「にしてもあっけなかったなぁ~。ホントにあいつと互角に渡り合えるやつなんかいるのか?」
真由美の試合が終わり、摩利が出るバトル・ボードの会場へと歩いているときに翔人は嘆いた。
そんな翔人に苦笑いしつつも、達也は呆れた口調で答える。
「まさかパーフェクトとはね…」
「ドライアイスの亜音速弾、ですよね?」
そんな深雪の質問に達也は笑顔で答える。
「そうだ、よくわかったな」
「………そのくらいあたしにも分かったんですけど」
不満げなエリカのツッコミに、翔人たち一行は苦笑いを浮かべた。
「まぁ同じ魔法を百回も見せられれば誰だってわかるだろ」
そんな翔人の言葉に目をそらした者もいたが、翔人は見なかったことにした。
「百回?一発も外さなかったの?」
素直なほのかは驚きを見せてから、翔人に尋ねる。
「あぁ。スピードも反復回数もそれなりだったが、一番すごかったのはあの精度だろう。いくら知覚系の魔法を併用していたといっても、情報を処理するのは自分の頭だからな。まぁ十師族ならこのくらいやってもらわないと困るけど」
「会長さん、知覚系魔法まで併用していたんですか?」
驚きの声をあげる美月。
しかし、今回は同じような表情をしている者の方が多かった。
そんな美月に向かって今度は達也が告げる。
「遠隔視系の知覚魔法『マルチスコープ』。非物質体や情報体を見るものではなく、実体物をマルチアングルで知覚する、視覚的な多元レコーダーのようなものだ。会長は普段から、この魔法を多用しているぞ?」
気づかなかったのか?と目で問われ、美月は首を振った。
「全校集会の時なんか、この魔法で隅から隅まで見張ってたんだけどな。肉眼だけであの射撃は無理だと思わないか?」
「確かに無理」
即座に応じたのは雫だった。
自分が出る種目のためよく理解しているのだろう。
その後も、会長の魔法について様々な議論が交わされながらも、一行はバトル・ボードの開錠へと向かった。
「なぁ達也、今度はバトル・ボードについて詳しく教えてもらいたいんだが…」
悪びれながらも、達也に告げる翔人。
「あぁ構わないぞ。バトル・ボードは――――――――――――」
バトル・ボードは人工の水路をボードに乗って走破する競争競技だ。ボードに動力はついておらず、選手は魔法を使ってゴールを目指す。他の選手の身体やボードに対する攻撃は禁止されているが、水面に魔法を行使することはルールの範囲内だ。
九校戦のバトル・ボードは全長三キロの人工水路を三周するコースだ。水路には直線あり、カーブあり、段差ありの中々に忙しいものだ。
予選を一レース四人で六レース、準決勝を一レース三人で二レース、三位決定戦を四人で、決勝は一対一で競う。
平均所要時間は十五分。また、選手に風よけはないため、風圧に耐えるだけでも選手は相当な体力を消耗する。
「だったら風よけの魔法使えばいいんじゃないの?」
達也の話を聞き終えた翔人が質問する。
そんな翔人の質問に達也は苦笑いしながら答える。
「確かに翔人ほどの魔法力があればそれでも問題ないだろうが、普通の魔法師にとっては無理だ。ただボードを動かすだけでも魔法を使うんだからな。よって女子にはつらい競技になる」
そんな達也の言葉になるほど、と頷き、翔人はほのかに尋ねる。
「ほのかは大丈夫なのか?なんか女子には辛い競技らしいけど」
「大丈夫だよ。達也さんにアドバイスをしてもらってから体力トレーニングはずっと続けてきたし、選手に選ばれてからは睡眠も多めに取るようにしてるから」
そう告げるほのかに翔人は感心する。
「ほのかも随分筋肉がついてきたんですよ」
「やだ、やめてよ、深雪。私はそんな、マッチョ女になるつもりはないんだから」
「ブフッ!」
翔人が感心してるなか、自分をはさんで交わされた会話に、翔人は思わず吹き出してしまった。
「ほら……翔人君に笑われちゃったじゃない」
「笑われたのは、ほのかの言い方がおかしかっただけだよ」
雫がそう告げても翔人はまだ笑っていた。
どうやらツボにはいってしまったようだ。
そんな翔人を一瞥してから、ほのかはいじけながら話す。
「雫まで。いいわよ、どうせ私は仲間はずれだし。」
そんなほのかに皆は困惑する。
その中でも翔人はいまだ笑っていたが…
(ちょっと、翔人。ほのかがいじけてる。何とかして)
雫が翔人の脇を突きつつ、小声で告げる。
(はぁ?なんで俺が…)
笑いすぎて目に涙を浮かべている翔人はそんな雫の言葉に答える。
(どう見ても笑いすぎ。さすがに酷いと思う)
(いやいや、こんなこと日常茶飯事だろ?)
(でも事実今ほのかはいじけてる。ほらっ早くほのかを慰めて)
(ちょ、ちょっと待てよ雫!)
と言われ唖然とする翔人。
このまま黙っていて時間がたてば…なんてことを考えるが、雫の無言のプレッシャーにより断念することを強いられる。
意を決して翔人はほのかに話しかける。
「……どこらへんが仲間はずれなんだ?」
「だって私以外みんなピラーズ・ブレイクだし」
「それは今更言ってもしょうがないだろ…」
そう告げ口ごもってしまう翔人を見て、
「翔人さん、ほのかさんはそういうことを言ってるんじゃないですよ」
と、美月が告げ、
「斎藤さん……少し鈍感が過ぎると思いますよ?」
と、深雪が告げ、
「翔人君の弱点発見」
と、エリカが告げ、
「朴念仁…」
と雫が告げた。
一方的な集中砲火に翔人は何も言えなかった。
何やら理不尽な気がしないでもないが、男性陣からの援護もないため、翔人は仕方なくレースが始まるまで黙っていた。