
とのことだったが、九校戦を知り尽くしていると言っても過言ではない雫が、
「大丈夫。九校戦はそういう長々した挨拶とかないから。ちょっとした挨拶の後、校歌が流れてすぐ競技に入るよ」
と告げたことにより、退路を無くしたので仕方なく来ているということだった。
雫の言った通り、開会式はすぐに終わった。
そして、今日から十日間、本戦男女五種目、新人戦男女五種目、計二十種目の魔法競技会の開幕だ。
一日目の競技はスピード・シューティングの決勝までと、バトル・ボードの予選だ。
この話を雫から聞いて、すぐさまホテルへと帰ろうとする翔人であったが、雫に首をつかまれ失敗に終わる。
「何すんだよ、雫」
「こっちのセリフ。どこに行くつもり?」
「どこってホテルに帰るに決まってるだろ?」
「なんで!?」
雫と話していると、ほのかが焦った様子で話に割り込んでくる。
「何でって…別に競技に興味ないし。俺は一条をつぶせればそれでいいし」
「だ、だめだよ!一緒に見ようよ!」
(せっかく翔人君と一緒に見れるチャンスなんだから!)
「とは言ってもな…」
ほのかの頼みにも渋る翔人。
ほのかがどうしようか、と悩んでいると助けの手が入る。
「翔人、お前は競技を見ないのか?」
達也だ。
「あぁ。別に興味ないからな」
「そうか。でも今日の競技は七草会長がでるんだ」
翔人はほのかたちに告げたことと同じ内容で答えると、達也が悪い笑みで翔人に告げる。
「…知ってるけど、それがどうかしたのか?」
達也の言葉に不機嫌そうに答える翔人。
「もしかしたら七草会長が倒されるかもしれないぞ?そんな場面は是非とも見たいと思わないか?」
達也がそう告げると、翔人、ほのか、雫の三人はあからさまに驚いた。
内容もそうだが、達也がそんなことを言うという事実にだ。
「…そんな相手がいるのか?七草に勝てるほどの実力者が」
三人の代表として、翔人が尋ねると達也は告げる。
「魔法力だけなら、七草会長に勝てるやつはそうそういないだろう。しかし、これは九校戦だ。戦術や組み合わせによって勝敗が左右する可能性は十分考えられる」
達也のその言葉に悩み始める翔人。
そして、数秒考えた後渋々告げる。
「まぁ達也がそう言うなら行ってもいいけど…」
「ホント!?じゃあ行こうっ」
そう言って翔人の腕み、ほのかは走り出した。
「おいっ、ほのか…引っ張るなって…」
「ほら、行くよ!」
「ちょ、待てって…」
そんなやり取りを見ていた雫は、達也に声をかける。
「達也さん、ありがとう」
「…何がだ?」
「ほのかのこと思って、さっきみたいなこと言ってくれたんでしょ?だって去年余裕で優勝した七草先輩が負けるはずないし」
達也の真意に気づいていた雫は達也にそう告げる。
「雫には気づかれてたか。…九校戦のことを詳しく知らない翔人なら通用する手だと思ってな」
「確かにその手は翔人に通用すると思う。でも達也さんが真面目な顔で言うから私でも一瞬考えちゃった」
「なら翔人には絶対に気づかれてないようだな。…ふぅ深雪に頼まれたとは言え、あの翔人を騙すとなると一苦労だ」
「深雪に?」
「あぁ。翔人とほのかの仲をより親密なものにしてあげたい、と頼まれたんでな」
「そっか。後で深雪にもお礼を言っておかないとね」
「あぁ。そうしてやってくれ」
達也がそう告げると、雫はほのかの元へ小走りで向かった。
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そうしてスピード・シューティングの会場へと移動した翔人たちは一般用の観客席に座った。
「なぁ達也、スピード・シューティングってどんな競技なんだ?俺概要しか知らないんだよ」
観客席に座ると、翔人が達也に質問する。
「そうなのか?じゃあ説明しよう、スピード・シューティングとは―――――――――」
スピード・シューティングは、三十メートル先の空中に投射されるクレーの標的を魔法で破壊する競技で、制限時間内に破壊したクレーの個数を競う。いかに素早く正確に魔法を発射できるかを競う、というのがスピード・シューティングという競技名の由来である。
試合には二つの形式があり、予選はスコア型、準々決勝以降は対戦型になる。
「―――――つまり、予選では大破壊力を以て複数の標的を一気に破壊するという戦術も可能だが、準々決勝以降は精密な照準が要求されるというわけだ」
達也の言葉に雫は熱心に頷いた。
彼女はこのメンバーの中で唯一、新人戦のスピード・シューティングにエントリーしている。
そんな姿を見た翔人は雫に告げる。
「精密な照準か…雫大丈夫か?お前あんまりそういうの得意じゃないだろ?」
そんな心配したような声色で話しかけられた雫は、少し微笑みながら告げる。
「大丈夫。達也さんに色々秘策をもらったから」
「へぇ…そいつは楽しみだ」
自信たっぷりと言わんばかりの雫の答えに笑みを浮かべる翔人。
そんな翔人はふと疑問に思ったのか、再び達也に尋ねる。
「ってことは、予選と決勝トーナメントでは使う魔法を変えるってことか?」
「あぁ普通はな。ただ今から見る七草会長は…」
「七草会長は予選でも決勝でも同じ戦いをすることで有名ね」
達也が言いかけたセリフは、背後に座ったエリカによって横取りされた。
「あれ?エリカじゃないか。それにレオと美月も……って一人俺知らないんだけど」
「あぁ紹介してなかったな。彼は吉田幹比古。俺のクラスメイトだ」
そう言って達也は翔人に幹比古を紹介する。
「君が斎藤君だね。噂はよく聞いてるよ」
そう言いながら翔人に手を差し出す幹比古。
「どんな噂か聞きたいとこだが、今はやめておこう…それと俺のことは翔人でいい」
「分かったよ、翔人。僕のことも幹比古って呼んでくれ」
そうして握手をし自己紹介が終わると、再び皆との会話が始まった。
「にしても観客は前の方に多いな。後ろの方が見やすいだろうに」
「まぁ彼らの目的は七草先輩だからな。なるべく近くから見たいんだろう」
「そういうもんかね?」
「そういうものだ」
翔人の問いかけに達也は完結に答える。
「エルフィン・スナイパー、ですか。ぴったりのニックネームですね」
真由美を見ていたほのかが小さく呟く。
「エルフィン・スナイパー?なんだそれ?」
「会長のニックネームだよ」
ほのかの呟きに翔人が尋ねると、ほのかは答えた。
「本人は嫌っているようだから、会長の前では言わない方がいいぞ」
そんな二人の会話を聞いていた達也は釘を刺す。
達也のその言葉に、ほのかは首をすくめるようなしぐさをするが、翔人は、
「へぇ~。それはいいことを聞いたな。次話すときはエルフィン・スナイパー七草って呼んでやるか」
と、性格の歪んだことを告げた。
そんな翔人に周りの友人たちは苦笑いをするが、
「始まるぞ」
という達也の声で、真剣な表情に戻った。